笑わない魚[228]絶対真理
── 永吉克之 ──

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前々回のコラムで、ヒマなんかいらない、映画を観に行く時間もないほど忙しい方がいいと書いたら、それが実現してしまった。恥も外聞も捨てて、仕事が欲しいよ〜とデジクリで訴えたら、仕事が入ってくるという法則があるようだ。

そんなわけで、映画を観に行けなくなっただけでなく、コラムを書いている時間までなくなってしまったので、ちょっぴり慚愧に堪えないが、今回は、以前、携帯メルマガとして配信していた『絶対真理』のテキストから数本選んで掲載させてもらうことにした。購読者が最多時で三百人もいないメルマガだったから、読んでいない読者もたくさんおられるだろう。


●明るい未来

安心していただきたい。人類が核戦争や飢餓や天災などで滅びることなど絶対にない。そんな程度で絶滅してしまうような人類など、私は生まれてからただの一度も見たことがない。地球が氷河期になろうが、白色矮星になろうが、超新星爆発を起こそうが、絶対に滅びないという不退転の決意を我々人類は、皆もっているのだ。人類が滅びたあと、ゴキブリが地上を支配しているだろうという推測に意味はない。なぜなら人類は滅びないからである。

●幸福への道

友人の長谷川は詐欺、営利誘拐、貨幣偽造、強盗殺人などの罪で死刑の執行を待っていたのだが、いつまで経っても執行されないので、たまりかねてある日、死刑囚をやめると言いだした。そこで彼は裁判所に申請して釈放され、今では大阪の羽曳野市で、評判のお好み焼き屋を夫婦でやっている。息子は希望していた国立大学の受験に受かったそうだ。人は何かを得ることで幸福になるのではない、不幸をやめることで初めて幸福になれるのである。

●空気とともに生きる

人が人として生きるために絶対忘れてはならないことがある。それは空気を吸うことだ。これを忘れた人間たちの哀れな末路を私は幾度も見てきた。空気を吸わない人間に生きる資格はないと断言してもいい。私は空気が大好きで毎日吸っているほどである。もし吸えなくなったら、絶望のあまり家族も仕事も捨てて最果ての街をさまよい歩くしかなくなるだろう。ところで、空気を吸うだけでは肺が膨らむ一方なので、吐くことも忘れてはならない。吐くのを忘れた人間たちの無残な最後を私は幾度も見てきた。吸ったら吐く。それが肝要だ。

●わずかな所作から心を読む

他人、特に初対面の人間と接する時は、なにげない言動から相手の気分を読み取るコツを知っておくことが円滑な人間関係を築くうえで大切だ。例えば、顔面が紅潮して表情が強ばり、出刃包丁を手にして泡を吹きながら「こ、殺してやる!」と今にもあなたに襲いかかろうとしている人は興奮している可能性があるので、そんな場合は「ちょっと静かにしてもらえませんか」とは言わない方が無難である。襲いかかってきても、とりあえず無視しておくのが賢明というものだ。

●死に方を自分で決める

いかに生きるか、いかに死ぬかは裏腹なのである。われわれは可能な限り早めに死に方を決めて、それを目標に生きて行かなければならない。できれば小学校に上がるまでに死に方を決めておきたい。死はいつやってくるのか分らないからだ。例えば、事業に失敗、破産、安アパートの一室で人知れず飢死、という死のシナリオができていても、いきなり車にはねられて死ぬこともある。だから、シナリオ通りの死を志すのなら、駐車場で遊ばない、横断歩道を渡る時は左右を確かめるといったことを子供の頃から心がけるべきだ。

●こんな人は疑え

他人を疑うことを勧めるのは不本意だが、読者の安全のために言うと、こんな人の言うことを信じてはならない。それは、死んでいる人、あるいは死んでいるくせに明朗にふるまっている人、800年以上生きている人、何も食べないで生きている人、もしくは溶岩しか食べない人、身長が15メートル以上ある人、海中に住み、脚が10本あって危険が迫るとスミを吐いて逃げる人、農産物の加工販売という看板を掲げておきながら、裏で密かにプロゴルファーとして全米オープンに出場している人、屏風に上手に坊主の絵を描く坊主などだ。

●Win-Winの精神

いちいち例を挙げるまでもなく、領土をめぐっての国家間の争いというのはいつの時代にもあるものだ。この問題を解決する方法はただひとつしかない。それは各国が互いに譲りあうことだ。極東を例にすると、まず竹島だが、これは韓国が日本に返還する。その代わり尖閣諸島は中国が領有権を放棄する。そしてその見返りに、ロシアが占拠している北方四島を日本が領有する。こうすれば四方まるく収まるではないか。譲る心、与える心が智慧を生むのである。

●活躍する日本人

外交面においては日本人の自信のなさばかりが目立っているが、現代の世界秩序の骨組みを作ったのは日本人だということを忘れてはならない。現代史をひも解くと、そこここに日本人の名前が見つかる。ガンジー、毛沢東、ケネディ、キング牧師など、国際政治だけでなく、現代人の倫理観の基礎を作ったのも日本人である。存命している日本人のなかで私が最も尊敬するのは、モハメッド・アリだ。病魔に犯されながらも社会貢献を続けるその姿を見るたびに大和魂ここにありの感慨を深くする。

●電話と父親の関係

最近、メールの便利さよりも、電話と比べた場合の不便さの方が注目されがちだ。しかし電話の優れたところは、その場ですぐ返答が得られるという点だけではない。まず電話をかけるには電話機が必要だ。かつて家庭用の電話機はみな黒くずっしりと重かった。だから子供のころ、二つ年下の弟とケンカをするとよく電話機で殴ったものだ。受話器だけでもダメージはあったはずだが、それでは教育効果がないと、電話機の総重量を弟の脳天に叩きつけたら、人を殺す気かと父親に張り倒された。どこの家庭でも父親とはそういうものだ。

【ながよしかつゆき/夜のストレンジャー】katz@mvc.biglobe.ne.jp
すでに他所で発表したテキストを、デジクリで使い回すのは初めてなんです。こういうときは潔く休載すべきなんでしょうが、茂田さんが休載中ということもあり、窮余の策でございました。

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