グラフィック薄氷大魔王[79]デザインフェスタ見物
── 吉井 宏 ──

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失礼ながら、「デザインフェスタ」は、テレビやチラシから受ける印象から、最も嫌いなものの一つだった。基本的に「学園祭ノリ」は苦手なのです。自分からスタッフにもなったこともあるくせに、SF大会みたいなノリもダメ。(最近もやったらしいけど)Photoshopの伝道師ラッセル・ブラウン氏のパフォーマンスも何度か見たことあるけど、ああいうのも苦手。彼そのものが嫌とかじゃなく、面白いと思い込んで他の観客と同化しなければ疎外感を感じてしまいそうな、「場のノリ」が苦手なのです。

それでも、ずっとデザフェスは気になっていたし、デザイナーズトイ関係の知人が出展してることもあり、一度は見に行ってみようかと。「ワンダーフェスティバル」も行ったことだし。


開場まもなくの11時半に到着。とりあえず、通路を端から一本ずつくまなく回ってみた。今回は一つのホールに全部まとまった状態で、以前より見やすくなってるらしい。それでも何千組の出展。最小で畳一畳のスペースだけに、本当に数え切れないほどのブース。絵、写真、造形、工芸、服飾、パフォーマンス、音楽……などなど、あらゆる表現の見本市。

まあ、完成度やプロ的な視点で見れば「しょーもなく」「安っぽく」「イタい」「勘違いな」「若気の至り」が大半で、「どこに出しても恥ずかしくなさそうな、ちゃんとしたもの」はせいぜい2割程度。でも、審査や権威付けなど一切のフィルタを通さずに見れるのは貴重な機会。

若いアーティストたちが何をやりたいのか、何をカッコイイと思っているのか、生の状態で提示されている。一見しょーもない展示もよく見れば、その人が何をやりたいのかのエッセンスだったりするので、ただ通り過ぎるのはもったいない。思わぬヒントや刺激を受けたりすることもあるにちがいない。

メディア等で紹介される部分は「テレビ的に絵になるケバケバしいもの」が多いようで、実際の感じとはずいぶん違う。僕もああいう感じだとばかり思っていた。デザフェスのチラシや広告なども、そういう部分ばかりビジュアル的に強調されているので、誤解されやすいかもしれない。まあ、突然声を張り上げて芝居を始める人や、なぜか柔道着を着て取っ組み合ってる人とかはいたけど。あと、中央のライブステージから聞こえ続ける変な音楽とか。

ここで「質」的に目立つのは相当大変だろう。ホール全体が「ヒッピーのフリーマーケット」状態の中では、それなりの完成度やまとまりを持つ展示は埋没してしまう。実際、知り合いのアーティストやメディア等で見覚えのあるアーティストのブースも、早足で通り抜けたら気がつかないほど周囲の無秩序に溶け込んでしまっていた。平等、とも言えそう。

とにかく数が多いので一つひとつのブースをしっかり見ていられないけど、見るべきものがあるブースはちゃんとこちらの目に飛び込んでくる。三分の一も見るといい感じのペースをつかめた。このまま永遠に続くと思われそうなブースの数に奇妙な幸福感を覚え始めたのだが、半分を過ぎたあたりで腰痛が悪化。ゆっくり進むのがやっとの状態に。なんとか全部見てから帰りたい〜。

そんな時点でポッドマン仲間の中野博文氏と合流。それで見るコツがもうひとつわかった。複数人で見れば一人では気がつかなかったものに気づかされたり、普段は興味ないものをじっくり見て発見があったり、知り合いに出会う確率も高くて、具合がいいようだ。2〜3人のグループで見ることをおすすめする。

出展する側として考えてみると、ブースを出せばとりあえず5〜6万人が前を通り過ぎてくれるってのは、展示イベントとして大したもんだと思う。100人に1人が記憶の隅に残してくれたとしても、普通の個展以上の宣伝効果はあるんじゃないかな。また、「デザインフェスタ」は僕が苦手な「学園祭ノリ」とはちょっと違った。デザフェスは個々のブースがそれぞれ独立した他人の集合体なので、変な連帯っぽい感じは薄い。グループで出展すれば、内部的に学園祭ノリが出るかもしれないけど。

なんとか腰の状態をだましだまし、4時間近くかかって全部を見終えた。自分で出そうとまでは思わないけど、次回は腰のコンディションを整えて、また見に来たいと思った。丸一日かけてゆっくり見てみたい。

【吉井 宏/イラストレーター】hiroshi@yoshii.com

こうやってデザフェスのことを書いているうちに、次回が楽しみでしょうがなくなってきた。ところで、何かシンクロしたのか臨界点に達したのか、海津さんをはじめ、知り合い数人が「デザフェス初めて行った」とブログに書いていたのがおもしろかった。

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