グラフィック薄氷大魔王[92]ショートアニメ制作顛末4 編集・音声篇
── 吉井 宏 ──

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●編集前の小細工

3Dで表現できなかったカメラにぶら下がるストラップ。Painterのムービーペイント機能で1フレームずつ描き込めばいいと思ったんだけど、やってみるとぜんぜんスムーズに動かない。Photoshopでレイヤーを積み重ねて少しずつ動かすのもダメ。困った。Motionでなんとかならないかとやってみたところ、パスの描画にキーフレームを打って動かせることが判明。モーションブラーまでつく。ストラップは黒いヒモ状なのでけっこうそれらしく動かすことができる。この方法で数カットにストラップを描いた。

他にもMotionで一部に土煙やパーティクルを加えた。2D効果ながら、映像に手軽に味付けができる。なんだ、こんなことができるんだったら最初に気がついていればもっといろいろ効果を加えられたのに。


●編集

いままで映像を編集する機会があまりなく、必要なときはMotionでやっていた(わかりやすく使いやすかったので。ただ、長くなると劇重)。FinalCut Expressも持っていたけど、難しいし編集結果を表示するときいちいちレンダリングするのが邪魔で本格的には使ってなかった。iMovieはさすがに使えるけど、この際、FinalCut Studioを導入しようと調べてみると、Studioに含まれているソフトを一本でも持っていれば、その一本分より安く全部入りにアップグレードできるとのこと。さっそくアップグレード。こりゃ安い!!(と思ったら、2か月たたずにFinalCut Studio2がリリースされてクヤシイ)。

本腰を入れてFinalCutを使ってみたら、マニュアル不要なくらい簡単だった。素材をフォルダごと読み込み、タイムラインにざっと並べ、各カットのIn点・Out点を決めて繋いでいく。気をつけなきゃいけないのは、上の帯に表示されるレンダリング状態の色分け。これをよく見ないでムービーを書き出したので、納品直前になって「未レンダリング」の画面が1フレームあってあせった。

数コマ単位でのIn点・Out点の設定とか、必要だと思っていた動きを思い切ってカットしちゃうとすっきり繋がるとか、リズム感が出るとか、編集作業は新鮮でおもしろい。

●音声収録

専門家に依頼する時間がなくなってしまい、自分でやることにした音声・効果音。小鳥の声以外は自分でなんとかやれそうなので、とりあえず、声優さんとスタジオの手配。以前にデモリールを作ったときの小鳥の声がよかったので、同じ声優さんを指名。サルもちょっと出てくるのでこれもお願いする。クマの声は同じデモリールで自分でやったので、同様に自分の声でやる。

簡単な台本を用意する。といっても、「ピーピー(明るく)」とか「キキッ(やったぜ)」とか「ガウー(怒ってる)」とか程度なんだけど。アニマティックと出来ている部分のムービーを見せ、細かいニュアンスはその都度見本をやってみせるという手順。

下落合のスタジオ、2時間しかとってないのでさっそく収録開始。声優さんに指示を出し、長短二つのバージョンをリクエスト。思ったよりスムーズに進行する。まあ、全部合わせて1分半しかないんだから。サルもやってもらう。こちらの希望通りのサルを演じてくれて感激。さすがプロ。小鳥とサルのどちらもキーキー声を張り上げてもらってばかりで、彼女の声帯を痛めてしまわないか心配になったほど。

次。クマの声を自分で演じる(もちろん自分の声はすごい変な声に聞こえるのだが、他人にはそれほど変じゃないと期待)。ニュアンスは自分が作者なので完璧。と思ったら、プレイバックを聴くとイマイチ。CG映画のDVDのメイキング映像で有名俳優が全身で熱演しているのを思い起こし、クマの動きのとおりに体を動かして声を出す。体の動きは声にモロ影響する。いい感じになってきた。クマが走るシーンでは熱演しすぎてマイクから離れすぎたり、ぐわああっと暴れるシーンでは頭を振りすぎてヘッドホンのカバーがはずれてカランカラーンという音が入ってしまったり。しまいにゃ声が完全に枯れました。CDにAI FFで焼いてもらって収録完了。楽しかったけど、あー疲れた。

●効果音作成

Soundtrackに映像を読み込み、収録した声を切り出して並べる。一つのセリフ(?)につき長短2本の他にボツの音声もたくさんあるし、適当に切って使えるように余分に録音したスペアの声もあるので、ムービー全体に不足なく声を入れることに成功。

必要な効果音をリストにし、素材集CDから拾い出していくが、ふさわしい音がない場合が多い。そんな時は、適当な音を選んでSoundtrackやAmadeus(音声加工ソフト)で切り貼りしたり伸ばしたり縮めたりフィルタをかけたり、希望の音に近づけていく。それでもダメな場合は、それっぽい音をシンセサイザー(使い慣れているReasonのソフトシンセ)で作る。振り回す音や風切り音みたいなものはノイズ系の音をちょっといじればそれらしくなる。

切り株にハヤブサが刺さって「ビビ〜ン」と振動する音も素材集にピッタリのものがなかったので自作。テーブルの隅にノコギリを置いて、手で押さえてはじいた音をMacBookのマイクで録音した。

音声トラックはモノラルにした。ステレオにすると定位やバランスで悩んで時間が余計にかかるとわかりきっていたので。

●音楽制作

最後の難関、BGMをどうするか。GarageBandで適当にループを並べればいいだろうと思ってたら、一本調子の音楽ではぜんぜん合わない。それなりにシーンに合わせた音楽が必要らしい。贅沢を言えば、昔のカートゥーンみたいなオーケストラ音楽がいいんだけど、そりゃ無理だ。手早くそれらしくまとめるには、僕が構造を把握している唯一の音楽である「ブルーグラス」調でいくのが手っ取り早そうだ。以前にGarageBandで一曲作ったこともある。このショートアニメの雰囲気にもピッタリだ。

3つのエピソードでそれぞれ、バンジョー、フィドル(バイオリン)、ギターをフィーチャーすることにし、行き当たりばったりでテキトーに作曲する。なにしろ30秒なので1コーラス分もいらないのだ(一部にGarageBandのオーケストラのループも使った)。バンジョーとギターはGarageBandのプリセットの音でバッチリ。しかし、フィドルの音がない! アンサンブルのバイオリンはあるけど、フィドルの荒削りな音には似ても似つかない上品すぎる音。Logic Expressにソロバイオリンの音があったが、もっといいものを見つけた。

SoundFont。文字のフォントのように、音色を一つのファイルにしたもの。そういうものがあることは知っていたけど、フリーフォントのようにWebで無数に配布されているのは初めて知った。GarageBandのDSLMusicDeviceに読み込んで使う。探してみたらフィドルそのまんまギーギーの素晴らしいSoundFontを発見! こりゃ〜いい! いかにもなフィドルチューンになった。(フラットマンドリンのSoundFontがどうしても見つからなかった。あってもリンク切れ。誰かいいの知ってたら教えてください)

●完成〜〜っ

効果音と音楽のミックスダウンを書き出してFinalCutに読み込んで合体。非圧縮AVIで書き出して完成! すべて終了。(実際には、とりあえず一本を仕上げて納品し、残りの二本は同じような工程をたどって10日遅れで納品)

●おわりに

主に3ds Maxで試行錯誤や技術習得などに予定外な時間を費やすことが多かった。普段、チュートリアルをやるでもなく、必要に応じて機能を習得する感じでやってきたが、ちょっと複雑なものを作るとなると、やはりそれでは追いつかない部分が出てくる。ちゃんとチュートリアルをやっておこうかな。まあ、ややこしい機能は使わずに全部を力業でやってしまうと決めちゃえば、迷いがない分、制作時間は短くできるだろう。

実際のところ、難易度の高い技術は何も使ってない(リグはCATだからCharacterStudioさえ使ってない)。今回程度のキャラクターアニメーションなら3ds Maxを使わないまでもCinema4DやCarraraなんかでも出来ちゃうとは思う。流行の表現やソフトの性能の限界を追求せず、あえて簡略な表現をし、動きで見せるスタイルもありかなと。まあ、「自分の作品」に限れば、だろうけど。

まー本当に死ぬかと思うほど大変な一か月だった。契約書がなかったら放り出したかもしれない。なのに、また作りたくなってる僕はたぶんバカ。

オリンパスわくわくタウン
< http://www.olympus.co.jp/jp/fun/webanime/
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↑5月7日現在、更新されてませんがまもなく二本目が配信される予定。一本目もタイトル画面を追加し、音声レベルを上げたものに差し替えられてますので、あらためてどうぞ。

【吉井 宏/イラストレーター】hiroshi@yoshii.com

フィギュア10種類(非売品)を5月末までに作るというムチャクチャをやってます。どんだけムチャかというと、プロの原型師さんでも1か月に一個〜数個とかのペースらしいです。これが「未曾有の大勝負」の後半戦であります。すみませんが、またしばらく休載します。

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タブレット&Painter Classic・Essentialsで絵を描こう
吉井 宏
IDGジャパン 2003-10
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by G-Tools , 2007/05/09