[1193] Every file has a beautiful name?

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【日刊デジタルクリエイターズ】 No.1193    2002/11/07.Thu発行
http://www.dgcr.com/    1998/04/13創刊   前号の発行部数 21569部
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         <無自覚なデータの複製地獄>

■Powerbook Publishing Project ~ (30)
 Every file has a beautiful name?
 8月サンタ

■笑わない魚
 芸術への素朴な質問(一)
 永吉克之

■イベント案内
 KNN Night vol.5「ブロードバンド時代のサービス・コンテンツ」



■Powerbook Publishing Project ~ (30)
Every file has a beautiful name?

8月サンタ
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●カネも時間もつぎ込んでみたが ~OS Xから「一時撤退」

いきなりショッキングなタイトルだが、私はOS Xへの乗り換えを当分(約一年
は)延期することに決めた。この三ヶ月間、JaguarことOS 10.2も発売日に即
買い即インストール(これはまつむらさんのマネ)、HDも大きく速くし、ソフ
トも買い揃え、試行錯誤を繰り返してきたが、結局、冷静に考えて「もう少し
先でもいいんじゃないか」という結論に達した。

いちばんの理由は「遅いから」。と書くと身も蓋もないが、とりあえず「速く
なった」と評価された10.2でも、レスポンスが私の実用レベルではなかった。
日常の一番大事な操作、タイピングに文字表示が追従しないのだ。文字が打ち
こんでから、ひと呼吸遅れて表示されるのである。これはとにかくつらい。

腐っても私のPowerBookはG4・550Mhz・1GBメモリである(と思っている)。重
量級のソフトで入力がもたつくのは解るが、テキストエディタやメーラでもも
たつくというのは納得がいかない。何度も再インストール、思いつく限りの高
速化を試みてみたが、もたつき感は解消できず、最後の手段で超高速なHD、東
芝の40GB/5400rpmを買いに行こうとして目が覚めた。小手先のスピードアップ
では、いずれまた不満がつのるに決まっている。

であれば、納得のいくスピードの出るモデルが発売されるまで、待てばいいの
だと結論を出した。PowerBookG4の800MHzの購入も検討したが、550MHzとの速
度差は思うほどではない。来年の今頃なら、OS Xが快適に動くマシンが発表さ
れているのではないか。とにかく、テキスト打ちでひっかかるというのは、多
くの人にとっても死活問題なのではないだろうか。

他にも、いろいろと生産性が落ちてしまい、日常の起動OSとして使うことを断
念した。常用ソフトであるメールソフトもいろいろ試してみたが、遅いのはと
もかく、不安定なメーラが多くて驚いた。OSそのものは、頼りになる頑丈さを
備えていても、メーラが突然異常終了してしまっては仕事にならない。結局旧
OS 9で抜群に安定していたMicrosoft Entrougeが、OS X版でもタフな使い心地
だった。しかし当分はお蔵入りになりそうだ。

●あきらめることで広がる選択肢

OS Xの良い部分を生かして使いたい処理、例えばバックグラウンドで動かすプ
リントやスキャン処理が、ドライバが揃わないお陰で未だに未完成なのも、乗
り換えをやめた理由の一つだ。正直、EPSONにはなんとかしてもらいたいが…
もちろんOS Xの良いところは沢山あるし、OS Xでしか出来ない作業もある。必
要な場合のみ、切り替えて使うなどして、対応してゆくつもりだ。

ところで当分OS 9で行くと決めてから、逆に豊かな選択肢が持てることに気が
付いた。最後の旧OS、9.2.2は熟成しきっていて、非常に安定している上、積
み重ねてきた使いやすさがそのまま生きている。スピードも現行機種なら不満
のありようもない。昔重いと言われていたソフトもびゅんびゅん動く。

ずっとiBookを買おうとして、そのたびに「この機種ではMacOS Xが快適に動か
ないから」とあきらめて来たけれど、OS 9専用機と考えれば十分な性能である。
別に最新モデルでなくとも、Dual USBモデルの全てが安くて速さを備えている
から、購入射程圏内に入る。これは楽しい。実際にはiBookの中古は高値安定
なので、新品を買った方が安く付く。15万円あればベーシックモデルが買える。
このバリューはかなりのものかも知れない。というわけで噂される最終型の購
入を真剣に考えている。

※本日、とうとう1GHz化したPowerBookのニューモデルが発表された。
http://www.apple.co.jp/powerbook/index.html
う~ん、私は恐らく見送り。最後のOS 9マシンと考えるかどうか?

●そして、もっと深刻な問題

時間もカネも(iBookが買えるくらいは)使ってしまったが、全く無駄になっ
た訳ではない。実はOS Xに触れてみて、根元的に重要な問題を直視せざるを得
なくなった。ファイル管理環境 "Finder" の問題である。

OS Xも、そしてWindowsも、一つのファイルを複数の窓で見ることが出来る。
だからデスクトップの上で、一つのファイルが複数表示されることがあり得る。

対して旧MacOSでは、一つのファイルは必ず(現実の引出しのように)一つの
フォルダの中にしか、見つけることが出来ない。デスクトップ上では、一つの
ファイルは、必ず一個しか存在しえないのだ。

この変化を私は「ああ、MacもWindows風になったんだ」程度に考えていたのだ
が、大変に大きな間違いだった。これはMacintoshだけの小さな世界の問題で
はなくて、デジタル情報機器の持つ、根元的な落とし穴と対峙しなくてはなら
ないというお話なのだ。ちょっと分かりやすく説明する自信がないが、とりあ
えず書いてみたい。

●あなたはファイルの区別がつきますか?

あなたはパソコンのディスプレイに表示されている、「名前とアイコンが全く
同じファイル」の「違い」が分かるだろうか?

もちろん分かるわけはない。どんなに目をこらしても、その状態ではそのファ
イルは同じ見かけをしていて、Windowsならプロパティ、Macなら"情報を見る"
を選択しなければ、そのファイルの素性はつかめない。あるいは対応している
アプリケーションで開いてみなくては、内容はわからない。

基本的には同じフォルダ内や同一階層に、同じ名前のファイルは存在してはな
らないことになっているから、同じ名前の二つのファイルがパソコンの画面に
表示されていたとすれば、それぞれ別の場所に存在するのだろうと想定される。
「場所の違い」が、二つのファイルの違いだということだ。

同じ名前のファイルは紛らわしい。同じアイコンなら、なお紛らわしい。似た
ようなファイルが沢山あると、人間はすぐ混乱してしまう。必要なものと、不
要なものの判断がつかなくなってしまう。

だがもう遅い。実は、貴方のパソコンの内部は、すでに「同じ名前のファイル」
で溢れてしまっているのだ。一例を挙げれば、「01.jpg」という名前のファイ
ルを自分のハードディスク内で検索してみて欲しい。これはWebページで使用
される画像に頻繁に使われる名前で、インターネットに繋いでWebページを閲
覧したことがあれば数枚、数十枚は、知らないあいだに入っているはずだ。

内容はみな違うが、同じ名前で、アイコンも同じ場合があり、(画像がアイコ
ンになっている場合もある)もし整理するとすれば紛らわしいことこの上ない。

だいたい、デジカメのデータだってjpgなのだ。自分の撮った写真に01、02… 
と付けるユーザは山のようにいるだろう。

●あまりにも無自覚な「不自然」

内容が違えばまだいい。だが名前もアイコンも同じなら、内容もそっくり同じ
ファイルが大量に存在する可能性がある。「バックアップ」である。「バック
アップ」されたファイルと、今現在、存在するファイルを隔てるのは、場所、
最終的に保存された時間、上書きされていればその変更分だけである。

「名前も見た目も内容も全く同じファイルが、複数存在する」という状態と、
私たちが日常的につきあっていることを自覚して欲しい。もちろん、これは大
変に紛らわしい状態である。私たちがこの状態で無事にいられるのは、ディレ
クトリという「仮想空間」でこのファイル達がしっかり管理されているからで
あり、この秩序を見失えば、ファイルは大混乱に陥る。

実際には大混乱など起こってはいない。しかし実害がないからといって、かく
も気安く「複製」が存在していいのだろうか。ちょっとずつ異なる、よく似た
ファイル、名前も内容も全く同じ複数のファイル、今後もパソコンを使い続け
れば、そんなファイルは否応なしに増えていく。消去すればいい? 貴方は二
つのファイルの違いがよく分からない状態で、片方をいさぎよく削除し続ける
ことが出来るだろうか。

もとよりデジタルでは、ファイルの完全な複製はあまりにカンタンだ。一方現
実世界では「複製」とは、創造にも等しい作業だ。書籍をコピーにとる、とい
う劣化したコピーをつくる話ではなく、この場合、書籍と同じものを複製する、
入れ替えても違いのわからないものをつくる、と考えて欲しい。現実世界では、
完全に同じものを複数つくる方法というのは、書籍なら印刷、物なら生産、近
代技術のたまものである。決して簡単ではない。

実は旧MacOSでは、データを複製する場合は、同一HDボリューム内では、不可
能にしてあった。ファイルをコピーする場合には、きちんとそのファイルがど
の場所にあるかを確認してからでなければ、だめだった。それがMacOS Xでは
全く節操が無くなってしまった。コピー&ペーストでまるごと、どんなファイ
ルでも複製出来るようになってしまった。

よく似たファイルを作りすぎて混乱することを、「超整理法」の野口教授は、
「ドッペルゲンガー症候群」と名付けた。特にファイルの紛失を恐れてまめに
コピーをとっておけばおくほど、ドッペルゲンガーという「ファイルのお化け」
は増殖していく。だから教授はルールが必要だ、と説いている。

だがそれ以前に、今後個人が扱うデジタルデータの、種類も数も増えていくと
いうのに、「名前も見た目も内容も全く同じファイルが、複数存在する」とい
うことを、そのまま受け入れていていいのだろうか。それは正常な状態なのだ
ろうか。

●排他制御、そして存在証明

旧MacOSで、ファイルの複製に制限があったのは、明らかにファイルの管理に
現実のファイル管理に準じたルールを、適用するということだった。「一つの
引出しには一つのファイル」という原則も、全ては現実空間のメタファだった。
それはパソコンの前に座る人間が、現実の机のうえのフォルダも、パソコン内
のフォルダも、同じ感覚で扱えるように、という配慮だった。

しかしWindowsXPとMacOSで、今販売されているパソコンのシェアはほぼ100%、
その双方が、ファイルを複製することに、驚くほど無自覚なOSになってしまっ
た。だいたい先程述べた通り、「同じファイル」が同じ画面で複数現れたりす
るのだ。これは人間の感覚を超えている。

そして、「同じファイル」あるいは、「同じ名前、同じ見かけ、同じ内容の複
数ファイル」が、個人の手の中にあるうちはまだ害が少なかったのだが、今は
ご存じの通り、パソコンがネットワークで繋がれていることが当たり前になっ
てしまった。「同一ファイルの、複数人による共有」という状態が、ごく普通
のものになる時代を迎えてしまった。

この「共有」という言葉がくせ者である。エンジニアは「共有」を提供する場
合、きちんと「存在」を管理する。一般のユーザのイメージはそうではない。

たとえばWebページは、複数の人間が同時に同じページを閲覧できる。その仕
組みに使われるhttpというしかけは、複数の場所からの閲覧したいというリク
エストを細かく分けて、データを一度に少しづつ全員に配分し、「あたかも同
時に見ているように」見せるというものである。人間には表示に時間が掛かっ
ているように見えるだけで、ちょっとずつ、ちょっとずつ見せられているとい
う意識はない。現実的にサーバもデータも「一つしか存在しない」が、細かく
シェアすることで、接続してくる一人一人の占有時間を減らし、同じデータを
見せてまわっているのだ。

このスタイルは、Webページが閲覧を主目的としているから可能なものである。
これがもう少し一般的なデータベースであれば、閲覧だけでなく、書き込みも
あり得るので、もう少し込み入った制御が必要になる。例えば通販など、誰か
が商品の在庫データを閲覧し、注文するとする。すると在庫データの商品数は、
売れた分だけ減る。ところが、誰かが注文中に、他の人間が同時に同じページ
で同じものを注文しようとする場合があり、その場合注文中に在庫数が変わっ
てしまったりすると混乱してしまう。

この場合、リクエストを先に出した人間の作業が終わるまで、在庫データの変
更があってはならない。だから、一つの取引が終わるまでは、他の人間のリク
エストを受け付けないように一対一のやりとりがロックされる。一つのファイ
ルは一人に占有されるわけだ。これを「排他制御」という。

排他制御とは、旧MacOSと同じく、デジタル環境で、物理的な現実に即した状
態をつくり出すための処理といえる。それは一つ一つのファイルは同じもので
はなく、独立した「存在」であることを前提にしている。実際にお金が動く取
引に絡む以上、簡単に複製されたり、入れ替えられたりしては困るからだ。

例えば電子本、AdobeのeBookの、「レンタル機能」なども排他制御のたまもの
である。eBookは一度ダウンロードされると、一つのCPUユーザの元にのみ、存
在出来るようになっている。デジタルデータだから簡単に他のパソコンに転送
可能だが、その場合は移転先のCPUの下でのみ、閲覧可能になっており、移転
元のパソコンでは、「貸し出された」状態になって読むことが出来ない。これ
は「データの存在証明機能」と言えなくもない。

●パソコンとは人間が使うもの

排他制御の例のように、人間の現実の作業に密接に関わる場合は、データの複
製・書き換えなどは、きちんとコントロールされるものなのだ。パソコンがわ
のロジックでは何一つ不都合が生じていなくても、入れ替え可能な「存在」が
たくさんあっては、人間は混乱してしまう。

本来パソコンは道具であって、人間の実生活を豊かに、便利にするためのもの
であって、人間に不条理な状態を突きつけるものではないはずだ。だが、ユー
ザーに近いレベルでこのまま複製に無自覚な状態が続けば、そしてそんなパソ
コンが情報生活の中心になってしまえば、その歪みは現実の情報の価値を直撃
してしまう。

ちょっと長くなってしまった。書きたいのは、あらゆる場所で起きている無自
覚なデータの複製地獄であり、パソコンに罪はないし、デジタルデータの側で
は何ひとつとして、混乱をきたしていないのだが、人間側の準備が全く出来て
いないということだ。私の酷い文章のおかげで、ひどく安っぽい話に読めてし
まうかもしれない。文脈もまるでつながってないが、実はこれはデータベース
と出版の話なんです。

う~んスミマセン、もうちょっと整理してまた書きます。

【8月サンタ】ロンドンとル・カレを愛する34歳 santa@londontown.to
・Mac用の外付けスピーカーを買おうと、いろいろPC売り場を物色していた。
純正のハーマン・カードンなど色々面白いカタチの小さなスピーカーがあって
惹かれたが、店頭で試聴するうち、ふと「どうせならきちんとしたオーディオ
機器で鳴らした方がいいんじゃないか」と思い立ち、オーディオ専門店へ行っ
てみた。やっぱり本格オーディオは高級家具の趣があって、でかくて重くて高
いが素晴らしい音がする。なら中古でいいか、と考え、某ネットオークション
でオーディオ機器を検索してしまったのがいけなかった。80年代の黄金時代の
名機が1万円だとか2万円だとかでごろごろ、アキュフェーズ、テクニクス、
日立Lo-D、LUXMAN、デンオン、JBL… 中学生の頃、ショウ・ウィンドウに鼻
をくっつけ、涎を垂らして見ていた超高級機が、信じがたい値段で出ている。
アンプやスピーカーは(当時10万円以上していたものは)20年くらいではびく
ともしないから、十分に実用品である。というわけで、送料を含めても1万円
以内、と自分で条件を決めてオーディオ集めをはじめてしまった。楽しすぎて
困ってしまう。30代の人はキケン! チカヨルナ!
・というわけで今週はゴダイゴ " Beautiful Name " ゴダイゴいいよね!

・このオーディオネタ、姉妹紙「写真を楽しむ生活」にも書くことに…
http://www.dgcr.com/photo/

・ロンドン好きのファンサイト
http://www.londontown.to/

・デジクリサイトの「デジクリ・スターバックス友の会」
http://www.dgcr.com/

▼「MacWIRE Express」もよろしく。今回は「ギャラ」の話を書いてみました。
http://www.zdnet.co.jp/macwire/0210/15/nj00_digicre.html

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■笑わない魚
芸術への素朴な質問(一)

永吉克之
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くやしいが格闘技一家のグレイシー・ファミリーは確かに強い。私なんかが、
まともに闘ったら、おそらく大差の判定で負けるだろう。しかし私は、美術学
校を出て、その後もその世界に関わってきたので、少なくとも美術芸術に関す
る知識はグレイシー・ファミリーより豊かだと思っている。

そこで、グレイシーをも凌駕する豊富な知識と経験に基づいて、デジクリ読者
の方々が、芸術に関して普段から疑問に感じておられるであろうことに、逐一
お答えしていこうと思う。


一体全体、何をもって芸術の才能と呼んどるんだ。え? どうなんだ。おい!


いろいろ考えられる。まず表現力。自分の頭の中に描いたイメージを的確に目
に見える形に(文学なら文章に、音楽なら音に)置き換える能力。多くの芸術
家が、頭に描いたイメージと、結果として出来上がった作品の印象とのギャッ
プを無くすのに苦心惨憺しているはずである。

小説家を例にあげれば、ある複雑な心理状態を表現したい。そして自分はそう
いう状態を経験済みなので、どんなものか感覚的に分かっている。しかし、そ
れを読者にも伝わるような言葉が見つからないという場合があるだろう。

「うーむ違う。こんな言葉では、あの茫洋としながらも、地鳴りのように響い
 てくる逞しさと、甘ったるい幻想を秘めた凶暴さとが出会った瞬間の渾沌と
 した悦楽を表現することは、とてもできない。もうだめだ、死のう」

そんな苦悩を、小説家ならたいてい経験しているのではないか。

                 ■

そして、独創性。他の芸術家がまだやっていないような表現形態を創りあげる
能力。しかもそれは他人に簡単に真似されてしまうようなものであってはなら
ないのである。

もし誰かが「オレは世界ではじめて、全く文字も記号も使わない小説を書いた」
といって真っ白のページばかりの本を出版したとする。過去に同様の例がなか
ったら、確かに独創性かもしれないが、子供でも真似ができる。

映像は専門ではないが、スーザン・ピットのカルト的アニメーション『アスパ
ラガス』を観た時、技術的には高度なことをしているようには思えなかったが、
「このイメージは真似しようにもできんワ」と嫉妬のようなものを感じたのを
憶えている。

                 ■

それと、ひとつの対象からさまざまな側面を抽出できる能力。これはいわゆる
洞察力というべきものかもしれない。

これは、初心者が描いた絵画作品に対して絵の先生がよくいう決まり文句。

「お前の絵はリンゴの形を説明しているだけだ。リンゴの何が描きたいのかわ
 からん。表皮の微妙な色調なのか、物体としての確固たる存在感なのか、枝
 からもぎとられて、残り少なくなった生の時間を、必死で生きようとする姿
 なのか、それとも長引く不況に有効な対策がとれない小泉政権への失望なの
 か。それをハッキリしろ馬鹿野郎、やる気がねえんなら、とっとと郷に帰っ
 て、カアちゃんのオッパイでもくわえてやがれ、このスットコドッコイ!」

によく表れている。

人間を例にした場合でも「動物としての人間」「神の子としての人間」「精密
極まる機械としての人間」といったような側面があるが、さらに角度を変えて
みると、人間は「社会の構成要素」であり「大自然の一部」であり、つきつめ
ると「分子の集合体」という側面も見えてくる。

宇宙が小さな一点が膨張することによって始まったとすれば、その最初の一点
のなかに、現在宇宙に存在する万物の「素」が含まれていたわけだ。つまり、
森羅万象は生物も無生物もみな親兄弟姉妹叔父叔母イートコハートコというこ
とになる。私はちゃぶ台の弟で、火星はキンメダイの妹かもしれない。松坂肉
はアマゾン河の親かもしれないし、松たか子は松本幸四郎の娘ということもあ
りうるわけだ。

このように、対象をいろんな側面から捉えることができれば、それだけイメー
ジも膨らむということである。

                 ■

そして、これは才能というより性格というべきだろうが、世評や肩書きや看板
ではなく、自分自身の価値観で芸術作品の価値判断ができなければならない。

たとえレオナルド・ダ・ビンチの『モナリザ』であろうが、気に入らなければ
「こんなしょーもない絵を、ようもまあ恥ずかし気もなく展示しとるもんや。
これやったら便所の落書きの方がよっぽどオモロイわ。あーもう時間のムダや。
はよ去(い)んで、シャンゼリゼで、けつねうどんでも食うてこましたろ」と、
ルーブル美術館の『モナリザ』の前でフランス語で言えなければならない。

また自分を隠したり偽ったりしない、要するに「いい格好」をしないことだ。
自分の作品が、いかにヘッタくそでショボいといわれても、「どうですか、こ
れが私の世界です。見てください皆さん、私の魂の咆哮が聞こえるでしょう!」
と自己をアピールできなくてはならない。

自分の絵画作品をいっぱいに積んだ大八車を引いて、どこでもいいから誰かの
個展をやっている会場に車ごと入り込み、展示中の作品を勝手にひっぺがし、
表に放り出し、替りに自分の作品を展示して「ごらんください、私の世界を。
テーマは一貫して人間愛です」と訴えかけるのである。

しかし自分の作品をゴミのように放り出された作家は、逆恨みして暴力に訴え
てくるかもしれないが、ヘタに応戦すると、こちらが悪者にされてしまうので、
そこは警察に任せることだ。

ここまでできなければ、芸術家になるのは諦めるべきである。



その他にも芸術に活かせる能力はあるだろう。観察力、描写力、集中力などが、
それに当たると思うが、これらの能力を創造に活かすための能力というものも
必要な気がする。しかし、これらのことを何にも知らなくても、いい作品を作
る人は作っちゃうんだなー、これが。

<本日の芸術>
http://www2u.biglobe.ne.jp/~work/kunst/014tya.html

【ながよしかつゆき/アーティスト】katz@mvc.biglobe.ne.jp
私は見かけは中肉中背なのだが、体重は75kgもある。一時は「軽肥満」と呼ば
れるカテゴリーにいて、ヒヤヒヤしながらも「軽」だからいいか、と摂生を怠
ったのが災いし、ついに数値的には正統派の肥満に昇格した。素晴らしい。
EPIGONE / http://www2u.biglobe.ne.jp/~work/

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■イベント案内
KNN Night vol.5「ブロードバンド時代のサービス・コンテンツ」
神田敏晶 http://www.knn.com/
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【日時】2002年11月8日(金)21:30~23:00 ▼明日ですよ!
【場所】東京・渋谷 Q-FRONT6F デジタルハリウッド渋谷校
 http://www.dhw.co.jp/school/location/shibuya/location_shibuya.html
【費用】3000円
【参加】info@knn.com へ、お名前・会社名・電子メールを明記し、
 サブジェクトに「KNN Night vol.5参加DGCR」としてお申し込みください。

ブロードバンド時代は、単なる広帯域による動画サービスの世界だけではなく
「常時接続型」のサービス・コンテンツがボクたちの生活を大きく変えようと
しています。ゲストに「Dの食卓」「エネミーゼロ」をプロデュースしながら
もゲーム業界を卒業し、新たなサービス・コンテンツを提供するTV「Winners」
でもおなじみの、株式会社フロムイエロートゥオレンジ代表の飯野賢治氏を迎
え、ブロードバンド時代のサービスコンテンツとは? を一緒に探っていきた
いと思います。

さらに、株式会社オン・ザ・エッヂの堀江貴文社長もゲストとして、登場予定
「ぽすれん」のご担当者とともにこのサービスの魅力を検証してみたいと思い
ます。当日は、神田の個人管理ページを見ていただきながら、ビジネスの可能
性を体験してください。

ソニーの出井CEOとCEO室にも招待状、送っています :-)
コクーン、突撃!インタビューはこちら…
http://www.impress.tv/im/article/knn.htm
「コクーンも地上波だけではつまらない!」ソニー出井CEO
第一回「コンテンツフォーラム@穂高」
「デジハリ杉山氏とソニー出井氏に突撃インタビュー」

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■編集後記(11/7)
・「TRENDY」を買った。2003年ヒット予測ランキングという記事が気になった
からだ。ここんとこ、こういうのあまり関心がなかったが、姉妹紙「写真を楽
しむ生活」は、写真ばかりでなく興味のおもむくまま広範囲に手を拡げている
ので、トレンドも頭に入れておかねばと思ったのだ。ベスト30の中で興味を持
ったのは以下。多機能カメラケータイ(絶対買わないけど)、ハイブリッドレ
コーダー(欲しい)、ネットデジカメプリント(自分でやるより絶対いい)、
超リアルカップ麺(試したい)、RX-8(新ロータリーエンジンのスポーツカー、
見るだけでいいや)、低価格インテリアマッサージチェア(欲しい、欲しい)。
2002年ヒットの第3位はアブトロニックだという。確か、まつかさのどちらか
がユーザーだったはず。成果はどうだったのだろうか。聞きたい。 (柴田)

・商店街のくじ引きで海外旅行が当たった人がいる。ペアなのだが、娘は小学
生。海外に行くには早すぎるだろうと、国内の温泉旅行との引き替えを望んで
いるそうだ。それを聞いて「勿体ない! 子供のうちから海外の空気を知って
おいて損はないし、その子の人生に何らかの影響があるだろうに。」と言った
ら、その話を教えてくれた人も「私もそう言っているんだけどね。親自身も海
外に行ったことなくて、パスポートやスーツケースの準備が大変だとか、学校
を休ませないといけないとか、海外は危険だとか、まるで月に遊びにいくのか
と思うくらい。」「私なら学校くらい休ませるけどなぁ。せっかく転がりこん
できたチャンスなのに。」「でしょう? だからそのツアーに自費で付き添っ
てあげようかと考えているの。で、さっきの話なんだけどね。」「はい?」「
それと同じだと思うわよ。周りから見たら。そんないい話断ろうなんて。」「
でも失敗したら迷惑かけちゃうし。」「迷惑ってどんなの? たいしたことな
いじゃない。神様にこの子はこういう話はいらないんだって思われちゃって、
もう二度とまわってこないわよ。連絡くれた人にも失礼よ。がんばんなさい。」
変なところで臆病だし、何も持っていないし、くじ運も悪いけど、人との出会
い運だけは恵まれていると思う。いつも救われる気がする。 (hammer.mule)

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編集長     柴田忠男 
デスク     濱村和恵 
アソシエーツ  神田敏晶 
アシスト    島田敬子 

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