[2168] 壮大な計画

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<冷や汗タラタラな金額>

■ローマでMANGA[2]
 壮大な計画
 midori

■デジクリトーク
 NYCの個展は成功したのか? そしてその後の展開
 筒井海砂

■イベント案内
 アートフェア東京


■ローマでMANGA[2]
壮大な計画

midori
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ローマのみどりです。

前回、こんな風に終わりました。

日本にイタリア、ヨーロッパのコミックスが入ってこないのは、知らないから。この絵の強さで物語を進めていく読み方に慣れていないから。

日本に絵の強さを紹介する。イタリアにMANGA文法をもっとわかってもらう。これを一人でがんばらないで、組織立てて行ったら、新しいマンガ構築という夢がかなうかな……と思い始めました。

学校に日本の新人賞に応募するコース、というのを提案してみました。これについては次回………

●紆余曲折

ご存知のように、日本のマンガ雑誌には必ず新人賞があって、デヴューに直結している。これに、イタリアの漫画家志望者たちの作品を送ってしまおうというわけ。

今までもこれを試みたことはあるのだ。MANGAセミナーで「新人賞っていうのがあるよ」と言ってみたりした。わずかな人数が、勝手に作ったものを仕上げてくる。レベルは低いが、とりあえず条件は満たしているので、言った手前訳して送った。結果は、今、イタリア人の作家が日本で活躍していないことを見てもお分かりだと思う。

勝手に作ってもらってもだめだ。MANGAの構築法や見せ方をもっとわかってもらわないと。作品を作りながら手直ししていかないと、個人個人で状況が違うから、十把一からげに説明するのは無理。

それで、私の講義に最後まで出席した子と、講談社海外支局時代に知りあった子を招いてグループを作ってみた。住む場所がまちまちなので、ネットを介することにした。そこでそれぞれ作品を作って、ラフの段階からアップしてみんなの意見を聞く。誰が見てもわかる作品に仕上げて行く。……という段取りのはずだった。

ネット環境が十分でない子、生活のための仕事が忙しくて作品に全然とりかかれない子、熱心な一人が言った言葉にえらく憤慨してしまった子……などでこの6人グループはあえなく空中分解。

だいたい、片手間にやるっていうのがまちがいなのか……。そうだ、MANGAセミナーを発展させて、私も仕事として新人を育てるということをすればいいじゃないか! とやっと思いついた。

●「いい事だらけの計画よ」

日本のマンガアニメを見て育って日本に憧れる漫画家志望者達。でも、どうやってコンタクトを取っていいのかわからない。

MANGAセミナーに来てくれる学生も、2年生になって授業時間が合わなくなると来なくなる。7ヶ月の間、週に一回来たり来なかったりで、言葉で説明できることだけを一通り聞いただけでMANGAの構築法が身に付くわけではない。だいたい、コマ割りなんて、何度も何度も何度も何度も作品をつくらなければ、体でわからなければわからない。ないないだらけで、MANGAセミナーはあまり効果を出さないできている。

学校の授業の一環ならば、学生に作品を作る時間がない、とは言わせないし、定期的に顔を合わせるから丁寧にサジェスチョンを与えることができる。翻訳作業やその他の事務的なことを、私は用事の合間をぬってではなく、ちゃんとその場でできる時間があるということになる。

正直言って、新人賞に入賞して日本でのプロデヴューになるとは思っていない。少なくもすぐには。感覚的な問題なのだけど、MANGAがもつ読みのリズムをすぐに表現できるようにならず、日本の編集者はまずざっと読んだだけではね除けるだろうと思うから。

これに対処するのは、制作する側としての歴史作りと、卓抜した絵の技量の持ち主を送り出して編集者の度肝を抜くことだと思う。

この度肝を抜く、事を繰り返して、少しづつでも日本の漫画界のプロにイタリアの漫画を植え付けて行く……。イタリア人MANGA家志望者の作品を一点、また一点とこの世に出現させることでイタリアのマンガ界にも少しづつ少しづつ影響を与えて行く……という壮大な結果につながるはずの「新人賞応募作戦」なのだ。

そしてなんとも都合がいいことに、3月23日に講談社モーニングから特別エディションの雑誌「MANDALA」が出る。日本、韓国、中国、シンガポール、フランス、イタリアの作家が参加し、ストーリー性よりも絵の強さをコンセプトにした、ヨーロッパコミックスに近い雑誌だ。

このお手伝いをした時に「絵のうまい新人はいませんか?」と編集さんに言われて、一も二もなくMANGAセミナーに顔を出したDE LUCAを推薦して、彼の作品も載っている。

講談社という総合出版社から出るから、日本での認知度に期待できる。イタリアの大御所達が描いているから、イタリアコミックス界への波紋も楽しみ。何だか私の思惑を進めるのに都合の良い出来事ではないか!

後は、ちゃんと学校側と話をつけて日本の新人賞応募コースを立ち上げるのみ!

【みどり】midorigo@mac.com
春ですねぇ。春は草木がよく伸びて、広大な果樹園を内包するわが家では、作業に事欠きません。冬の間にリンゴの木が二本、桜が一本、杏が一本枯れてしまったのを発見。リンゴの幹には大きな溝ができていて、虫がついたらしい。後は理由がわからない。ただ水をあげてればいい……というわけではないらしい。農作業は奥が深い。

有料マガジン「b/n」日本語とイタリア語で読む超ショートを出しています。ボローニャに住むアーティストの作品です。あなたの脳みそをつねります!
< http://premium.mag2.com/mmf/P0/00/54/P0005451.html
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イタリア語の単語を覚えられます! というメルマガ出してます。こちらは無料。
< http://midoroma.hp.infoseek.co.jp/mm/menu.htm
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■デジクリトーク
NYCの個展は成功したのか? そしてその後の展開

筒井海砂
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皆さまコンニチハ。無名でも大赤字でも海外活動は楽しいぞ普及委員会の筒井です。

夏にニューヨークで行なった初めての個展について、デジクリに記事を書かせていただいた時には、大変多くの方からエールをいただき本当に有難うございました。正直、出発直前はプレッシャーに押しつぶされて息も絶え絶えな状況でしたが、皆さんの暖かい言葉に救われました。

何もかもが驚きと感動の連続だった個展から既に8ヶ月、今更事後報告というのも何とも格好が悪いのですが、新たな展開のご報告もふまえて少し御紹介したいと思います。

●個展ではアーティスト!

まずは去年のNYC。どんなに励まされても自分の作品がアートとして受け入れられる訳がない、という気持ちは払拭出来ませんでした。だって日本ではそう評価された事がなかったから……。

設営のお手伝いに行って初めて見たギャラリーは、昔出版工場だった建物を改装し沢山のギャラリーが入ったビルの三階にありました。どこもかしこも真っ白で、天井が高くとても広い。これはデカイぞ! と思って作った1メートル以上の作品も、飾ってみたら何だかこじんまり。なんだ、もっと大きくてもいいんじゃん。

NYCでは展示した作品は販売するのが当たり前。オーナーと一緒に値段を決めていきます。まずは奥様(日本人)と相談。私が考えていた金額の倍以上の値段をポンポンと付けて行きます!! 私は心の中で「えっ、ちょっと待って!それはあり得ない!!」と思いつつ、引きつり笑いをしながら絶句。

すべて決まったら旦那様がチェック。きっと「これは高いよ」と言うに違いないと思ったら「reasonable!」の一言。あ〜あ〜あ〜。

自分の絵に値段をつけるのはとても難しい。安ければ売れるかもしれないけど、自分の評価だけでなくアーティストを扱うギャラリーの評価も下げてしまう危険性があるからです。

オーナーの旦那様はとても優しいジェントルマンで、いつもニコニコしている人なのですが、絵を見る時の目は怖いくらい鋭いです。そのオーナーが決めた金額にケチを付けられるはずもなく、冷や汗タラタラな金額が貼られたのでした(笑)。

私が最も緊張したのがレセプション。日本ではオープニングパーティにあたるものですが、知人友人が集まる楽しい一時ではありません。

NYCのギャラリーでは作家が常駐しませんので、レセプションは作家に会える唯一の機会とも言えます。ですから、興味を持った専門家やコレクターはレセプションに集まって来ます。とにかく、何でも物怖じする事なく聞いてくるアメリカ人ですから、一体どんな事になるのか想像するだけでも胃が痛みました。

それより何より「誰も興味を示さない」事の方が怖かったのですが……。

レセプションの一時間前にホテルからタクシーで出発しましたが、生憎の渋滞に巻き込まれ少し遅れて到着しました。ギャラリーのドアを開ける時は全身が痺れるほど緊張していましたが、まず目に飛び込んで来たのは握手を求めるお客さまの笑顔でした。あのおじさまの顔は恐らく一生忘れないと思います。

その後も次々と質問が飛んで来て深呼吸する暇もなく、自分が何をやっていのかはっきりと覚えていません。とにかく喋り倒しです。

質問は、技法から使っているツール、日本での仕事、作品のテーマなどの話から、ANIMEとMANGAの違いはなんだ、とか日本のANIMEは何故暴力的なのか、という質問まで、多種多様でした(最後の質問にはちゃんと答えられませんでしたが<笑)。

全く時間の経過を感じなかった二時間、今思えばもっと良い答え方もあったのにと思いますが、でも皆さんが作品を誉め倒してくれた事は(半分がお世辞だとしても)新たな力となりました。自分は堂々とアーティストと名乗っていいんだなぁと思えるようになったのも大きな変化です。

ちなみに、私は英語が全然出来ませんので、バイリンガルな友人が通訳してくれてます。

「NYCの個展は成功したのか?」さて、どうなんでしょう?

絵が驚くほど売れた、仕事のオファーが入った、エージェントが付いた、そんなポイントで見れば失敗なのかも知れませんが、私は大成功だったと思っています。何を得たのか具体的に説明するのは難しいけれど、これからも「絵を描いて食べていくヒト」を続けて行こうとしている私にとって、物凄く大きなものを沢山得たし、新しい発見をしました。

●イベントではピエロ?

その後の展開……なのですが、個展の興奮も覚めやらない10月、今度はLAの「JAPAN EXPO」にブース出展しました。これは個展がきっかけで誰かから誘われた、という訳ではなく、自分で探して参加を決めました。もうすっかり海外活動のとりこな訳ですよ(笑)。

JAPAN EXPOはアートフェアではありませんから、来場者は芸術とは無縁の人達も多いのです。それだけに「一般人の反応」というのが楽しみでした。それにLAはコミックアートやアニメーションの土壌、現代アートの土壌であるNYCとは違った反応が返ってくるかも知れないと思っていました。結果、予想適中。

まず絵の好みが違います。NYCでは渋めなテーマが好まれましたがLAでは可愛いもの、ANIME風な要素の強いものに人気が集まりました。また堅苦しさがないので、質問も一層ズケズケ……いや、フレンドリーで、通訳さんを雇っていたのですが対応しきれなくなり、私のヘッポコイングリッシュで説明する事も多々。

もともと3万人の入場者があるイベントですから人の集まり方が段違いで、おしゃべりな私が話すのに疲れてしまう程でした。

でもイベントは面白い! 在廊できない個展と違って本当に沢山の人と直接話しができるし、絵を見た人の反応をダイレクトに見られる。これは私にとって本当にエキサイティングな体験でした。

このイベントで分ったのですが、アメリカの人が私の絵を表現すると「MANGA(またはANIME)ART」となるようです。私としては漫画もアニメも経験がないので何か違う気がしているのですが、日本のアニメとアメリカのANIMEはちょっと感覚が違うらしい。現在なにかピッタリくる言葉を模索中です。

LAのイベントは、個展より絵も売れたし仕事のオファーもあったし、その他色々な人からコンタクトがあって別の実りがありました。やはり何より「対面式」の魅力を知ってしまった事は大きい。個展ではアーティストですが、イベントではピエロ。パフォーマンスも重要な要素です。私はやっぱりピエロ向き。

思い付きで始めた海外活動。一年もすれば熱もさめるかと思いきや、今年は更にヒートアップしてしまいます。やればやるほど赤字にもかかわわらず全然懲りてません(笑)。

まずは3月27日から、個展をやったNYCのギャラリーでグループ展を開催。NYCではまだ珍しいCG作家だけを集めた5人展です。私以外の作家さんは見事なコンテンポラリですので、私だけ見事に浮いています! 私は前回の作品数点に加え、3点の新作を描き下ろしました。現在渡米に向けて準備中。精神面はプレッシャーで下降中……。(注・原稿執筆は約一週間前)

そして8月には南仏、10月はパリのアートフェアに参加が決定しました。夏のコート・ダジュール、秋のパリ。あぁ、なんて私に似合わない……(笑)。

筒井海砂(MISA TSUTSUI)
日本ではイラストレーター、海外ではアーティスト。中味は野生人のフリーランサー。やる事は突拍子もないですが、イラストは案外平凡です(笑)。

NYCグループ展の詳細はサイトにて!
昨年の個展、LAイベントは「Special」コーナーにて。
< http://www.seasand.net/
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■イベント案内
アートフェア東京
< http://www.artfairtokyo.com/index.html
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日程:4月10日(火)11:00〜20:00、11日(水)11:00〜21:00
12日(木)11:00〜17:00
会場:東京国際フォーラム地下2階展示ホール1(東京都千代田区丸の内3-5-1)
入場料(1DAYパスポート):一般1,500円、学生1,200円、小学生以下無料(但し大人同伴)
主催・運営:アートフェア東京実行委員会 TEL.03-5771-4520(事務局)
内容:アートフェア東京は、古美術・工芸から日本画そして近代洋画や先鋭的な現代アートまでジャンルを越えて、世界中から約100の画廊がトップクラスのアートを展示販売する日本最大の見本市である。画廊やコレクター、専門家にとって魅力的な取引の場であることはもちろんだが、アート界に限らず多様な分野を横断する、国際的な文化イベントとして世代を超えたメッセージを発信していく場でもあるようだ。アートを買うのは初めてという人にもおすすめ。関連イベントやサテライトプログラムも多数用意されている。

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■編集後記(3/27)

・ここ数年、紙の出版物の仕事はますます減っているが、たまに入ってくる仕事は物理的な移動がともなわず楽なものだ。最近の校正(入稿前のチェック)は自宅でできる。デザイナーの仕事場に行って、レーザーライターで出力してもらったレイアウトを受け取ったり、あるいはそれを宅配便で送ってもらうなどの手間はいらない。iDiskのサーバに接続すれば、デザイナーがアップしたPDFファイルあるからそれをコピーする。モニター上でPDFを開いてチェックするか、インクジェットプリンターで出力して見る。修正が必要なときはネットで連絡し、反映されたデータはまたサーバに上げられるから再チェック、OKを出せば、そのPDFファイルは印刷会社に入稿される。入稿=校了である。形式的に校正紙が出るが、そこで修正が入ったことはほとんどない。というスタイルは、もちろん限られたデザイナーとの間だけのものだ。しかし、いま参加しているプロジェクトでは、このスタイルではちょっと苦しい。判型が大きいので、A4インクジェットプリンターでは縮小してのプリントとなり、細かい部分が見にくい。その部分はモニターで拡大表示すれば見えるがすごく手間だ。また、ページ数が多いのでプリントがめんどうだ。膨大なページを何度も何度もめくってチェックしなければならないので、やはり原寸大のレーザーライター出力でなければ無理だ。ということで、ここ数日はデザイナーの仕事場に通った。ああ、B4出力カラーレーザーライターが欲しい。でも、今後そんなに需要もないだろうから買わない。買えないけど。ともかくネットとPDFのおかげで、物理的にものすごく楽になった。土曜日の夕方、娘があまりきれいでない写真を5枚持ってきて、これらを全部収容してコメントの書き込めるスペースのあるA4一枚に出力してくれという。翌日の友人の結婚式で、悪友達とコメントを書いてプレゼントするという。スキャンして、適当にレタッチして、Pagesで配置して、PDFにしてネットで送る。電話でOKが来たので、ハイグレード紙にプリントしたらけっこう見映えのするものができあがった。歩行距離20メートルもないマンションの上と下のやりとりで、けっこうしゃれたことを、と自己満足。最近のプロジェクトについては、ちかく記事にします。(柴田)

・阪神大震災の時、最初はお年寄りが地震に驚いて骨折したという報道しかなくて、揺れの割にはたいしたことないんだ〜と思ったのに、時間が経つにつれて規模がわかり怖かった。能登半島では震度6強で、被害者数が規模の割には少なくてほっとしたけれど、まだわからない。余震による被害やPTSD、エコノミー症候群という可能性もあるのだ。これ以上増えませんように。新聞に「車で寝る」と言っている被災者がいると書かれてあって、記者の人がちゃんと注意して〜と思ったよ。水は足りているのだろうか。(hammer.mule)