創作戯れ言[11]火種と点火
── 青池良輔 ──

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何か作品を作りたいと思っていても、

「仕事に時間を取られて、余裕がない。」

と諦めてしまう事がよくあります。この時、諦めるとはいっても「中止」ではなく、とりあえず「無期延期」であるのですっきりと忘れる訳にもいかず、頭の中にいつまでもくすぶり続ける状態になります。


今、自分の状態を考えてみると様々な種類の火種が脳味噌の片隅でブスブスブスブス煙をあげています。映像化してみたい作品の具合的な内容から、企画書に落とし込みたいアイデア、誰々と一緒に仕事がしてみたい、なんだかわからないけどとにかく気持ちが踊る作品をやってみたい等々、タイプの違う火種が点々としています。

自分がそうだから他の人もと、決めてしまうのは良くないのかもしれませんが、「作りたいんだけどねぇ、時間が無いんだよねぇ……」という人の表情には、なんとなく悔しそうな雰囲気が出ている事があります。僕の場合、この悔しさの矛先は往々にして自分に向いています。なんで悔しいのかと言えば、自分の姿を「何かを創りたいやる気十分な目線」で見直すと、理想と現実のギャップに驚かされるからです。

作りたい作品への理想には、作りたい作品を作っているカッコいい自分の姿も含まれているのでしょう。「あの時、あんなにお酒を飲んでいなければ」「あの時、ネットで遊ばなければ」「あの時……」「あの時……」と、創作に無関係と思われる時間の使い方が全て「罪」の様に自分の背中にのしかかってくるのです。この罪悪感が、またいい具合に「作りたい作品」をくすぶらせる燃料になって、ブスブス、グズグズの永久ループを始めます。この罪悪感も、仕事だの私用だので忙しくなってくるとすぐに忘れてしまうのですが……

自分自身の明るい未来の為にも、この大変不健康な「作りたい作品はあるんだけどねぇループ」の脱却方法はあるのか考えてみたい所です。

もちろん、火種なのですから点火して炎と燃え上がらせてしまえるのがベストでしょう。僕は、普段からちょっとしたテクニックや、デザインのエッセンス等すぐ実行可能なものについては、クライアント仕事の中に滑り込ませたりして「仕事で消化」してしまう場合が多いです。

これで先方に満足してもらえれば一石二鳥です。このようなケースを大切に咀嚼していると、結構罪悪感から解放される場合が多いものです。美味しい事がある分、逆にクライアントに拒絶されてしまうとダメージが大きかったりするのですが……。

また、こちらから働きかけて誰かに点火してもらう場合もあります。これは企画書をつくって、「誰かに気に入ってもらって、プロジェクトにしてしまう」ケースです。オリジナル企画はこの場合が多いです。時間や努力や、人の協力が必要になりますし、運が左右する事もあるので気長に待てる時ならいいようです。

またその中間として、人が持っている火種と自分の火種を合わせて、燃え上がらせてしまうというのもあるでしょう。ある意味これが関係者にとって一番幸せなプロジェクトになるかもしれません。相手もくすぶっているのですから、お互い「やりたいことがあったのに、仕事にしか時間が割けずにいた」のに、「それが仕事にできてよかった」となるでしょう。

ここまでは、多少の違いはあるにしろ結局「自分のやりたい事を仕事にできたら幸せだよね」という話です。しかし、人間贅沢なもので「お金がもらえる仕事としてやれるのは嬉しいけど、でも本当にやりたいことっていうのはそういうもんでもないんだよねぇ」というアナーキズムというか、商業主義との決別を良しとする芸術家気質への憧れみたいなものがむくむくとこみ上げてきたりもします。

しかし、一番の基本点に戻れば、作品を作るために必要なことは、「作品を作り始めること」でしかないようにも思えます。

「時間を作っても人のお金に頼りたくない」「納得の行くまで作品と取り組んでみたい」これらの美しい理想が火種をくすぶらしている一番の原因かもしれません。

「時間がないなりに」「出してくれるって言う人がいるんならそのお金で飯を食いながら」「期限内にできるところまで」ぐらい風通りを良くしてやると、火種は勝手に炎となる場合もあるのではないでしょうか?

今までの経験から、何も形になっていない物に外部から「点火」してもらえたことはありません。紙一枚でも「形」になっているだけで実現の可能性はゼロではなくなります。その紙一枚を作っていないが為に、くすぶり続けているプロジェクトがまだまだあります。

何故できないのか……。企画への不審感、自分の怠惰、そして罪悪感の残すちょっと排他的な居心地の良さもあるのかもしれません。

生意気言いました。

【あおいけ・りょうすけ】your_message@aoike.ca
< http://www.aoike.ca/
>
1972年生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。学生時代に自主映画を制作したのち、カナダ・モントリオールで映画製作会社に勤務する。Flashアニメシリーズ「CATMAN」でWebアニメーションデビューする。芸術監督などを経て独立し、現在はフリーランスとして、アニメーション、Webサイト、TVCMなど主にFlashを使い多方面なコンテンツ制作を行う。

・書籍「Create魂」公式サイト
< http://www.ascii.co.jp/pb/flashbooks/create-damashii/
>

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青池 良輔
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by G-Tools , 2007/05/29