[1505] 映画がなければ生きていけない

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【日刊デジタルクリエイターズ】 No.1505    2004/04/09.Fri発行
http://www.dgcr.com/    1998/04/13創刊   前号の発行部数 18988部
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          <時は過ぎ、人は変わる>

■映画と夜と音楽と… 208
 映画がなければ生きていけない
 十河 進

■金曜ノラネコ便 
 忙しいときに限ってどうしても見たいDVDがある
 須貝 弦

■セミナー・イベント情報
 インターネット活用実践講座 -携帯活用編-
 「未来のテレビ!?」特別展示展 -有機ELディスプレイの世界-
 イノセンス・都市の情景
 日本タイポグラフィ協会創立40周年記念講演会



■映画と夜と音楽と… 208
映画がなければ生きていけない

十河 進
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●思い出の映画館「ニュー・シネマ・パラダイス」

映画の思い出と共に映画館の思い出をも持つことのできた幸福な世代の、その
終わりにかろうじて間に合った幸運な人間の、僕はひとりだ。

昔、父親に肩車をしてもらわなければスクリーン(銀幕といった方がぴったり
するけれど)を見ることができないほど人でいっぱいの、歓声と拍手と笑いと
涙であふれた幸福な映画館の中に、僕はいた。

スクリーンでは三船が、橋蔵が、錦ちゃんが、裕次郎が、旭が、雷蔵が暴れま
わっていた。団令子が、千原しのぶが、北条菊子が、芦川いづみが可憐さと妖
艶さを競い合っていた。

そのスクリーンに向かって青い光線がのび、その光の中に埃やタバコの煙が浮
かび上がった。時々、人が横切り青い光線を遮ると、一瞬、スクリーンを人影
が占めた。

スクリーンを食い入るように見ていた幼い僕は、ある日、青い光の源を振り返
った。観客たちとは逆に目を向けると、そこには別の世界があり、小窓の奥に
眩しい光が見えた。

ああ、あそこから映画が出てくるのだ、と父の背中で僕は思った。現在の明る
くなってしまった清潔なロードショー館では、人影がスクリーンを遮ることも
ないかわりに、あの青い光に出会うこともない。

映画「ニュー・シネマ・パラダイス」が僕に与えてくれた幸福は、あの幼時期
を追体験させてくれたことだ。おまけに、子供の頃の僕には神秘の世界だった
映写室まで見せてくれたのである。

もちろん、パラダイス座の映写室には嘘がある。映写機が一台ということは普
通ありえないし、あの大きさのリールでは一時間の映画さえ上映できない。

しかし、僕のそんな知識は大人になってから得たものだ。子供の頃の僕が夢見
た映写室は、まさに少年トト(いかにもやんちゃでいい!)が見た魔法の部屋
そのものだった。

映画の魔術を見せつけてくれるエピソードもある。大入り満員で映画館から人
が溢れ、それでも人々は、パラダイス座の前から去らない。映写技師アルフレ
ードは「アブダカダブラ」と言いながら、映写機のレンズの前にあるハーフミ
ラーの角度を変えていく。

すると、どうだ! スクリーンに映像を映しながら、同じ映像がスルスルと映
写室の窓から向かいの建物の壁へ出ていくではないか。この素晴らしいシーン
だけで「ニュー・シネマ・パラダイス」は歴史に残る。

だが、悲劇はその後に起こる。トトの少年時代のエピソードのハイライトであ
る屋外映写シーンの後、まだ可燃性だったフィルムは炎上しパラダイス座が焼
け落ちる。

盛り上げた後のショック、作劇的にもうまい展開だが、炎に煽られて失神した
アルフレードをトトが助け出すシーンにはドラマチックな要素と共に、人生と
いうものを考えさせる何かがある。

そう、この映画は人生について語る。それを映画と映画館をモチーフにして語
ってくれるからこそ、僕はシネスイッチ銀座の椅子で涙した。

郷愁と悔恨、昂揚と失意、憧れと絶望、夢と友情、迫害と偏見、信頼と裏切り、
成功と挫折、ここには人生で体験する、あるいは体験すべきあらゆるファクタ
ーがある。

物語は、アルフレードの葬儀の連絡を受けたサルバトーレの回想で進行する。
トトと呼ばれていた映画狂いの少年時代、青年時代の恋……、サルバトーレは
故郷シチリアへ帰る。

「帰ってくるな。私たちを忘れろ。手紙も書くな。ノスタルジーに惑わされる
な。すべて忘れろ。我慢できずに帰ってきても私の家には迎えてやらんぞ」と
いう言葉で送り出してくれた年上の友アルフレードの葬儀に出席するために。

30年ぶりに戻ったサルバトーレは、焼け落ちた後に建てられた、アルフレード
の跡を継いで自分が映写技師をしていたニューパラダイス座の取り壊しに立ち
合うことになる。そこは駐車場になるという。かくも年月は残酷であり、かく
も年月は人をノスタルジーに誘う。

サルバトーレはアルフレードの形見を受け取る。トトへの最後のプレゼントで
ある。ローマに戻り、たったひとり試写室に座ったサルバトーレはアルフレー
ドの形見を見る。

彼は子供時代からの夢である映画を作る仕事、映画監督になっていたのだとこ
こで初めてわかるのだが、この後に続くシーンによって、この映画は映画を越
えてしまう。

誰が何と言おうと、このシーンは素晴らしい。人生への励ましに満ちた、この
素晴らしいシーンを僕は断固支持するゾ。文句のある奴ァ、表へ出ろ! 映画
のエクスタシーというものがあるとすれば、まさにこの瞬間のことであろうと、
僕は思う。

この映画を見て、片道切符だけを持ってインドへ渡った若いカメラマンがいる。
彼はアルフレードの「決して帰ってきてはいけない」という言葉だけを胸にイ
ンドへ行くのだ、と語った。

その彼に、僕はフィルムを渡した。僕にプレゼントできるのは、せいぜいそん
なものだ。アルフレードのように、人生のエッセンスを丸ごとプレゼントする
ようなステキなまねは、誰にでもできるというものではない。映画ではない現
実の人生を生きている僕たちの限界だ。

──トト、人生は、おまえが見た映画とは違う。人生はもっと困難なものだ。

しかし、だからこそ、つかの間の幸福を求めて僕は映画館へ通う。せめて映画
でだけは夢を見たいと思う。そうなのだ、僕は様々な映画に励まされながら自
前の人生を生きてきた。

この映画を見た後も、僕はアルフレードの「自分のすることを愛せ。子供の時、
映写室を愛したように」という言葉に励まされながら生きている。僕の現実の
人生には、アルフレードは登場しなかったけれど、映画の中では会えるのだ。

こんな映画を見ると、キザなようだがフィリップ・マーロウの言葉を借りて、
こう書いてしまいたくなる。

映画がなければ生きていけない。

●「ニュー・シネマ・パラダイス」の日々

……僕が、この文章を書いたのは1990年の夏のことだった。「出版人の映画の
会」の機関誌「シネフィル12号」に掲載された。

その一か月前、僕は意に染まない人事異動に反発し会社を飛び出した。翌日は
休暇を取り、和光裏のシネスイッチ銀座で「ニュー・シネマ・バラダイス」を
見た。

映画を見終わった後、会社に電話すると後輩のKが出て「出社拒否のソゴーさ
んですか」と言った。僕は「元々、休暇届けを出してたんだよ」と言ったけれ
ど、出社拒否の気分は確かに強かった。そして、その翌日もロケへ直行した。

カメラマンは昔なじみの加藤孝、モデルはイカリさんという素敵な女性だった。
そしてアシスタントはカモシダくんといった。僕はロケ地である千葉の牧場へ
向かう車の中で、ずっと人事異動への不満を洩らしていた。

「ニュー・シネマ・パラダイス」は評判になっていた映画だった。ロケの途中
でカモシダくんとその話になった。彼は「ニュー・シネマ・パラダイス」を見
たことによって新天地を求めて日本を出る決意をしたのだと語った。

カモシダくんが「ニュー・シネマ・パラダイス」をきっかけにして、新しい人
生を切り開こうとしている姿を見て、僕は人事異動を受け入れる決意をした。
それは組織の中での僕の新しい人生なのだった。

カモシダくんを応援したい気持ちが湧き「インドへいって写真を撮りたい」と
言う彼に「期限切れ近いフィルムがあるから必要ならあげるよ」と僕は言った。
ロケの数日後、カモシダくんは会社にやってきた。何十本かのフィルムを嬉し
そうに受け取って帰った。

彼がインドに渡り、そこで日本からきた女性マンガ家と恋に落ちて結婚し、日
本に帰ってきたと加藤くんに聞いたのは数年後のことだった。その時に「西原
のマンガに出てくるカモシダですよ」と加藤くんは言った。

先日、僕は本屋で「最後のアジアパー伝」という本を立ち読みした。その後書
きでカモシダくんは西原さんに深く深く感謝していた。具体的には書いていな
かったけれど、僕は「もしかしたら離婚したのかな」と思った。

数日後、テレビ番組のブックレビューで西原さんの子育てマンガが紹介されて
いた。「子育てに専念しているうちに離婚してしまった」という西原さんのコ
メントがあり、「ああ、やっぱり」と僕は納得した。

アジアから戻ったカモシダくんが西原理恵子さんとのコラボレーションで何冊
も本を出し、作家として成功しているのは知っていた。だが、どうしてもあの
カモシダくんと鴨志田穣という表紙に刷り込まれた名前が結びつかなかった。

僕とカモシダ君の人生は一瞬交錯したに過ぎない。14年前のあの頃、僕にとっ
ては忘れられない時期だったが、その中でもカモシダくんというアシスタント
の青年は僕に強い印象を残した。ある意味では、彼が僕のその後の人生を決め
たのだ。

あれから、14年という月日が流れた。時は過ぎ、人は変わる。「トト、人生は、
おまえが見た映画とは違う。人生はもっと困難なものだ」と言うサルバトーレ
の声が聞こえてくる…

【そごう・すすむ】sogo@mbf.nifty.com
リング・ラードナーに「この話、もうしたっけ」というタイトルの短編があっ
たような気がする。この話、前にもしたなあ、と思いながら、変奏曲はクリエ
イターの宿命と納得させる。クリエイターとはおこがましいけれど…

デジクリ掲載の旧作が毎週金曜日に更新されています
http://www.118mitakai.com/2iiwa/2sam007.html

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■金曜ノラネコ便 
忙しいときに限ってどうしても見たいDVDがある

須貝 弦
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フリーのライター仕事を減らすと以前に書いたのだが、今年度からあるプロジ
ェクトに編集者として定期的に関わることになり、週に3~4回のペースで渋谷
のオフィスに通うことになった。契約上はフリーランスだが、毎朝の通勤があ
るので、気分的にはなんだか会社員みたいなことになっている。そして、私個
人としての仕事も(量はかなり減らしたものの)継続して行うことになったの
で、今までとはちょっと違った忙しさを感じている今日この頃だ。

さて先日、渋谷のHMVにフラッと寄ったときの話。私は何気なくDVDソフトのフ
ロアに立ち寄ってみた。そしてフロアを徘徊している最中、不意に「スポーツ」
のコーナーを見つけてしまった。「HMVでもスポーツ物のDVDを売っているだぁ、
ふ~ん」という程度に思ったのだが、とある商品が私の目に飛び込んできた。

●100周年記念大会 ツール・ド・フランス2003 スペシャルBOX
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0000W3NFW/ref=sr_aps_d_/250-9915684-3065833

欲しいなぁと思いつつ、買わずに時だけが過ぎてしまったツールのDVDが置い
てあった。ヨドバシカメラやビックカメラにはなくても、HMV渋谷にはあるの
か。出会いが唐突だっただけに、急激に欲しくなってきた。

アポの合間に立ち寄っただけなので、悩んでいる時間はない。「現金は持って
いる。今すぐ見たい。買うか、でも明後日まで忙しい。いつ見るんだ?」と、
20秒ほど悩んだが、結局「ひとつしかなかった」ことを理由に、商品を手に取
っていた。

めでたく購入したのはいいが忙しくて、2枚組のDVDを一気に見る余裕はない。
でも見始めたら、せめて1枚は最後まで見ないと気が済まないだろう。余裕が
できる明後日の夜までお預けか――とそのとき、背中に思い出す重量感。そう、
この日も私はiBookを背負っていたのだ。これなら、帰りの電車の中で何の問
題もなく(本当か)DVDを見ることができる!

夜、渋谷で仕事からいったん解放された私は、家に帰ったら再び原稿と格闘し
なくてはいけない。であれば帰りの電車で座席を確保して、車内でDVDを見る
のがもっとも効率的だろう。座席を確保するためには1本待たなければいけな
いが、まぁそれくらいはいいだろう。

かくして、「通勤電車の中でツール・ド・フランスのDVDを鑑賞するオトコ」
は完成したのだった。

結局、自宅に帰って食事をしてから取り組んだ仕事は、終了まで6時間以上を
費やす徹夜コースで、電車の中でDVDを見るという作戦は大正解だったのだ。
大正解だったんだけど、なんか空しいんだよね。

【すがい・げん】http://www.macforest.com/
徹夜したあとのセミナー取材ほど危険なものはないが、なんとか持ちこたえた。
そして、森川眞行さんと数年ぶりにお話しすることができた。

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■セミナー案内
インターネット活用実践講座 -携帯活用編-
<http://www.imedio.or.jp/seminar/0404keitai/index.html>
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<主催者情報>
IT化はお金がかかる、会社のホームページを作ったが思ったほどの効果がない、
インターネットなんてうちのお店には似合わない、、、、そんな方々におすす
めなPRツールが「携帯電話を使ったメールチラシ」です。メルマガよりも少な
い文字数で、ダイレクトにアピールすることができる。これからのコミュニケ
ーションツールとして注目度が高いケータイメールチラシについて、700店舗
以上のメール集客のサポート実績を持つ「メール集客のプロ」が、商圏内のお
客様をがっちりつかむ方法をお教えいたします。

日時:4月23日(金)24日(土)13:00~16:00 同じ内容
場所:南港ATC ITM棟6F ソフト産業プラザiMedio研修ルーム
講師:西川興氏(株式会社まちおこし)
費用:5,000円(税込み)
定員:各日40名(先着)

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■イベント案内
「未来のテレビ!?」特別展示展 -有機ELディスプレイの世界-
<http://www.skipcity.jp/event/>
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会期:4月6日(火)~6月20日(日)9:30~17:00 月休(祝日の場合は開、翌
日休)
会場:彩の国ビジュアルプラザ 映像ミュージアム3階 未来映像ゾーン(川
口市上青木3-12-63)
入館料:高校生以上500円、小学生以下250円
問い合わせ:県民交流プラザ TEL.048-265-2603 

・同時開催「The Vanguards in Digital Age! ~デジタル時代の歩き方~」
CGやVFXなどのデジタル技術により、従来では不可能だった映像表現が次々と
生まれ出てきています。またその表現も多様性に富み、特に若手のクリエイタ
ー達は、あらゆる手法を使い、オリジナリティ溢れる作品を制作しています。
この企画展では、7名の若手クリエイターによる作品を上映し、新世代の表現
の拡がりを皆様にお伝えしていきます。(開館時間中、常時上映)
上映作品:『35度4分』(3分)田中見和/『あそぼうよ~くまちゃんの物語~』
(4分)芝辻詩子/『play』(2分45秒)新井風愉/ 『Re:MAN』(3分)尾崎隆昭/
『Spec.s』(4分50秒)浦上悠平/『漂』(12分50秒)石黒芳典/
『move center viewpoint』(9分30秒)新海裕志

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■展覧会案内
イノセンス・都市の情景
<http://www.muf.jp/>
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会期:4月10日(土)~5月9日(日)10:00~22:00 
会場:森都市未来研究所(六本木ヒルズ森タワー50F ミュージアムコーンよ
り入場)
入場料:一般500円、 大高専生400円、4歳~中学生200円
最終入場は閉館の30分前まで 3Fでのチケット販売は閉館の1時間前まで
内容:世界中のクリエイター達に影響を与え続ける押井守監督の話題の最新作
「イノセンス」より、映画に描かれた都市像にフィーチャーした展覧会を開催。
ヨーロッパ、アメリカ、中国、日本をめぐっての膨大な都市のロケハンによっ
て産み出されたスーパーリアルな「情景」を、模型、映像、写真、図面などに
よって探求する。押井守氏監修のもと、プロダクション I.Gのアニメーション、
プロダクションデザイナー種田陽平氏のアートワーク、コンセプトフォトグラ
ファー樋上晴彦氏の写真、そして森ビルの都市模型が一堂に会する。

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■イベント案内
日本タイポグラフィ協会創立40周年記念講演会
杉浦康平 文字の生態圏「文字の宇宙・文字の祝祭」
<http://www.typo.or.jp/news/index.html>
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NPO法人日本タイポグラフィ協会は、創立40周年を迎える。その記念行事とし
て、第3回佐藤敬之輔賞の受賞者でもある杉浦康平氏みよる記念講演会を開催
する。

会期:4月16日(金)第1部16:00~17:00 第2部17:10~18:00
会場:横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール(横浜市新港1-1-1 TEL.045-211-1515)
入場料:一般1,000円(一般の方の入場には、整理番号が必要。協会事務局か
ら整理番号の発行を受けて下さい)
定員:250名
問合わせ:TEL.03-3246-2900(日本タイポグラフィ協会事務局)

グラフィックデザイナーズ年鑑2004-2005 1498号
CG&映像クリエイターズ年鑑2004-2005 1498号

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■編集後記(4/9)
・多少の知り合いの、あるアーティストのブログに「もう本はブックオフでし
か買わない」と決意が書いてあった。それもひとつの見識かもしれない、なん
て思いはしないが、そういう生活もありだろう。わたしも週に一度くらいは、
近所にある二軒のブックオフのうちどっちかに行く。欲しい本のリストをつく
って持っていっても、それが見つかったためしがない。本を探しに行くのでは
なく、掘り出し物があれば成功、という考え方がいいようだ。本当に欲しい本
は新刊で買って、きれいに保存するのが好きだから、ブックオフで入手した物
件はほとんどが読み捨てだ。マンガが多いけど。最近入手したのは、井上雄彦
「リアル」2と3、大塚英志+森美夏の「北神伝綺」上下、外薗昌也「犬神」、
さだやす圭「ああ播磨灘」、佐々木倫子「おたんこナース」のばらばらな巻、
中島らも「心が雨漏りする日には」、明石散人「鳥玄坊」などだ。100円の棚
にときどきいいモノがあるので楽しみだ。だが、最近はブックオフばかりか、
一般の書店でも、棚をじっくり見てやろうという熱意がなくなってきて、なん
かめんどうくさいと感じるのは危険な兆候なんだろうなあ。    (柴田)

・数日前に祖母が逝った。明治生まれの93歳だったので寿命であろう。入退院
を繰り返していたが、子供達(私の母兄弟)の考えで自宅療養に切替え、温か
い食事と見慣れた風景の中でリラックスし眠るように逝ったそうだ。花の好き
な人だったので、入院したままでは見せられなかった満開の桜を見せることが
できて良かったと言っていた。祖母は叔母と二人で暮らしていて、叔母の介護
負担が大きかったため、叔母に苦労をかけたくないんだけれど死ぬのは怖いと
言っていた。高齢ではあったが、頭はしっかりしていたのだ。祖母を誇りに思
っていたが、老人はぼけたほうがいいかもしれないと初めて思った。/お坊さ
んは、毎月読経に来てくれていた人だった。お通夜での退席時、泣いていらし
た。/身内だけの小さなお葬式だった。出棺前に花で飾るのだが、花の数が多
くお棺からはみ出てしまったにも関わらず、皆は何度も切り花をもらいに行こ
うとする。花を切る係の男性がもらい泣きしてらした。
会わなくても心は通じていると思って甘えてしまう。私は多忙という理由にか
まけて、あまり祖母に会いに行っていなかった。この三月は特に忙しくトラブ
ル続きだったので、お見舞いには数回しか行けなかった。亡くなる前日にも行
こうと思ったが、夜も遅いし翌日にも行くからいいかと思ってしまった。行く
はずだった日はお通夜になった。初孫で可愛がってもらったのに、何もしてあ
げられなかった。/湯灌をしても、骨上げをしても、祖母がいなくなったとい
う実感はない。四歳になるいとこの子供と同じ感覚かもしれない。お休み、お
ばあちゃん。                      (hammer.mule)

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発行   デジタルクリエイターズ <http://www.dgcr.com/>

編集長     柴田忠男 
デスク     濱村和恵 
アソシエーツ  神田敏晶 
リニューアル  8月サンタ
アシスト    鴨田麻衣子

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