グラフィック薄氷大魔王[89]ショートアニメ制作顛末1 準備篇
── 吉井 宏 ──

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「三月末まで未曾有の大勝負状態に突入します」ということで連載をお休みしてましたが、実はまだ終わってません〜。っていうか、半分まで行ってません。ずっとやってみたかった形の仕事が同時に二つ来て、どちらも大きなステップアップになりそうなので全力を注いで大勝負と思ったわけですが、二つのうち一つが終わっただけ。もうひとつは五月末まで猶予になりました。

何をやってたかというと、ショートアニメを作ってました。Web上のショートフィルム映画祭「CON-CANムービーフェスティバル」に協賛のオリンパス株式会社の依頼で、30秒のアニメを三本作りました。僕を含めて五組の作家のアニメが各ショートフィルムの冒頭にランダムに流されます。一か月ごとに切り替わり、三か月で三本が流れます(CON-CAN映画祭は、出品作二本が先日のアカデミー賞短編部門にノミネートされたほどレベルが高いらしい)。


CON-CANムービーフェスティバル
< http://www.con-can.com/
>

オリンパスのサイトでは直接見れます。ただ、他作家の作品にくらべて音声レベルが少し低いようなので、近々修正して再アップ予定。また、三本シリーズとしてのタイトル画面も追加する予定。

オリンパスわくわくタウン
< http://www.olympus.co.jp/jp/fun/webanime/
>

昨年からいくつかアニメーション仕事はやったけど、あくまで全体の1パーツ。「作家」として自分のアニメ作品を作るのは初めて。最初に「supported by OLYMPUS」を入れ、製品や環境保護などのオリンパスの理念に関連する内容を一部盛り込む以外は何をやっても自由という、ありえないくらい制約無しの好条件。やるぞ〜!

(ここから実況記録的に書きます)

三月末が締め切り。はたして3DCGアニメ三本を一か月間で制作できるのか?アイディアをまとめて絵コンテにするだけでも一週間以上かかりそう。もちろん一人で全部やるのはキツそうなので、少なくとも、声優さんと効果音制作、音楽制作は専門家に依頼するつもり。CG部分はなんとか一人でやるつもりだけど、最終的には3ds Maxを使えるアシスタントを雇えばいいかなと。クリエイター派遣の会社をあたればなんとかなるだろ。

で、他のいろいろを片付け、3月5日くらいから本格的に制作準備スタート。30秒という短いショートアニメはどういう構成にすればいいんだろうと、とりあえずHDDに何千本もため込んであるWebムービーを見てリサーチ開始。30秒CMが参考になりそう。ところがリサーチとか言って、結局見るのと整理にハマって数日をムダに。(動画管理・閲覧ソフトを使うのだが、iView Media ProとiVideoを使っていて不満もあり、iDiveが良さそうと思って今回購入。ところがこの三本が本当にどれもこれも一長一短。これで一本書こうかな)

30秒は短いようで長く、長いようで短い。一発芸的なものでは持たせられないが、キャラクターに感情移入してもらうために手の込んだ描写をするわけにもいかない。単にキャラクターが動くだけでなく、ちゃんと笑いやサスペンスやドッキリを盛り込みたい。四コママンガネタでは短いけど、1ページマンガくらいのボリュームがちょうどよさそうだ。

全世界向け配信ということもあって、日本語のセリフはつけたくない(字幕をつけなきゃならないので)。でも声はつけたい。声があるのとないのではムービーの印象がぜんぜんちがう。ピングー語か原始人語みたいな感じにしたい。

僕の3DCG技術的に無理のない舞台設定も考える。白バック+コントの大道具程度の舞台にキャラクターふたつくらいを芝居させるのが理想。キャラクターだけ3Dで、他は全部書き割り(Painterで描いて板ポリゴンにマッピング)というのも扱いやすそう。

キャラクターは、僕が普段作ってるような何だかわからない宇宙人みたいなものでなく、動物を擬人化したものが良さそう。というのは、ライオン、カバ、タヌキなど、動物キャラクターは瞬時に一定の性格イメージを読み取ってもらえるため、ややこしい説明が不要。「擬人化された動物キャラクター」というだけで、どんな種類のアニメなのかも最初から理解される。つまり、見る人が戸惑いを感じる要素が格段に少なくなり、鑑賞体勢を作品冒頭から整えてもらうことができる。短いアニメにはだんぜん有利。

以上のような条件から、以前作った「べークマ」というクマと小鳥が主役。舞台は書き割りの森。動きで見せるカートゥーン的ドタバタアクション。という枠組みが決定。ようやくストーリー作成に取りかかる。

ノートに思いつきの断片を書きつけていく。アイディアはいろいろ出るのに、一本分につながったストーリーにまとめるのがとてもむずかしい。一日中ウンウン言いながらああでもないこうでもないと部屋でのたうちまわる。

場所を変えてみた。近所に出来たスタバで何時間もねばる。タバコが吸えないスタバは普段は寄りつかないのだが、喫茶店で何時間もねばって考える場合、たいていタバコの吸いすぎで気持ち悪くなっちゃうので、スタバは逆に好都合。二階の席はとても居心地がいい。数時間いても客の入れ替わりがほとんどない。みなさん長居。上から二番目のサイズのコーヒーなんて初めて頼んだ。あんな巨大サイズ飲めね〜よと思ってたのに、二時間もいるとすぐなくなっちゃうもんだねえ。保温タンブラーがほしくなった。四〜五日ほど夕方の数時間をスタバでねばるのが日課に。

基本の一本目がまとまり、その線で他二本を考える。シリーズの三本を違和感のないようにするのもむずかしい。3月10日すぎになってようやく絵コンテにまとめるところまで漕ぎついた。残り20日間で完成できるのか???

ところで今回の僕的テーマ。よく、「無難にまとめられているが、ヘタでも破綻していてもいいから突出したものがほしい」という評があったりするが、これの対極。つまり、「多少おとなしく無難でも、破綻がなくシロウトっぽくなく、緻密できっちりまとまったショートアニメを作りたい!」ってもの、です。

つづく。

【吉井 宏/イラストレーター】hiroshi@yoshii.com

ITmedia newsで知った47(ヨンナナ)という携帯電話向け音楽配信。これの「着うた専用曲」というコンセプトに超ナットク。だらだら無駄に長い曲よりも、ワンコーラスで完結する緻密な曲がいい。

ITmedia news < http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0704/06/news089.html
>
47(ヨンナナ) < http://www.yonnana.jp/
>

HP < http://www.yoshii.com/
>
Blog < http://yoshii-blog.blogspot.com/
>