創作戯れ言[6]トレーニング
── 青池良輔 ──

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WEBサイト、ショートアニメ、モバイルゲーム……「コンテンツを作っています」と言えば、様々な案件が舞い込んできます。デジタルというくくりではあるものの、デザインや脚本、企画、インターフェース等仕事としては多岐に渡ります。得手不得手はありますが、仕事内容をより良くするにはどうしたらいいかと考えると、これら全てのプロジェクトのスタートは、


「頭で考える」

だと。コンテンツを成果物と考えれば、クリエイターの脳は「畑」ではないかと思うのです。良い作物を穫る為には、豊かな畑が必要です。しかし、農家の人が耕したり、肥料を撒いたり、雑草を駆除するような時間と手間を自分の「脳」にかけているかというと、はっきり言って自信がありません。

普段仕事をしている時には、「その時の状況」の中で出てきたことを、それなりに面白い物にしようと努力しています。苦労することや、リサーチを必要とする場合もありますが、基本的には自分のキャパシティの中で経験に基づいた発想をしているに過ぎないような気もするのです。ここで、クリエイターとして「畑」を豊かにする為には何が出来るのでしょうか。

「多くのコンテンツを見る」「本を読む」「映画を観る」「見聞を広める」「人と会う」……などなど、引き出しを豊かにする方法はあります。多くの表現方法を学べば、それらをステップとして、新しい表現を生み出すチャンスは比例して増えていくはずです。引き出しを増やすのは重要です。しかし、個人的にはそれではクリエイターとして豊かになれないような気がするのです。

世界一多く映画を観た人が、素晴らしい映画監督ではないでしょう。

もちろん、表現の幅を広げる為に、様々な物を観て、知り、学ぶ事は不可欠だと思いますが、その為に膨大な時間を割いてしまえば、表現力を得る為の情報収集が、自己満足の為の収集活動になる危険性もあります。僕自身、何かのプロジェクトの為のリサーチを行っていると、芋づる式に次々に出てくるインフォメーションに翻弄され、ある程度の情報が集まっているにも関わらず、「一番面白い事を取りこぼしているのではないか……」と不安になってしまうのです。

情報に流され易い僕としては、「情報は必要なだけでいい」と思っています。クリエイター脳を豊かにする為にはもっと別の要素があるような気がします。

それは、「創造力」「柔軟性」「巧緻性」「応用力」などでしょうか。しかし、これらが豊かな頭というのは、残念ながら個性や能力に左右される感じもします。「3年間のトレーニングで、創造力が倍増!」なんていう愉快なトレーニング法があればいいのですが、聞いた事はありません。ただ、先人の創造のメソッドや、そのパターンを分析して知識として吸収する事はできるでしょう。そうしていくと、これらの能力を伸ばすのもまた、知識という事になるのではないでしょうか?

しかし、クリエイター脳という畑の土壌を豊かにしたいと願っても、知識を詰め込んでいくだけでは、肥料の多すぎる土地になってしまい「独自性」という芽を枯らしてしまうかもしれません。

自分としては、知識に依存せず、ただの頭でっかちではないもっと「地力」というか「馬力のある」頭が欲しいと願うのです。

豊かなクリエイター脳とは、「限りない試行錯誤を繰り返せる体力のある脳」ではないかと。どんな人でも「アイデアが浮かぶ」瞬間はあります。ただそのアイデアを「オリジナリティのある商品」にまでもっていくには、多くのトライアンドエラーを必要とします。その労力を惜しまない事が、コンテンツを磨く秘訣のようにも思います。多くの才能あるクリエイターといわれる人は、その試行錯誤を納得いくまで悶々と繰り返せる人ではないかと思うのです。そう考えれば「悶々」上手になるのが、クリエイターとしての豊かさの鍵のように思えてきます。

良い畑をつくるには、「悶々」とできる思考を維持する為に、時間と環境を整えてやる必要があるのかもしれません。悶々としようと決めれば「思考を中断しない」「雑音を少なくするか、多くする」「腹八分目」「過剰に幸せにならない」と具体的な策も浮かびます。そして、その適度なストレスとループする思考の中で、アイデアは練り上げられていくのではないでしょうか。

ストレスに耐える「タフネス」を脳に与えたいのであれば、「悶々」を繰り返しているうちになんとかものにできるのではないかと。今、自分が良い物を作れるようになる「頭」に必要なのはその「持久力」だと思うのです。

「考える力」とは、「考え続けられる力」であることを願いつつ。

生意気言いました。

【あおいけ・りょうすけ】your_message@aoike.ca
< http://www.aoike.ca/
>
1972年生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。学生時代に自主映画を制作したのち、カナダ・モントリオールで映画製作会社に勤務する。Flashアニメシリーズ「CATMAN」でWebアニメーションデビューする。芸術監督などを経て独立し、現在はフリーランスとして、アニメーション、Webサイト、TVCMなど主にFlashを使い多方面なコンテンツ制作を行う。

・書籍「Create魂」公式サイト
< http://www.ascii.co.jp/pb/flashbooks/create-damashii/
>


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