[1867] 己に似おうた舞を舞う

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【日刊デジタルクリエイターズ】 No.1867    2005/11/18.Fri.14:00発行
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         <それが僕の理想の生き方を規定した>        

■映画と夜と音楽と…[271] 
 己に似おうた舞を舞う
 十河 進
 
■インターフェイスの旅[3] 
 2バイト数字で入力させて!
 鷹野雅弘

■イベント案内
 F-siteセミナー「遂に出た!Flash 8 で行きまっしょい」



■映画と夜と音楽と…[271] 
己に似おうた舞を舞う

十河 進
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●私家版「映画がなければ生きていけない」

「映画がなければ生きていけない」という本を出したのは、今回のデジクリ本
が初めてではない。12年前の連休中に私家版「映画がなければ生きていけない」
という本を三冊作ったことがある。

当時、僕はまだワープロを使っていたから、ワープロで打ちだしたプリントを
丸善で買ってきた製本セットで製本した。表紙はハードカバーだが、簡易本で
ある。プリントサイズに合わせてA4サイズにした。両面プリントではないし、
書類を束ねた感じの本になった。

内容は、同好の士が集まった「出版人の映画の会」の機関誌「シネフィル」に
連載した「私、日本映画の味方です」という原稿と、月刊のビデオ誌に連載し
た800字ほどのコラム15回分をまとめたものだった。

「シネフィル」に一番最初に書いた文章は1988年の秋の号に掲載された「やは
り『冒険者たち』」というものだったが、これはその号の編集担当者だった小
学館のNさんにタイトルを付けてもらった。Nさんは当時、百科事典編集部に在
籍し出版労連の中央執行委員だった。

「シネフィル」の読者はせいぜい30人ほどだったが、読んでいる人の中には小
学館や講談社、主婦の友社の編集者などもいて少しプレッシャーがかかった。
「出版人の映画の会」を始めたMさんのことは、115回めのコラム「映画を愛し
たある出版人の死」で書かせてもらった。

月刊のビデオ誌は僕の勤める会社が出しているもので、多くの読者に売れてい
た。その中の800字ほどのコラムで翌月の衛星放送で放映される映画から一本
を選びコメントする内容だった。編集担当のSクンに頼まれて始めたのだが、
なかなか楽しませてもらった。吉里侑の名で書いた。

そのふたつのシリーズはどちらも公表した文章だったので、何となくまとめて
おきたくなって手製の本にしたのだった。三冊作った本は、連休の間にふたり
の人に手渡しした。ひとりは僕の文章によく登場する某出版社の編集長で呑み
友だちのIさんである。

もうひとりは、このコラムの38回め「人はどこまで無私になれるか」に登場す
る武蔵境の駅で人目もはばからず「バンザーイ」と叫んでくれた友人だ。当時、
彼は出版社に勤めながら時々、文庫本の解説文などを書いていた。ペンネーム
は稲木新という。徳間文庫の五味康祐の解説はすべて彼が担当していた。

私家版「映画がなければ生きていけない」の中に「『祭りの準備』は終わり祭
りは始まるか?」という文章がある。それは黒木和雄監督と「祭りの準備」に
ついて書いた短文だったが、武蔵境の駅で「バンザーイ」と叫んでくれた友人
への返礼でもあった。

Iさんも稲木新も文章のプロたちである。そういうふたりに僕は私家版の本を
進呈したのだった。一冊は手元に残したから、今でも僕は持っている。

●読みたい人より出したい人が多い

僕のように少年の頃から文章を書き、文章を書いて食っていける職業を選んだ
人間にとっては「自分の本を出す」のは、やはり一種の夢ではある。だが、最
近のように自費出版が増えて金さえ出せば本が出せるという風潮が嫌いで、自
費出版だけはすまいと思っていた。

会社では「最近は本を読みたい人より出したい人の方が多い」などと僕は言っ
ている。自費出版の写真集などは山のようにある。それはそれでいいのだが、
レベルは何とかしてほしい、と思うことも多い。

先日、あるアマチュア・カメラマンの自費出版を監修した写真家に会って話し
ているときに「自費出版というからいけないんだ。自主映画と言うように自主
出版と言うべきだな」という言葉が出て「なるほど」と思った。

出版社が「売れる」と踏んで本を出す場合は、制作費や印税を出版社が出すが、
自費で本を出すのは自主映画と同じようなものだな、と確かに思う。今や映画
界は自主映画出身の監督ばかりである。

自費出版が多いのは、詩集の世界でも同様だ。僕が敬愛する吉野弘も第一詩集
「消息」を私家版で出した。まず150部を刷り、第二版として100部を刷った。
自費出版である。

しかし、その詩集には「君も」「さよなら」「burst」「日々を慰安が」「奈々
子に」「ひとに」「身も心も」「雪の日に」「初めての児に」「父」「I was
born」など彼の代表作が並んでいる。これほど充実した詩集を僕は他に思い浮
かばない。

さて、デジクリ編集長の柴田さんから書籍化の話があったときに、僕は原稿を
提供するだけでよいというので話を進めてもらったが、果たして本にするだけ
の価値があるのかと自問した。

出版社との話がつき、取次を経由して通常ルートで書店に配本すると聞いて、
僕は納得したのだが、自己満足的な自費出版の一冊になるのだとしたら断って
いたかもしれない。

しかし、結局、最終段階で出版社との話が整わずデジクリ編集部の自主制作に
なったという。再校を戻してから数か月後のことである。

しかし、印刷はオフセット、表紙はニス塗りをすると聞いて驚いた。僕も出版
社に三十年勤めている人間だ。それにどれだけの経費がかかるか、よくわかっ
ている。

デザイナーも、柴田さんの昔からのブレーンである向井裕一さんである。向井
さんにお仕事価格でギャラを支払ったらいくらになるか、現在、総務経理部に
いる僕はよくわかる。向井さんには僕の会社の定期誌のデザインもお願いして
いるのである。

かつて「日本語の文字と組版を考える会」という組織があり、そのメンバーと
して向井さんも柴田さんも参加していた。そのふたりがかかわる本である。組
版にこだわり、書体にこだわり、印刷のクオリティにこだわるのは間違いない。
自主制作であっても、それはとても幸福な本になりそうだった。

●同じことを手を変え品を変えて表現している

今回のデジクリ本を買ってもらった人に送るので手書きのコメントを、とデジ
クリ編集部に頼まれ、「お買いあげありがとうございます。『タフでなければ
生きていけない」と訳されることもあるマーロウのセリフを借りて、こんなセ
ンチメンタルなタイトルになりました。お読みいただければ幸いです」と書い
て署名した。

字が下手で恥ずかしいのだが、時間がない中で思い付いた文章なので一気に書
いた。「インパクトのあるタイトルを考えてください」と柴田さんからメール
がきたときに最初に浮かんだタイトルだったのだ。

  フィリップ・マーロウの言葉を借りれば
  映画がなければ生きていけない、というところでしょうか。
  個人的には、このタイトルを付けたいところです。
  関係ないけど
  都筑道夫に「くわえタバコで死にたい」というのがあります。

そう僕はメールで返信したのだが、もちろん12年前の私家版のタイトルであり、
一度、このコラム(208回め)でも使っているタイトルだ。それは一種の本音
だけに僕としては恥ずかしくもあるタイトルだった。だから、読者には照れた
ようなコメントを書いたのである。

──あなたのようにしっかりした男がどうしてそんなにやさしくなれるの?
  と、彼女は信じられないように訊ねた。

──しっかりしていなかったら、生きていられない。
  やさしくなれなかったら、生きている資格がない。

このセリフはハヤカワ・ポケットミステリブックの169ページ下段に印刷され
ている。レイモンド・チャンドラーが書き、清水俊二が訳した。このセリフを
僕は十代半ばで目にしたが、それが僕の理想の生き方を規定したと言っていい
だろう。もちろん実践できているとは言わない。

先週、GrowHairさんに「かくして、十河さんは『映画がなければ生きていけな
い』人生を選択した。生活の基盤も手放さないが、人生の大事なこととも常に
共にある。他にありようがないじゃないか」と書いていただいた。やられたな、
と苦笑した。ビンゴ!! という感じだ。

GrowHairさんの言う「生活の基盤」とは「しっかりしていなかったら、生きて
いけない」ことであり、「人生の大事なこと」とは「やさしくなれなかったら、
生きている資格がない」ことである。おそらく、僕はこのことばかりを足かけ
7年も書いている。

先日、NHK衛星放送で放映された成瀬巳喜男特集を見ていて、成瀬が常に同じ
ことを描き、同じことを言っているのに気付いた。それは「どの映画を見ても
見分けがつかん」と言われた小津安二郎監督も同じである。人はいつも同じこ
とを手を変え品を変えて表現しているのかもしれない。

──人は皆、己に似おうた舞を舞いますのじゃ。

これは脚色の早坂暁のオリジナルだと思う。TBSが開局記念に制作した司馬遼
太郎の「関ヶ原」で、敵陣へ突っ込むときに石田三成に遺した島左近のセリフ
だった。三船敏郎が演じ、今でも彼の声で甦る。

【そごう・すすむ】sogo@mbf.nifty.com
デジクリ編集部の8月サンタさんから定期的に報告メールをいただく。11月15
日午後3時現在、僕の本の実売数は298冊だそうです。このぶんだとデジクリ編
集部が負担した制作費は回収できるかな?

デジクリ掲載の旧作が毎週金曜日に更新されています
<http://www.118mitakai.com/2iiwa/2sam007.html>
昨日からは表参道の「ナディッフ」さんで直接販売が始まりました
<http://dgcr.typepad.jp/>
All About [映画] のページでも
<http://allabout.co.jp/entertainment/movie/closeup/CU20051109S/index.htm>

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■インターフェイスの旅[3] 
2バイト数字で入力させて!

鷹野雅弘
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Webの世界では、WaSP(The Web Standards Project)という団体が「勝手な拡
張をやめて、基準通りに作ってよ」とブラウザメーカーに働きかけ、これがよ
うやく身を結びつつある。
<http://www.webstandards.org/>
(依然、IEは今ひとつですが....)

一方、DTPやWebのデスクトップアプリケーションの場合、「メーカーまかせ」
というのが実情だ。

せめてもの抵抗が「アップグレードしない」ということだが、知的好奇心を刺
激するような機能に、目もくれないのもなんだかカッコ悪いし、そもそも日本
中、どこを探しても古いバージョンは(回収され)購入できない。

バージョン番号が増えて便利になることも確かだが、その一方で、「標準」か
らどんどんはずれてきていることも見逃せない。「CS」とか声高に言っても、
IllustratorとPhotoshopはどんどんズレてきている。

そこで、この連載では今回からしばらく、デスクトップアプリケーションのイ
ンターフェイスについて取り上げたい。

●できないことはないはず

まずは2バイト数字の入力だ。たとえば、Illustratorでフォントサイズを指定
するとき、Dreamweaverでマージンを設定するとき、2バイト(全角)数字で入
力すると、受け付けてもらえない。

Macintoshなら、テンキーで入力すれば1バイトで入力されるが、Windowsでは
日本語入力時にはテンキーで入力しても全角だ。おっと、PowerBookにはテン
キーがないからやっぱり不便。

技術的にできないのかな、と思うと、実はExcelやWordでは(部分的に)でき
るのだ。ExcelやWordにできるなら、できないことはないでしょう、アドビさ
ん。ようは、1バイトしか受け付けない箇所では、日本語入力を自動的にオフ
にすればいいだけのこと。または、内部的に、1バイトに変換してくれればい
いのに。

トレーニングの現場では、2バイトで入力して何度も何度もダメ出しされる方
の多いこと。かくいう私だって、たまに「ウキーッ」ってなっちゃいますよ。

叫んでいてもどうにもならないかもしれませんが、言わないよりも言った方が
いいだろうということで、次回に続きます。

【たかのまさひろ】takano@swwwitch.com
トレーナー・テクニカルライター・デザイナー
株式会社スイッチ代表 <http://swwwitch.jp/>
モスバーガー店員から英会話塾講師、職業作詞家等、100以上の職種を経験後
DTPやWebの制作、トレーニング、ライティングは飽きずに10年。

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■イベント案内
F-siteセミナー「遂に出た!Flash 8 で行きまっしょい」
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F-siteはWebとセミナーを通じ、楽しい制作に役立つTipsをお届けしています。
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た機能、さらには気をつけたいウィークポイントまでを、微細に渡りとことん
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そして、気になるお題はこれだっ!
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会場:代々木・国立オリンピック記念青少年総合センター
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<応募受付中のプレゼント>
Web Designing 2005年12月号 本誌1866号(11/25締切)


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■編集後記(11/18)
・創刊号マニアのわたしが「COURRiER Japon」を買わないわけがない。新聞15
段の広告2回も、おおいに期待をふくらませてくれた。同誌は「日本が海外か
らどのように見られているのか」、「世界ではいま何が起きていて、現地の人
は何を考えているのか」、この2つの視点を重要視して、世界各国で活躍する
ジャーナリストの記事を、編集部では厳選します、と言う。わたしは好奇心と
知識欲はまだ衰えていないつもりだから、そういうコンセプトの本は大歓迎だ。
勇んで読んでみました。思ったより記事は短く、軽く、淡白で、浅いと感じた。
徹底して読みごたえにこだわっているというが、その点では期待はずれだ。特
集「世界が見たKOIZUMI」も、さすがは世界のジャーナリストのみごとなつっ
こみだと思う記事はない(オーストラリアンの記事がたしょう面白かったが)。
わかりやすいけど、これが厳選されたワールドワイドなホットニュースなのか
い? という記事もある。1ページ1コラムのところなど、日本の無料誌でこん
なのあったなあと感じた。見開きの写真はなかなかいい。広告が多い。これか
ら全部読むつもりだが、ハズレかも? という感じがひしひしと。提携してい
るフランスの「クーリエ・アンテルナショナル」の読者像は、平均年齢35歳、
ほとんどが都市生活者、80%が管理職、エクゼクティブ、72%が「自分は仕事
とプライベートの両方で成功している」と考えている、56%が過去1年間に海
外でバカンスを過ごしている……とか、ううむ、そういう雑誌なら手にも取ら
ないね。                           (柴田)

・以前紹介した映画「NITABOH 仁太坊~津軽三味線始祖外聞」が、海外の映
画祭で評価されている。日本文化の濃い映画だけれど、海外で、それも子ども
たちの支持を得ているのに驚く。子どもたちの感性の柔らかさに感動する。日
本人にももっと見てもらいたいな。私が見たのは2年ぐらい前なのだが、仁太
郎君はこれからも世界中を旅して、人の心に何かを残していくみたいだ。
                            (hammer.mule)
<http://www.nitaboh.com/>  NITABOH

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発行   デジタルクリエイターズ <http://www.dgcr.com/>

編集長     柴田忠男 
デスク     濱村和恵 
アソシエーツ  神田敏晶 
リニューアル  8月サンタ
アシスト    鴨田麻衣子

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