[2017] 娘の詫び状・父の悔い

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<間に合わない悔い>

■映画と夜と音楽と…[299]
 娘の詫び状・父の悔い
 十河 進

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 パワフルな喪男たちの風景、あれやこれや
 GrowHair


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■映画と夜と音楽と…[299]
娘の詫び状・父の悔い

十河 進
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●最後のメッセージに苦笑いが浮かんだ

昼休み、ちょうどひとりでオフィスにいるときだった。胸のポケットから「ツァラトゥストラかく語りき」が流れた。カミサンからのメール着信音である。内容はわかっていた。娘が出発したと知らせてきたに違いない。十三時の予定だと聞いていたが、もう飛び立ったのだろうか。

──緊張しすぎて気持ち悪くなったりしましたが、今、出発ロビーに入っていきました。涙ぐみながら…

カミサンのメールにはそう書かれていた。「気持ち悪くなりましたが…」という部分が気になった。それほど丈夫な子ではない。先日も久しぶりにまともに顔を見たら「こんなに肌の白い子だったか」と驚いた。少し貧血ぎみで薬を飲んでいたこともある。

一年間の留学とはいえ、家を出るのは初めての経験だ。二十年以上、自宅で暮らしてきた。そんな子が大丈夫だろうか、と今更ながら不憫になる。小柄な子だ。イギリスへいけば子供扱いされるかもしれない。涙ぐみながら出発ロビーに入っていく姿が浮かんだ。

中学生の頃は一時的なものだったが、娘とはこの四年近くまともに話してはいない。高校卒業後の進路の話でぶつかって以来、お互いに何も話さないのが平穏だと思ってきたのだろう。少なくとも、娘のことはすべてカミサンに任せる形でこの四年は過ぎた。だから、今度の留学の話も一か月前にカミサンから聞かされたばかりだ。

明日はいよいよ出発という日になって、何も声をかけていないことが身に迫ってきた。それでいいのか、という声がするようだった。昼食を摂り、コーヒーショップの窓辺の椅子に腰を降ろして道行く人々をぼんやりと見ているときに「メールを送ろう」と思い付いた。

以前、娘の誕生日にプレゼントを買い、直接渡せず、結局、カミサンに託したとき、翌朝、通勤電車の中で娘からお礼のメールが届いた。顔を合わせると何も言えないが、メールなら普通の会話が成り立つ。しかし、昨日、僕の打ったメールは、そっけないものになった。

──明日、見送りにいけないけど気をつけていきなさい。いろいろ学べることでしょう。元気で…

何て冷たい父親だ、と自分でも思う。娘の高校卒業の頃からのいきさつも甦る。どちらかと言えば、互いに口を利くきっかけを待っているかなとも思う。だが、長くまともに話をせずにいたら、二十歳を過ぎた娘とどう接したらいいのか、いつの間にかわからなくなった。

娘からメールの返信が入ったのは夕方だった。「明日は出発なんですから、今日は早く帰ってきてください」とカミサンに言われていたので、終業時間が過ぎて早めに帰り支度をしているときに着信音が響いた。

──いろいろ心配させてごめんなさい。今になって家族の大切さがようやくわかりました。まだまだ苦労をかけることになってしまいましたが、いつか親孝行ができるように頑張りますので、それまではどうかよろしくお願いします。ママと仲良く、お酒はほどほどに。

最後のメッセージに苦笑いが浮かんだ。しかし、その夜、僕も娘もそんなメールのやりとりをしたことなどなかったような顔をしていた。もちろん会話もしたし、「気をつけて」といったようなことも口にした。たぶん、照れくさかったのだ。

結局、今朝、僕は家を出るときにシャワーに入っていた娘にドア越しに「それじゃあ、お父ちゃんは会社いくから」と久しぶりに声をかけただけだった。そのとき、毎日、そんな声をかけて出かけていた七年前のことが甦った。その頃、初めて娘からメールをもらったことも…

見送りにいくべきだったか、と間に合わない悔いに襲われた。

●娘は涯なき地へ我を誘うか

「娘よ涯なき地へ我を誘え」という小説があった。「あった」と書いたのは、今はないからだ。この小説は、「犬笛」というタイトルでテレビドラマと映画になったため、その後、原作も「犬笛」と変えてしまった。ちなみに「誘え」は「いざなえ」と読む。

作者の西村寿行は当時のベストセラー作家である。ただ、この小説は初期のもので「君よ憤怒の河を渉れ」という小説がヒットしたので、似たニュアンスのタイトルを付けたのだろう。

「君よ憤怒の河を渉れ」は1976年に高倉健主演・佐藤純弥監督という「新幹線大爆破」コンビによって映画化された。僕はこの二本の映画が大好きなのだが、残念ながらあまり誉める人はいない。

特に「君よ憤怒の河を渉れ」は明らかに着ぐるみとわかるヒグマにヒロインが襲われたり、素人がいきなりセスナ機を操縦したり、新宿西口駅前を馬の大群が疾駆したりで、今の若い子には「ありえな〜い」と言われてしまうだろう。

しかし、「君よ憤怒の河を渉れ」は中国では今も語られるほどの大ヒットをし、健さん人気を決定づけた。先日もチャン・イーモウ監督が高倉健を主演に映画を作ったくらいだ。また、「君よ憤怒の河を渉れ」でヒロインを演じた中野良子は、未だに中国では大女優扱いである。

その頃は映画界も西村寿行ブームだったのだ。そんな中で「娘よ涯なき地へ我を誘え」は映画化されたのである。主人公はごく普通のサラリーマンだったのだが、幼い娘が企業犯罪の現場を目撃し誘拐されたために日本中を舞台にした追跡が始まるというストーリーである。

娘は人間には聞こえない超音波が聞こえる聴覚の持ち主という設定が目新しかった。つまり、娘は犬笛の音が聞こえるのである。父は娘が可愛がっていた愛犬を連れ、手がかりを求めて北海道から沖縄まで旅をする。父親の手にはいつも犬笛が握られている…

「犬笛」の監督は中島貞夫である。東映の職人監督だ。主演は「仁義なき戦い」で東映の看板スターになった頃の菅原文太。文太は娘を取り返すために執念の鬼のようになる男を見事に演じた。普通の男が娘のために一種のスーパーマンになるのである。

話は荒唐無稽だったけれど、父親の気持ちはよくわかった。当時、僕にはまだ子供がいなかったが、子供ができたとき「娘よ涯なき地へ我を誘え」の父親像はある種の凄みを伴って甦ってきた。子供を救うためなら何でもできる…、どんな親もそう思っているはずだ。

●山田太一ドラマのように結束した日々

娘と一緒に映画を見たことはある。小さな頃から何度も映画館へは連れていった。「ドラえもん」に始まってスタジオ・ジブリのアニメーションなど、せがまれるままに何度か一緒にいった。スタジオ・ジブリのアニメは子どもたちをダシにして自分が見たかったのだけれど…

しかし、娘と一緒に見たという印象が強いのは「ローマの休日」だ。休日の午前中、自室でLDを見ていたときだった。娘はいくつだったろう。小学生の高学年だったと思う。そろそろアニメだけでなく、一般映画にも興味を持ち始めた頃だったのかもしれない。

たまたま部屋に入ってきた娘が「ローマの休日」に興味を示した。オードリー・ヘップバーンだったからだろう。その頃でもオードリー・ヘップバーンは女性誌で特集されたり、広告に登場したりしていたから、世代を超えて知られていた。

僕は娘とふたりで「ローマの休日」を最初から見始めた。数え切れないほど見た映画だ。パーフェクトな映画があるとしたら、それは「ローマの休日」だろう。そこからは生きていく楽しさも、悲しみも切なさも、苦ささえ得ることができる。

娘に「ローマの休日」から多くのものを受け取ってほしかった。王女の初恋の喜び、王女ゆえの悲しみ、別れの切なさ…、それでも生きていかなければならないと思わせるラストシーン、それらはきっと娘がこれからぶつかるだろう様々なシーンで何かの役に立つはずだった。

カミサンが長く入院したのは、その数年後だった。娘は中学二年生になっていた。山田太一ドラマのように、家庭の危機は家族の絆を強くする。高校生になって以前に増して部屋に閉じこもりがちになった息子も、中学生になった途端に僕と口を利かなくなった娘も、母親の入院という大事件に遭遇して結束した。

僕は病院に寄って帰り、子どもたちのために夕食を作り洗濯をすませる。十時近くになると三人でリビングに集まって、ミルクティーを入れて黒糖のかりんとう(僕の好物なのだ)を食べるのが日課になった。そのときに僕が母親の様子を聞かせ、子どもたちが学校であったことなどを話した。

十一月から入院したカミサンは年が明けても退院できなかった。一月中旬、娘が風邪を引いて学校を休んだ。朝食を食べさせ、昼食の用意をして「それじゃあ、お父ちゃんは会社いくからね」と言いおいて僕は出社した。娘をひとりで寝かせているのが気になった。その日の夕方、娘から会社に初めてメールが届いた。「おつとめごくろうさまです」というタイトルだった。

──父さんへ。面倒かけてごめんなさい。パパもつかれているのに。だいぶ良くなったよ。のどが少し変だけど、心配しないで。明日から頑張るからね。パパも無理しないで体をこわさないようにしてください。お仕事頑張って下さい。早くママが帰ってこれるといいね。

そのとき、僕は不覚にも会社のパソコンを前にして涙を流した。その思い出だけで、僕も「娘よ涯なき地へ我を誘え」の父親のようになれる。地の涯まで、娘を救いにいける…

【そごう・すすむ】sogo@mbf.nifty.com
昨年出した本のことがカミサンにばれたが、カミサンはいっこうに興味を示さない。昔から僕の書くものは一切読まないし、「何これ、フン」という反応をされるので僕も知らせないできたのだが、やっぱり同じ反応だったですね。

デジクリ掲載の旧作が毎週金曜日に更新されています
< http://www.118mitakai.com/2iiwa/2sam007.html
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■Otaku ワールドへようこそ![32]
パワフルな喪男たちの風景、あれやこれや

GrowHair
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「喪男(もおとこ)」とは、モテない男のこと。今回は、小ネタ3点盛りで。

●2次元美少女仕様:秋葉原のイタ車

「イタリアの車」ではなくて「痛い車」。で、痛車(いたしゃ)。金曜日の夜11時ごろになると、秋葉原のおでん缶の自販機があるあたりの路上に一台、また一台と集まってきて、両サイドに20台ほどの車列ができる。

その車のイタいことイタいこと。ボディーにアニメキャラのステッカーがでかでかと貼られ、作品の決めゼリフなども付記されている。「かわいいは正義!」(「苺ましまろ」より)、「恥ずかしいセリフ禁止」("ARIA" より)、「次元波動超弦励起縮退半径跳躍重力波超光速航法装備車」(「トップを狙え」より)、などなど。

集まって特に何をするわけでもなく、適当な一台を囲んでだべったり。後方ハッチを開けて、トランクに置いたパソコンで「涼宮ハルヒの憂鬱」のエンディングテーマを鏡像反転映像で流し、それに合わせて数人でハルヒダンスを踊ったり。通行人に笑われるのは結果であって、目的ではない。その覚悟のよさに感嘆する人もいる。「女の子にモテそうな、高い車が台無しではないか」。そのあたり、オーナーの側の意識はどうなのだろう。

実は知り合いに痛車乗りがいて、このオフ会のことは彼に教えてもらった。知り合ったのは、例によってウチの脳内妻真紅の魔法のおかげによる。私は高校時代、とある私塾に通っていて、大学時代は講師のアルバイトとして雇ってもらっていたが、年に2回の同窓会で会ったのが、この外蛯沢氏(ハンドルネーム)である。学年は20年ばかり下。彼もローゼンメイデンのファンで、一時期は蒼星石のオッドアイに合わせて車幅灯の右側を緑、左側を赤にしていた。車幅灯はあってもなくてもよいものなので、何色にしても法的に問題なかろうと思っていたら、そうでもなかったようで、国家権力に怒られて泣く泣く戻したそうである。

痛車乗りのメンタリティの根底に共通してあるのは、まず車好きであること。オートマ車は珍しい部類で、ほとんどがマニュアルシフトである。中には、車内をロールバーでジャングルジムのように補強してレース仕様にしている車もある。「おむすび」※ がどうしたこうしたと、難しい専門用語を駆使してエンジン談義に花を咲かせている。

※マツダが実用化したロータリーエンジン。おむすび型のローターが繭形のケースに内接して回転することにより、1回転する間に吸気・圧縮・爆発・排気の4工程が、3箇所で並列進行する。

彼らは車を愛している。車を女の子にモテるための、いわゆる「モテツール」として利用しようなどという考えは、車様に失礼である。もし「私と車とどっちが大事なの」と問い詰められれば、一瞬の躊躇もなく「車」と答えそうな連中である。だから、アニメのステッカーを貼ることによってモテツールとして機能しなくなっても、少しも価値が減じることはないのである。

また、車とアニメには「美」という接点がある。車は工業製品であり、アニメはエンターテインメントであり、どちらも伝統的な美術とは一線を画するものでありながら、細部にわたって洗練された職人的なセンスに裏打ちされている。痛車師は、もともとのデザインコンセプトを汲み取った上で、齟齬を来さないようにキャラ絵をはめこみ、全体として、統一感のとれた立体アートに仕上げていく。もちろん、コストもすごくかかる。それがまた「ここまでやったのだ」という形でプライドを支えている。

どこに出しても恥ずかしくない、自慢の痛車を見せ合いっこするオフ会に、秋葉原の夜は更けていくのであった(いや、恥ずかしいんだけども)。

●中野区をオタクサンクチュアリにしよう!

6月4日(日)の夕方、中野サンプラザ前の広場に、20〜30代男性主体の大集団ができていて、ウォーッ、ウォーッと大歓声を上げている。みんなラフな格好で、頭にバンダナを巻いたお兄さんもいて、パワーみなぎり、ノリのよさ抜群。モーニング娘。の親衛隊を「モーヲタ」と呼んだりするが、いかにもモーヲターっとした感じの集団である。

アイドルのコンサートなんだろうけど、外で大騒ぎとは珍しいな、と思って見てみると、騒ぎの中心には選挙カーがあり、中野区長選挙の候補、内野大三郎氏がいる。「みなさんのお気持ちはよぉーく分かりましたぁ!」などの発言に、観衆は両腕を振り上げての大歓声で応じている。えーっと...、選挙演説の聴衆にしては、ちょっと雰囲気違うんですけど。

家に帰って選挙公報を見てみると、内野候補の公約に「東のアキバに対抗し、個性溢れる若者が活気づく西のナカノに!」とある。さらには「マンガの町、アニメの町、ソフトの町、ITの町、西のナカノに!」ともある。え? オタク推進派? ウォーーーーッ!!!

それにしても、あれだけの大応援団をどうやって動員したのだろう? ネットのどこかでお祭りになっているわけでもなさそうだし。その週の金曜、中野駅前で演説する内野氏を見つけたので聞いてみると、あれはたまたま元モー娘。の安倍なつみのコンサートがあって、集まった人たちに中野サンプラザの取り壊し計画反対を訴えたら反応してくれたのだそうで。なーんだ。ほとんどの人が区外からでは、票田になってないやんけ。

結果、現職が当選し、内野氏は5人の候補中3位であった。善戦したと言えよう。思うに、政策にもっとインパクトのある具体案が盛り込まれているとよかったのではなかろうか。今回の争点のひとつに「警察学校跡地をどうするか」があったが、例えば、メイド&コスプレ喫茶センターなんて、どうだろう。メイド喫茶も、ビクトリア調の重厚な感覚から、メイドさんとゲームのようなライトな感覚まで、様々なコンセプトのお店を取り揃え、コスプレ喫茶も、例えば池袋の「太正浪漫堂」が「サクラ大戦」をテーマにしているように、一作品一店舗で軒を連ねさせる。中野区をオタクサンクチュアリに指定し、オタクの繁殖を促そう! どうでしょ?

この際だから、オタクで政党を結成してみるのもよかろう。「萌平党(ほ〜へ〜とう:萌え平和党)」なんて、どうだろう。スローガンは、「オタクによる世界制服のときが来た!」。猫耳派だのメガネっ娘派だの、派閥ができそうな気がしなくもないが。いずれにせよ、オタクが政治勢力として台頭してくるのも時間の問題だろう。

●喪のすごい電波の共振:「メカビ」の打ち上げ

もし関係者が見て青ざめているといけないので、最初に断っておきますけど、裏話を暴露するようなことは書きませんので、ご安心下さい。それ以外の読者の皆様、すみません、焦点はずした描写を想像で補完してください。

去年の3月末からデジクリに定期的に書くようになって早々、「やっぱ書けん、降りよう」と思うことがあった。その頃発刊された2冊の本に、私が練っていた構想を包含して、さらにその上の上の上を行くぐらいのことがすでに書かれていたからである。どちらも、思想史の知識に裏打ちされた深い洞察が、力強い文章で表現されている。「逆立ちしても、かなわん」。

その本とは、本田透氏の「電波男」('05年3月)と堀田純司氏の「萌え萌えジャパン」(同年4月)である。今、考えてみると、そういう時期だったのかもしれない。オタクとは元来、なりふり構わず好きな趣味に没入する人たちであって、世間からどう見られようと無関心の気構えでよいのだが、時勢はオタクに冷たく、凶悪事件のスケープゴートにされたり、漫画やアニメやゲームの表現に規制の網が強化されたりするに至っては、自己弁護しないわけにはいかなかった。

一方、一般人の側からしても、オタクは犯罪予備軍や珍獣というレッテルでは片付けきれない何かを感じてはいたようである。両者の橋渡しとして、オタクの実態やメンタリティを一般人に分かる言葉で表現したものを、時代が欲していたのだと思う。

この強力な2人がスーパーバイザーとなってオタク文化を掘り下げる内容で、この6月に講談社から発刊されたムックが「メカビ」(メカと美少女)である。デジクリ2002号(6/29)の後記に柴田氏が書いている通り、活字がぎっしり、男たちがぞろぞろ。麻生太郎外務大臣が「ローゼンメイデン疑惑」を追及される直撃対談、読売、朝日、毎日のオタク記者の鼎談、養老孟司氏の「オタク解剖学」、森永卓郎氏の「オタク擁護論」、ビジュアル系バンド "Malice Mizer(マリスミゼル)" から独立してアニメの主題歌を手がけるGacktの語り、若手論客による「萌えの定義」など、オタク文化が遺憾なく論じ倒されている。

暴露しないとは言ったものの、どうしても蓋を押さえきれない裏話をひとつ。実は私も、というかデジクリも、間接的に一枚噛んでいるという自慢話。デジクリ1909号(2/3)で、昨年末のコミケで見つけた同人誌「萌法(ほうほう)序説」を紹介した。著者の竹林賢三氏は、私大に通う学生で、「萌え」を研究テーマにしている。メカビの編集人、松下友一氏がこれを読んで、竹林氏に原稿を依頼したのである。メカビでは想田充氏の名で、若手論客として「萌えの定義」について語っている。竹林氏には、上昇気流に乗っかって、今後も活躍することを期待したい。

さて、7月1日(土)の公開打ち上げだが、100人以上集まって、ロフトプラスワンは満杯になった。男性ばかりだろうとの予想にたがわず、ほとんどが20代後半から30代前半に見える男性で、女性の姿は2人しか見かけなかった。今回深く考えさせられたのは、喪男についてである。

開場前、地下2階に通じる狭くて蒸し暑い階段に並んで待つ男たちの列からは、不思議と「男性」という気配が全く漂ってこない。あたかも壁に向かって只管打坐する禅僧が、人の気配を殺して石のようになっているがごとし。小さな活字を一心不乱に追っていたりする。きっと女性の目からは路傍の石ころにしか映らないことだろう。

イベント中の挙手調査により、30%以上が童貞であることが判明。オタク伝承に「30歳まで童貞でいると、魔法が使えるようになる」というのがある。実際この域に達した人はそうそういないだろうと思っていたのだが、実はうじゃうじゃいるという現実を目の当たりにして、まるでツチノコの群れに遭遇したかのように感じられた。人類は男女不干渉で絶滅する?

私の小さい頃は、女性に理想の結婚相手のタイプを聞くと、判で押したように皆、「真面目な人」と言った。現在は価値観もずいぶん変わったもので、風俗遊びもしない品行方正な青年がどれほどの人気かというと、爬虫類以下である。試しに、後で知り合いの女性に「デスノートのLは童貞で逝ったのか?」と聞いてみたところ、「Lは年齢も経歴も不詳ですし、恋愛にも女性にも特には興味なさそうですが、嗜みとして済ませていると思うので、童貞とは思えません」という答えであった。童貞は気持ち悪い、好みのキャラがそれでは許せない、という心理の表れと読み取れる。

童貞の派生概念に「素人童貞」や「セカンド童貞」がある。素人童貞とは風俗店などでお金と引き換えにしか経験がないことで、セカンド童貞とは最後にいたしてから長い年月が経っていることをいう。これらも含めた広義の童貞を保つことは、妄想力を培うために重要なファクターであるとする説もある。まあ、喪男であれば、喪失の機会なんて山篭りしているのと同じ程度にしか訪れないので、特にがんばらなくても行けるのだが。
セカンド童貞歴も10年を過ぎた頃には、魔法が使えるといった特典にあずかれたりしないだろうか。それを阻止したい政府は秘密組織から女性工作員を送って誘惑しようとするが、気づかずにすれ違い……みたいな。

メカビの打ち上げは、童貞とその亜種たちが集い、喪のパワーを炸裂させたイベントだったと言えよう。寄稿者たちが登壇してのトークは熱く、深く、可笑しくて、割れんばかりの拍手が、来場者たちの満足度を物語っていた。

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
カメコ。夏はイベント目白押し。コスプレサミット、コミケ、TBSアニメフェスタ。コスプレサミットは、今年から外務省が後援、晴れて国の公式行事として(?)、世界のコスプレイヤーをお招きできる。ウェブサイトには、4月28日(金)に秋葉原で麻生外務大臣が行なった演説の内容が掲載されている。イラクの給水車には日の丸の代わりにキャプテン翼の絵が掲げられたそうで、外務省のサイトで詳細を読んで感動した。/お台場の花火はレインボーブリッジの下で見てみよう。鳴き龍と同じ原理で、橋と水面との間に定常波ができて、「ぴょぴょぴょぴょ...」と間抜けな余韻が聞ける。虹龍?
< http://www.tv-aichi.co.jp/cosplay2006/
> コスプレサミット 2006
< http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/iraq/renraku_j_0412a.html
>
キャプテン翼大作戦

<応募受付中のプレゼント>
Web Designing 2006年8月号 本誌2014号(7/27締切)

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■編集後記(7/21)
・「大地震」はダイジシンかオオジシンか、いままでどっちも使っていたが、オオジシンが正しい。「大震災」はダイシンサイだ。これはわかる。大の読み方の目安は、和語(日本でできた言葉)の上につくとオオ、漢語の上につくとダイなんだそうだ。だから、「大舞台」「大歌舞伎」「大向う」「大看板」「大師匠」は全部オオと読む。う〜む、混同して使っていたなあ。という役立ち情報を、昨日郵便で受け取った「城北年金友の会」という薄い冊子で知った。そういうのが送られてくる年代なのだ。このさい、岩波新漢和辞典をながめてみた。大はほかにタイとも読む。「大安」とか「大観」とか「大気」とか「大器晩成」とかいっぱいあるな。「大愚」はタイグか、対するは「大賢」タイケン。「大死一番」はタイシか、ダイシだと思っていた。「大兄」タイケイに対して「大姉」ダイシ。なんてやってたらきりがない。最後に、大の例外的な読み方で「大蒜」ニンニク、「大和」ヤマトが出ていた。ところで、「大業」はタイギョウ、大事業、帝王の天下統治のしごとをいう。格闘派であるデジクリのデスクは、間違いなくオオワザと読むはずだ。格闘技などで思い切ったわざを指し、「小業(コワザ)」に対するからだ。おんなだてらに、と言いたいが、おんなぶりはナイスなので、読者のみなさま、熊ちゃんみたいなデスクをイメージしないように。(柴田)

・ミスユニバース日本代表、民族衣装審査に「赤忍者」。なんだかフィギュアにありそうなエッチくさい感じな気が。他の国もこんなのだろうか。そういや大阪芸大には忍術研究会があったなぁ。最初聞いた時は笑ったけど、実際に見ると結構レベルが高くて、大変そうだなぁと、笑えなかった。/ボーダフォン「705T」のガチャピン変身キットの開発秘話。いいなぁ、こういうノリ。iPodの人形型ケース「iGuy」を見た時と同じような気持ち。あ、「iKitty」っていうのもあるのね。/大阪日本橋ザウルス前で痛車を何度か見た事がある! ステッカーどころじゃなかったような。高級車に大きく美少女ロリーなキャラがペイントされていた。そうか彼らはあとで踊ったりするのか。/YBO2や初期フールズメイトな北村昌士氏が亡くなられたという噂が。姉妹誌「写真を楽しむ生活」で展覧会情報を探していたら、あるサイトに書かれてあって、検索してみたらBBSにも書き込みがあり…。嘘でしょう!(hammer.mule)
< http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060720-00000752-reu-ent.view-000
>
< http://ninken.cyber-ninja.jp/
>  ←忍術研究会 ↑赤忍者 ↓ガチャピン
< http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0607/18/news100.html
>
< http://www.ocv.ne.jp/%7Esse/tex/profyb.htm
>  YBO2
< http://6514.teacup.com/guestwake/bbs
>  信じられず