[2332] ふたつの見えにくい「暴力」

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<デジタル回帰の流れが止まらない>

■グラフィック薄氷大魔王[116]
 ポストイット〜手帳廃止
 吉井 宏

■武&山根の展覧会レビュー
 ふたつの見えにくい「暴力」
 武 盾一郎


■グラフィック薄氷大魔王[116]
ポストイット〜手帳廃止

吉井 宏
< https://bn.dgcr.com/archives/20071212140200.html
>
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今年もあと二回ということで、季節柄の手帳も絡めて行き着くところまで行きつつある紙の話の続き。

●ポストイットの活用

大判のポストイットにスケッチを描いてみたところ、なかなかおもしろそう。気に入ったものは壁にいっぱい貼って眺める。描き足したり、はがして捨てたり、アイディアの熟成に役立ちそうだ。ファイリング不能でキレイに書くのは無駄なため、「アイディアを作る」という目的がはっきりしてイイ。

で、もう一歩進めてみました。特大の画板にポストイットをぺたぺた数十枚貼り付け、あっちを描きこっちを描き、明らかにボツなものは捨て、いい感じに育ったものはデジタルファイリング、という感じ。片付けは画板を部屋の隅に立てかけるだけ。これは手軽だ。

要するに、ポストイットを貼った画板全体を大きな一枚の紙に見立てると、紙がデジタルにかなわない「切り貼りや編集が自由」がある程度実現できる、ということ。

これをさらに進めると、水彩用紙やケント紙などでできたページ数が少ない大判のスケッチブックを買ってきて、ポストイットを貼り付けまくる。または、厚手のイラストボードを何枚か用意して画板の代わりに使う。こっちのほうがたぶんやりやすいかな。

「ポストイット」で検索してみたところ、な〜んだ、いっぱいあるんだポストイット活用法。本まで出てる。たいていは小さい付箋サイズのものを手帳に貼り付けて情報管理みたいなもので、スケッチブックの代わりというものはさすがにないようだけど。厚紙を二つ折りにしてポストイットボードを作るというアイディアまで紹介されてる。

ポストイットをスケッチブック的に使う方法はなかなかのものだと思うけど、僕の定番になるかテスト継続中。

●手帳やめました

1985年頃、ファイロファックスなどシステム手帳がブームになっていて、僕もワンセット購入。その時以来だから20数年間もカッコよく手帳を使いこなす人にあこがれてきたけど、小刻みに挫折。サイズが合わないのかと大中小を試し、厚みの違うバインダーに替え、リフィルもいろいろ使ってみたけど、ダメでした。続かない。ページを入れ替えてるうちにグチャグチャにわけわからなくなる。保存用バインダーというものを知らなかったこともあって、はずしたリフィルがあちこち散在。

ページがはずせるバインダーはダメだと、ノートやポストカードサイズのスケッチブックなど、持ち歩き用のメモ帳は使ってきたけど、ホントにただのメモ帳でしかなかった。日々のToDoや予定、記録や思いついたアイディアが抜けなく綿密にメモされたものが何冊も積み重なっていくのが理想なのだけど、気がつくと何週間も何も書いてなかったりする。

そもそも、仕事上でスケジュール帳やシステム手帳の役割はパソコンが担うようになっちゃってるんで、紙の手帳の必要性が薄れていることは十数年前からわかっていたことだけどね。

で、そこへモールスキンのブーム。これを使い続ければ、夢の「数十年分の思考の歴史が詰まった使用済みモールスキンがずらりと並んだ本棚」が実現する。そう思って昨年秋からモールスキンを使ってまだ二冊目だけど、これもそろそろしんどくなってきました。

カッコよくページを埋めていくことは避けてきたつもりだけど、なんちゅうか、数十年を記録し続けるために抜けなく記入ってのが無駄に思えてきた。モールスキンに書いたことをiCalやToDoに入れなおしたり、その逆をしたり。ポケット一個ルールにも反する。書くことが目的になってしまっていて、書いたことが実用に欠かせないかといえば、ほとんど役に立ってないに等しい。二十数年もやっててダメな手帳は、やっぱダメ。iCalだったら2001年後半からずっと使っている。こちらを使いこなすほうが現実的だ。

っていうか、(何度も書くけど)僕ホントにイヤなのがノートやスケッチブックの端の段差。手が段差を感じたとたんにヤル気が削がれ、字や絵を書くのが難行苦行になってしまう。楽しくない。普通、段差や端は気にならないものなのか不思議。モールスキンは中央ノドの段差がなくてマシだけど、端の段差はなんともならない。分厚い下敷きや厚さ調整自在な手置き台を自作したりしたけど、ペラの紙の使いやすさにかなうわけがない。

……そんなわけで、手帳やめました。いつか手帳がうまく使えるようになって、思考の全記録をずらりと本棚に並べる夢を見るのは、もう金輪際やめます。デジタルでなんとかします。でも、外出時や緊急のメモは紙に書くのが便利。そのあたり、紙とデジタルをどうやって相互補完的に使うか、今試していることを次回で書きます。

【吉井 宏/イラストレーター】hiroshi@yoshii.com
アナログに期待しすぎた揺り戻しで、デジタル回帰の流れが止まらない。次回、驚きの展開が。ところで、Bloggerの不具合は先週号が配信される前に元通りに戻った。なんだかんだと半日も無駄に費やしたのがクヤシー。

HP < http://www.yoshii.com/
>
Blog < http://yoshii-blog.blogspot.com/
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■武&山根の展覧会レビュー
ふたつの見えにくい「暴力」

武 盾一郎
< https://bn.dgcr.com/archives/20071212140100.html
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首都東京。憧れに胸をときめかせて来る人、働き場所を求めて来る人、様々な大量の人間たちを飲み込みながら息づいてる巨大な生き物。今回は東京という都市における、二つの見えにくい暴力を紹介します。

●新宿ルミネから退店勧告されている個人営業喫茶店「ベルク」

一つは、ベルクという喫茶店。
< http://www.berg.jp/
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JR新宿駅東口改札を出て左に曲がってすぐの有料トイレを越えたところ、地下に降りる階段の手前、左側にその喫茶店はあります。

個人営業といっても場所が場所だけに大勢のお客さんが入るし、スタッフも多く働いている。新宿西口地下道で、段ボールハウスペインティングをしていた頃からのお気に入りの喫茶店だ。

大型チェーン店並みの安い値段でこだわりのコーヒーやホットドックを提供し、壁はギャラリーになっていて作品も楽しめる。なにより、スタッフの感じとか店の雰囲気とか、なんていうか、人間力の素晴らしさを感じさせてくれるお店なのだ。ゆえに常連も多く、新宿らしい様々な業種の人たちがしばしのくつろぎを求めてやって来る。かく言う僕もその一人である。

そんなお店が今立ち退きを迫られているのだ。きらびやかに見える駅ビル「ルミネ」、テレビCMも面白いし、誰でもふらふらとウィンドウショッピングを楽しんだりした経験はあるだろうし、ルミネが嫌いな人はそうそういないだろうと思います。

けど、是非これを多くの方々に読んで頂きたいのです! そして、ベルクを知ってる方、好きな方、またはこれを読んでベルク存続して欲しいと思う方、ブログやHPをお持ちの方、こちらへのリンクを貼ってこの事態をさらに多くの方々に知らせたいのです!

「ベルクをご利用のお客様へ」
< http://www.berg.jp/l/l01.html
>

今宵も、新宿は12月のクリスマス気分も加わり、さらにいっそうキラキラと輝いていることでしょう。そんな都市の喧噪の中、お客から支持されてる小さくステキな店が静かに消されようとしてる。この暴力は個人店に向けられてるだけでなく、客にも向けられているわけなのだが、とても見えにくいのである。

システマティックに、ドラスティックに変態をし続ける化け物のような都市を楽しむは悪くはないことだけれど、そのこと自体、見えにくい暴力の一端を担ってたりするんだ。いじめを傍観する人も、そのこと自体がいじめに加担してるように……。

……とにかく、僕はただ、好きな店がなくなるんが嫌なんだ!

※追加情報です。
ベルク・ファンのHP立ち上がってるようです!
ベルク・ファンの方は是非コメントして下さい!
LOVE! BERG!
< http://ameblo.jp/love-berg/
>

●ホームレスとグラフィティーを排除する「アートプロジェクト」

今から11年前の1996年、僕は東京都が「オブジェ」と称したホームレス排除用の突起物に絵を描き逮捕され、22日間拘留された経験がある。
< http://cardboard-house-painting.jp/mt/archives/cat5/index.php
>

今読むと相当恥ずかしい言葉遣いだが……。
そしてこのオブジェと僕らの行為に対するこんな考察も見つけました。
< http://d.hatena.ne.jp/aesthetica/20070322
>

僕がポイントとして引用したいセンテンスは、

「……(前略)……だが再開発をもくろむ行政か鉄道会社かは知らないが、そこに住む人やダンボールハウスを撤去しようとした。そこで、冒頭にあげた武盾一郎や吉崎タケヲといったアーチストはダンボールに絵を描いて抵抗した。しかし結果的にこの抵抗が、目には目をではないが、狡猾な「オブジェ」の発想を行政の側に与えてしまったように思う。……(後略)……」
(《aestheticasive critica》presented by 吉田寛「新宿西口のオブジェのどこが問題なのか?」より)

ここで僕がすぐに思ったのは電車の車両外側の広告だった。電車の車両をキャンバスとして捉えたのはグラフィティーがまず最初である。グラフィティーは犯罪と呼ばれるが広告ならなんでもオーケイであるらしい、というか世の中とはそういうもんだ。しかし、車両外側広告はどう考えたってグラフィティーのアイデアをパクってる。そして見た人はほとんどいないだろうが、この突起物に僕が絵を描いた面
< http://www.cardboard-house-painting.jp/html/tokkibutu.html
>
に広告が貼ってあったのを目撃したことがある。写真を撮れば良かったとつくづく後悔した。

と、ホームレス、グラフィティー、排除というキーワードが揃ったところで、現代に話を戻します。

これは都内某公園に暮らす、ホームレス・アーティストの小川てつオ氏のmixi日記を引用するのが最も分かり易いので、ご本人の許可を得て転載する。
< http://mixi.jp/view_diary.pl?id=630933384&owner_id=1265354
>

▼転載始め
ギャラリー246による追い出しに注目!(イベントのお知らせ)

渋谷駅の東口と南口を結ぶ246号、東横線の高架下に、以前からダンボール小屋などで、10人前後の路上の人が住んでいる。その246号の両脇と、地下道に、壁画が描かれた。

日本デザイナー学院のホームページによると、「渋谷桜丘周辺地区まちづくり協議会より、汚れの激しい高架下を安全に楽しく通行出来る「アートギャラリー」に変えて欲しいとの依頼があり、学生たちがアイデアを提出。テーマは、かつて近くを流れていたという「春の小川」。童謡にも歌われた春の小川を、デザインの力で取り戻す大プロジェクトに挑戦しました。」ということで今年の3月に完成。(ただし、日経などの新聞記事では、公募したコンペに入賞したようにかいてある。これって、公募って言わないだろうと思うけど。)
< http://www.ktr.mlit.go.jp/toukoku/04topics/h18/20070314.htm
>

ここを見ると、以前の様子がわかるが、今もダンボール小屋がある。(この壁面に落書き、薄暗いイメージ、というキャプションもいやらしいなぁ。わざと、ダンボール小屋に言及しない感じが。)

今、ここで、追い出しが行われようとしている。10月の終わりころに、滞在者各位に対する「移動のお願い」という張り紙がされた。渋谷区2丁目、3丁目、道玄坂一丁目、渋谷アートギャラリーの連名である。口頭でも、そう言ってきたらしい。

ぼくとして、一番腹が立つのは、アートの名において、追い出しが行われていることである。こういうことは、たしかに、よくある。彫刻物と称するものを作るために、追い出しがあったこともあった。しかし、今回は、製作者ははっきりしている。なんらかの行動を起こしたいと思っている。

日本デザイナー学院は、、そんな一方的で想像力の欠乏したものをアートと呼ぶのか。無自覚すぎるのではないか。行政や法律に認められて、絵を描いたらアートである。というそんな基準でいいと思っているのだろうか。アートって、もっと自立的な価値基準を持っているのでは、と少しも考えないのか。壁画の上から落書きがされて、それを消して、描きなおしているが、そもそも、そこに描かれてあったものを自分たちは消して描いたのだ、という自覚がないのか。消された方から、見たら、落書きしたのはあなたたちになるのかもしれない、という想像は働かないのか。落書きに対するのであれ、路上生活者に対するのであれ、共通するのは、想像力のなさである。そういうものを平然と、アートであると思っている日本デザイナー学院や製作者の態度に、なんとも腹が立つのである。

ちょっと熱くなってしまった。ともあれ、支援団体も動いて、10月30日に、町内会や東急、交通省、などと話し合いが持たれ、ただいま、平行線のようだ。住んでいる人に聞いても、どうなるか分からないねぇ、と言っていた。

状況をよく分からないで、書いている部分もあるので、分かりしだい補足していきたいと思います。誤認している部分は教えてください。ただ、この追い出しは、ほとんど知られていないように思うので、注目してほしいと思っています。

イベントのお知らせ
11月23日14時からいちむらさんによるパーフォマンスが、このギャラリー246で行われます。ぼくも手伝います。お暇なかたはいらしてください。
▲転載終わり

                ◆

1996年1月24日早朝、東京都は新宿西口地下道ホームレス村の強制撤去を行った。最前線で殴り合っていたのは、ホームレスと、バイトの警備員たちだった……。後ろの方で都の職員たちが見ていた。そしてその後に機動隊が突入してきた。暴力はいつもこうだ。

【武 盾一郎(たけ じゅんいちろう)/ 好きな人からとうぶんおはなしできませんと言われてへこんでます】
take.junichiro@gmail.com

通常は武&山根のチャットレビューなのですが、怪我をしていた右足をほったらかしてた山根が蜂窩織炎になってしまい療養中、禁酒・通院を命じられてます。なので展覧会に行けず、ピンの原稿になりました。
暴飲キャラは今年いっぱいとして、来年からフレッシュでクールでオシャレでキッチュでセクシーなチャットレビューにしたいと思っておる次第です。
「Live Publication / SWAMP PUBLICATION」
< http://jp.youtube.com/watch?v=e0RKo3PeUMg
>
< http://iddy.jp/profile/Take_J/
>

(追記 12月26日)
本文中に「日本デザイナー学院の生徒が路上生活者に「出て行く」ように説得に回ったという話もある」との記述がありましたが、調査したところ、日本デザイナー学院の生徒が路上生活者に「出て行く」ように説得した事実は確認出来ませんでした。よって、その一文を削除するとともに、誤った事実に基づく話を記載したことを、日本デザイナー学院、生徒の方、読者にお詫びします。 武 盾一郎

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■編集後記(12/12)

・ここしばらく、超プライベート版「昆虫図鑑」をコツコツ制作中である。庭の花に来る昆虫を二歳の男児がやたら興味をもって、何度も何度も一緒に見に行こうとせがむ。家族で昆虫に理解を示す(?)のは、われら二人だけなのだ。何も見つからない時は不満げなので、わたしがネットを歩き回って集めてきた、なじみのある昆虫の写真をモニターで見せている。この程度の限定した使用なら、著作権うんぬんの話にはなるまい。ネット上にはたくさんの昆虫図鑑がある。まったくいい時代になったものだ。昆虫少年時代には、小学館かどこかの図鑑をなめるように見続けたものだ。昆虫高校生のころは、クラブの書棚にあった北隆館の図鑑を使っていた記憶があるが、いかにも標本といった図版はあまりわかりやすいものではなかった。ネット上の昆虫写真は大きくてきれいで、自然のままの生態が写されているから見ていてあきない。テキストも興味深いものがある。高校時代はカミキリムシを専攻していたが(たんに集めるだけだったけど)、いまネット上のカミキリムシの写真を見てもまったく名前が出てこない。メジャーな甲虫類の名前すら忘れているのはショックだ。いずれは、この男児を連れて昆虫採集に出かけるかもしれないので、よく見る昆虫の名前は覚えておかねばなるまい。いま彼のお気に入りは、カマキリのアップである。あの獰猛な顔はこわいけど見たいのだそうだ。わたしが毎日チェックに訪ねるのが某デジタルカメラのサイトであるが、トップページで笑う男が気味悪く、スクロールして瞬間で隠すのが常である。有名な人物らしいが、わたしは見るのに耐えられない。はやく更新してくれと祈る毎日(って大げさ)。(柴田)

・蜂窩織炎って何だろうと調べてみた。ひぇー。/段差、わかります。手帳ジプシー。デジタルになったりアナログになったり。それに加えてペンジプシー。速乾性の極細水性ボールペンで、ノック式のものはないか? ぺんてるのHybridテクニカ0.35を使っているのだが、紙質によっては吸い込みが悪くて、すぐに手帳が閉じられない。使い続けていると先がへたってきて太くなる。それでも今のところこれが一番好きでリピートしている。なくしても困らない価格だし。手帳のカバーはしっかりしたものがいい。でもそうなると重い。バイブルサイズよりA5サイズの方が資料をはさみやすい。でもそれだと大きくてかさばる。ノート型よりリフィル型が好き。メモは一元化したいので、何でも手帳内に書いておいて、終わったものから消しこみ、折を見て捨てる。たまに適当にそこらのFAXやら手紙の端になんてメモしてしまい、あとで見つけるのに難儀するから。サイズを統一しておけば、去年の年間スケジュールを一覧しながら今年も動こうなんて思うんだけど、浮気気味で役に立たず。数値計算の必要なものは、このリフィル内にエクセルを立ち上げられないかと思うことも。エアペンは気になるけど、ここまでくるとキーボード入力の方が早いしなぁ。パソコンを持ち歩かなくても、メモれて、図表で考えることができて、なおかつパソコンとの連携も楽そうなのはいいよなぁ。(hammer.mule)
< http://www.airpen.jp/
>  エアペン
< http://www.pentel.co.jp/product/write/technica-knock.html
>  ノック式

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Pentel デジタルペン airpenストレージノート2.0 黒 EA2
ぺんてる 2007-11-26

by G-Tools , 2007/12/12