デジアナ逆十字固め…[55]「カメラプラス」のカラーマネージメント
── 上原ゼンジ ──

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「カメラプラス トイカメラ風味の写真が簡単に」という著作が刊行された。ずーっとカラーマネージメントの勉強をしてきたのは、自分のイメージ通りの印刷再現を得たいからであり、あんまり変な色に上がってしまうとかっこ悪いので、印刷に関してはかなり気を遣った。

まず、印刷会社に関しては、いつもお世話になっている印刷会社さんを版元に紹介して、新たに取引を始めてもらった。やはり一番キーになるのは印刷会社だ。いくら画像データに気を配っても、最終的な仕上がりが読めなければ、ちょっと怖い。たとえばどんな印刷機を使っているのか? とか、CTPは導入されているのか? といった情報は、ウェブサイトなどでも公開して欲しいところだ。

ただ、こちらから印刷会社を紹介して、すんなりと決まったわけではない。コストの問題があるからだ。知っている印刷会社だからといって、そんなに安くしてもらうわけにもいかない。こちらがある程度のクオリティーを求めていることも分かっているので、それを実現するための責任もある。


たとえば印刷を開始しても、調整をし安定した状態になるまでには少し時間がかかる。つまり紙の無駄が出るわけだが、この時に余分な紙をどの程度用意しておくかということで値段は変わってくる。同じ刷り部数で見積もりをとったとしても、用意する紙の枚数に違いがあるので、これは実費として見積もりに反映されてくる。

印刷に責任を持つということは、こういった部分に力を入れるということでもあり、激安印刷の場合などは、安定しないまま本番の印刷に突入し、安定しないまま刷り上がってしまうということだ。まあ、とにかく安く、というケースもあるけど、きっちりと仕上げようと思えば、それなりのコストはかかってくるということだ。

もともと版元と付き合いのある印刷会社さんがけっこう安い見積もりを出してきたので、ちょっと困った。しかし、こちらとしては、なじみのある所のほうが安心できる。そこでコストを抑える方法をいろいろ考えた。

ひとつはレタッチ、CMYK変換、リサイズ、シャープネス処理などの工程をすべてこちらでやっつけてしまいPDFで入稿してしまうという方法だ。まあ、こちらの責任でやってなんとか安くしようと考えたわけだけど、普通はおすすめしません。それよりも、ちゃんとお金は払うから、きっちり製版処理お願いします、という方式にしたほうが、当然クオリティーはあがります。

もう一つは校正の方法を工夫してコストを下げる方法だ。

●本機とインクジェットを組み合わせる

普通はとりあえず一度校正を出し、そこから赤字を入れるという方式だけど、それだと無駄がある。そこで、はじめに印刷本機でカラーチャートを出力し、印刷機のプロファイルを作る。そしてそのプロファイルを使ってデータをCMYK変換し、もう一度テスト印刷をする。これはInDesignを使って私がA2判一枚にまとめた写真データだ。

テスト印刷の結果はうまくいった。うまくいったというのは、私の見ているモニタのイメージにかなり近似した出力結果が得られたということ。つまり印刷の結果が予測できたので、もうこれでオーケー。あとは、本番でも同じように刷ってもらえればいい。ここでブレてしまうと、本機を使ってテスト印刷をした意味がなくなってしまうからだ。

全ページを本機を使った校正にしてしまうと、コストはかかってしまうが、A2サイズで一枚刷るだけなら、そんなに高くはない。色校正というと平台校正をイメージする人も多いと思うが、実はこの平台校正というのはそんなにいいものではない。確かに本番と同じ用紙で刷れるけど、それだけだ。

印刷機は違うし、刷るスピードも違う。また、赤字を入れたのにデータをいじらず、校正の刷り方で調整してしまったりするから、印刷本機と合わないものになってしまう。つまり印刷本機とのマッチングということがあまり考えられていない。

では、何がいいのかと言えば、DDCPだ。「ダイレクト・デジタル・カラー・プルーフィング」の略で、フィルムを介さず、デジタルデータからダイレクトにプリントすることができる。また、専用のプロファイルを作成することにより、色のマッチング精度を上げることもできる。

ただし、これはこれでやはりコストがかかるので、最終的には大判のインクジェットプリンタできちんとカラーマネージメントしたプルーフを出力してもらった。本機でのテスト印刷ですでに色の傾向はつかんでいるので、全体を通して何か凡ミスをしていないかどうかというチェック用だ。

というようなことをやった結果、著者としてはそれなりに満足できる印刷結果となった。それなりというのは、もっといい紙を使えば、さらに質の高い印刷が期待できるからだ。でも、いいんじゃない。デザインもいいし、なかなか可愛い本になりました。

こんなことをすべて著者の私がやったというわけではなく、ワークフローの監修的な立場で、プロバンクの庄司正幸氏にもいろいろ手伝ってもらった。まず、プロファイルの作成。これは普通の人には絶対にできない。モニタやプリンタのプロファイルであれば、カラーマネージメントツールを使えば誰でも簡単にできるけど、印刷の場合はちょっと意味が違ってくる。

モニタやプルーファーのプロファイルの出来が多少悪くても大きな問題はないが、CMYK変換に使うプロファイルの質が悪いと、変換をしただけで画質が悪くなってしまう。これは大きな問題だ。印刷会社で独自にプロファイルを作っているケースもあるが、検証してみると、あまり出来がよくないものがけっこうある。これだったら、アドビシステムズ社が無料で提供している汎用的なプロファイルの方が絶対にいい。

庄司さんには変換、リサイズ、シャープネス処理までを自動でやってくれるアプリケーションも作ってもらった。今回は自前で印刷入稿用のデータを作らなければならなかったわけだが、写真は200点もあったから、一点一点処理していたのではかったるい。

変換やシャープネス処理というのはPhotoshopでも簡単にバッチ処理ができるが、リサイズの自動化まではできない。そこでInDesignにレイアウトされたサイズの情報を読み取り、自動的に原寸にリサイズしてくれる方法を考えてもらった。そうじゃないと「情報パレット」でサイズを確認して、Photoshopの画像解像度に数値を入力して……、なんていうことをやらなければならない。

けっこう面倒なので、この工程がスキップされてしまうこともあるが、最近はカメラの解像度が上がっているので、縮小せずにそのままレイアウトしてしまうと、シャープネス処理をしても全然シャープにならないという問題が起きる。これはけっこう大きな問題だと思う。

今まで関わってきた本でも、カラーマネージメントを生かしたワークフローには取り組んできたから、それなりの経験値はある。しかし、専用プロファイルを作り、リサイズ、シャープネス処理というところまで、全部自分でやったのは初めてだったので、なかなか面白かった。

自分でレンズを工作し、作例写真を撮り、イメージに合わせて色補正を行い、工作のためのブツ撮り、レタッチをし、原稿を書き、図を描き、製版処理を行いというようなことまでやったので、けっこう愛着のある本が出来上がった。

【うえはらぜんじ】zenstudio@maminka.com
◇上原ゼンジ写真研究所
< http://www.maminka.com/zenlab/top.html
>

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