笑わない魚[232]病夢譚
── 永吉克之 ──

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前回のネタをひっぱるつもりはないが、今度は風邪をひいた。熱で脳みそが茹で上がって考えがまとまらない。この数日の急激な気温の変化が原因だろう。いや「だろう」ではなくて間違いなくそれが原因である。

そういえば、なんとかダロウという名前の有名人がいたなと思って、ググってみたら、ヘンリー・ダロウというアメリカの俳優がいた。出演映画のリストを見たが、観たことのない作品ばかりだ。なんでまたそんな俳優の名前を憶えているのだろう。

また「だろう」と言ってしまった。申し訳ない。ちょっと気を緩めるとこれだ。もう二度と「だろう」とは言わないからご容赦願いたい。


ところでこれは「ランナーズハイ」のようなものだろう。風邪をひいて熱が出ると、脳内麻薬が分泌されるのかどうかは知らないが、体はだるくても、酒に酔ったときのような気分の高揚がある。前回は青息吐息だったが、今回はけっこう楽しい。いや別に楽しいわけではない。しかし、こういう状態のときは、どういうわけか、くっだらないことばかりが次々と浮かんでくるから嬉しい。いや別に嬉しいわけではない。

ダロウに話を戻すが、アメリカの法律家で、クラレンス・S・ダロウという人もググっていたら出てきた。おめでとう。いや別にめでたいわけではないが、彼の名前が出ているページを見ると、たいていは以下のような諺も載っている。ペシミスティックなユーモアがあっていい。こういう人生観は大好きだ、いや別に大好きというわけではない。

我々の一生の前半は親によって、後半は子供によって台無しにされる。
我々の一生の前半は親によって、後半は子供によって台無しにされる。
我々の一生の前半は親によって、後半は子供によって台無しにされる。
我々の一生の前半は親によって、後半は子供によって台無しにされる。
我々の一生の前半は親によって、後半は子供によって台無しにされる。
我々の一生の前半は親によって、後半は子供によって台無しにされる。
我々の一生の前半は親によって、後半は子供によって台無しにされる。
我々の一生の前半は親によって、後半は子供によって台無しにされる。
我々の一生の前半は親によって、後半は子供によって台無しにされる。
我々の一生の前半は親によって、後半は子供によって台無しにされる。

ちなみに同じ諺を10並べてあるが、これらはこの諺が載っている10のサイトから別々にコピペしたものである。一言一句違わず、読点の位置と数まで同じ文章になっているところが面白い。いや別に面白いわけではない。

翻訳文なのだから、人によって「我々」が「われわれ」になったり「台無しにされる」が「台無しにされるのだ」になったりするのが自然だと思うのだが、ここまで同じということは、誰かが翻訳した文を、ハイエナのように皆でコピペしあっていると考えざるをえない。まことに遺憾なことである。いや別に遺憾というわけではない。

                 ●

私は誰かに人生を台無しにされたとは思っておりません。自分で台無しにしたんだと思っておりますんでございますよ。ですからこの失敗人生の残り時間、つまり寿命が気になって気になって仕方がないんでございます。

といっても、あと何年生きることができるか、じゃなくて、あと何年生きなくてはならないのかが気になるんでございます。ちょうどお勤めの方が、早く終業時間にならないかと、時計が気になるようなものでございましょう。

そこで寿命診断をしているサイトをいくつか回って、判定してもらったんでございますよ。星座や血液型、好きな異性のタイプなど、いろいろ入力した結果が寿命となって出るのですが、いちばん短いので41歳というのがございました。しかし、これだと私はすでに死んでいることになりますので、別のサイトで出た57歳という寿命を採用することにいたしました。いちばん長いので76歳というのがありましたが、あと25年も、冗談じゃございません。

57歳で寿命が尽きるといたしますと、今51歳ですから、あと6年。なんとか耐えていけそうな気がいたします。矛盾するようなことを申して恐縮ですが、寿命が決まると、妙に気分が前向きになるのでございますよ。

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早いところ逝ってしまいたいと思うのは、もちろん第一の原因はわしの弱さにある。じゃがな、弱い人間にそう思わせてしまう社会にも原因があるとは思わんか? 年金をはじめとする老後の不安はもちろんじゃが、それよりも社会が、わしら老人を排除しようとするのが赦せんのじゃ。

たとえば就職がそうじゃ。今のわしの収入では、干上がってしまうのは時間の問題じゃから、もう叶わぬ夢はあきらめて堅実に仕事を探そうと、求人誌を見とったが、いったいなんじゃ、あの年齢制限っちゅう偏狭な基準は。30歳位までとか40歳未満とかケチな枠組みを作りおってからに。採用は能力で決めんか、能力で。

中高年の雇用を増やすために、制限年齢を引き上げようという厚生労働省の働きかけのせいか、求人サイトで探すと、制限年齢が表示されとらん場合が多いが、お前ら雇用者の腹は読めとるぞ。男女雇用機会均等法があるので「男性のみ募集」とは言いとうても言えんが、それと同じで、年寄りは要らんとは言えんのじゃろう。

本音は、老眼鏡をかけた白髪頭のジジイやババアに仕事場や店でうろうろされたら、客に対するイメージが悪いから嫌なんじゃろ。はつらつとした若さが職場にみなぎっているような虚像を、お前らは作りたいんじゃ。広い知識と長い経験をもった老人より、若さみなぎる馬鹿の方がいいと思うとるんじゃ。

それと、うんと上の世代の人間にうまく接することができんから、近い世代ばかりを雇おうと考えとる奴らもおる。わしは徴兵されて軍隊に入ったから、同期でもいろんな年のもんがおった。そんな連中と寝食どころか生死までともにするのだから、いろんな世代の人間とつきあうことができたのじゃが、今の若い連中にはそれができん。

とにかく企業は、財産のある年寄りにカネを使わせることは考えとるが、年寄りの見識を積極的に仕事に役立てようとは考えとらん。それどころか、勇退だの禅譲だのといった美名の下に年寄りを排斥しとる。

そんなに年寄りが邪魔なら、さっさと処分してくれ。チャールトン・ヘストンが主演しとった『ソイレント・グリーン』みたいに、役に立たない老人を原料にした食糧を作って、貧しい人びとに配給したら喜ばれるぞ。それに、わしらもそうやって役に立つのなら本望じゃて。さあ喰え、わしらを喰え。

【ながよしかつゆき/地蔵尊】katz@mvc.biglobe.ne.jp
かなり以前からだが、メールを送ったと言われたのに届いていないケースがときどきある。スパムと判断させるキーワードにもひっかかっていないのに届かないのだ。私にメールを送ったのに返事がないという方、誰の仕業かはわかりませんが、とにかくすいません。

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