KNNエンパワーメントコラム 日常の中にある恐怖"クローバーフィールド"
── 神田敏晶 ──

投稿:  著者:


クローバーフィールド/HAKAISYA (竹書房文庫 DR 206)KNN神田です。

映画「クローバーフィールド」は、映像関係者必見の映画だと思う。

手持ちのハンディカメラ映像だけによる映画は、最初ではないが、計算された手持ちカメラによる恐怖としては、おそらく初めての映画といえるだろう。

「ブレアウィッチプロジェクト」の場合も、プロモーションで成功した点では非常に似ているし、プロモーションではかなりインスパイアされているようだ。また、ブレアウィッチは、低予算映画であったがハンディカメラの視点で、グイグイ引き込んでいった。淡々としたストーリー展開も、映画ではなく日常っぽく感じるドキュメンタリータッチであったからだろう。そして、何よりも、真実味を与えていたのが「手ぶれ」による効果だ。


「手ぶれ」がある素人映像は、大概の人が結婚式や運動会の映像で自分で撮って経験しているから、とても日常的に感じる映像でもある。最初から手ぶれのない映像は撮れない。誰もが最初はそれを経験する。また、再生することよりも、記録として録画するほうに主眼がおかれているから、子供の映像など、手ぶれだらけであとでたまたま見て、ガッカリということが多い。

特に素人のやたらとズームアップを多用し、さらにズームダウンを繰り返し、撮影中にカメラをふりまわして酔いそうになる映像。最後には撮った映像を巻き戻してすぐに再生し、間違って上からさらに録画して上書きしてしまうなど……。誰もが経験したことのある日常の構図だ。

この「クローバーフィールド」は、そんな素人カメラマンの視点で全体を表現している。これが実にウマイのだ。

所詮、映画は他人の出来事。他人の演技の再生にすぎない。カメラは客観的な、むしろ神のような視点で撮影されているものだった。それが、素人カメラの個人の視点になった時、それがまるでそっくり自分の経験として感じるようになるからとても不思議なのだ。

カメラは逃げる時には、常に最後尾を走り、知人たちのリアクションを撮影する。これは最高のアングルだろう。先頭を走ると、実は、この怖さはまったく伝わらない。知人たちのリアクションがあり、次にそれを自分が体験する番になるということを感じるから恐怖を増強させるのだ。

たとえば、実際にカメラを持って走りながら撮影すると、こんなにキレイに映像を撮影することは素人ではホントは不可能だ。右手が完全に機能しなくなるし、恐怖で逃げる時に、カメラのアングルまでは考えられない。そこで回せるのはプロ中のプロだ。

むしろ、ボクの場合は、この映画の間、ずっと、テープの残量と電池の残量が気になっていた。それは余計な心配であったが……。

映画の中では、時々、カメラが手から滑り落ち、地面のみ撮影されるシーンが登場する。観客はその間「カメラの主人」に何が起きているのかがとても気になるのだ。

ナチュラル・ボーン・キラーズ 特別版オリバー・ストーンの「ナチュラルボーンキラーズ」でも、主人公を写す主人のいないカメラ視点があるが、それを彷彿とさせる。

この映画は、最初のキャラクター紹介に長く時間がかけられている。MTVのシリーズでやっているような、よくある恋愛映画のシチュエーションだ。そこで、人間関係が理解できた頃に事件が発生する。キャラクターに感情移入できるのだ。どこにでもいそうな、ちょっと厄介なキャラクターのカメラマン。彼のトゲのあるコメントにもついつい惹かれていく。

何が何でも、愛する人を助けるというアメリカ人特有の「浪花節」に翻弄される迷惑な状況についついグチりたくもなる。しかり、小さな群れから外れることのほうがここでは危険だ。

ニューヨークのビルの粉じん中を、避難する人たち。まさに911直後のニューヨークの光景だ。阪神大震災もよみがえってくる。地震やテロであればアタックは数回だが、それが、怪獣ともなれば、何度もその恐怖がよみがえってくる。しかし、この映画では、怪獣は大きな問題ではない。宇宙から来ようが、海底から来ようが関係ない。

ガメラ 大怪獣空中決戦金子修介監督の「ガメラ」では、ギャオスを街の電線の下から、あおって見せることによって恐怖とギャオスに命を与えた。

怪獣は、人間がいかに、小さく弱々しいものかをみせつけてくれるだけで十分だ。姿もよくわからない。しかも何の説明もなしだ。実際に起きている事件の現場にいるのに、テレビの報道を見ないと全体像がわからない。テレビの断片的な情報で推測するしかない。

宇宙戦争スティーブン・スピルバーグの「宇宙戦争」にもこのような、現場が一番何が起きているのかがわからない状況が登場する。情報のなさ。それが本当は一番怖いのだ。

ボクがイラクに行った時に似たような光景を見たことがある。バクダッドのホテルで、日本からきた特派員が、東京の通信社から日本語FAXを送ってもらい、それを読み上げながら、「イラクでは、本日こんな事件がありました……」と、テレビに向って解説する。

バグダッドに一日いても、実は何もわからないものなのだ。そのニュースは、たとえ東京からのFAX原稿であってもバグダッドからレポートされることに意味があったのだ。

実際に現場では、何が起きているのか、よくわからないものだ。主人公が「今、何が起きてるかは、みんなのほうがわかっているはずだ」とビデオに語りかけることで表現している。

きっと、この成功で「クローバーフィールド2」が登場することだろう。

ボクが監督なら、この日の米国大統領の一日を「クローバーフィールド視点」で追いかけてみたい。

補佐官から、ペンタゴンからの速報を、幼稚園でチャリティ講演中に聞く。楽しげな園児を前にして、迅速な判断を強いられる。そう、911の時のブッシュ大統領の状況にたとえてみたい。

クローバーフィールド事件の怪獣は、イラクに潜伏しているという情報を手にしたと発表する席に付き、メディアの記者たちの前に立つ。スピーチライターがキュー出しをする。カメラのタリーランプが赤くともる。カメラのプロンプターが動きはじめる……。

続編にも期待!

「クローバーフィールド」の続編が正式決定。マット・リーブス監督も続投
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