[2380] ヒゲは住めない堅気の世界

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<ホームセンターが私のオアシス>

■■笑わない魚[241]
 ヒゲは住めない堅気の世界
 永吉克之

■デジアナ逆十字固め…[72]
 消臭ビーズをレンズにしてみる
 上原ゼンジ

■イベント案内
 ICC開館10周年記念セッション・シリーズVol.5 ライヴ「∞(Open End)」

■展覧会案内
 エプソンフォトグランプリ2007 受賞作品展
 日本大判写真展2008
 デザイン マイナス アート展 杉崎真之助


■笑わない魚[241]
ヒゲは住めない堅気の世界

永吉克之
< https://bn.dgcr.com/archives/20080306140600.html
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僕は、かれこれもう25年以上もヒゲを生やしているんですよ。一時的に剃ったことはありますけど、ほとんど常に僕はヒゲとともにありました。しかし最近、ヒゲを蓄えていることが、どれだけ人生を困難にするかを知って、失意の日々を送ってるんです。

年末から年始にかけてやった郵便局の深夜アルバイトの面談(なぜか「面接」とは言わないんですよ)で、担当者さんから、ひょっとしたらヒゲを剃ってもらうかもしれないけど、それでもいいですか、と訊かれました。僕は、どう答えればいいのか大いに迷ったのですが、一晩考えさせてくれとも言えないので、気持はぜんぜん決然としていないのに「ヒゲは剃れません。剃らないことが不採用の理由になってもかまいません」と、口調だけは決然と答えました。まあ結局は採用されたんですけど。

郵便局のアルバイトの雇用期間が終って、今度は商品管理の深夜アルバイトをネットで見つけて、サイトの申し込みフォームで応募したんですよ。で、数日後、近所のスーパーでレタスを選んでいるところに、アルバイト担当者さんからケータイに連絡が入ったんです。レジカゴがすでに一杯になっていたので、それを持って店の外に出るわけにもいかず、仕方ないから野菜売り場で電話面接(って言うのかな)をしたんです。しかしモバイルな面接とは、世の中ずいぶん便利になったもんですね。

担当者さんから詳しい労働条件聞かされたあとに、身だしなみの条件のひとつとしてヒゲは剃ってもらいますけどいいですかと、また重大な決断を迫られました。僕は、レタスの山を見ながら途方に暮れてしまったのですが、相手は電話の向こうで返答を待っているので、いつまでも暮れているわけにもいかず、何でもいいから返事しなくちゃと焦って「すいません。剃るのはちょっと……じゃ、またの機会に」と、思いついたままを言って電話を切りました。「またの機会に」というのは、雇用者側が採用を拒否した時に使うお愛想なんですけど、それを代りに言ってあげるって、僕はなんて卑屈な人間なんでしょう。

その次は警備会社だったんです。募集サイトを見ると、60歳まで可となってるし、勤務地も近いしで、応募しようかと思ったんですけど、若い頃に、ちょっと右翼っぽい警備会社のアルバイトの面接に行って、その長髪は切れとか、身だしなみを高圧的に指摘されて、それがトラウマになっているので、面接を申し込む前に、ヒゲでもいいか電話で尋ねたら、予想通りの回答でした。

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これまであんまり意識してなかったんですけど、ヒゲって、日本では、おっそろしく少数派なんですよね。この間、日曜の昼だったんですが、電車のなかでヒゲを探してみました。乗客はかなりいたんですが、僕の位置から見えた範囲にヒゲはひとりもいなかったんです。それで、着いた駅でしばらくプラットフォームに立って、ぞろぞろ歩いている人の群れを見てたんですけど、見えた範囲では、これまたひとりもヒゲがいないんですよ。慄然としましたね。

そういうこともあって、自分がマイノリティだということを今、明確に自覚しているとともに、よくまあヒゲのまま、これまで生きてこられたもんだと思ってます。多分、僕が勤めてきた職場は、どれも知人の紹介で見つけたものだからなんだと思います。ヒゲが気に喰わないけど、紹介があるんだから、少なくとも悪党じゃないだろうということで雇ってもらってたんでしょう。

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唐突ですけど、日本の現役の政治家のなかに、ヒゲっていましたっけね。明治あたりから戦前までは、政治家たちも無闇に生やしてたみたいなんですけど、戦後になってヒゲ率が急速に低下するんです。内閣総理大臣も55代の石橋湛山(1957年まで在任)を最後にヒゲがいなくなります(Wikipediaの歴代総理の写真に基づいて判断しました)。

で、探してみたんです、ヒゲの国会議員。各政党のサイトの男性議員の顔写真を見て。たとえば自民党を都道府県別で探しますと、東京選挙区の議員23人中、ヒゲはゼロ。芸人の街大阪の選挙区の議員14人も全員ヒゲなし。老いも若きも男はみんなヒゲ生やして威張っていそうな鹿児島の7人も同じ。北海道も、まだ寒いのに7人ともヒゲなし。

47都道府県全部探すつもりだったんですけど、なんだかアホらしくなってきたので、僕がかつて住んだことのある地区だけ探しましたところ、福岡、兵庫、大阪、京都、愛知、神奈川、東京、総勢102人、ヒゲはいませんでした。政党別では、公明、社民、共産は全滅。やっとこさ民主に3人、ヒゲがいました。

つまり、政治家にとって不可欠であるクリーンなイメージを演出するためには、ヒゲはマイナスということなんでしょうね。確かに、ヒゲはどこかアウトローなイメージがありますよね。チョイ悪オヤジを描けと言われたら、僕なら多分、ヒゲを描き入れますよ。

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深夜、路上強盗に遭って袋小路に追いつめられた。しかし幸い、壁には穴が空いていて、そこから抜け出せそうだ。その穴は小さいけど、腰も腹も胸も肩も頭もつかえずに通る。でもヒゲだけがつかえて抜け出すことができない。もがいているうちに、強盗が追いついてきた。カネばかりか命まで奪われるかもしれない。そんな風にたとえれば、僕の境遇がわかってもらえるでしょうか。

幅わずか7cmほどのヒゲが、僕を破滅させようとしてるんです。癌みたいなものです。いや、癌はヒゲじゃなくて、ヒゲに執着する僕の心でしょう。このヒゲさえ剃れば、仕事はあるんですから、剃ればいいじゃないですか。生活を危うくしてまでヒゲにこだわるのはなぜなんでしょう。それが美学だとでも言うつもりなんですか。世の中を舐めちゃいけませんよ。

【ながよしかつゆき/胴元】katz@mvc.biglobe.ne.jp
3年ぶりに、弊サイトに作品を追加した(12点)。といってもそれは一昨年、「ディジタル・イメージ展」に出品したもの。今年制作した作品は後ほど。しかし、サイトの構造が、7年間ほとんど変っていないのが情けない。近いうちにFlashで全面的にリニューアルする予定なので、デザインのしょぼさには目をつぶって作品だけ見ていただきたい。

・EPIGONE< http://www2u.biglobe.ne.jp/%7Ework
> 作品サイト
・無名芸人< http://blog.goo.ne.jp/nagayoshi_katz
> ブログ 2/28更新
・ちょ〜絵文字< http://emoz.jp
> au&Yahoo!ケータイ公式サイト
・アーバンネイル< http://unail.jp/
> ネイルアートのケータイサイト

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■デジアナ逆十字固め…[72]
消臭ビーズをレンズにしてみる

上原ゼンジ
< https://bn.dgcr.com/archives/20080306140500.html
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しばらく写真の実験をするヒマがなかったのだが、やっと余裕ができたので、少しずつアイディアを実行に移していきたいと思う。私はひじょうにキャパシティーの狭い人間なので、ちょっと忙しいとすぐに心のゆとりがなくなってしまう。同時にいくつもの仕事がこなせず、すぐに身動きが取れなくなってしまうのだ。

仕事に一区切りが付いたところで出かけたのは、ホームセンターだった。近所にビバホームという大きなホームセンターがあり、そこが私のオアシスとなっている。心ときめく商品が多々陳列されているが、現在のおすすめは薪ストーブだ。質実剛健でリーズナブルなものから、鋳物で値のはるものまで、いろいろあるのだが、それらを眺めているとじんわりと癒される。

あとは、芝刈り機とかさあ、ネコ車とかさあ、そういうもんが、山積みになってるんだよ。そういうものを見ていると、なぜか優しい気持ちになってくる。この気持ちに「うん、あるあるある」と力強く頷いてくれる人がどれだけいるか分からないけど、まあ、安上がりな趣味で良かった。

ホームセンターを訪れるのは、薪ストーブやネコ車にただ挨拶をしに行っているわけではなく、工作の材料を探すという目的があるわけだが、久しぶりだったので興奮しながら、また余計なものをたくさん仕入れてきた。

以下、買ってきたものを記してみると、補助金具ステイ、PPクラフトシート・ナチュラル、スチロール半球・椀、引きバネ・ステンレス等々。何に使うのか意図不明な物も含まれているが、本人にしてみれば脳内のスーパーコンピュータを使って緻密に計算して買ったものなので、使いもせずに宝箱の中にしまわれてしまうこと絶対にないだろう……と思う。

●水滴をレンズにする方法

まず、始めの実験は水滴をレンズにすること。できれば、水滴をただ撮影するんじゃなくて、通常のレンズは外した状態で、水滴レンズだけで撮影できると美しい。しかしこれはけっこう難易度が高そうだ。ピントが合うようにするためには、カメラボディの中に水滴を入れなければならないからだ。

しかし、世の中には恐ろしいことをする人がいたもので、コンパクトデジタルカメラのレンズを外して、水滴レンズダイレクトでの撮影に成功した人もいる。ただ私にはそれをやるスキルも根性もないし、工作をするだけでなく、なんか面白い写真を撮るということを考えると、この方法は厳しいのかなと思う。

マクロレンズを使い、水滴の中の世界を撮影するのであればいくつか方法は考えられるだろう。水滴を上からしたたらせる、ホースなどで水を飛ばして高速シャッターで止める、五円玉の穴の中に表面張力で水をつける、ガラスの上にしたたらせる等々。

はじめに実験してみたのは、水滴をしたたらせる方法。これをやるために注射器を買ってきた。さて実験しようと思って、洗面所でポタポタやってみると、すぐに問題が発覚した。指で力を加えなくても、ポタポタポタポタという感じで連続で水滴が落下してしまうのだ。

本物の医療用のものであれば、そんなことはないんだろうけど、医療用のものは素人が入手することができない。まあ、素人が買えるようなものの中にも、連続して落下しないものがあるかもしれないけど、次々に注射器を買うのもはばかられるので、ちょっとこの方法はペンディングだ。

しょうがないので、次に簡単にできる方法として、ガラスの上に垂らした水をレンズにしてみる、という方法を試してみた。しかし、あまりきれいなレンズにはならず、しかも被写体がカメラの真下の方にないと撮影できないという難点がある。

というようなことを識者に相談してみたところ、いろいろなヒントを貰った。ひとつは水ではなく油を使ってみたらどうかという意見。表面張力が強く、球形に近づくんじゃないかとのこと。また、別の識者は、ゲルを使ってみてはどうかとおっしゃった。髪や体に付ける透明なローションのことだ。これは面白いかもしれない。

しかし、ガラスの下にある被写体じゃないと写せないと言うと、ミラーで反射させればいいと言う。なるほどね。これは万華鏡作りに使った表面反射鏡を使えばいいだろう。この方法なら水滴を使って風景の撮影もできるかもしれない。

透明なゲルについて調べていたら、さらに面白いものを見つけた。消臭ビーズだ。さっそく小林製薬の「無香空間・つめかえ用」を買ってきた。これは水のように不定形ではなく、球形をしたゲル状の物質だ。しかも透明度も高い。今までビー玉や水晶玉で試してきたが、消臭ビーズはノーマークだった。

試してみたら、ちょっと面白い写真が撮れた。今後の広がりに期待ができそうだ。

◇flickrに「無香空間」を使って撮った写真を掲載
< http://www.flickr.com/photos/zenji001/
>

【うえはらぜんじ】zenstudio@maminka.com
◇上原ゼンジのWEBサイト
< http://www.zenji.info/
>
◇「カメラプラス トイカメラ風味の写真が簡単に」(雷鳥社刊)
< http://www.maminka.com/toycamera/plus.html
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■イベント案内
ICC開館10周年記念セッション・シリーズ Vol.5
ライヴ「∞(Open End)」
< http://www.ntticc.or.jp/Exhibition/2007/OpenEnd/index_j.html
>
< https://bn.dgcr.com/archives/20080306140400.html
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日時:3月9日(日)18:00〜21:00
会場:NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]ICCギャラリーA(東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー4階 フリーダイヤル:0120-144199)

2007年4月より一年間にわたり展開してきた「ICC開館10周年記念セッション・シリーズ」。その最終回Vol.5として、ライヴ「∞(Open End)」を開催する。長期展示「オープン・スペース2007」最終日の展示終了直後にスタート。春を間近にした夜、各アーティストの創造性が満開となるライヴをお楽しみ下さい。定員:200名(当日先着順、申し込み不要)
入場料:無料
出演:大友良英、澤井妙治、比嘉了、堀尾寛太、miroque
ライヴの模様はインターネット中継される。

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■展覧会案内
the winners of PHOTO GRAND PRIX 2007
エプソンフォトグランプリ2007 受賞作品展
< http://www.epson.jp/epsite/
>
< http://www.epson.jp/ec/campaign/contest07/gp07/grandprix.htm
>
< https://bn.dgcr.com/archives/20080306140300.html
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会期:2月27日(水)〜3月16日(日)10:30〜18:00
会場:エプサイト(東京都新宿区西新宿2-1-1 新宿三井ビル1階 TEL.03-3345-9881)
◇関連展示「写真と暮らす Enjoyable life with photo」
ライフスタイルと写真を緊密に結びつける各テーマに特化する7名の受賞者の作品を紹介する。テーマは、家族、旅、photoテクニック、水中写真、街/スナップ、モノクローム、flowers

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■展覧会案内
日本大判写真展2008
< http://www.ni-pro.com/LPA.htm
>
< http://www.asahi-net.or.jp/%7EYT8I-TMD/
>
< http://www.ne.jp/asahi/tamada/isamu/
>
< https://bn.dgcr.com/archives/20080306140200.html
>
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会期:3月7日(金)〜3月12日(水)9:00〜17:00
会場:東京都美術館(東京都台東区上野公園8-36 TEL.03-3823-6921)
内容:日本大判寫眞家協会会員の選抜展である第14回「彩光写」展と、全国の大中判カメラ愛好家からの応募作品で構成した第5回「大中判公募展」のコラボ展。展示作品はすべて全倍サイズのカラー写真で、総点数213点。恐らく東京でも初めてのスケールの大きい写真展であろう。被写体は総て美しい自然光景写真。入場無料。
◇大判写真セミナー
日時:3月9日(日)9:30〜12:30
会場:東京都美術館 1F会議室
先着80名 参加費無料
◇巡回展
京都展:京都市美術館本館2階 3/25〜3/30
広島展:広島県立美術館 5/6〜5/11
神戸展:兵庫県立美術館/原田の森ギャラリー 9/2〜9/7

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■展覧会案内
「デザイン マイナス アート展 杉崎真之助」
< http://www.shinn.co.jp/superink/indexj.html
>
< https://bn.dgcr.com/archives/20080306140100.html
>
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日時:3月11日(火)〜3月16日(日)12:00〜19:00 最終日17時
会場:LADSギャラリー(大阪市福島区福島3-1-39 メリヤス会館1階 TEL.06-6 453-5706)
オープニングパーティ:11日(火)18:30より
プロフィール:グラフィックデザイナー、奈良県生まれ。大阪芸術大学デザイン科卒業。受賞作品多数、国内外の美術館にコレクション。
< http://www.shinn.co.jp/
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■編集後記(3/6)

・いつもの愚痴だけど。姉妹メールマガジン「写真を楽しむ生活」では、原則として写真展の開催前日に情報を掲載している。多い日で50本前後、少ない日で25本前後の写真展情報がある。もっとも、長期にわたって開催されている写真展は、何度か掲載されることになる。これがメインコンテンツなので、正確な情報を提供できるよう注意を払っている。おもに私が情報を収集・整理して、決められたスタイルで記事をつくり、それをもとにデスクがすべてのリンク先サイトにある情報を確認・校正するという分担になっている。ギャラリーの基本情報はデータベース化してはいるが、それはけっこう変動があって、常に更新を続けないと使いものにならない。基本情報とは、ギャラリー名、URL、住所、電話番号、開館・閉館時間、休館日、たったこれだけだ。それに、開催予定の展覧会タイトル、作家名(主催者名)である。わずかこれだけの情報だが、遺漏なく集めるのに予想外の時間を要するのだ。完全に集まらないことも度々ある。それは、ギャラリーのサイトがお粗末なところが少なくないからだ。何度も言うが、たったこれだけ、わずかこれだけの情報だ。それがサイト内に分かりにくく散らばっていたり、欠落している。作家名やタイトル、会期の間違いもある。久しく更新がないサイトもざら。サイトの情報は100%正確と思ってはいけない。よけいなお世話だが、間違いを指摘するメールはけっこう出している。ギャラリーの情報があてにならない時は、別ルートから確認を試みたりするのだが、なんでこんなに面倒を強いられるのだ。そんな毎日。(柴田)

・ですねぇ。サイトのないギャラリーや、更新の遅いギャラリーも多くて、検索をかけて裏付けを探します。写真家さんのサイトや所属団体のインフォを見つけた時はとても嬉しい。写真家さんのお友達のblogにDM画像があってほっとすることも。/胃カメラ飲んできた。経口のものであった。こちらの不安をよそにシステマチックに流れる検査。問診を書き、呼ばれて入ったら、げぇげぇいっているおじいさんの姿が遠目に。不安倍増。二の腕に注射され、もんでいる間に液体を飲み、その後うがい薬を渡されうがいをする。なるべく喉の奥に到達するよう念入りにうがいをしてみる。口の中がしびれてくるが、感覚がまったくなくなっているわけではない。はじめてかどうか聞かれ、そうだと答えたら、楽にしていたらすぐに終わりますからね、と言われる。胃の動きを止めるという二度目の注射。これは血管に入れていた。じゃあ一度目の注射は何だったんですか? と聞きたくなるが、声にはならなかった。横になるように言われ、よだれかけを口の下に置かれる。喉を麻痺させる液体をかけられ、飲み込み、プラスチックの輪っかを咬む。楽にするように何度も言われ、この姿、人には見せられないわ、と思うや否や、目の前に黒光りした直径2cmほどの管が現れる。その姿は蛇のようであった。人の良さそうな先生の顔が悪人面に見えてくる。(hammer.mule)