■映画と夜と音楽と…[305]好物を断ってまで精進した芸/十河 進
写真家の丹野清志さんとは、もう二十年以上のつきあいになる。何冊目の本になるのだろう、先日、ナツメ社から「写真屋稼業」という新刊が出た。もちろん、このタイトルは日活の「ろくでなし稼業」からきているに違いない。日活映画をこよなく愛する丹野さんらしいタイトルである。
丹野さんは僕より八歳ほど年上だから、石原裕次郎がデビューした頃は高校生くらいだったろうか。小林旭、宍戸錠、赤木圭一郎など、日活アクション全盛の頃に多感な青春時代を過ごしている。その後、写大を出て、当時、日本で最大部数を誇る月刊誌を出していた出版社の写真部に入るが、勤め人の水が合わず早々にフリーになった。
僕が初めて丹野さんに会ったのは、1982年のこと。当時、僕が在籍したカメラ雑誌の筆者としてだった。丹野さんは文章も書くので、連載エッセイをお願いし、僕が担当したのである。以来、個人的におつきあいいただき、このコラムにも写真家Tさんとして何度か登場している。丹野さんがいなければ、今も僕は運転免許を取っていなかっただろう。
その丹野さんから古今亭志ん朝師匠と会った話を聞いたのは、師匠が亡くなる数年前のことだったと思う。仕事でのつきあいがなくなっても、会社の近くにくると丹野さんは電話をくれる。僕はいそいそと会社を出て、近くの喫茶店で会う。映画や本の話をすることが多いのだが、そのときは丹野さんも感激したのだろう、いきなり「古今亭志ん朝師匠に会ったよ」と始まった。

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