[2478] 昔の○○○とヨリを戻すの巻

投稿:  著者:


<これってもしかして、CG?>

■わが逃走[27]
 昔の○○○とヨリを戻すの巻
 齋藤 浩

■伊豆高原へいらっしゃい[20]
 人体は最後に残された聖域
 松林あつし

■武&山根の展覧会レビュー お知らせ編
 NADiff a/p/a/r/t Fair『山根康弘と武盾一郎の仕事』
 武盾一郎&山根康弘

■公募案内
 ASIAGRAPH 2008 in tokyo

---PR-----------------------------------------------------------------
〆切間近!空想デザイン実現化計画 D3 http://www.d3-project.jp/dgcr/
●8/24〆切【住まいフォト】自慢空間フォトコンテスト ※10名様 総額10万円
  → 可愛い/マニアック/癒し/和/ハイテク、5つのテーマで募集中
●8/31〆切【建築&インテリア】理想の部屋コンテスト
  → マンションのビフォーアフター。大賞2名様に50万円&実際に施工!
-----------------------------------------------------------------PR---


■わが逃走[27]
昔の◯◯◯とヨリを戻すの巻

齋藤 浩
< https://bn.dgcr.com/archives/20080821140400.html
>
───────────────────────────────────
浮気をした。というか、昔の女とヨリが戻ったというか。と言っても相手は人間ではない。カメラである。デジタル時代に突入して以来、一眼レフはずっとEOSを使っているのだが、まさかここへ来てαとヨリを戻すことになろうとは。まったく人生とは奥が深いものよ。と思う今日このごろな俺だ。

1●出会い

αと出会ったのは忘れもしない、高校2年の夏。友人がバイトして買ったというミノルタα7000(35mm-70mmズームレンズ付)を触らせてもらったときだ。驚愕だった。絞り優先AE、シャッター優先AEはもちろん、プログラムAEもついている。が、そんなものはもう当たり前か。

なんといっても驚くべきことに、ピントが自動で合うのである!!! そんなことしたら、カメラマンは構図を決めるだけじゃないか! なんじゃそりゃ!ピントまで機械任せになったらこの世はおしまいだね。と思ってシャッターボタンを半押ししてみると、ウィーンというモーター音とともに、すげえ! ホントにピントが合った!!!

うわっ、これほしい! いくら? うわー、買えねえ!!! その頃すでに巷で話題になっていたα7000だが、実際に触ってみて、カメラという道具の行き着くところ、完成形が見えたような気がした。

男は“新型メカ”に弱い。私もそんな少年だった。自力での購入はさっさと諦め、なんとか父に買わせる訳にはいかないものかと、いろいろ考えた。その日の夜、父に「α7000というカメラはスゴすぎる。買いなさい」と言ってみたところ、「それならじいさんが持ってるよ。でも、操作が難しいといってもてあましているみたいだから、こんどもらってこよう」

スゴイ! 人生の運を全て使い果たしたのではないか? そんな訳で17歳の私は全く苦労することもなく、あっさりとその新型メカ『α7000』を使える身分になったのである。

そして、その後30代半ばまで使い続けたのだった。このカメラからは多くのことを学んだ。そして、デザインの道を歩む者にとってこのα7000というカメラは、ものすごく使いやすいカメラだった。

第一印象で「カメラマンに残された自由は、構図を決めることだけになってしまった!」とネガティブに捉えたオレだったが、使い始めるとすぐ、構図を決めることに思い切り集中できることのスゴさを知った。「間違いのない写真を撮る」ことではなく、「伝えたいことを伝えるための絵作り」の大切さを、このカメラから学んだのである。

2●破局

ところが。世の中の一眼レフが続々とデジタル化されはじめた2000年代初頭、待てど暮らせどαデジタルは発売されない。

おかしい! そんなはずはない!! αは常に最先端じゃなければいけないのだ。AF一眼界をリードし続けたブランドが、なぜここで遅れをとるのか。……やっぱ不景気だからかねぃ。そう、この頃の世の中は、どうしようもない程景気が悪かったのだ。そうこうしているうちに、コニカとミノルタの合併が発表される。……やっぱ不景気だからだねぃ。

αデジタルが発表されないのは、きっとこのごたごたが原因なんだろうな。開発者もそれどころじゃないんだ。しょぼーん。そうこうしているうちに、仕事でどうしても高性能なデジタルカメラが必要になってきた。

ちょうどそのタイミングで、あの伝説の価格破壊デジタル一眼レフ『EOS Kiss DIGITAL』が発表されたのだ。切羽詰まってた私はここでミノルタαとの縁を切り、キヤノンEOSへと鞍替えしたのだった。

3●新生活

EOSは、言ってみれば優等生なカメラだ。現在までに3台買い替えて、今はEOS 40Dを使っている。

特に不満はない。挙げるとすれば、初期不良にあたりやすいところくらいかな。安くて質の高いレンズが各社から発売されており、レンズ選びの幅が広い。これはとてもイイことだ。オプションも充実している。

そんな訳で、仕事の写真や、自主制作ポスターなどの素材写真はほとんどEOSで撮るようになった。その間αは大変なことになっていた。キヤノン、ニコンに遅れをとるもなんとかコニカミノルタからα7 DIGITALが発売されたものの、コニカミノルタはすぐにカメラ事業からの撤退を発表、αブランドはそっくりそのままソニーへ譲渡されることになったのだった。

4●再会

そして5年あまりが過ぎて、今年の夏だ。ひょんなことから再びαに興味をもちはじめた私は、某カメラ量販店に行ってソニー製のαをいじくってみたのだ。第一印象はあまり良くなかった。清楚だった昔の女・αは、なんかケバくなっていた。

わかりやすく言えば、シックな黒を基調とした落ち着いたデザインだった光学機器・ミノルタαに比べ、家電っぽいのだ。脇に斜めに「14.2MEGA PIXEL」とか書いてあったりしてダサイ。当たり前だが、おでこ(ペンタプリズム部)にデカく『SONY』書かれていることにも違和感を覚える。

ソニーは家電やオーディオでは一流ブランドだが、カメラでは新参者なのだから仕方ないといえば仕方ないが。まあ『Canon』ロゴの入ったアンプがあったら、同じように感じるのだろうから。とはいえ慣れは必要だな。

で、α350というモデルを手にとってみた。小さいのにしっかりホールドできる。形状はかなり良い。しかも軽い。EOSのエントリーモデルだった Kiss Digital Xは、小さいけどホールドしにくかったので、わざわざグリップを付けて使っていたのだが、そんなことをしなくてもよさそうだ。

操作系統も良い。勘でほとんどの操作ができた。銀塩αを長年使っていたからなのかもしれないが、EOSよりも体で理解しやすい印象だ。ファインダーも見やすい。さすがに銀塩35mmのものと比べれば小さいが、充分実用的。

しかも、驚いたのがライブビュー機能だ。正直、私は一眼レフにライブビューなんて……と思っていた。ところが、実際使ってみるとスゲー楽しい。何故か??

このα350の液晶モニタはマルチアングル機能とやらが付いていて、かなり自由に角度が変えられるのだ。カメラを高く持ち上げて下からモニタを見れば、塀の向こうの風景もきちんとフォーカシングできるし、普通に首から下げた状態でモニタを90°傾ければ、ウエストレベルカメラとして使える! すげえ!これって二眼レフの感覚で撮影できるってことだ。しかもデジタル1460万画素。αマウントは健在だからミノルタαレンズも使えるし。αレンズ、オレ持ってるし。

で、値段いくら? 欲しい!! そこで衝動買いをしたかというと、しませんでした。1ヶ月ほど悩みつつ、ネットでいろんな情報を調べてみたのです。するとどうでしょう、α350の平均価格はどんどん下がっているではありませんか! ついにレンズキットが7万円を切った!と思ったら、1万円キャッシュバックキャンペーンが始まったのだー!! これは実質5万円台ってことです。

メインで使うカメラはEOS40Dだけど、EOSとは違った使い方できそうだし。こっちの方が画素数、上だし。なんか言い訳っぽい独り言が増えてきたところで、ネットでポチッと買ってしまいましたとさ。

5●復縁

で、α350が手元に届いた。早速いじくってみた。形状は文句なしなんだけど、やはりグラフィックが少々やりすぎな感じだ。レンズキャップを付けた状態で前からると、「SONY」「α350」「α」「α」「14.2MEGA PIXEL」って、うるさすぎだー。なので、「SONY」と「α」だけを残して黒テープで覆ってみた。お。なかなか美しい。

ストラップは派手すぎる感じだったので、以前購入したツァイスの双眼鏡用のものに変更した。これで赤い部分はαロゴとマウントのラインだけで、あとは全て無彩色。なかなかかっこいい。ちょっとしたことだけど、こうやって自分好みに仕上げると俄然愛着がわいてくる。
< http://www.dgcr.com/kiji/20080821/fig1 >

撮ってみた。自然な描写。アップにしてもなかなかジャギが出ない(=解像度が高いってことか)。もはや画素数至上主義な世の中でもないだろうが、確かにすごい。写真1枚の情報量が40MBオーバーというのも、ちょっと前の普及機ではありえなかった。

えー、私はその昔デジタル画像処理創成期の頃(90年代初頭)、イギリスはクオンテル社の『グラフィック・ペイントボックス』を使って仕事をしていました。その当時B1ポスター用に必要な画像の大きさが、だいたい40MB程度でした。それをデータ入稿なんかまだできなかったもので、4インチ×5インチのポジに出力して入稿したもんです。

そんな訳で、納得のいくクオリティでポスターが作れる自分なりの基準が、40 MBなのです。シャッターを押すだけで40MBの画像が得られる機械をお手頃価格で手に入る時代になってしまったんですね。ちなみにその当時、『グラフィック・ペイントボックス』は1億5000万円もしたのです。21世紀ってすごい。ちなみに、先述したウエストレベル機として使うと、こんな感じになります。
< http://www.dgcr.com/kiji/20080821/fig2 >

銀塩αで使っていた望遠ズームをつけてみた。このカメラのスゴいところは、ボディ内に手ぶれ補正機能がついているところだ。これにより、昔のレンズも全部、手ぶれ補正レンズになっちゃう。

α350のセンサーはAPS-Cサイズなので、35mm換算で焦点距離が1.5倍になる。つまり、300mmの望遠レンズは、450mmの超望遠レンズになっちゃうのだ。向かいの家の瓦屋根を撮ってみると、瓦を止めてある針金までぶれずに撮れた。手持ちなのに。
< http://www.dgcr.com/kiji/20080821/fig3 >

そういった訳で、αかなりイイかも。初期不良もなかったし。正直、クヤシイです。違和感を覚えながらもここ数年、私はEOSのためにどれだけ尽くしてきたことか。それ即ち、どれだけEOS用レンズやらアクセサリーやらを増やしていったか。今さら後戻りはできない程度の出費と言えましょう。

でも、ソニーαからは、近日中に35mmフルサイズのフラッグシップモデルが登場するとの噂も聞きます。フルサイズってことは、銀塩αで使っていたレンズが同じ画角で使えるってことだ。15年以上も愛用していた標準ズーム28-85も、まだまだ使えることになる。中古市場にはミノルタ製αレンズも豊富にあるし。

とはいえ、いきなり全てのEOSを売っぱらってαのシステムを揃え直すのも無駄が多いよなあ。甲斐性さえあれば、二股かける人生もいいよなあ。などと、一般人からはどうでもいいと思われることで悩み続ける齋藤浩なのであった。

6●これから

仕事はEOSデジタル、趣味は銀塩BESSAと心に決めていた俺様だったが、ここへ来てα愛が再び目覚めるとは、人生わからんね。夏休みもまだとってないことだし、α片手に、撮影旅行なんかに行きたいです。

近日中にウエストレベル・ファインダーで撮影したワビサビのある写真を紹介できたらいいなあ。と思う今日このごろ。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。
< http://www.c-channel.com/c00563/
>

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■伊豆高原へいらっしゃい[20]
人体は最後に残された聖域

松林あつし
< https://bn.dgcr.com/archives/20080821140300.html
>
───────────────────────────────────
お盆は実家に帰ることなく、ヒマな毎日を過ごしていました。それで、以前見ようと思っていたのに見逃してしまったという映画を何本か見たのですが、その中に「ベオウルフ」という作品がありました。作品名だけは知っていましたが、あまり興味がなかったので、そのまま忘れてしまっていたんですね。ツタヤではすでに旧作に流れていました。

完全に暇つぶしとして見始めたのですが、5分後……なんか変……なんか気持ち悪い……「これってもしかして、CG?」

CGを生業としているにもかかわらず、「ベオウルフ」がオールCGのアニメーションムービーだと知らなかったのはお恥ずかしい限りです。しかし、中世を題材とした実写版ファンタジーと思って見ていたのに、3DCGだったと気がついた事で、違う意味での興味が沸いてきました。「この映画、どこまで人体のリアルさを表現できるんだろう」

もちろん映画の善し悪しは、CGのリアルさとは別問題であるのですが、ヘタなCGでせっかくの映画が台無し、ということも充分あり得ます。ですので、今回はあえてそのCGのリアリティに絞ってお話したいと思います。

そもそも人体のリアルさに興味を持ったのは、現在の映画において建物、風景、動物、自然現象、機械類、クリーチャー、エフェクトの面では、ほぼ実写と見間違うほどの完成度を実現しているにもかかわらず、人物に関しては、どうしても本物のリアルさを表現できないと感じていたからです。これは何故なのでしょうか。

「ディープインパクト」で破壊されるビル群とリアルな巨大津波に驚き、「ジュラシックパーク」で本物の(?)恐竜の世界に迷い込み、「スパイダーマン」で宙を舞うヒーローを目撃し、「ナルニア国物語」で喋るライオンと遭遇しました。しかし、未だかつて完ぺきなバーチャルアクターと出会っていません。人体を3Dで表現するとはそれほどまでに難しいものなのでしょうか。

巷にはフォトリアルな人体の作成というTipsが溢れています。我々は、市販の安価なソフトでも時間をかければある程度リアルな人体を作ることができます。なので、ピクサーやソニー・ピクチャーズ・イメージワークスの手にかかれば、実在の人物と見分けの付かないほどリアルな3DCGなど簡単にできるのではないか……そう思いがちですが、どうもそうはいかないようです。

「ベオウルフ」を見て「何か気持ち悪い」と感じたと書きましたが、何故そう思ったのか……よ〜く考えてみました。そして、その原因が表情の淡泊さと皮膚質の違和感であると解ったのです。それは具体的にはどういう事なのか……その前に、映画を見ていない方のために、「ベオウルフ」についてちょっと解説します。

●心の動きが表情に出ないフォトリアル3Dムービー

ロバート・ゼメキスが監督を務めた、2007年公開のアメリカ映画。ストーリーは8世紀頃のデンマークの叙事詩を題材としており、今まで実写で何度も映画化されている。今回の「ベオウルフ/呪われし勇者」はどちらかと言えば映画そのものの評価より、フル3Dで著名な俳優が登場するという部分で話題になっている。出演者(?)としては、アンソニー・ホプキンス、アンジェリーナ・ジョリー、ジョン・マルコビッチなどが実際の動きと音声を担当し、リアルなバーチャルアクターとして登場する。ウィキペディアの情報によると、制作費$150,000,000で興行収入$104,861,000という事で、かなりの赤字を出した模様。

ロバート・ゼメキス監督の作品としては他に、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」、「フォレストガンプ」、「コンタクト」、「ポーラー・エクスプレス」などが挙げられる。CG作品としては他に制作総指揮を務めた「モンスター・ハウス」がある。

ロバート・ゼメキス監督は、ここ3作品ほどオール3Dによる映像表現にこだわっているようです。その理由として、背景やモンスターだけをCGで作成する限りは、俳優との合成時に違和感が出てしまう、という事らしいのですが、それにしても実験的要素が強い作品にしては、160億円とは思い切った予算を取ったものです(その多くは俳優の出演料だと思いますが)。

実験的作品と位置づける訳は、その制作過程における試行錯誤の多さです。とにかくこの作品のこだわりは、フォトリアルな俳優の表現に尽きます。ですので、試行錯誤の多くも、そのリアルさを追求する事に費やされています。服の質感、動きはもちろんの事、髪の毛、筋肉、分泌物、表情、感情に至るまですべてにおいて妥協を許さない徹底したこだわりが見て取れます。

しかし、それでも「気持ち悪い」のです。何故でしょう。最大の要因は上記の「表情の淡泊さ」だと思うのです。3Dでキャラクターを動かす場合、今日の多くの作品はモーションキャプチャを使用します。そして、この「ベオウルフ」はモーションキャプチャのセンサーの数が尋常ではないのです。通常数十個あれば多い方だと思われるセンサーが、顔も含めて数百(通常は顔は手付けのフェイシャルアニメーションを使用する)……眉毛のちょっとした動きも逃さず捉えようとする試みです。

にもかかわらず、笑顔が笑っていない、鬼気迫る怒りが伝わってこない、微妙な心の動きが表情に表れない……これはこの作品に限らず、すべてのフォトリアル3Dの人体ムービーに当てはまります(今回は、「トイ・ストーリー」などのキャラクターものや、「アップルシード」、「エクスマキナ」に代表されるフル3Dジャパニメーションは除外しています)。

その理由も勝手に想像してみました。まず、大量のセンサーで細かな動きを捉えたとはいっても、人間の表情の多様さに比べるとまだまだ足りない……人間の表情は、30以上もの筋肉の動きの組み合わせで成り立っています。しかも、それは無意識に起こる内部からの動きですので、人が想像する以上に多様な形で表に現れます。さらに毛細血管の働きで、部分的に紅潮したり、血の気が引いたりしますし、皮膚は本来透明で、内部の血液や脂肪、筋肉によって、光の透過パターンも変わり、やつれて見えたり、健康的に見えたりもするのです。汗のかき方もスポーツの後の汗と、緊迫したシーンでの脂汗とでは全く違ってきます。

それに比べて、今までの3Dによる表情表現は、基本的に内部が空洞のポリゴンによる表面的な動きでしかありません。動きも筋肉によるものではなく、表面的にポイントをモーフィングさせただけの擬似的な動きなので、肉感としての表情が伝わりにくかったのです。皮膚もせいぜい透過マテリアルを適用したり、バンプマップで毛穴やシワを貼り付けただけ……汗に関してもやはり貼り付けられた汗、という感じは否めません。

しかし、本作はさらに踏み込んだリアリティの追求を行っています。まず、パフォーマンスキャプチャと呼ばれる一連のシステムを構築し、アクターが付けた顔のマーカーを細かく読み込み、内部の筋肉の動きをシミュレートすることで表面の皮膚の震えや盛り上がりまで表現できるようになったそうです。皮膚の内部での、光の拡散も計算されているとのこと……今まで空洞だったポリゴンやメッシュの内部に、生物学的要素が取り入れられ始めているのは事実のようです。

しかし、そこまでやっていながら、何故本物の人間に見えないのでしょうか。先に述べたように、キャプチャによる再現力の限界もあるとは思いますし、眼球の動きも大きな要素かと思います(眼球の動きもキャプチャできるシステムを作ったそうですが、やはり人間の動きとはかなり違うように感じました)。しかし、CG以外での要因も考えられるのではないかとふと思ったのです。つまり、制作側の問題ではなくアクター側の問題として……。

想像するに、演技者は大量のセンサーを顔や体に付けられた上、殺風景なスタジオの中で演技をしているものと思われます。そういう環境で細かな心理状態を表情に表せるものでしょうか。もちろん、今の撮影環境といえば、グリーンバックでの演技は当たり前、ヘタすれば最初から最後までグリーンバックで、映画の完成を見て初めて自分が何処で何をしていたか理解した、なんて話も良く聞きます。監督の指示と絵コンテだけで、さもそこに居るかのような演技を迫られるアクターも大変だとは思いますが、それができないとプロとしてやっていけないのでしょう。

しかし、顔や体に付けられたセンサーはまだ別な気がします。気が散って演技どころではないでしょう(それとも、何も付いていないという暗示を自分にかけられるほど鍛錬されているのでしょうか)僕だったら、顔が引きつってしまいます。その堅い表情がパフォーマンスキャプチャを通して、バーチャルアクターへと伝えられてしまうのではないかと思うのです。

●俳優が必要なくなるかもしれない

ただ、今回の「ベオウルフ」は興行的には失敗だったかもしれませんが、将来に向けての可能性と多くの問題を提示しているように思えます。可能性の部分では、近い将来バーチャルな手段を用いて「本物の人間」を表現できるようになるかもしれない……その際は現在のようにモーフやマップでの表面的なシミュレートではなく、血管や筋肉が感情によって変化する内部構造を持ち、モーションキャプチャも、リップシンクも必要ない、独自行動型バーチャルアクターとなっているかも知れません。

問題部分としては、俳優が必要なくなるかもしれないという危惧があります。実際、「バットマン」の制作過程でビルから飛び降りたバットマンが、着地後そのまま歩き出す……という1シーンがあったのですが、これをCGで表現するとアクターの立場が危うくなるという判断で、カットされたと聞いた覚えがあります。その後、ビルからの着地どころではなく、スパイダーマンは縦横無尽にビルの谷間を飛び回りました。もちろん彼らはバーチャルアクターです。面を被っているため、表情を考えなくて済んだ分、技術的ハードルが低く、結果、早く劇場に姿を現したという感じでしょうか。

さらに技術が進歩すれば、登場予定の女優が「最近太りすぎでクランクインまでにダイエットできないので、バーチャルアクトレスでお願いします」って契約も成り立つかもしれません。そうなると、演技も本人がやっているかどうか疑わしくなりますし、ましてクリエイターのプログラムに沿って自動で演技できるようになると、必要なのは俳優、女優のネームバリューのみで、本人不在のまま映画制作が進行する……ということにもなりかねません。

これは遠い未来像ではなく、CGと実写の境界線が曖昧になっている現状を見ると、比較的近い将来起こりうるのではないでしょうか。もちろん、「マトリックス」のように現実世界の原子構造から、あらゆる物理現象までバーチャルでシミュレートするのは非現実的ではありますが、少なくともスクリーンにおいては、現実とバーチャルの境目がなくなるのは確実だと思います。

その時、映画業界はどうなっているのか……見る側の感情移入はバーチャルでも変わらないのか……興味は尽きません。

【まつばやし・あつし】イラストレーター・CGクリエイター
http://www.atsushi-m.com/

pine4980@art.email.ne.jp

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■武&山根の展覧会レビュー お知らせ編
NADiff a/p/a/r/t Fair『山根康弘と武盾一郎の仕事』

武盾一郎&山根康弘
< https://bn.dgcr.com/archives/20080821140200.html
>
───────────────────────────────────
山:おはようございます!
武:おはよう! いやしかし、昨日も呑んでしまったな。。。っつーか、俺は寝たかったんだっ!
山:え? そうなん? 僕も寝たかったんやけどなあ。
武:そんじゃあ、早く寝ようぜ! 今、追い込みで忙しいんだから。
山:そうやな、おやすみなさい!
武:朝から寝るなっ!
山:え? そうなん?(再)
武:仕事だぞ、間に合わんぞっ!
山:うわ、やばい! それはやばい! さっそく告知や!
武:なんか、うまく告知になだれ込んだな(笑)。

●NADiff a/p/a/r/t でフェアやります!

NADiff a/p/a/r/t Fair『山根康弘と武盾一郎の仕事』
< http://swamp-publication.com/archives/2008/08/nadiff_fair.php
>
会期:2008年8月22日(金)〜9月23日(火・祝)12:00〜20:00 無休
会場:NADiff a/p/a/r/t(東京都渋谷区恵比寿1-18-4 1F TEL.03-3446-4977)
< http://www.nadiff.com/home.html
>

山:ナディッフでフェアです! 絵もあるよ〜。
武:コラボレーションアーティストブック『Questo e' non un libro(これは本ではない)・銀盤』と『公然藝術罪』がついに登場!
山:いやー、長かったですねー。出すまで。どんだけかかっとんねや。
武:いやー、時間かけてつくりましたよ。『公然藝術罪』は、な、なんとこのデジクリでのチャット1年半分のチャットレビューをアーティストブックに再構築した逸品です!
山:いやー、これ作るのにどんだけ呑まなあかんかったか。すごい量やで。
武:わはは! いや、マジで。デジクリチャットで呑んだ量、東京ドーム2杯分とか(笑)。
山:もしほんまにそうやったら。。。ちょっと誇りに思う(笑)。
武:デジクリに送ってもらいましょう、酒。
山:一生分の酒をください! 柴田酒造にお願い。
武:俺からもよろしくお願い申し上げます!
山:これやるために呑んでるようなもんですからね。僕の人生なんて(笑)。
武:っていうか、山根、製本間に合うんか?

●展覧会評

山:☆☆☆☆☆ 星5つ。とにかく見てくれ。まあ見とこう。
武:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆……(永遠につづく)。星∞(無限)。君を果てしなく遠くに連れてってあげる。

山:YouTubeでも告知してます!『武と山根のシンポジウム[11_時間軸とは何か?]』
< http://jp.youtube.com/watch?v=srjegR6eWnk
>
武:これはひどい(笑)。詳細はこっち観てね!
< http://swamp-publication.com/archives/2008/08/nadiff_fair.php
>

フェア期間中イベントがあります。

■山根康弘『LIVE PUBLICATION』
8月30日(土)〜31日(日)
ドローイング・ペインティング(内容)、コピーや印刷(複製・増殖)、製本(本というモノに変換する作業)、納品(流通物としての本)、という一連の過程をすべて公開して行なうことで、本を「モノ」として捉えるだけではなく「行為」として捉え直す作品です。

■エモリハルヒコ&NoB『エシバイ』
8月30日(土)午後より
「エシバイ」とは、シュールな冗談が全編を取り巻く、クールな生演奏付き現代版紙芝居です。昭和初期に流行したヒーロー物語や既存の昔話等ではなく、キャラクター・ストーリー・ミュージック・全てがオリジナルで構成されています。その内容はというと、「通学」「公園」「からあげ」「いか」等、皆様の生活に身近なものを取り上げながらも個性豊かだけど可愛らしくて憎めない主人公、キャラクターたちが笑いを誘い、驚きと喜びを呼ぶ独特の世界が広がっています。
SHOWの後半には、紙芝居からキャラクターが飛び出し踊りだす予想外の展開に、ステージの終わりにはお客様との間に親近感、一体感が生まれます。紙芝居の枠を超えた新しいパフォーマンスとして、子どもから大人まで楽しんで頂けます。「エシバイ」という新しいスタイルのパフォーマンスをギターの生演奏を聴きながら、どうぞどっぷりとハマって下さい。

■武盾一郎『ダラダライブ・ドローイング』
9月20日(土)〜21日(日)
武盾一郎が9月20日(仏滅)、21日(大安)の二日間に渡り、ダラダラとライブドローイングを行います。ノイズ音楽とのコラボレーションあり。

【武 盾一郎(たけ じゅんいちろう)/ 「会うと呑み屋」部 先輩】
take.junichiro@gmail.com
246表現者会議
< http://kaigi246.exblog.jp/
>

【山根康弘(やまね やすひろ)/「会うと呑み屋」部 部長】
yamane@swamp-publication.com
SWAMP-PUBLICATION
< http://swamp-publication.com/
>

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■公募案内
ASIAGRAPH 2008 in tokyo
応募締切は9月10日
< http://www.asiagraph.jp/invite2008/
>
< https://bn.dgcr.com/archives/20080821140100.html
>
───────────────────────────────────
ASIAGRAPHは、アジアにおけるCG分野の研究者とクリエイターが集まり、優れた学術発表や作品展示を行うアジアCGの祭典です。ASIAGRAPHでは、優秀なCG作家と作品が国を越えて交流し、新たな創造と産業がアジアから生れ出ることを目指し、作品展示の場として「CGアートギャラリー」を開催して参りました。今年度の作品公募では、昨年同様の第一・第二部門に加えて、JAIF(日ASEAN統合基金)の支援により、ASEAN+3 CGアートギャラリーの一環として第三・第四部門の公募展示を行います。全部門を国際公募とします。特に第三・第四部門は、この分野の人材育成を目標とし、学生とこどものみを対象にしています。

第一部門 ASIAGRAPH CGアート作品公募部門「CGアートギャラリー」
第二部門 ASIAGRAPH 動画作品公募部門「CGアニメーションシアター」
第三部門 ASEAN+3 学生(28歳以下)アニメーション作品公募部門
第四部門 ASEAN+3 こどもCGコンテスト部門

ASIAGRAPHの作品公募部門は、他の多くのコンペティションとは異なり、賞金がありません。アジア中から集まった優れた作品と一緒に、会場で上映、展示されることをもって作品に対する評価とします。また人材育成と同時に、制作ニーズとクリエイターのマッチングを目指し、入選発表後の一年間は、入選作品を様々な機会で展示、上映します。

また、選考の際に「アジア独自のCG表現」を積極的に評価します。ただし、これはモチーフやテーマが「アジア的」なものを指すのではなく、既存のアートや映像産業の評価対象にはなり得ないような作品や表現でも「独創的」で「視覚的な美しさ」を備えているならば独自に評価する、ということを意味します。どうぞ奮って御応募下さい。
【問い合わせ先】アジアグラフ2008事務局< info@asiagraph.jp >< mailto:info@asiagraph.jp >

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■編集後記(8/21)

・大阪のクリエイターKさんから、「私はこれで、劇的に静かになりました!です」というメールをもらった。Mirroed Drive Doors G4の純正ファンを専用静音ファンに付け替えたら、“三菱ふそうマック”と称するうるさいマックがすっかりおとなしくなったという。わたしのマックもうるさいのが悩みだったので、さっそく静音ファン「Stone Cold」を購入、夏休み3日目に工事にかかった。製品添付のマニュアル通りにやれば簡単のはずだが、電源ケーブルを抜き取るのに意外に手間取った。またドライブの電源ケーブルは、指が入りにくいところにしっかりはまっているので、なかなか抜けないが、ここは力技で。ファンの電源コネクターもロジックボードについているが、こっちはコツが必要で、えらく大変だった。ファン自体の取り替えはあっさり完了。で、どのくらい静かになったかというと、劇的にまでとはいかないが、満足できる結果だ。マックの筐体を開けると、ずいぶんホコリが溜まっていたので掃除機で吸い取る。周辺機器やコード類もホコリまみれであった。その翌日、きれいな環境でメール読んでたら、突然ツインモニターの片方の画面が全面赤化というおそるべき現象が発生した。冷や汗をかきながらトリセツをチェックしたら、画面調節機能の画面が正常に表示されれば故障ではないとのこと。前日マック本体からモニターのケーブルを外して、再び接続したときゆるんだのであろうと判断。ADCディスプレイポートには2つの変換アダプターを接続しているが、それをしっかり固定したら、モニターは再びきれいになった。アルミキーボードもOA掃除ペーパーで拭くだけでもと通りにきれいに。少なくとも半年に1回は、マック回りを大掃除しないといかんな。(柴田)

・紙ものの処分のためシュレッダーを買った。フェローズのM-450Csというもの。イケマンで半額以下の16,300円。それまでは手動のもので事足りていたが、資料や保存期間の過ぎた伝票類をまとめて処分するために買うことにした。出金伝票は領収書をホッチキスでとめているので、ホッチキスごとかけられるもの、音が静かなもの、細かく裁断できるもの、連続使用時間5分以上、安全性の高いものを重視。SOHOだし、本体の一辺が30cmぐらいのものをと考えていたが、最終的には外置き用ゴミ箱ぐらい(H568 × W350 × D265mm)になってしまった。15kgと重く大きいけれどキャスターつきなので簡単に移動でき、場所をとっている感じがしない。投入口近くのメッキ部分に手が触れると自動的に止まる仕組みになっているのは、小さな甥らがいるのでありがたい。センサーが壊れた時のことを考えるとしても、5mmぐらいの幅で、刃の部分まで7cm以上あるから安心ではある。シュレッダーに吸い込まれ、裁断されていく紙類を見ていると、なんだか心が洗われるような清々しさがある。すっきりし、心が軽くなっていくというか、紙に「お役目ご苦労様」と言いたくなるというか。裁断が細かく(2 × 8mm)、ゴミ箱部分がいっぱいになってきたけど上から押さえたら捨てなくてもまだまだ使える?、という手は使えない。おがくずみたいで、卵の梱包に使えそう。(hammer.mule)
< http://www.fellowes.co.jp/Products/Shredder_M-450Cs.html
>
機能紹介ムービー
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000VLHN3K/dgcrcom-22/
>
アマゾンで見る