グラフィック薄氷大魔王[76]いじめ・自殺、こう思う
── 吉井 宏 ──

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うしろの百太郎いつもくだらない文章を書き散らしてるけど、一度くらいはこの問題に触れなければと。子供はいないので親の立場はわからないけど、かつて子供だった立場と先生(講師)の立場から、何かの参考になれば。

・かつて子供だった立場から

僕自身、高校時代の一期間にネクラ的いじめられっこ的傾向があってビクビクしていたのは確かだけど、明らかないじめを受けたことはない(後述の一度を除いて)。その頃、「昔はあんなにウケてクラスで大人気だった小学生的イチビリが全く通用しなくなったジレンマを引きずりつつも実は優等生的マインドでやってきたのに成績は落第寸前でいったいオレは何なんだ?」な自分と、ティーン的楽しい青春&ツッパリな周囲とのギャップが大きくなりすぎて、どう対処したらわからない状態だった。手探りで行動してもすぐ間違いや逆効果と判明するし、何をやっても一瞬後に恥ずかしい自意識過剰状態。ネクラにもなるわ。


水泳以外スポーツ嫌いだったし文化部だしオタクだったので、ツッパリ全盛なバカ野郎共と馴染めるわけなかった。ただし、「こりゃナメられてる、ヤバイかも」と思った時点で、派手な殴り合いケンカして血だるまにしてやったり(負けなかったぞ)したことが何度かあったのはラッキーだった。たぶんそれは「あいつにちょっかいを出すのはやめとこう」という認識を広めるのに役立ったはずだ。

そういえば、ネクラ期間の初期に一度だけ、袋叩き的な目に遭ったことがある(バカ共の間でテレビ的袋叩きが流行していたらしい。ありがたいことに奴らが怪我しないように手加減していることだけはわかった)。他の子も同じ目に遭わされているのを見て、自分の位置がよ〜〜〜く理解でき、以降はそうならないように注意して行動するようになった。

で、今ビクビクしてる子たちに言ってやりたいのは、「周囲をよく観察して学習しろ」「ここぞという時に暴れて、周囲に学習させよ」かな。僕のわずかな経験からすると、そう言える。あと、実戦空手を習え。

・卑怯は恥

以前、誰かに教えてもらってWebで見た東南アジア某国のウルトラマンのムービー(昔、円谷プロの負債か何かが原因でその国の関係者にオリジナルウルトラマンを製作する権利が渡ったらしい)。それは、ウルトラ兄弟たちが何人も寄ってたかって無抵抗の怪獣を袋叩きする場面。それは吐き気がするほど延々続く。アメリカの警官が黒人青年を袋叩きするビデオと同じくらいの目を覆う酷さ。正義のヒーローたちが集団リンチしていいのか? その国の子供たちはこんなものに喝采してるんだろうか?

いやもちろん、その国の人を貶めようとかじゃぜんぜんなく、たぶん日本人の特殊な感性からそう感じるだけなのだろう。「多勢に無勢は卑怯」「無抵抗な者を叩きのめすのも卑怯」「敗者にも情けを」などなど、武士道を持ち出すまでもなく、日本人なら当たり前の感性(逆に世界標準では甘っちょろいと思われるのかも)。

これが最近消滅しつつあるからいじめが増えた、とは実は思わない。軍隊や学生運動を含めて昔はもっと酷くて陰湿で生死に関わるようないじめやリンチがたくさんあったはずだし、世界中でこの種のいじめが増えているそうだから。でも、日本の「卑怯者は恥ずかしい」ってのは、現在のいじめ問題に有効なはずだ。小さい子供のうちから親が叩き込まなきゃいけない。叩き込むってのは文字通り、ビシビシ叩いて調教するって意味だ。小さな子供に悪いことは悪いと体に覚えさせるには体罰以外にない。理屈で納得させようったって無理。ならぬものはならぬのです。

・先生の立場から

15年前から週に一コマだけ専門学校の講師をやっている。卒業制作ゼミを持っていた数年間を除いてほとんど責任のない気楽な講師なので、小中学校の担任の先生の負担とは比較にならないけど。

いくら僕の目が節穴とはいえ、どう見ても周囲から浮いた(あるいは沈んだ)「変な子」がときどきいる。さすがにそういう子が集団いじめされてるのは見たことないけど、僕にもそういう子のような気質があったので彼らの気持ちはある程度わかる。もちろん、細心の注意をはらって、なるべく他の「普通な子」と同じように接するようにしているのだが、顔には出さなくても、そりゃあイラつくこともある。

サディスティックな傾向のある先生だったら(あるいは他の子にウケようとして)、その子の反応の具合によっては「先生からのいじめ」に相当する言動が発生してしまうかもしれない。すると、その子は「やはり自分はそういう存在なんだ」と激しく再認識してしまうことになる。最後の足場が崩れたようなもので、身の置き場がなくなってしまう。

理解してくれる友人がいなければ、その子にとって先生や親は世界のほとんどを占める存在なのだ。それが崩れてしまったら・・・。

・自殺は損

「自殺はいけない」はいろんな人が意見を言ってるけど、僕が思うのは「自殺は究極の暴力」「自殺は自分だけ丸損」ってところ。「死ぬよりも、まず逃げろ」も。テレビで子供の自殺や遺書のことを報道するな。苦しむ子供が「その手があるな」「そろそろその段階に来たな」って思っちゃうだろ。まあ、いじめをなくすのは困難だろうけど、自殺を大幅に減らすのは可能な気がする。

で、真顔で書きますが・・・

統計は知らないけど、僕の世代はひょっとすると自殺は少ないんじゃないかと思う。「うしろの百太郎」をむさぼり読んだ世代。これに出てくる「自殺者は地縛霊になって永遠に苦しみ続ける」が強烈に焼きついてしまっている。将来、もし不治の病か何かでめちゃくちゃ苦しくて「生命維持装置を止めてくれ」と頼むのは自殺か否か、ってのをいまだに考えてしまうほどだ。僕は今でこそ超常現象や霊オカルト全否定の立場だけど、子供に「うしろの百太郎」を読ませるのは自殺防止に効果的だと思う。

火の鳥 (1)あと、「リセット=生まれかわり」について。ゲームのリセットみたいに自殺して、生まれ変わって人生をやりなおせるという幻想。甘いな。これも同じ頃読んだ手塚治虫の「火の鳥」などの影響だろうけど(マンガばっかし)、仮に輪廻転生が本当にあったとしても、次の人生がヤツメウナギだとしたら自殺したいか? 犬や馬ならまだしも、深海魚、ベンジョコオロギ、カイガラムシ、イソギンチャク、ギョウ虫、ブドウ球菌などなど、何に生まれ変わるかは運次第。生物の種類と数を考えてみれば、次回ホモ・サピエンスに生まれるのは天文学的確率だ。種の寿命もあるから、今、幸運にも人間な人は、たった一度のホモ・サピエンス人生と考えたほうがいい。次に地球に生まれる確率もほぼゼロだし。

また、霊がこの世で何度も修行を繰り返して高級霊に出世するという考えに基づけば、自殺で修行放棄などやらかせば最低級に格下げ間違いなし。上記のような生物で言えば最下層の大腸菌などから修行しなおしってことになる。この世で苦しめば苦しむほど霊界での出世に有利らしいぞ。つーか、「苦しむ者は幸いである。」

【吉井 宏/イラストレーター】hiroshi@yoshii.com

「つのだ☆じろう」って書くと面白い。ところで未履修問題。生徒に責任はない。さかのぼったら卒業生何十万人も未履修なんだから、今年の分は免除にしてやれよ。そのかわり、学校関係者とゆとり教育とかで土日休みにした役人が責任をとるべき。っていうか、「え? 世界史は習わなかったから知らない」って、将来どこかの国で恥をかく日本人が増えるんだなあ。

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by G-Tools , 2006/11/15