[0032] 売れている「デジタルグラフィ」の秘密

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【日刊・デジタルクリエイターズ】 No.0032 1998/05/19発行
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●本日のコラム『売れている「デジタルグラフィ」の秘密』
 火曜日担当:柴田忠男

●本日のニュース
 ・マクロメディア・カンファレンス速報
●イベント・情報
 ・パリ100年写真展~レンズを通して見たパリの一世紀~
●本日のTIPS/3Dアプリケーション編



●本日のコラム『売れている「デジタルグラフィ」の秘密』
 火曜日担当:柴田忠男

このところ、デジタルのグラフィックス関係の雑誌がずいぶん目につく。1年前に
「デザインプレックス」が創刊され、「MdN」が月刊化された。秋には、「dpi」
が出て、この春には、「イメージングビジネス」や「グラフィックワールド」が
創刊された(GWって、ゴールデンウィークのことかと思った)。「デジクリ」な
んてのも3号出ている。「STEP-BY-STEP アート&デザイン」も古くからある。
そんな中で玄光社から「デジタルグラフィ」という本が1月に創刊になった。3月
末に2号が出て、6月末には3号が出るらしい。

玄光社は私が26年ほどお世話になった会社だ。相変わらず、慎重な出版社である。
とにかく様子見という感じの発行間隔だ。まあ、季刊の発行がきまったらしいので、
とりあえず、おめでたい。

それにしても、玄光社は絶対、大判は出さず、B5サイズしかやらなかったはずな
のに、どうしたことだろう。A4変形サイズでの発行だ。わたしが「SUPERDESIGNI
NG」を創刊したとき、いくら大判での発行を訴えてもB5に抑えこまれたものだ。
大判サイズを作れる人がいたのである。それとも、玄光社A4のトラウマ(かつて
A4を手がけて大火傷したという)から解き放たれる時代を迎えたのか。

玄光社にデジタルの記事を本格的に導入したのはわたしである。「SUPERDESIGNING」
を16冊作ったところで会社を辞めた。同時に「SUPER~」も休刊になった。作れる
人がいなかったからだ。

そのころ、「プロフェッショナルデジタルフォト」という不定期刊行のB5判ムッ
クを作っていたのが、現「デジタルグラフィ」創刊編集長の十河進氏である。他の
編集長たちが何年も(10年以上が何人も)同じ椅子に居座り続ける中で、十河氏
だけがあちこち転戦を繰り返していた。

要するに、何でもできる力のある編集者なのだ(便利に使われている、ともいえる)。
出版活動がデジタルとは切っても切り離せない時代になって、DTPのワークフロー
を自ら実践している今もっとも望まれている編集者のタイプなのだ。

さて、創刊号を見た時には「とんでもないアマチュア本」だと思った。これでプ
ロ向けか? なんというレベルの甘さだ。私が5年くらい前にやったことにも及ば
ない。正直、こりゃ、駄目だと思った。

ところが、グラフィックス雑誌が軒並み苦戦している中で、なかなか健闘している
ようなのだ。当面は不定期刊で、定価はCD-ROMも付いていないのに1850円。税込み
で1943円。このところ、創刊された同じジャンルの雑誌の中では一番高い。この本
が売れているのはなぜだ。

まず、とにかくわかりやすい。プロ向けを謳いながら、今時、何とコンピュータの
基礎知識というページまであり、クリックとダブルクリック、ドラッグ・アンド・
ドロップを解説している。まあ、コンピュータの基礎知識は8ページほどで、それも
真ん中あたりに入れられているため、あまりめだたないが、とにかくこのレベル設
定には恐れ入る。もっとも、プロとはいえ、これから始める人にはちょうどいい入
門書なのかもしれない。誰だって最初は初心者だ。

巻頭のアートディレクターのインタビューと作品紹介は、さすがに「コマーシャ
ル・フォト」の蓄積を感じる人選だが、特にデジタルに特化しているわけではない。

デジタルを使うか、アナログで制作するか、それは表現の目的によって使い分ける、
というスタンスのアートディレクターを登場させ、表現のためのデジタルテクノロ
ジーを雑誌の姿勢として鮮明にしている。編集部の狙いはデジタル先行型ではなく、
デザイン先行型であるようだ。

ここは巻頭グラフのページであり、ポートレートがものすごくかっこいいが(加藤
孝は人物写真がじつにうまい!)、お約束どおりといった取材内容で、私にはあんま
り面白くない。めざす人、にとってはなんらかの動機づけになるのであろうが。

コンピュータを、グラフィックソフトを扱えれば、デジタルクリエイターになれる、
と勘違いしている人たちがいる。コンピュータとグラフィックソフトは道具にすぎな
い(ああ、何年も前から使い古された陳腐な表現!)。プロのレベルの仕事をするに
は、プロのレベルのセンスと経験が必要なのだ。

驚いたことに、いま最も注目すべきインターネット関連の記事はほとんどない。プ
ロ向けということを、最終的に印刷物を作ることにスタンスをおいているからだろう。
この本の潔さは、どうもその辺にあるらしい。割り切って独自カラーを出したがゆ
えの善戦なのだろうか(まさかインターネットがよくわからないってわけぢゃない
だろうな~)。実用的ではあるが、ジャーナリスティックな要素は皆無だ(そうか、
こりゃあかんと思ったのはそこなんだ。でも、それは私の本作りの考え方とは違うと
ころで、たんに思想の違い、趣味の違い。よくも悪くも実用書の玄光社の本だ)。

2号が送られてきたのは3月末。こちらは、よくできていると思った。巻頭に11人
のデザイナーやフォトグラファーのデジタル作品が紹介されている。1号でもそ
うだったのだが、さすがにカメラ雑誌を長く出してきた出版社だけに、フォトグ
ラファーには強い。業務用のデジタルカメラの情報や使い方のノウハウは他誌に
はない部分だ。もっとも、何百万円もするデジタルカメラの使い方のノウハウを
ほしがっている人がどれだけいるか、という心配もある(といいつつ、私もずっ
とそいう記事を作っていた。今よりもっとデジカメが高い時代に)。

グラフィックソフトの記事も、入門から基礎の解説が中心でわかりやすい(わか
りやす過ぎてはずかしいくらい)。筆者にフォトグラファーを起用し、実用的な
展開にしているところも受けるだろう。コンピュータ系の出版社から出てきた
グラフィック誌あるいはデザイン誌と違って、「コマーシャル・フォト」や「イ
ラストレーション」といった雑誌を出しているフィールドから入ってきたデジタ
ル・グラフィック誌という特徴は生かされている。

これからの課題は、どれだけコンピュータ、デジタル系の記事内容を深められる
かということだろう。デジタルグラフィというネーミングは、フォトグラフィ
(写真術)、シネマトグラフィ(映画撮影術)、バイオグラフィ(伝記)、カリグラフ
ィ(書道)、タイポグラフィ(印刷術)、ポルノグラフィ(春画?)などと同じで、デジ
タル表現術という意味だそうだ。健闘を祈る。

【プロフィール】
柴田忠男
■また、もといた会社ネタになってしまった。ネタがないときは動物園、という
のが新聞のやりかたと聞いたが、わたしの場合の動物園は株式会社玄光社か!!
26年半もいたんだから、愛憎こもごもだよ。動物園ネタはまた出てくると思う。

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■本日のニュース

「マクロメディア・カンファレンス速報」

マクロメディア社のカンファレンスが月曜日から始まった。初日のキーノートは、
製品群の位置を示すものであった。ベクトルベースのフリーハンド、アニメーショ
ンとしてのフラッシュ、強化されたディレクター、ビットマップのファイヤーワー
クス、それらをHTMLにまとめるドリームウィーバー。他の製品にしても、全てがWEB
に焦点が当たっていた。
製品の内容については、日刊デジクリでも何度も触れているので割愛する。
とにかく、WEBをビジネスにしている人々は、このカンファレンスに来るべきだと思う。

ゲストは「パラッパラッパー」「パフィー人形」などで有名なロドニー氏。パラッ
パーのぬいぐるみと登場した彼は、新しいゲームを使ったプレゼンやフリーハンド
の製作工程を披露した。

キーノート後のパーティーは、アップル社の原田社長さんの乾杯に始まり、いくつ
かのプレゼン、新しいパワーブックG3やマイクロソフト社の古川会長がを提供した
WEBTVなど豪華賞品の当たるじゃんけん大会があった。パーティー出席者の顔ぶ
れは、今のWEBを先ゆく人たちばかりだったのが印象的だった。

19日からのセッションの一つに、いくつかの製品を複合的に用いて、技術を発揮す
るというものがあった。
例えば、フラッシュのトゥイーンを利用してアニメーションを作成し、それをアフ
ターショックに持っていき、アニメーションGIFに書き出す。そのままではファイル
が重いので、ファイヤーワークスで書き出し軽量化する。ファイヤーワークスでは出
来ない複雑なロールオーバーをドリームウィーバーで作成する。

プラグインに頼らず、沢山の人に見てもらえる軽いWEBページが簡単に出来るのだ。
もちろん更新も簡単である。一つ一つのソフトがユニークでこだわりのあるものばか
りなのに、それらを組み合わせると、更に複雑な面白いものになる。DHTMLやJAVAと
いうようなインタラクティブ性のあるWEBページが難しい知識がなくても作れるメリッ
トは大きい。これからどんどんと増えていくだろう。(濱村)

●Macromedia Fireworks

12時30分からのTool SESSIONは現在ベータ版が公開されている、Macromedia Fire
works。プレゼンターはMacromedia Inc.からやって来たTom Hale、それにワタクシ
森川が。ユーザーの代表ということでやらせていただきました。昨日のキーノートの中
でも話がありましたが、今回の27セッションの中で最も人気があったのが、このFire
worksとのこと(うう、プ、プレッシャーが…)おかげさまで状況は「満員立見」いった
いこれは何を物語るのだろうか(笑)
90分のセミナーも二人で行うと、ゼンゼン時間が足りない。Tomが40分、ボクが40分
なのだがTomは基本的なツールの説明だけで時間が来てしまった。ボクもまだまだお見
せしたかったサンプルファイルが沢山あった。来てくれたみなさんゴメンナサイ。続き
はまたWEBページでやりますね。
時間が短いのではなくFireworksの機能が豊富すぎるのである。描画に関する機能だけ
でもじっくり説明すればフルに1時間を越してしまうだろう。加えてGIFアニメーション
・スライス・ロールオーバー…。さらに当日は最新のベータ版ということで、現在ダウ
ンロード中のパブリックベータにはない機能がいくつか公開された。そうそう、日本語
も使えるようになりました。これでさらに「WEBデザイン管理ツール」としての位置付
けを実感しました。(森川)

●森川のキーノートレポート

「モウカリマッカ?」とMacromedia Inc.のNorm Mayrowitzはキーノートスピーチ
の中で日本語で叫んだ。儲かりまっか?…これが今回のMacromediaカンファレンスの
大きなテーマだと思う。それはWebビジネスの中でコンテンツ制作の部分が、ビジネス
の市場として認知されてきた証拠なのだろう。シェアウエアやフリーウエアではなく、
多くのスタッフが関わるプロフェッショナルなプロダクト。WEBコンテンツ「も」制
作できるソフトウエアではなくWEBコンテンツの「ための」ソフトウエアをマクロメデ
ィアは開発している。
今、この時期にバージョン1を市場に投入する我々の姿勢を理解してほしい。とマクロ
メディア株式会社の手嶋雅夫氏は言う。PhotoshopもIllustratorもFreeHandも
1980年代のソフトウエアだ。テクノロジーが秒進分歩で進行するWEBの世界に、ユー
ザーが満足するソフトウエアはどうあるべきか?を考えている。
10年前、DTPが開始されたとき、当時のデザインやプリプレス。印刷の業界はDTPに
対して冷淡であった「こんなオモチャが仕事で使えるかい!」と言われてきた状況が
たった5年で大きく変わってしまった。同じ事がWEBでも起こる…と、さらに手嶋社
長は続ける。
その時、クリエイターはいち早く技術を理解し、進化を受け入れるものだけが、クリ
エイティブを続けていける。つまり仕事をすることができる。我々はクリエイターの
皆さんが快適に仕事を続けるために、そしてお金を稼ぐための企業である。と締めく
くった。(森川)

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■イベント・情報

●パリ100年写真展~レンズを通して見たパリの一世紀~

アジェ、ブラッサイ、ドアノー、ケルテス、W・クライン、ジャンルー・シー
フ、田原桂一、マイケル・ケンナ、マルク・リブー、エドアール・ブーバらを
紹介。

期間 5/13(水)~5/31(日) 5/19(火)は休館
時間 10:00~19:30(入館は19:00まで)※最終日は17:00まで。
料金 一般 ¥500 大高生¥300 中小生 無料
問い合わせ先 美術館「えき」KYOTO 075-352-1111
アクセス 京都駅西口改札より一分。

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■本日のTIPS/3Dアプリケーション編
 【日刊・デジタルクリエイターズ】では毎日クリエイティブ関連のアプリケ
 ーションのTIPSを掲載していきます。
 TIPSの難易度は、5段階で★印を文末に付けています。
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●StrataVision3D Ver.5.0編/「姿勢制御」

[アニメーション]→[パスフィルター]→[姿勢制御]でアニメーションパ
スの移動方向に対してオブジェクトの向きを固定させる事ができます。

球状などの方向性の無い形状には不向きですが、自動車の走行シーン、空中を
舞う飛行機のような表現には進行方向への姿勢制御を自動で行うので便利で
す。

[姿勢制御]ダイアログボックスでオブジェクトの向きを「進行方向」「上方
向」にあわせるように設定するだけです。「旋回時にバンク」をチェックすれ
ば向きだけでなく傾きも制御できます。

設定後はパス設定が自動的に置き換えられますので(やり直しが困難)、事前
にデータの保存などをしておいたほうがいいでしょう。
★★(松岡アキラ)

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【日刊・デジタルクリエイターズ】 No.0032 1998/05/19発行
発行社  タワーズ株式会社
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編集長  森川眞行 
     柴田忠男 
     神田敏晶 

情報提供はこちらまで 
           担当:濱村和恵
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