[0647] マディソン郡の橋で待つ

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【日刊デジタルクリエイターズ】 No.0647   2000/07/08.Sat発行
http://www.dgcr.com/    1998/04/13創刊   前号の発行部数 16442部
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 <「いい気なもんだ」ストーリー>

■デジクリトーク
 マディソン郡の橋で待つ
 十河 進

■連載「ip2000」プロジェクト奮闘記 0108 7/08
 コラムは清書ではない。私が3.2kgのVAIOを持ち歩く理由とは?
 ------(フェーズ1)航海日誌-------
 川井拓也@sea

■デジクリトーク
 モントリオールのジャズフェスティバル
 絵蘭
 


■デジクリトーク
マディソン郡の橋で待つ

十河 進
───────────────────────────────────

●ミドルエイジ・クライシス

ケネディとフルシチョフがキューバのミサイル基地を巡って対立し、あわや第
3次世界大戦没発かと思われた「キューバ危機」(1962年10月)は「キューバ・
クライシス」を訳した言い方だが、crisisには「危機、重大局面、難局」とい
った意味の他に「(運命の)分かれ目」という意味もあるようだ。

そのクライシスをもじった言い方がいくつか使われているが、「中年クライシ
ス」つまり「中年の危機」などもそのひとつだろう。以前に同タイトルの本
(河合隼雄・著)を読んだことがある。今は朝日文庫に入っているはずだ。

少し前に「中年男に恋はできるか」という新書が出て、新聞の読書欄などに取
り上げられた。僕も少し興味はあるのだが、そんなタイトルの本をレジに出す
のがためらわれて、まだ読んではいない。

しかし、「できるか、できないか」は別にして、中年の男女は「恋をしたがっ
ている」と思う。

数年前に「マディソン郡の橋」がベストセラーになった。朝日新聞の書評欄に
掲載された沢木耕太郎の文章は誉めているのかどうかわからない書き方だった
が、その内容は確実に読者を刺激したはずだ。僕も興味が湧いて翌日の午後に
書店に行ったのだが、一斉に「マディソン郡の橋」が消えていた。

再び店頭に本が並ぶまでには、2週間ほどかかった。それからは、火がついた
ような勢いで売れ続けた。あの本が売れた最大の理由は、50歳を過ぎた男女の
恋愛、だと思う。それも現代に合わせて、数日間セックスに溺れるという設定
にしたからだろう。今や、プラトニックな恋愛など、嘘っぽくて誰も信じない
(へそ曲がりの僕は信じていますがね)。

沢木の書評で興味を掻き立てられはしたが、大勢の人が群がるのを見ると嫌に
なる元来の性格から、ベストセラーリストから外れて人々が興味を失った頃に
ようやく僕は読んだ。人々が熱狂したのはわからないではないが、あの小説で
僕が最も共感したのはヒロインの夫である。

彼は「おまえにはおまえの人生があったのだろうが…」と、ヒロインの充たさ
れない心の奥まで理解していたことを伺わせる言葉を吐いて死んでいく。唯一、
あの本で僕が涙ぐんだ場面だ。ヒロインがたった数日間一緒に過ごした男を生
涯愛したように、彼を愛してくれた女はいたのだろうか。

ストーリーは基本的に「いい気なもんだ」と思う。50歳を過ぎているといって
も、ヒロインが恋する男は独身でナショナル・ジオグラフィック誌(アメリカ
でのステータスと知名度は異常に高い雑誌だ。一枚の写真にかける制作費と原
稿料も高いらしい)の契約カメラマンである。放浪する孤独な中年男。実にか
っこいい。

構図は「シェーン」(1953)である。農夫の夫とさすらいのカウボーイ。女が
惚れるのは必ずさすらいのカウボーイだ。農夫の夫は誠実で思いやりがあって
も、熱烈な恋愛の対象にはならない。「マディソン郡の橋」でも、一目見た瞬
間にヒロインは男の性的な魅力にときめいている。

一目で惹かれ、ときめきを感じて橋にメモを貼り付けるヒロイン。何という少
女小説的設定であることか。セックスに耽る場面もロマンチックに描写し、や
がてやってきた別れとその後の数十年にわたるふたりの想い、というように実
は「マディソン郡の橋」は精神的な部分を強調するけっこう古いパターンなの
だが、だからこそベストセラーになった。

道を尋ねたカメラマンに強烈なセックスアピールを感じ、積極的に誘惑して数
日間、家にこもってセックスし続けるというストーリーだけでは、単なるポル
ノグラフィになってしまうもんね。

●映像だけで伝えた男女の切なさ

「マディソン郡の橋」(1995)はアメリカでもベストセラーになった。その結
果、我が愛する映画人クリント・イーストウッドが監督主演をすることになる。
ヒロインは、「あたし、うまいでしょ」的演技のメリル・ストリープ。キャス
ティングとしては妥当なところだろう。

イーストウッドは若い頃には大根役者(英語では俗にHAMなどと言うらしい)
と言われた。歳をとってからは、どんどんミステリアスな表情と演技をする人
になっている。「優しさと残酷さ」「愛と憎しみ」「困惑と決断」のように対
立するふたつの感情を同時に表しているような演技をする。

そのイーストウッドの複雑な感情を見せる演技が冴え渡ったのが、別れを決め
た後のシーンだ。

男と別れたヒロインは、夫と町で買い物をし車で帰ろうとする。その前に男の
運転する車が現れる。2台は信号に引っかかり、男の車の左折を示すウィンカ
が点滅する。

ルームミラーで後ろの車内を見つめるイーストウッド。点滅するウィンカ。信
号機のアップ。メリル・ストリープの表情、その視線。ドアロックのアップ。
この数分のシーンに、映画の総てが凝縮されているようだった。

原作を読んでいたから、この後の展開はわかっていた。しかし、僕にはヒロイ
ンの心の中の葛藤が手に取るようにわかった。抱えた買い物袋を投げ捨て、ド
アロックを引いて飛び出し、男の車に乗るヒロインの姿さえ浮かんだ。

ヒロインにはイーストウッドの後ろ姿しか見えない。しかし、彼はヒロインを
待っている。「一緒に行こう、こっちの車にくるんだ」と背中が誘っている。
ウィンカの点滅がヒロインを促しているようだ。信号が変わりそうになる。

このシーンの編集は素晴らしい。ウィンカの点滅を唯一の動きとした映像のア
イデアは見事だ。やはりイーストウッドはただ者ではない。ラブロマンスで、
あんなにサスペンスを感じたことはない。

信号が変わる。イーストウッドの車は左折し、夫が運転するヒロインの車は直
進する。別れは実にあっさりした映像だが、そこに込められたふたりの気持ち
は観客に確実に伝わったはずだ。切ない想いが残るシーンである。

だが、映画全体で言えば原作に忠実なだけに、やはり「いい気なもんだ」スト
ーリーになってしまった。

●なぜ「いい気なもんだ」と感じるのか

若い頃、僕は中年になったらおしまいだと思っていた。「人生の堕落は腹の出
具合に比例する」と中年の堕落と共に中年太りをも批判していた。当時の僕は
若い頃の小倉一郎(最近は今村昌平監督の「カンゾー先生」に出ていた)みた
いに痩せていた。

中年になってしまった今、まだまだ続く人生にうんざりしながら、せり出した
腹を子供たちに戯れに叩かれる日々を過ごしている。数年前は長塚京三に似て
いると言われたこともあったが、最近は伊東四朗に似ていると言われる。20年
前に比べて体重は20キロ増えた。

「禿、デブ、眼鏡」というありがたくない三重苦的言い方がある。「いやらし
い中年男」の典型(パターン)を示している。今の世の中は、中年の、特に男
にとっては厳しい状況である。歳をとっているだけでは大事にされないし、父
権(夫権)喪失、社畜など、中年男を蔑む言葉は溢れている。

うらぶれた、情けない、うちしおれた、うなだれた、わびしい、などの形容詞
の後に「中年男」と続けると、何とピッタリくることか。溌剌としたイメージ
は中年男にはない。さらに、中年男=欲求不満というステレオタイプのイメー
ジも浸透しているから、電車の中で痴漢容疑で若い男と禿・デブ・眼鏡の中年
男が捕まった場合、多くの人は中年男が真犯人だと予見を持つ。

それだけ貶められている中年の人々にとっては、どんな物語もよほどのリアリ
ティがないと「いい気なもんだ」になってしまうのではないか。その「いい気
なもんだ」の中には「そんなことあり得ない」とか、「嘘っぽい」といった反
感だけではなく、「そんなことはわかっている、でも不可能だ。いや、やっち
ゃいけないんだ」という要素もあるのではないか。

本当は俺もそうしたい、でも、やっちゃいけないんだ、とジレンマを感じなが
ら日々を自制して生きているのに、物語の中の人物たちはその自制しているこ
とをいとも簡単に越えてしまう。そこに「いい気なもんだ」を感じるのではな
いだろうか。

人々が共感するのは「ああ、そうだよなあと、身につまされる話」か「あんな
風になりたいと、単純に憧れる夢のような話」だという。中年男女の恋愛物語
は「ああ、そうだよなあと身につまされつつも、夢のような話になる」危うさ
の上に成立させなければならない。

つまり「身につまされる、夢のような話」という矛盾する要素を、読者や観客
に納得させなければならないのだ。これは、かなりの手練れでもむずかしい。

元々、恋愛なんて「いい気なもんだ」と見られがちである。周囲の人間を傷付
け、ふたりだけで盛り上がっている状態であるし、そんな感情は長く保たない
ことを中年男女は経験的に知っている。

だからこそ、かつえるように「ときめきたい」「恋がしたい」と思っているの
だが、それが「見果てぬ思い」「叶えられぬ夢」だということも知っている。
いや、思い知らされている。

それならいっそハーレクインロマンスを読む方がいいし、現実をつかの間忘れ
させてくれる冒険小説やミステリを読む方がましだ。「ローマの休日」(1953)
や「麗しのサブリナ」(1954)を見て身につまされはしないが、農家の平凡な
中年の主婦という設定に代表されるラブ・ストーリーでは、どうしても我が身
に近づけて見てしまい「いい気なもんだ」となる。

だが、「マディソン郡の橋」は多くの人に受け入れられた。そこには、巧妙な
仕掛けがある。あの本は実話を装っている。「中年の男女が一目で惹かれ合い、
数日の濃密な時間を過ごし、その後、一度も会わなかったのに死ぬまでの数十
年間、ずっと愛し合っていた物語」を母の死後に子供たちが日記の中に見付け、
作家のところに持ち込んでくる設定にしているのだ。

実話だと思いこんだ人は多い。だから「信じられないけど、感動的な話」とし
てベストセラーになった。

●身につまされた中年男女の恋愛

去年のゴールデンウィークに単館ロードショーだった「コキーユ 貝殻」(19
99)という映画を見に行った。監督が「桜の園」(1990)と「12人の優しい日
本人」(1991)の中原俊だったからだ。原作は山本おさむのコミックである。

中学の30年めの同窓会シーンから映画は始まる。主人公(小林薫)は地元の工
場に勤める真面目な中間管理職で人望もある。久しぶりに会った級友たちは昔
話に花を咲かせるが、その時に30年ぶりに出席したヒロイン(風吹ジュン)の
ことが話題になる。

風吹ジュンは中学卒業と同時に東京へ家族で引っ越して行ったが、結婚に失敗
し故郷に戻りスナック「コキーユ」を始めているという。友人が「昔、おまえ
に惚れていたんだぞ」と冷やかすが、主人公はヒロインのことさえ覚えていな
かった。

2次会に流れ、カラオケとダンスが始まる。風吹ジュンは小林薫をダンスに誘
い、「今度、お店にきて」と耳元で囁く。しかし、小林薫は「えっ」と聞き返
す。ここで彼の左の耳が聴こえないことがわかる。その時のヒロインの表情が、
この映画の伏線である。

主人公は女の店に通い始める。不器用な通い方だ。少しずつ、ふたりは惹かれ
合うが、男は自制する。会話の中で、次第に昔のことを思い出す。やがて、中
学卒業間近のある日、校舎の渡り廊下で彼の耳元で何かを囁いてすれ違った少
女がいたことを鮮明に甦らせる。

光溢れるハレーション気味のシーンに中学生の男女が登場し、輝くばかりに溌
剌とした少女が彼女の決意を示す表情で、それでも恥じらいながら少年の耳元
で何かを囁いてすれ違う。映画は、記憶の中の美しいシーンを描いてくれる。

もう、わかっただろうか。少女は少年と別れ別れになってしまう前に決心をし
て、「○○橋で今日の○時に待っています」と囁いたのだ。彼女が橋の上で待
ち続けるショットが何度かインサートカットに使われる。

「ああ、あの時、少女が囁いたのが主人公の左の耳ではなく右だったら……」

映画を見ていた全員がそう思ったことだろう(だとしたら物語は成立しないの
だが)。彼女のクライシス(運命の別れ目)は、彼の左耳が聴こえないことを
知らなかったことだ。人生は、たったそれだけの行き違いで大きく狂ってしま
うものなのだと、我が身を振り返って思わされる。

人生は変更不能だ。変更不能であり、悔やんでも過去は変わらないことを思い
知らされている中年男女だからこそ、「もう一度、あの橋の上からやりなおし
たい」と言うヒロインのセリフが身につまされる。ヒロインの30年間の想いが、
切ないほど伝わってくる。

私の耳は貝のから
海の響をなつかしむ

ヒロインがつぶやくジャン・コクトーの詩(堀口大学訳詩集「月下の一群」中
の一編)が重要な場面で使われていたが、見終わっても耳に残るフレーズだ。
今も時々、帰宅途中の電車の中で窓の外の夜景を見つめながらつぶやくことが
ある。

【そごう・すすむ】sogo@mbf.nifty.com
自称「流れ編集者」あるいは「編集流れ者」。自宅のパフォーマ5210は現役で
メモリ増やしているもののやはり遅い。会社ではパワーブックG3を貸与されて
いる。息子のFM-Vはゲーム専用機と化しており、娘のiMacDVは使わせてもらえ
ない。で、新しいノートパソコン購入を画策している。システムソフトエディ
タのWin版があればバイオにするところなのだが、すべてを満足させる組み合
わせはない。思案中です。

昔書いた文章が「投げ銭フリーマーケット」に出ています。デジクリに書いた
文章も数編入っています。
http://www.nagesen.gr.jp/hiroba/

河合隼雄の本
http://www.sogensha.co.jp/02wada/02k1.htm

コキーユ/松竹ホームビデオ
http://www.shochiku.com/video/v90s/sb0835.html

山本おさむ
http://www.bigcomics.shogakukan.co.jp/bc_shop9810/toshokan/sakka/yg/yamamoto_o.html

●須田園子さんからライカ犬に関する新情報をいただきました。
http://www.suda.mls.ad.jp/

スプートニク2号に乗ったライカ犬の名はKudryavk(クドリャフカ)というよう
です。最後には毒入りの食事で安楽死させられたとか。流星になる苦しみは味
あわなかったようです。

須田さんに教えていただいたサイトに行ってみました。クドリャフカについて
哀悼の文が書かれていました。
http://www.amy.hi-ho.ne.jp/kudryavka/KUDRYAVK.HTM

須田家の愛犬のホームページのタイトルもクドリャフカでした。
http://www.suda.mls.ad.jp/beagle/index.htm

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■連載「ip2000」プロジェクト奮闘記 0108 7/08
コラムは清書ではない。私が3.2kgのVAIOを持ち歩く理由とは?
------(フェーズ1)航海日誌-------

川井拓也@sea
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【現在の船の位置=凸】
東京>>香港>ベトナム>シンガポール>スリランカ>セイシェル>ケニア>
エリトリア>エジプト>イスラエル>ギリシア>クロアチア>イタ凸リア>カナリア
>キューバ>メキシコ>カナダ>ロシア>東京
Transported by http://www.peaceboat.org/
Planning&Produced by http://www.taiyokikaku.com

【今日のコラム】
■□□□テクニカル度
■■■■旅行シズル度
■□□□おもしろ度
■□□□制作プロセス度

現在、朝の7時。昨夜はワインとパスタで酔っ払いよく寝た。ホテルで目を覚
ますと明るい日差しが窓から差し込んでいた。テラスに出て冷蔵庫のグアバジ
ュースを1杯。身支度をしてバックパックを抱える。となりではパンツ1枚で
大の字になって寝る鈴木健介の姿と、その大の字の影響でダブルベッドをシェ
アすることができなかった椅子で眠る森幸治の姿があった。あまりさわやかな
風景ではない。この光景を横にコラムを書くのもどんなものかと思い外で書く
ことにした。

集合は11時であるからたっぷりと時間がある。cellという名の小さなホテルを
(▼1)出ると通りの奥にコロシアムが見える。(▼2)ローマに来たからには
押さえないといけない観光スポットである。イメージが膨らみ、コロシアムの
観客席でゆっくりコラムなど書くのもよかろうと思い歩き始める。

湿度の低い風が心地よく通勤する人たちが歩道を行き交う。コロシアムの堂々
たる姿を見回しながら入り口を探す。(▼3)しかしコロシアムは9時からのオ
ープンということで、日陰を選んで近くの芝生に座りVAIOを広げる。A4フルサ
イズを持ち歩くのも昔に逆流しているようだが慣れてきた。やはりPhotoshop
やPremireがサクサク動かないとノートを持ち歩く意味がない。そしてコラム
を書くにもなるべく現場で書けるにこしたことはない。あとで書くのは清書で
ありテンションが落ちている。

広い14インチ画面で文章の最初から最後までを見渡しながらコラムを書いてい
く。私はコラムを書くのにOUTLOOKを使用している。自動保存機能が優れてい
ることと、ワープロのようにファイルができないことで重宝している。必要な
テキスト書類は下書きにどんどん保存して検索等をかけて引き出せるように簡
易なデータベースになっている。ファイルをクリックして待たされる1秒が自
分にとっては大きなストレスとなるからだ。

広場には観光用の馬車が並び、馬はなにやら頭巾のようなものをかぶってもぐ
もぐしている。えさが入っているのだろう。その隣ではみやげもの屋が店仕度
している。と、さっきから猫が何回も私の回りを歩いている。パソコンしてい
る姿に興味でもあるのだろうか? 遠くでパトカーの音が響き町が起き始めて
いることを感じさせる。

「おはようございます!」と日本語が聞こえた。ふと顔を上げるとピースボー
トで自由行動をしている人だ。「早いですね」「朝はスリがいなくていいです
よ」と。そういえばこちらのスリは非常に高度なテクニックを持っているらし
い。私はイスラエルでまるごと財布を落としてしまって無一文なので、これ以
上とられる心配もない。昨夜はメンバーの森幸治が財布を落とした。このまま
では無一文集団になって、お金がないので陸地に降りられないという笑えない
ことになりかねない。気をつけなければいけない。

口笛を吹きながら掃除のおじさんが横切る。視点を固定するという行為はもと
もと非常に好きな行為である。自分の前を通り過ぎるさまざまな人を見ながら
想いをめぐらせる。大学の時にスーパーの来店者層の調査で1日バイトをして
いたときにそこで見たことがおもしろかったので、映画を作ったこともあった
っけ。

旅行という行為は、自分が移動する立場にある。しかし、私は今回撮影という
行為を介することで僅かでは有るが「止まる」ことができる。それがなにより
の楽しみだ。昨日はイタリアの職人にインタビューした。その部屋、その人、
その声、五感を澄ませてそれを感じるとそれはカメラで収録した映像以上に色
濃く私の脳裏に記憶することができる。誰にも移植できないその記憶こそが、
私の「人生の宝物」と言える。

そうこうしてコラムを書いているうちに太陽が高くなり、コロシアムの隙間か
ら光がまぶしく差してきた。(▼4)そろそろコラムを切り上げて、朝食にす
るとしよう。

来週はイタリアロケの様子をレポートを2回にわたってお伝えする。デジクリ
読者の山根さんと村上さんとの感動の初対面と、2日にわたるローマロケのレ
ポートとなる予定。インターネットが結んだ不思議な縁は、まさに私にとって
の「ドリームキャッチャー」といえる。

※文中▼がついている部分は以下のダイレクトURLに写真が掲載されています。
デジクリ読者のためだけの特別ページのこの写真は日替わりなので当日しか見
ることはできません。
http://www.ip2000.net/todayspic/

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■デジクリトーク
モントリオールのジャズフェスティバル

絵蘭
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あぁ~、めっちゃよかったぁ~! 今年は最高やね。ほんまに、まだ余韻が残
ってるわ・・・。あ、すんません、一人盛り上がりで・・・。

デジクリ読者のみなさんはじめまして、こんにちわ。絵蘭でおま。と申します。
どぞ、よろしく。

さてさて、今回はデジタルではなく、アナログ的なお話です。みなさんいろい
ろな音楽を聴いてると思います。ロックが好きな人もいればクラッシックが好
きな人もいてると思いますが、まず「音楽なんかきらいじゃぁー!」とかいう
人は少ないという前提で、書いていきます。

●はじけるモントリオール!

さてみなさん、ジャズのメッカといえばどこを連想しますかぁ? たぶん大多
数の人々はニューヨークと言うでしょうな。まぁ、それもそうなんですけど、
実は世界一大きなジャズのイベントというのは、ここモントリオールで行われ
ます。そのジャズフェスティバルは、今年が21回目で6月29日から7月の9日ま
で開催されます。

モントリオールという所はカナダのフランス語圏ケベック州にあり、セント・
ローレンス川がゆったり流れる横にある小さな島です。サーキットがあって、
ご存知の通りグランプリもあり、春から秋までというのは、イベントだらけの
はしゃぎ天国になります。もちろん、冬は鼻毛がパキパキに凍る程寒く、氷点
下30度とか平気でいきます。

この冬の間というのは、正に地獄のような感じで、その反動が、暖かくなる春
ごろから秋までは、みんな弾けてしまうという訳ですな。その弾けれる要因は、
もちろん多種多様なイベントによるものですが、これがまためじろ押しで、先
程のジャズフェスティバルからアフリカンの音楽とダンスイベント、コメディ
ーフェスティバル、フランコフォリ、アジア映画祭、モントリオール映画祭ほ
かいろんな催し事が行われる訳です。

この時期、モントリオールには世界中からアーティストや観客がやってきます。
今年は去年よりもステージの数が増えてあらゆるところで音が鳴り響いている
状態です。このステージというのも、これまた全く本格的なステージで、プラ
スデザ-ルを中心に散らばっています。このあたりは、いわゆるダウンタウン
の中になり、アクセスも良く、移動が楽で、チャイナタウンも近く中華を食べ
てからちょっとジャズ。てな感じでいいのです。

この期間内は道路も閉鎖しての大騒ぎで、その上こういう大掛かりで、おまけ
に州ぐるみ、ついでにただで観れるという、最高極まりないイベントなのです。
もちろん、超有名どころも来加するので、周辺のライブハウスやホッケーのモ
ントリオールカナディアンズが拠点としている、モルソンセンターなどで有料
ライブがあります。

しかし、有料といえど日本で同じアーティストを観るのを考えると、かなり値
段が安い訳で、今年はレイチャールズや、なんでかわからんけどスティングな
どがやってきます。あ、そうそうジミークリフもきますわ。わし、レゲエ好き
なんで行きますけど、2500円ぐらいやったかな? ほんでしかも、今年は初め
て日本のグループも参加しているんですねぇ。

名前は、ファンタスティック・プラスティック・マシーン、U.F.Oの2グループ
です。かなりええ感じらしいので、行ってみることにします。あと、日本人が
メンバーに入ってるハイチのグループ"KILTI-CHOK"も参加してますねぇ。日本
人もちょこちょこ、こうやって世界に出て来ると嬉しいもんですわ。わし的に
は、東京スカパラとかに来て欲しいもんですな。

でも「なんでジャズじゃないアーティストがやってくるのん?」と思ってる人
達もいてはるでしょう。まぁ、そこが『人種のモザイク』といわれるカナダな
らではの広大さかもしれませんな。ジャンルはジャズ、ラティン、ブルース、
アフリカンが多く、その他たまにサルサやレゲエなども演奏されます。何か、
イスラエルあたりからも来てたな・・・。とにかく、ジャズを基本に様々な音
楽が溢れるここモントリオールの夏は最高に心地良いのは間違いないのである。

●リオのカーニバルがそのまま来たって感じ

その、ジャズフェスティバルのトリというか、メインのライブが今日(7/4)
行われたわけやけど、今年はブラジリアンミュージックだったんですよぉ。去
年は何かスクラッチしてたような・・・。あまり、人気がなくブーイングが鳴
り響いてた気がするなぁ。まぁ、でも今年のメインイベントはラティンなので、
かなり盛り上がるでしょう。何でかいうと、一昨年もラティンで盛り上がった
のだ。これから来年以降のメインイベントはラティンに主導権を握られるよう
な、そんな勢いでしたな。

また、そのライブが野外でビールを片手に見放題。気候も穏やかで、蒸し暑い
などそんな事はまずないし、暑すぎず寒すぎずのすんばらしいコンディション
なのです。そんな、調子のいい環境で聴く音楽は最高で、今日の、そのブラジ
ルから来たグループが、これまたごっつい良くて、メインイベントの風格ばっ
ちりでしたな。そのグループの名前は「TIMBALADA」て言うんですけど、最高
のライブでしたな。世界衛星生中継してるはずなので、観た人達もいてはるで
しょう。

リオのカーニバルがそのまま来たって感じで大盛り上がりやった。また、客を
いじるのも天下一品で、リズムを引っ張る引っ張るぅ、そんなエンターテイナ
ー達でしたわ。そういう事で、今年もまた、ここモントリオールは熱いメイン
イベントを迎えるようになったのです。この模様は動画でうちのサイトにて、
緊急公開します! て、鼻息荒すぎかな・・・。

あと数日このジャズフェスティバルが続き、この後アフリカンのイベントが始
まります。ここは先程記したように、フランス語圏というのもあって、アフリ
カ移民がごっつい多いので、そりゃもう呑めや騒げの大騒ぎでぐちゃぐちゃで
ぱんぱんですわ。それから、続いてコメディーフェスティバルにフランコフォ
リが開催されます。

フランコフォリとは、要するにフランスからアーティストを招いて、フレンチ
音楽のライブで一色に染める、そういったフランス語圏ならではのイベントで
して、それはまるでフランスのような感じですわ。言い過ぎ? まぁ、もちろ
んここは標識から看板まで全部フランス語なんですけどね。とにかく、英語だ
けでフランス語表示なしでは、法律で罰せられるようなとこですねん。そんな、
ここモントリオールの夏は確かに確実にホットでクールな季節を迎え、いろん
な人種が混ざり合い、すごくピースフルで、何の違和感もない楽しい環境があ
るのです。

さて、そういう事で、以上に紹介したイベントの他に、ここモントリオールの
北の方の山、モン・トランブランでこれまた楽しい事があるんですよ。これは、
まだ比べるとマイナーな感じがしますが、そうは言ってもこれがまたかなりか
っちょええイベントなんです。ジャンルはブルースで、14日から二日間開催さ
れます。わし、行く予定にしてますけど、これがまた、最高にいいイベントな
んですが、まだそんなに知られてる程ではないので、ブルース好きにはいい情
報かもしれませんねぇ。

また、機会があれば、いろいろと書いてオシラセすることができることでしょ
う。ライブの模様を観てみたい方は、以下から"JAZZ FESTIVAL"へアクセスし
てみて下さい。動画短いですけど、怒らないでねぇ。
http://www.elanjoke.com/
ほな、また。チャオ!

【elan waters】elanjoke@mail.com

▼また新しい書き手の登場! 関西人は世界を目指す!

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■編集後記(7/8)
・昨日は「七夕デート」というロマンチックな企画をたてていたが、台風3号
のおかげで中止。ま、決行してたらずぶ濡れ帰宅は間違いなかったからいいか。
一晩中雨が降ったが、風はたいしたことなかった。しっかり戸締まりして備え
た台風は案外とあっけなく去る。子供のころから台風や雷雨が大好きというヘ
ンなわたし(男ならわかるよね)。今日は午後からは日が出て暑くなるという。
クロスバイクに乗って、ユニクロにTシャツを買いに行こう。    (柴田)

・書きたいけれど書けないネタがある。気にせず本音を書いているのだが、や
はり書けないネタって出てくるもんですな。立場っていうやつでしょうか。あ
る本に「政治と野球」の話はするな、と書かれてあった。あとひとつくらいあ
った気がするが、理由としては、修復のきかない状況になる可能性が高いから
なのだそうだ。もう遅いわ(笑)。/雷好きは男に限りませんですわ。うちの
周囲では女の方の比率の方が高いです。やっと編集長の後記にあった遙洋子の
本がトイレに移動。ツン読から一歩前進。こりゃ面白い。  (hammer.mule)
http://www.chikumashobo.co.jp/top04.html

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http://www.nagesen.gr.jp/  <投げ銭システムをすべてのhomepageに>
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デスク     濱村和恵 
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