[2452] 人はなぜ写真を撮るのか。の巻

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<全てYMOが教えてくれた>

■わが逃走[24]
 人はなぜ写真を撮るのか。の巻
 齋藤 浩

■伊豆高原へいらっしゃい[17]
 天体望遠鏡を買い換えてみた
 松林あつし


■わが逃走[24]
人はなぜ写真を撮るのか。の巻

齋藤 浩
< https://bn.dgcr.com/archives/20080626140200.html
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こんにちは。フォトグラファに憧れるデザイナー・齋藤浩です。

商売柄、写真を生業とする人と仕事をすることが多いのですが、やはりプロの写真家の仕事はスゴイです。「この広告はこういうことを伝えたいので、こんな感じに撮ってほしい」と言うだけで、そういった写真が撮れてしまう。

そんなプロの写真家を尊敬し憧れるオレは、自分が絶対彼らのようになれないことを知っている。なぜなら俺様は小心者だからだ! 頼まれて撮ったはいいが、写ってなかったときのことを考えると恐い! 考えただけで胃が痛くなるのだ。

でも写真を撮ることは大好きなんだな。そんな訳で、私は無責任な写真しか撮らないことにしている。つまり、写真はあくまでも趣味だってことです。

さて、今回のテーマ『人はなぜ写真を撮るのか』。大それたサブタイトルをつけてみたものの、そんな深いテーマを小心者の私ごときが語れるはずはありませんでした。なので、「オレはなぜ写真を撮るのか」を、人生を振り返りつつ検証していきたいと思います。

1◆記憶を記録するための手段

思い起こせば初めてカメラに触れたのは5歳のとき。父に借りたカメラで、幼稚園の先生を撮ったことが最初の撮影体験でした。では、何故オレは写真を撮りたいと思ったのか。それは、「もうすぐ卒業してしまうと、大好きだった茂木先生に会えなくなってしまう! これは由々しき問題である。なので小学生になる前にせめて先生のことを写真に撮っておきたい。」

と(子供語で)思ったからである。父に事情を説明し、カメラを貸してくれるよう頼むと、意外なことにもあっさりとオリンパス・ペンSを貸してくれたのでした。身内ながら、父のこういったところはエラいと思う。

あらかじめ露出と距離を合わせてもらい、私はカメラ片手に幼稚園へと向かった。デジカメは当然として、『写ルンです』すら存在しなかった当時、幼稚園のガキごときがカメラなどという精密機械を持っていることは非日常事態だったので、周りの大人達はそれを最初おもちゃと思うのだ。で、本物と気づいてびっくりする。その反応を見るのが面白かったし誇らしくもあった。

そうした一連の大人達の反応から、「カメラとはとても大切な機械であり、十分に気をつけて扱わなければならない」ということを幼い私は学んだのだった。

いろんな先生の写真を撮った。初めてにしては良く撮れていたいたのだが、肝心な茂木先生だけ(撮影時とても恥ずかしがって逃げ回ったので)ブレがひどく、現像はされたもののプリントされてこなかった。私はそこで生まれて初めてネガというものをじっくり見たのだが、階調が反転された茂木先生は怪人みたいに見えた。そのおかげなのか妙に冷静に、写真とは魔法でもなんでもなく、化学なんだということを漠然とだが感じたのでした。

さて、このときの一連の行動は『記憶を記録したいがため』にとったといえる。そのための手段として写真を撮るという行為に至った訳だ。また、5歳のガキでもそういう願望はあるのだということを大人は知るべき(或は思い出すべき)だと思う。

2◆所有欲を満たすための代替手段 

さて小学生になるとすぐ、世の中は空前のスーパーカーブームだ。書店にはランボルギーニやフェラーリの写真を掲載したグラフ誌が積まれ、駄菓子屋にはスーパーカー消しゴムやカードが所狭しと並んでいた。私は当時から流行りものには弱いたちで、あっという間に車の名前を覚えたかと思えば、ランボルギーニ・カウンタックの写真を見ながらため息をついていた。

そのとき何を思っていたかというと、「ああ、こんなふうにカウンタックの写真を撮れたらなあ」だったのだ。男には二種類ある。モテる奴とモテない奴だ。モテる奴はこういったとき「僕もいつかきっとカウンタックを運転するぞー」と思うのだ。まあいい。

で、いろいろあって晴海のスーパーカーショーに連れていってもらえることになった。初めて目の当たりにするフェラーリ、マセラティ、ランボルギーニ。もう夢中で片っ端からシャッターを切りまくった。撮ったら次! と駆け足で進む私に母は「もっとじっくり見ればいいのに」。至極尤もな意見である。ところが、今思い返してもあの時はとにかく「早く撮って紙焼きを所有したい」という気持がものすごく強かった。どうやら、撮ったことでなにか満たされた気持になっていたようだ。

そして3年生になると、こんどはブルートレインブームが到来した。青いボディの九州行き寝台特急に憧れつつも、大好きな『あさかぜ』や『さくら』は地元沿線を通らなかったため、私はもっぱら東北線や高崎線の特急列車の写真を撮っていた。

静止しているスーパーカーを撮るのとは違い、走ってる列車を撮るのは難しかった。シャッター速度1/125だと当然ブレる。絞り11だと暗くなる。オリンパス・ペンSはフルマニュアルの目測式カメラなので、今までのように露出は固定という訳にはいかなくなってきた。試行錯誤を繰り返すうちに、どう撮ればどう写るかが分かってきた。そんなことをしながら、よりたくさんの特急列車を撮ることに専念しはじめたのだった。

さて、これらコドモ齋藤浩がとった一連の行動を考えてみましょう。スーパーカーはかっこいいけど子供には運転できない。まして買うことなんかできない。特急列車なんざなおさらのこと。ではどうするか? で、写真を撮ったのだと思われます。同じ理由から模型を作ったりイラストを描いたりもしました。これらの行動は全て、『所有欲を満たすための代替手段』だったと推察されます。

3◆絵葉書みたいな写真がイイ写真と思い込んでしまった危険な時期

そうこうしているうちに、もっと上手に写真を撮りたいと思うようになってくる。雑誌に載ってる電気機関車の写真を見ながら、「こんなふうに撮れたらなあ」なんて思い始める。で、それがどんな写真だったかというと、いわゆる“絵葉書写真”だったんだなー。列車の編成がきちんと説明され、側面と正面の比率が7対3の割合で見えているようなやつ。しかもトンネル抜けてすぐ鉄橋渡ってるような俗っぽい写真に憧れてしまった。で、居ても立ってもいられなくなり、有名撮影地へとカメラ片手に出向いていった。

で、撮った。撮れた写真は確かに雑誌に載ってるものと似ていた。同じ場所で撮ってるんだから似るのは当然だ。でも、その写真からは不思議と何の感動も得られなかった。なんか急激に無意味なことをしていたような気になり、熱が冷めていった。

小学5年生の頃だ。この頃は写真だけでなく、ありとあらゆるものが無意味に思えてきた。勉強をする意味がわからない。学校に行く意味がわからない。数年後自分が何をしているんだかわからない。不安に囲まれてとにかく毎日が恐くなってしまっていた。こんな気持で写真なんか撮れる訳ないし、目的もないのにシャッターなんて押せない。そして、しばらく写真にあまり執着しない日々が続いた。

4◆美意識との出会い

そんな私を救ってくれたのがYMOだった。初めて聴いたシングル『MASS』で鳥肌がたち、続いて聴いたアルバム『テクノデリック』で美意識を持つ生き方を教育されたというか。YMOを聴いてミュージシャンを目指した人は大勢いるが、私はその時デザイナーになろうと決意したのだ。

そう、YMOは音楽はもちろん、ステージやジャケットデザイン、チケットに至るまで美意識の塊だったのだ。ロシア構成主義、アールデコ、フォトモンタージュ。全てYMOが教えてくれた。そして、写真もグラフィックデザインに欠かせない一要素であると気づく。

その頃から、写真に対する考え方も変わってきたように思う。ボケててもブレてても、その時らしさとか、その人らしさみたいなものが見える写真は素敵だなあと思うようになってきた。そう思えるようになると、絵を描くことも字を書くことも全て楽しくなってきたのだ。

「なあんだ、全部つながってるんだ」漠然とだが、急激に作ることが面白くなっていった。この頃から写真も油絵もデザインも、あれもこれもまんべんなく制作する時期が続く。

いわゆる『自己表現』時期だったのか、『自己発見』時期だったのか。中学入学前後から高校を卒業するまでの、写真に対する気持はあまり覚えていません。絵を描くことも、写真を撮ることも、粘土をこねることも、プラモデルを作ることさえも、同列線上にあったように思えるのです。手を動かして作ることから、自分がこれからしなければいけないことの意味を探る時期というか、自分との対話の時期というか。

表現方法(アウトプット)はなんでもよかったのかもしれません。とにかくいろんなことを試してみたかったように思えます。あえて言うなら、『撮りたいから撮った、作りたいから作った』のだと思います。

5◆写真の授業 自己との対決! といえばかっこいいけどね

さて、なんだかんだあって高校卒業後一年浪人して私はムサビの短大に入った。ほんとは4年制大学の方に行きたかったけど合格しなかったから、仕方なく短大に行くことにしたのだ。まあ、このクヤシサが原動力となって今のオレがあるのだが。

それはいいとして、ムサビ1年、18歳のときに写真の授業というのを受けた。人生初の写真教育。現像もプリントも初体験だった。現像液に浸した印画紙から初めて像が浮かんできたときの感動は、いまでも鮮明に覚えている。

最初の課題は『ポートレイト』、次の課題のテーマは自由だった。自由=なんでもアリということで、オレは何を撮ったかというと鉄道だったのだ。幼少の頃、熱く盛り上がって急激に冷めたモチーフに対し、今の自分はどのように対峙できるのかが楽しみだった。で、運命の一枚がこれだ。
< http://www.dgcr.com/kiji/20080626/fig1 >

像が浮かんだ瞬間、勝った! と思った。ちなみにこれは博物館に保存されてる蒸気機関車のクランク部分です。

ガキのオレがSLを前にしたら、舞い上がっちゃってこんなトリミングなんて絶対できなかったろう。なんというか、この写真は過去の呪縛から解放してくれた記念すべきものでして、この写真から明らかに何かが変わった。

「わーいSLだSLだ、かっこいいな」という気持だからこそ撮れる写真もあれば、冷静な気持だからこそ撮れる写真もあるんだね。写真て奥が深いなあ。なんてことを思ったもんだ。

このあたりから、なんとなく写真というものの特性が見えてきた。例えば、普段誰もが素通りしている風景も、写真として切り取ることで客観的に見てもらえるようになる、ということがわかってくる。

そうすると、きみはそう撮るか。オレならこう撮る。といった具合にお互いの作品を見せあう“写真対決”を楽しめるようになってきた。またの名を美意識対決。渾身の一枚をヒトサマにお見せして「いいね」と言われれば芸術に、「なんじゃこりゃ」と言われれば自己満足となる。

「なるほどー、このモチーフをこう撮るとはね。参った!」と言わせたい。だから撮っていた。オレは褒められて伸びるタイプなので、相手をいかに驚かすかで日々精進していた。

やれナンバーワンよりオンリーワンとか言われる昨今ですが、勝ち負けって絶対あると思う。必要だと思う。ただ、クリエイティブに関しては、自分にしか表現できないものを提示できれば誰でも一番になれる。そんなこともこの時学んだ。

どうでもいいけど、最近の学生には「自分は褒められて伸びるタイプなのに全然褒めてくれない」と言って逆切れする奴がいるのでコワい。褒めてほしけりゃ褒められるモン作って来い、と思うオレは間違っているのだろうか。

さて、人生の半分まで検証したところで『なぜオレは写真を撮るのか』ですが、年齢を重ねれば重ねるほど、いろんな理由がフルヘッヘンドして(by杉田玄白)くるので、結局のところまだわかんないです、ということがわかった。でも、あてもなく撮るより、なにかしら目的をもって撮影した方がいい写真が撮れることが多いようだ。

あ、こんなところに板塀の美しい坂道が。となったときに、出来上がった写真を見せる相手の顔を想像しながらシャッターを切るか否かで、写真の出来が違ってくるのは本当に不思議だ。こういう化学っぽくないところも写真の魅力なんだと思う。

そんな魅力に惹かれて、人は写真を撮るのである。と、今週のところは言っておこう。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。
< http://www.c-channel.com/c00563/
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■伊豆高原へいらっしゃい[17]
天体望遠鏡を買い換えてみた

松林あつし
< https://bn.dgcr.com/archives/20080626140100.html
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このところ、雨ばかりです。梅雨なのでしかたないのですが、今年は4月から天候不順で、ほとんど星を眺める機会がありませんでした。ただ、星の観測ができたとしても、以前書いたとおり、「極軸合わせ」がうまく行かないことには観測の醍醐味もほとんど味わえません。極軸合わせとは、北極星を基準として赤道義の軸を正確に合わせる行為で、特に天体写真を撮る場合には観測前には必ず行わなければならないのです。

しかし、中途半端なベランダウオッチャーである僕は、自宅で北極星が見えないからといって、遠征にまで出かけたりしないのです。あくまでベランダで、という前提で始めた観測ですので、なんとかそこはこだわっていました……というより、現地まで重たい望遠鏡を運ぶのが単に億劫なだけなのですが……。

北極星の見えないベランダでも極軸を合わせる方法はありますが、非常に手間のかかる作業で、かなりの熟練を要します。毎回星を見る度に、1時間も2時間もかけてその作業をする気にもなれず……結局、勘を頼りに極軸合わせをしたことにして、毎回納得のいかない観測結果にうんざりしていたのです……今までは。

そういったフラストレーションが先日一気に高まり、気がついたら望遠鏡の「買い換えモード」はいっていました。

アマチュア天文家の多くは、観測対象に合わせて、望遠鏡や赤道儀を何種類も持っていたりします。しかし、そのためには何百万円もの投資が必要で、結果多くの天文家は「機材地獄」に陥っているそうです。

機材は上を見ればキリがありません。しかし、ネットで検索すると、まるで図鑑に載っているうような綺麗な天体写真を撮られている方もいます。そのような写真を目の当たりにすると、よりよい機材でよりよい写真を撮りたい、という願望が抑えられなくなるんでしょうね。もちろん、そのような方々は、勉強も怠らないわけで、高度な専門知識があって初めてハイクオリティな機材を扱えるのだと思います。

僕も当然、良い機材がほしいという願望はありますが、かといって何百万円もの投資はできません。ですので、新しい望遠鏡を買いたい、と思った時はどうしても「買い換え」になってしまうのです。

今までの古い望遠鏡を売る方法は、とりあえず二つ。一つは望遠鏡ショップに下取りしてもらう方法、二つめはネットオークションに出す方法です。

まず、下取り価格をざっと出してもらいました。すると、購入金額のなんと1/5ほどでしか買い取ってくれない、ということでこの方法は却下。結局いくらになるかはわかりませんでしたが、オークションに出すことにしました。幸いにも(?)僕はベランダ専門の観測者です。ですので、望遠鏡は非常に綺麗な状態を保っていました。

結果、落札価格は購入価格の半額弱で、下取りをお願いした場合に比べて約二倍の値が付きました。今の時代、下取りというシステムはあまり意味を持たなくなって来ているのかもしれませんね。

新しい望遠鏡としての条件は以下の通りです。
1)北極星が見えなくても方角と軸合わせができる。
2)観測準備が短時間で済む。
3)自動導入装置が付いている。
4)GPSが付いている。

このような条件を満たす望遠鏡として目を付けたのが、Meade社のLX90GPS-20という望遠鏡です。
< http://www.nexyzbb.ne.jp/%7Epeppy_atsushi/digi_cre/08_06_23_boenkyo.html
>

なんだかズングリムックリですね。商品名最後の20というのは「20cm径」という意味で、今まで使っていたビクセンED81Sの「8.1cm径」に比べるとかなりの口径アップです。しかし、実は望遠鏡の種類が全く違うのです。

望遠鏡は大きく分けると三種類に分かれます。
1)屈折式望遠鏡(レンズで光を屈折させ、接眼レンズへ集約する)
2)反射式望遠鏡(凹面鏡に光を反射させ、鏡筒側面の穴より接眼レンズへ集
  約する)
3)カセグレン式望遠鏡(凹面鏡、凸面鏡で光を反射し、中央の穴より接眼レ
  ンズへ集約する)
※厳密にはもっと多くの種類がありますが、代表的なものに絞りました。

それで、LX90シリーズはと言うと、カセグレン式望遠鏡に属します。つまり二枚の反射鏡を使って星像を拡大するという方法ですね。レンズを使う屈折式に比べて、低価格で大口径を得られ、倍率を期待できるので惑星などの観測に向いていると言われています。

しかしその分デメリットもあるのですが……(Meade社のLX90はシュミット・カセグレンと呼ばれ、シュミカセと短縮されることもあります)反射望遠鏡は一枚の鏡で反射させますが、シュミカセは二枚の鏡に反射させるので、その分短い筒で長い焦点距離を得られます。このズングリムックリな体型はそういった理由からなんですね。

ここでLX90GPS-20のメリットとデメリットを紹介します。

◎メリット
1)赤道儀式と違い、経緯台式なので、回転軸が単純でわかりやすい。(赤道
  儀オプションもある)
2)各種センサー、GPS付きなので、三脚の向きにかかわらず、自動で方位、角
  度、水平を合わせてくれる。
3)自動導入(オートスター)付きなので、コントローラーから天体名を選ぶ
  だけで、望遠鏡がその方向を向いてくれる。
4)パーツがオールインワンなので、三脚に望遠鏡を乗せるだけで、組み立て
  完了。

◎デメリット
1)30分〜1時間かけて、外気に慣らさないと、筒内の対流が原因でまともな星
  像を得られない。
2)光軸がずれると調整が大変?
3)経緯台式は赤道儀式に比べて追尾精度が落ちる。
4)駆動モーターの音がうるさい。
5)屈折式に比べて、星像がシャープでない。

まず、赤道儀と経緯台の違いを説明しますと、赤道儀は北極星を中心とした「天球の回転」に軸を合わせているので、極軸さえ正確に合わせれば、一軸のモーターだけで星を追尾できます。しかし、経緯台の軸は「地表の水平」を基準としているので、天球の回転とは根本的に異なる軸で回転しています。なので、上下左右の二軸モーターを常に動かしながら、コンピュータで無理矢理天球の動きに合わせているのです。その分経緯台は、赤道儀に比べて追尾精度が落ちます。

ただ、赤道儀は傾いた状態で望遠鏡を動かすので、直感的に動く方向を把握しづらいのに対し、経緯台は上下左右という動きだけなので、理解しやすいのです(僕は3Dソフトで作品を作っていますが、その際に軸のモードを意識します。望遠鏡の動きは3Dの作業をワールド軸で行うのか、ローカル軸で行うのかという違いと似ていますね)

実際、梅雨の晴れ間に月と木星を観測してみました。その流れを順に追ってみます。

まず、三脚を広げます。そこにファインダーの軸を合わせた状態のLX90GPS-20を載せ、ネジで留めます。組み立てはこれで完了。次にオートスターの電源を入れると、自動で方位と水平を合わせてくれます。続いて「アライメント」という作業に入りますが、これは望遠鏡の導入精度を上げるためのもので、現在見える「基準星」を二個導入し、その都度望遠鏡が星を捉えるよう、微調整します。基準星も望遠鏡が自動で選んでくれるので、作業としてはちゃんと星が望遠鏡内に見えているかどうかを確認し、ずれていれば微調整するぐらいです。

アライメント自体は数分で終了します。これで準備OK……モータードライブによる星の追尾もすでに始まっています。後は、コントローラーで観測したい天体名を選んでGo Toボタンを押すだけです。

以上の作業はわずか数分で終わるので、今までのED81Sに比べると、気が抜けるほど準備は簡単になりました。それに望遠鏡が自動で星を探す様は、まるでミニチュア天文台を操作しているような感覚で、気持ちいいです(モーター音がかなりするので、深夜の観測は近所迷惑かも)。

では、今まで使っていたED81Sの場合、観測までの作業はどうかと言いますと……
1)三脚を準備し、赤道儀を乗せる。
2)赤道儀の極軸が正確に北を向くよう、三脚を動かして調整。
4)ファインダー軸を合わせた状態の望遠鏡を載せる。
5)バランスウエイト軸をはめ込み、ウエイトを取り付け。
6)バッテリーやコントローラーの取り付け。
7)観測したい天体をファインダーを覗きながら探し、望遠鏡内へ導入。
8)しばらくその天体を観測し、赤道儀の追尾が正確かどうか確かめる。
9)星がずれて行く場合は、何度も三脚を微調整し、星が視野から動かなくな
  るまで繰り返す。

とまあ、大変な作業をしなければならないわけです。場合によっては、観測を始めるまで40〜50分かかる場合もあります。さらにほとんどの場合、北極星が見えない状況では追尾精度は極めて悪く、あっという間に星は視野から外れるのです。

それに比べて、LX90GPS-20は数分の作業でそれらのすべてをやってくれます。「赤道儀で手動合わせをしなければ勉強にならない」と言う人もいますが、機材の使い方を習得するのが目的ではなく、星の観測が目的なわけですから、便利な利器がある以上、それを使わない手はありません。

さて、観測結果ですが、写真は月の直焦点撮影と木星の拡大撮影です。
< http://www.nexyzbb.ne.jp/%7Epeppy_atsushi/digi_cre/08_06_23_moon.html
>

月は薄雲がかかっていた割には、空気の揺らぎも少なく綺麗に撮れたのではないでしょうか。木星は空気の揺らぎも大きく、ピントも合わなかったので残念な結果ですが、よく見ると微妙に縞模様は確認できます。また、追尾精度ですが、星を捉えて一時間半ほど放置しましたが、ずれは月の半径ほどの角度でした。高精度のアライメントを行えば、もっと追尾精度は上がるでしょう(北向きの観測では精度は著しく落ちるらしいのですが)。

梅雨が明けたら、本格的な観測を始めるつもりです。目指すは星雲、星団、銀河系外銀河……観測準備が単純化されたことで、遠征も視野に入れていきたいと思います(腰痛との戦いになりそうですが)。

余談ですが、以下の「Mitaka」のサイトを是非ご覧ください(三鷹国立天文台の関連サイトです)。
< http://4d2u.nao.ac.jp/html/program/mitaka/
>

星の観測は、ともすれば天球に貼り付けられた星を、平面的に捉えてしまいがちですが、星々は宇宙空間に壮大なスケールで立体配置されています。ここでは、その大きさと距離と立体感を感覚的に体感できるソフトを無料で配布しています。日本から飛び立ち、月の軌道、太陽系、銀河、銀河団、宇宙の果てまで実際のスケールとそのリアルさを体感しながら、一気に宇宙旅行ができます。ちょっとした天体シミュレーションソフトですが、これほどのものを無料で配布しているのは驚きです。しかも、オープンソースですので、ユーザーによるMac版に改変されたものもあるようです。

長雨のこの季節、せめてバーチャルな宇宙旅行を楽しんでみてはいかがでしょうか。

【まつばやし・あつし】イラストレーター・CGクリエイター
< http://www.atsushi-m.com/
>
pine4980@art.email.ne.jp

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■編集後記(6/26)

・松林さんおすすめの、4次元デジタル宇宙ビューワー「Mitaka」だが、あちゃー、またもやMacintoshは蚊帳の外かい(泣)。/昨夜、わが家の犬(ハニー号)が不審な動きをみせた。いつもだいたい18時半か19時にはテラスから家の中に入れ、仕事部屋の床で寝かせているのだが、20時前後から、立ち上がってわたしの方を見ながらしきりに何かを訴えるように小声で鳴く。あまりしつこいので、散歩に連れ出して長いこと外を歩いた。おかげで「レッドカーペット」の一部を見逃した。帰って来て、一時は静かだったが22時ごろからまた始まった。なにかいつもと違うようすなので、不安になった妻は一人暮らししている息子に電話して安否を確認したりしている。ハニー号は、小さい頃もっとも乱暴に遊んでくれた息子が大好きなのだ。たまに息子がわが家に来る時は、5分前には察知しているようすで、集合住宅の外の扉が開く音でもう立ち上がって尻尾を振っている。散歩に出た時、息子のと同じクルマを見ると反応する。そんなわけで、もしやと感じた母親であったが、元気な返答があったようだ。しかし、犬の方はいっこうに止まない不安そうなようす。もしや大地震の予知かも。しかたなく、寝室の方に移動させてみんな揃って寝ることにしたので、23時ごろにはおさまって静かになった。あれはなんだったのか。/仕事しているとき遠くから聞こえる足音で、あれはうちの娘だとわかるわたしである。/ムクドリはある日を境にピタッと来襲しなくなったが、再び昨日から姿を見せた。今朝は妻の叫び声に飛んで行ったら、テラスや庭から飛び上がるムクドリの姿が。五線紙のような電線に、音符のようにとまってこっちを伺うムクドリが、なんと15羽を数えたのであった。あ?あ、また始まったのかい。シーズン終了と思っていたのに。(柴田)

・JPEGかPDFか、それが問題だ。検索のことを考えると透明テキストつきPDF。欠点は容量が大きくなる、OCRに時間がかかる、OCRの精度が完璧ではない。OCRはバックグラウンドでさせても良い。検索の必要なPDFは果たしてどれだけあるのだろうか。活用させるためには検索できるにこしたことはないが。ブックにしてしまうと開くまでに時間がかかる。スキャン時の設定で数十枚ごと、一枚ごとに分けることは可能。パソコンで見るのならPDFで良い。携帯で見るなら文字の大きな単行本サイズぐらいまでか。PSPなどPDFリーダーのついていないもので見る場合だとJPEGにしないといけない。一括で変更してくれるソフトはある。OCRしたPDFからテキスト書き出しして見る方法はあるが、どちらもワンクッションが必要。別記するが良い携帯型ビューアーさえあればいいんだよなぁ。ScanSnap付属ソフトウェアでは、JPEGからOCRできない。できるソフトを買えばいいだけだが、付属を使わないのはもったいない気もする。Mac版だとiPhotoの親和性が素晴らしい。JPEGでスキャンしたものは後からでも追加できる。ScanSnap ManagerでPDFとしてスキャンすると、ボタンひとつでiPhotoに登録できてしまうが、後で追加しようとしても無理(できるなら教えて?)。この機能は素晴らしいが、やはり微妙に時間はかかる。取り込みひとくくりごとにイベント化するので(ブックのようにまとまる。イベントごとに並べられる)、何も考えずにスキャンというのは難しそう。後から変更できるかどうか試してみなければ。そしてたぶん元PDFは透明テキスト化のため残しておく必要がある。うーん。iPhotoからもPDFにできるがこれは付属ソフトではOCRできない。インデックス化(イベントごとにサムネイル化。プリクラみたいに並ぶ)できるのがとってもいい?と思いつつ、それらをPDFにするにしろ紙にするにしろ、本末転倒である。iPhotoみたいにPDFを管理したいなら「Yep」はあるし、OS X Leopardには「Cover Flow」機能があるからさほど困らないのかもしれない。うーん、うーん、画像の中にある文字を認識する「evernote」の技術がもっと発展しないかなぁ。(hammer.mule)
< http://www.apple.com/jp/macosx/features/finder.html
>  Cover Flow
< http://www.thekip.com/yep/index.html
>  Yep
< http://www.apple.com/jp/ilife/iphoto/
>  上限25万枚
< http://www.evernote.com/
>  日本語はまだ無理