[0670] かつて満州という国があった

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【日刊デジタルクリエイターズ】 No.0670   2000/08/05.Sat発行
http://www.dgcr.com/    1998/04/13創刊   前号の発行部数 16531部
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お知らせ■日刊デジクリは8/7から8/20までは夏休みになります。夏休み中も
情報や原稿を受け付けますが、その期間は掲載ができませんのでご了承下さい
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 <How are you?>

■デジクリトーク
 かつて満州という国があった
 十河 進

■連載「ip2000」プロジェクト奮闘記 0128 8/5
 字幕が入って印象が一変したロバートの処女作
 ------(フェーズ1)航海日誌73目-------
 川井拓也@sea

■読書案内
 パソコン在宅SOHO成功物語(井上以知子著 海文堂刊)
 がんばる気力がわいてくる本
 柴田忠男

■展覧会案内
 DIGITAL IMAGE 2000 TOKYO
 ディジタル・イメージ2000 東京展(後期)【ディジタルアートの現在】





■デジクリトーク
かつて満州という国があった

十河 進
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●まぼろし国・満州

その写真家は、全身で怒っているようだった。内側にたぎる怒りを、そのまま
言葉に出していた。だが、彼の怒りは目の前にいる僕に向けられたものではな
い。彼の怒りは、人々を不幸にする国家や権力や社会のシステムに向けられて
いた。

──正義と情熱の人。

写真家・江成常夫さんに初めて会った時に、僕が持った印象を一言で表すとそ
うなる。20年近く前のことだが、まだ30そこそこの若いカメラ雑誌編集者に向
かって、江成さんは2時間、熱く語り続けてくれた。

「シャオハイの満州」という本が出たばかりだった。写真集というよりルポル
タージュ集といった方が適切な、小振りだが歴史に残る本だった。残留孤児の
人々の写真と彼らに関する文章が添えられていた。

それ以前の「花嫁のアメリカ」という戦争花嫁を追った写真集を見た時から、
江成常夫という名前は僕にとって気になる存在だった。「立派な仕事をする人
である」と僕は尊敬を感じていた。同時に、こんな写真を撮る人はきっと厳し
い人に違いない、と思った。尊敬というより畏怖していたのかもしれない。

編集会議で「シャオハイの満州」の中から数点の写真を紹介し、写真家のイン
タビューをしてページを構成する企画が通り、僕は緊張しながら江成さんに連
絡をした。

朝日新聞社が発行する「アサヒカメラ」といったブランドの通ったカメラ雑誌
ではない。創刊したばかりで、まだ季刊だった雑誌である。そんな引け目もあ
って、僕は本当に緊張していた。

会社まで写真を持ってきてくれる、と言う江成さんの電話の返事を聞いて僕の
緊張はまた高まった。失礼だが、江成さんのしわがれ声はけっこう怖い。もち
ろん風貌はポートレートを見て知っていた。

江成さんはオールバック風の長い髪だが、僕の印象では総髪の剣豪である。鋭
い眼光と意志的にきっと結んだ唇。何となく司馬遼太郎作「新選組血風録」の
表紙に使われた近藤勇の写真が浮かんできた。

当時、社屋が手狭になり、僕の編集部は近くの貸しビルを借りて出ていたので、
お客が来ても話をするスペースもろくになかったから、僕は江成さんと近くの
喫茶店で会った。ポートレートから受ける印象通りの信念の人だった。

インタビューを始めても、質問をする必要はなかった。江成さんの中には噴き
出さんばかりの熱い想いが溢れていたのだ。「シャオハイの満州」の取材の間
中、その想いはどんどん蓄積されたに違いない。

この写真家の想いを読者に伝えられるだろうか、と僕は思った。

それから何度か、お会いする機会もあったし、写真集が出るたびに送っていた
だいてもいる。1995年のことだ。新潮社から大判の「まぼろし国・満州」とい
う素晴らしい写真集が出た。今度は、旧満州の建物や街の光景をくっきりと隅
々までシャープに写し取ったモノクロの陰翳深い作品集だった。

「高邁な理想も隠れ蓑にすぎず、幻想のもとに消滅した『まぼろし国・満州』
──そのもとで、どれだけの中国人や朝鮮人、あるいは満州国に身を託した日
本人が翻弄され、辛苦を強いられたか。崩壊から半世紀が過ぎて、今や満州国
は遠い記憶の存在になりつつある。が、歴史の事実が掻き消されるはずはなく、
まぼろし国が遺した原像は興亡の墓標となって、中国の大地に今もある」と、
江成さんは巻頭言を結んでいる。

その写真集には「満州国皇帝愛新覚羅溥儀の寝室」や「満州映画協会・理事長
室」も当然のことだが写っていた。まさに映画「ラストエンペラー」(1987)
が描いた世界である。

●満映はアジアの融和を謳った

「ラストエンペラー」はイタリア人監督ベルナルト・ベルトルッチ、中国系俳
優ジョン・ローンなど国際的なスタッフ・キャストで作られているが、日本は
関係していない。イギリス・イタリア・中国の合作映画だ。甘粕正彦の役で出
演した坂本龍一が音楽を担当している。

「ラストエンペラー」は日本でもヒットした。しかし、どれだけの日本人が歴
史的事実を知った上で見たのかは疑問だ。一種の怪物的な人物として出てくる
満州映画協会(満映)の甘粕理事長も坂本龍一はミスキャストに思えるし、最
後に簡単に拳銃で自殺してしまう。実際は服毒自殺で、すぐには死ななかった
という証言もある。

東映の名脚本家、鈴木尚之が15年をかけて書いた「私説 内田吐夢伝」(岩波
現代文庫)によると、8月20日午前6時、映画監督・内田吐夢が甘粕理事長に声
をかけた直後、部屋から異様なうめき声が聞こえ、すぐに飛び込むと、服毒し
て苦しむ甘粕の姿があったという。

この時、立ち会ったのは秘書と側近の赤川孝一(幸一と書いている資料もある)
だという。赤川孝一は帰国後、次郎という子をなし、後に次郎は「三毛猫ホー
ムズ」シリーズなどで流行作家になる。

甘粕憲兵隊大尉が歴史に登場する最初は、関東大震災直後の混乱の中で、アナ
ーキスト大杉栄、伊藤野枝、まだ子供だった甥の橘宗一の3人を拷問し惨殺し
た事件である。実際に扼殺し井戸に投げ込んだと甘粕の自白の記録があるが、
腹心の部下が手を下した説もある。その部下は、終生、甘粕に従い満映時代も
常に傍にいたと内田吐夢の手記にある。

大杉虐殺事件を描いたのが吉田喜重監督作品「エロス+虐殺」(1970)だ。大
杉栄(細川俊之)と伊藤野枝(岡田茉莉子)、神近市子(楠侑子)の三角関係
が破綻し神近が大杉を刺した日蔭茶屋事件も描かれ、公開当時、まだ国会議員
として存命中だった神近がプライバシー侵害で訴えた映画である。前衛的かつ
観念的ではあるが、モノクロームの映像が素晴らしく喚起的な映画でもあった。

満映に関しては「幻のキネマ 満映─甘粕正彦と活動屋群像─」(山口猛・著
/平凡社刊)という本を持っている。満映制作の全映画リストが載っている資
料として重宝しているが、この本では、甘粕に関しては好意的な書き方がされ
ている。

満映は国策会社である。中国と日本が手を取り合って発展するという宥和政策
を、映画を通じてプロパガンダするための作品ばかりを制作した。ナチスの映
画を使った宣伝政策が影響していたのかもしれない。

満映を象徴するスターは、今や劇団四季のミュージカルで有名な「李香蘭」だ。
山口淑子という日本人でありながら中国人女優として出演し、日本人の男性と
恋をする役を多く演じた。つまり、中国と日本の融和は中国人の女と日本人の
男の恋愛によってシンボライズされるのである。

しかし、逆の組合せはない。日本人の女が中国人の男に恋をし抱かれるストー
リーが関東軍の検閲を通るはずもない。そのことによって、当時の日本人の差
別意識が明確になる。中国人、さらに朝鮮人への差別意識は、当時の日本人に
とっては普通の感覚だったのだろう。

●ソ連軍の侵攻で地獄と化した満州の荒野

高校生の時に読んだ五味川純平の「人間の條件」は衝撃的だった。この小説は
ベストセラーになり、三一書房に新社屋をもたらせたと出版界でも伝説になっ
ている。長いわりにはすらすら読めて、満州の軍需産業に勤める主人公・梶と
その妻の夫婦愛に感動しながら、強制労働にあえぐ朝鮮人たちに涙した。

しかし、小林正樹監督、仲代達也主演「人間の條件 第一部~第六部」(1959
~1961)は、9時間を超える上映時間に怖れをなして、まだ見ていない。大学
時代によく新宿の映画館でオールナイト一挙上映というのがあったが、あの時
に見ておくんだったと後悔している。

「人間の條件」は、昔、TBSが加藤剛主演でドラマ化(1962年10月~63年4月)
したことがあるが、今やこんな硬派のドラマを作っても誰も見ないだろう。い
や、「人間の條件」のように描いた日中戦争の歴史観を自虐史観などと批判す
る勢力が力を得てきている。そういう時代になりつつあるのかもしれない。

旧満州にノスタルジーを持つ人もいる。「アカシアの大連」を書いた清岡卓行
にとって大連は、生まれた場所であり幼少年期を過ごした故郷だ。敗戦前に東
大在学中のまま帰郷し、敗戦後もロシア軍が進駐する大連に3年間留まり、そ
こで結婚した街である。

1948年に妻を伴って帰国した後、東大に復学し、日本野球連盟に職を得た清岡
は詩人として名を成した後、妻と死別して48歳で「アカシアの大連」を書き芥
川賞を受賞する。

妻を偲ぶことも含めて、彼にとっての大連は「かつての日本の植民地の中でお
そらく最も美しい都会であったにちがいない大連を、もう一度見たいかと尋ね
られたら、彼は長い間ためらったあとで、首を静かに横に振るだろう」という
郷愁に満ちた街である。

僕の父も満州にいた。

満州建国後の1937年、日本政府は満州へ100万戸、人口にして500万人の農業開
拓団を移住させる計画を閣議決定する。農家の次男だった父は、国の奨励策に
従い満蒙開拓団として15歳で満州に渡った。満州に夢を託したのかもしれない。
おそらく1939年か1940年のことだ。

1945年8月9日、ソ連軍の突然の侵攻で満州は戦場となった。虐殺、集団自決、
引き上げ途中の飢餓や病気で、死亡した人や行方不明の人は約8万人にのぼる
という。シベリアに連行され抑留された人も多かった。その年、父はちょうど
20歳だった。

子供の頃、自宅で遊んでいた時に、満州で撮影した若き日の父の写真を見付け
たことがある。それはタンスの引き出しの奥にひっそりとしまわれていた。何
となく取り出した茶色の色あせた封筒から、数葉のセピア色に変色したモノク
ロの写真が出てきた。

そこに写っているのが父だということは、すぐにわかった。だが、防寒帽をか
ぶり防寒服を着て銃剣の付いた銃を持って、どこかの荒野に立つ白皙の青年の
姿は日常接する父からは想像できず、幻想の中の存在のようだった。

その写真を持っていき卓袱台に置くと、それまで母と話していた父は驚いたよ
うに口を閉じ僕を見た。僕は「どこで撮ったのか、何をやっていたのか」と素
朴に聞いたのだが、父は何も答えなかった。目の前の写真をじっと見つめるだ
けだった。

あの時の父の表情が、なぜか記憶の底に残っている。今だから、悲しみや悔恨、
それに郷愁といった複雑な想いが父に去来したのではないかと想像するが、あ
の時の父の突然の沈黙には幼いなりに戸惑ったものである。

1945年の夏から55年が過ぎた。父の中で15歳から20歳までの5年間は、どのよ
うな形で記憶されているのだろうか。

堅く口を閉ざして何も語らない父は、今年75歳になる。

【そごう・すすむ】sogo@mbf.nifty.com
「流れ編集者」または「編集流れ者」を自称。二日酔いの日に親不知を抜いた。
その日は酒も抜いた。「休肝日」と言われて「休刊日」を連想した。哀しい。

昔書いた文章が「投げ銭フリーマーケット」に出ています。デジクリに書いた
文章も数編入っています。http://www.nagesen.gr.jp/hiroba/

■江成常夫写真展「昭和史の風景」
花嫁のアメリカ 1978-98/シャオハイの満州/ヒロシマ─万象 全197点
8月12日(土)~9月3日(日) 東京都写真美術館・3階展示室 月曜休館
午前10時~午後6時  木・金曜は午後8時まで  最終日は午後4時まで
一般600円 学生480円 小中高生300円  講演会8月20日午後3時~5時

東京都写真美術館
http://www.tokyo-photo-museum.or.jp/index-j.htm

ミュージカル「李香蘭」
http://www.246.ne.jp/%7Em-takao/rikouran.htm

満州映画協会と李香蘭
http://www3.50megs.com/kura/zuisou/zui089.htm

川村湊「満州崩壊」
http://www2.justnet.ne.jp/%7Ejingu/s-kawamuraminato.htm

私説・内田吐夢伝
http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/00/9/0001770.html

内田吐夢の映画
http://www.infoaomori.ne.jp/%7Esinohara/cinema2/kantoku8.htm

「神に祈らず─大杉栄はなぜ殺されたのか」
(宮崎学・著/飛鳥新社・刊)
http://www.zorro-me.com/miyazaki/index.html

【読者から】十河さんのコラムのファンです。友人が鬱病で悩まされているこ
ともあり、658号で取り上げられた永島慎二さんの「かかしがきいたかえるの
はなし」をぜひ拝見したかったのですが、ガロの当時のバックナンバーだとち
ょっと高くて手が出せなさそうなので、他の方法で読めないか調べてみました。
「(株)ふゅーじょんぷろだくと」の珈琲文庫から単行本が出ているようです。
同サイトから通信販売で買えます。
http://www.ask.ne.jp/~comicbox/pub/bunko.html

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■連載「ip2000」プロジェクト奮闘記 0128 8/5
字幕が入って印象が一変したロバートの処女作
------(フェーズ1)航海日誌73目-------

川井拓也@sea
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【現在の船の位置=凸】
東京>>香港>ベトナム>シンガポール>スリランカ>セイシェル>ケニア>
エリトリア>エジプト>イスラエル>ギリシア>クロアチア>イタリア>カナリア
キューバ>メキシコ>>凸>>カナダ>ロシア>東京
Transported by http://www.peaceboat.org/
Planning&Produced by http://www.taiyokikaku.com

【ip2000チームが航海しながら制作・発信中のコンテンツ】

●スカパ749ch VaioNetにて「ドリームキャッチャー/香港編」放映中
ノンスクランブル枠にて!
●吉澤由香の@ぴあワールドワイドモバイラー
いよいよ最終回更新!
●「ビデオサロン8月号」発売中
カラー4ページip2000奮闘記撮影編掲載!
●「週刊ウルトラ1」
はなこが世界を行く!好評連載中!

【今日のコラム】
■■□□テクニカル度
□□□□旅行シズル度
□□□□おもしろ度
■■□□制作プロセス度

ロバートは編集を続けていた。動画からの静止画切り出しの方法、音声のみの
インポートの方法、タイトルの入れ方、クロスディゾルブ効果のつけかた、フ
ォードインフェードアウトのやり方。これらを数十分のハチャメチャな私の英
語による説明で理解してマウスを動かしている。

私には映像の師匠がいて大房さんというディレクターなのだが、ナレーション
を使わずに番組の進行を誘導する方法を教わった。構成なきドキュメンタリー
はありえないが、また構成を強調しすぎてナレーションをつけすぎるのも真実
味のない出来にする可能性がある。

ロバートの作品は素人だからともいえるがコソボの市民による証言の積み重ね
と内戦のあとを捉えた風景の静止画、そこにかぶさる日常の街の音とシンプル
な構成になっていた。

たった3日、しかも団体行動の範囲で撮影されたインタビューだが家庭を持つ
主婦から軍人、若者など取材対象者は多岐に渡る。映像は字幕なしで編集され
る。ロバートは言語能力が抜きん出ていて、コソボの言葉は彼にとって外国語
だが、編集のタイミングは大体分るそうである。弾痕が残る壁や建物の写真は
多く使われているが、映像には特に緊迫したシーンはなかった。

例えばこんなシーンがある。トラックの運送会社のふたりがカフェでビールを
飲んでいる。ふたりはオーバーアクションで話している。首に手をやり「参っ
たね」という感じだ。ビールをグイと飲み干している。

また別のシーンではよく晴れた家の前で老人が語っている。庭先と思える場所
だ。老人は笑いながら自分の胸に手をやり、首を横に振りながら話している。
そして手をカメラの前に差し出し、5本の指を開いてにこやかな表情で話して
いる。

字幕が入る前には、これらのシーンで彼らが何を語っているのかは分らなかっ
た。現地の言葉は撮影時に逐次翻訳され、その音声を英語にタイプして複数の
船内の通訳がチェックを。そしてその英語からさらに日本語に訳されている。
映像の下には英語字幕が、右には日本語字幕が入る。一日中さまざまな人がロ
バートのところへやってきては、協力して字幕を作成していた。ある通訳の人
はキーボードを自ら操作して、プレミアの.ptlファイルを作成していた。そし
て深夜になり人も少なくなったプロダクションルームで、ロバートは字幕の入
ったバージョンを私に見せてくれた。それぞれのシーンにはこんな字幕が入っ
ていた。

●表現の武器

「3年前からいろんな物資をコソボに運んでいるけど、一度はセルビア人に囲
まれ首を切り裂かれそうになったことがあったよ。命からがら逃げたさ。トラ
ックと荷物はすべて盗まれたがね」

「みんな、大変だったよ。俺なんて家族を5人もなくしたんだ。3人の息子と2
人の孫をね」(※1)

私はその映像とのギャップに強い衝撃を受けた。これは映像というメディアの
みが持つ力だ。限られた時間、そしておそらく一期一会となったであろう通り
がかりの人に同じ質問をしつづけたロバート。
「How is life in kosovo today?」

それにコソボの人たちは率直に答えていた。ある人は道端で、ある人は洗濯物
を干しながら、ある人は食事をしながら。どこにでもいそうな人たちがのどか
に語っているように見える映像とは裏腹のその内容が「つい最近まで行われて
いた戦争という行為」の現実をなによりも強く語っていた。

そしてロバートはプロもうなるラストシーンを見せてくれた。日本人の素人が
編集すればこのようなエンディングにはならないだろう。エンディングは耳を
つんざくような軍用機のエンジン音に、のどかなコソボ市街の静止画が連続し
てインサートされスタッフクレジットが入る。そしてそのあと最後に2人の老
夫婦のインタビュー映像が入る。

「コソボの生活は変ってきているよ。だんだんだがよくはなってきたね。とこ
ろであんたたちの生活はどうかね?」
画面は暗転して黒バックに次の一行が白いタイトルが出て、このロバートの処
女作は終わる。
「How are you?」(※2)

私はロバートに「表現の武器」を与えられたことをうれしく思った。

※この作品からキャプチャーした2枚の画像がwww.ip2000.netでご覧いただけ
ます。デジクリお休み中は是非サイトにて最新情報をお楽しみください。

http://www.ip2000.net/

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■読書案内
パソコン在宅SOHO成功物語 井上以知子著 海文堂刊
がんばる気力がわいてくる本

柴田忠男
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サクセスストーリーが好きだという著者、井上以知子さんが、「パソコン」を
使って「自宅」で仕事する「プロフェッショナル」な7人について書いている。
よくあるお手軽なSOHOおすすめインタビュー集ではない。読み物としてじつに
よくまとまっている。文章がうまい。嫉妬を覚えるくらい巧みだ。練りに練ら
れた構成は、読む者の気持ちをぐいぐいとひっぱりこんで、途中で読むのをや
めることができなくさせる。なぜか。

著者は言う。「取材ノートを参考に文章としてまとめるときに、不思議な感覚
にとらわれる。話の構成を考えながら、そのとき彼(あるいは彼女)はどうい
う気持ちで行動を起こしたのだろうと突き詰めていると、相手の気持ちにぴっ
たりと寄り添えるようになる。取材のときとちがうのは、相手の気持ちになり
ながらも、今度はわたしという個人が頭をもたげてくるところだ。心の奥深い
ところで、わたし自身が主張をはじめる。」

そう、7人の成功者の取材はあくまで素材で、料理する著者の個人的な味つけ
が面白く、また感動的なのだ。7人の物語を自分にひきつけて語ってしまう構
成の親しみやすさ。取材相手のうれしさや悲しさ、悔しさを著者は自分のもの
としている。イージーな言い方かもしれないが、これは著者の「自分さがし」
の取材、構成なのだ。取材を重ねて行くに従い、自分のたてた仮説が徐々に証
明されてゆくてごたえと、一方では取材相手の意外な言葉におどろき、納得し
感動する。そして、成功している人が持つ一定の法則が立ち現れてくる。これ
は編集者冥利につきると思う。みごとな仕事だ。

登場するのはインターネット構築の宮尾元久、イラストレーターMATSU、テク
ニカルライター北湯口ゆかり、Webコンテンツライター須貝弦、Webデザイナー
ハヤシアキコ、DTPデザイナー桑村ヒロシ、インフォグラフィックデザイナー
松尾よしこの7氏。「パソコン」を使って「自宅」で仕事する「プロフェッショ
ナル」な人を目指すあなたも、すでのそういう人であるあなたも、きっと得る
ものがあります、この本には。がんばる元気がわいてくる、おすすめ本だ。

定価1400円+税 ISBN4-303-73390-3 7/15初版発行
海文堂出版株式会社 03-3815-3292

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■展覧会案内
DIGITAL IMAGE 2000 TOKYO
ディジタル・イメージ2000 東京展(後期)【ディジタルアートの現在】
http://www.digitalimage.org/
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今年のGWに銀座ワシントンで開催して大好評だった「ディジタル・イメージ東
京展(前期)」の続編。前期とは出展作家が変わって85人の登場だ。

会期 8月18日(金)~8月24日(木)午前10時30分~午後7時(最終日午後6時) 
会場 表参道・新潟館ネスパス
   東京都渋谷区神宮前4-11-7 TEL.03-5771-7711
主催 ディジタル・イメージ
特別協賛 財団法人ニューにいがた振興機構 表参道・新潟館ネスパス
展覧会入場料、セミナー参加費は無料 

・出展予定作家84名
荒木慎司 安藤克昌 飯田HAL 石川浩二 石川治彦 石原博志 伊東宣哉 
井上和洋 岩渕泰治 上畠益雄 内原恭彦 梅地浩太郎 大島宏文 扇原康成
岡部タカノブ 小川アリカ 叶精作 亀井一郎 川口吾妻 川越幸子 
公庄治 國島宣弘 久納ヒロシ 小坂徹 ゴトウヒロシ 後藤宏 小林健三
小松修 こんこん 近馬秀嘉 斎藤浩 笹原和也 真悟 杉谷泰宏 成光雄
ラジカル鈴木 ソネハチ タカセマサヒロ 瀧澤謙司 たにぐちじゅんぺい
田中修一郎 田中浩也 駄場寛 駄場真弓 千野雅則 筒井海砂 津曲浩司 
出渕亮一朗 所幸則 ドルバッキーヨウコ 中林たける 中村浩二 中山嗣朗 
永吉克之 西脇愼介 橋本聡 服部幸平 服部正志 花山由理 羽田宗春 
林ノブ 樋口誠 樋口陽介 一入正記 檜山巽 ふじわらかずえ 星沢順子 
細井真木 松林あつし 三河一郎 みむらよういち ミヤケシゲル 森谷信敏 
山田ケンジ 山本里士 杠聡 横山弥生 和田貴紀 
映像出品(大場康雄 喜多見康 高橋信雄 富岡聡 森野和馬 山本健介)

●特別セミナー 表参道・新潟館ネスパス3階 定員100名 先着順 

・8月19日(土)13:00~14:30 「お仕事!」大賀葉子×花山由理
イラストレーター大賀葉子と花山由理の対談。「こうすればあなたもイラスト
レーターになれる!」お仕事にまつわる泣き笑いエピソードを公開。また、イ
ラストレーション制作のゼロから完成までの工程を全部見せちゃいます。

・8月19日(土)14:45~16:00 「デザインの力」鈴木守×鷺義勝
ADC、JAGDA会員の社会派正統アートディレクター鈴木守に、暴走する無頼派ク
リエイター鷺義勝がゲリラ的視点から切り込んで、これからのデザインの行方
を探る。目ウロコ対談!

・8月20日(日)13:00~14:30「対決!現世浮世絵娘」飯田HAL×桑島幸男
飯田HALはペイント系で、桑島幸男はドロー系で、渋谷・原宿のコギャル達を
「現世浮世絵娘」としてイラストレーションに表現した。取材から制作までを
比較対照、あわせてふたりが美術論(&人生論)を戦わせる。

・8月20日(日)14:45~16:00 「クリエイターになる!」
独特のイラストで大ヒット中の岡部タカノブ、デジタルフォトの新境地を拓く
亀井一郎、広告賞を次々に受賞しているグラフィックデザイナー斎藤浩の3人
が、いかにしてクリエイターになったのか、どういう努力を重ねたのかなど、
成功のノウハウを語る。

詳しくはディジタル・イメージWebサイトをごらんください
http://www.digitalimage.org/

■問い合わせ先 〒102-0074 東京都千代田区九段南3-7-14 K-BLD.B1
株式会社マルチメディアセンター内 ディジタル・イメージ事務局
TEL:03-5212-1633 FAX:03-3239-3640
info@digitalimage.org

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■編集後記(8/5)
・やっとデジクリの夏休みだ。2週間の休みのうちにやるべきことはたくさん
ある。本職をちゃんとやらなきゃなんないし、マンション問題も片付けなけれ
ばならない。デジイメの展覧会もある。全然休みになんかならんなー。デジク
リもデザインをふくめて新しいものに変身か? では8/21にまた。(柴田)

・「パソコン在宅SOHO成功物語」はスガイさんの部分だけ立ち読みしていた。
ほんと感動的でやんした。メールで何度もやりとりしているのに、彼の背景を
知らなかった自分を恥じたりもしたでやんす。/明日から休み。見たかったビ
デオ借りちゃおう。ライブの招待券も来てたな。マシンやメールを整理して、
あれもこれもでもってこれも。といいつつ仕事してそー。  (hammer.mule)
・667号の書籍プレゼント、まだまだ受付中! 

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編集長     柴田忠男 < mailto:tdo@green.ocn.ne.jp >
デスク     濱村和恵 < mailto:zacke@days-i.com >
アソシエーツ  神田敏晶 < mailto:kanda@knn.com >
        森川眞行 < mailto:morikawa@siliconcafe.com >

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