[2543] 話題の「マインドマップ」を体験してみました

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<男というものはまったくろくでもない生きものである>

■買物王子のモノ語り[5]
 話題の「マインドマップ」を体験してみました
 石原 強

■デジアナ逆十字固め…[88]
 「カラーマネージメント関連最新動向」セミナー
 上原ゼンジ

■ショート・ストーリーのKUNI[49]
 目印
 やましたくにこ


■買物王子のモノ語り[5]
話題の「マインドマップ」を体験してみました

石原 強
< https://bn.dgcr.com/archives/20081127140300.html
>
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最近、「マインドマップ」という不思議な絵のようなものが気になっていました。お仕事のできる人が使っているとビジネス雑誌でも紹介されていて、さくさくと仕事がはかどったり、どんどん発想がひろがったりするらしい。気になりながらも「なんだか怪しいなあ」としばらく横目で見ていました。そんなある日、本屋さんで、マインドマップの解説本を手に取ってぱらぱらと見ていたら、以前から知った顔があってビックリしました。

松岡克政さんという、元デザイナーで現在は経営コンサルタント。ものづくりからビジネスに興味を持って、勤務していた日立製作所を退職、中小企業診断士の資格をとって独立しというちょっと変わった経歴の人。資格取得の勉強中にマインドマップに出会い、公認のインストラクターになったのだそうです。先日、オフィスに遊びに行った時「きっと役に立つよ」とマインドマップを薦められたのを思い出しました。

仕事の関係でタイミングが合わなかったことが一番ですが、講座の受講料も個人にはちょっとお高いので様子を見ていました。それでも、関連本を読んでもピンとこないし、実際にやってみなければ役に立つのか立たないのかもわかりません。講師も気心しれた相手なら、いろいろ聞いてみることも気軽にできそうです。時間が短くて、価格もリーズナブルに済むものを選んで、11月21日に行われた「戦略」+「マインドマップ」という講座に参加してきました。

講座は二部構成。まず基本的なマインドマップの書き方の講義を受けてから、それを戦略立案に応用するというものです。周りを見回すと、参加者は11人とこじんまりしていて、堅いテーマのためか平均年齢も役職も高そうな人が集まっていました。ちょっと場違いかなと思ったけれど、講師がうまく皆を盛り上げて進めるので、終始和気あいあいとした雰囲気でした。

まずは、マインドマップとはそもそも何なのか概要の説明です。イギリス人のトニー・ブザン氏が考案した手法で、脳の中で展開する思考をそのまま紙に描き出すことにより、発想力、理解力、記憶力など、考える力を高めるということです。これまで頭の使い方を解説した書籍がないということに興味を持ったのがきっかけで研究を始め、歴史上の天才と言われる人達のメモ、ノートに共通した特徴も参考にしながら導きだした手法なのだそうです。

概要の後はいよいよ実践です。「自分のハッピーなこと」というテーマからマインドマップを描いていきます。紙のど真ん中にゴールをイメージするイラストを描きます。次に、そこからブランチと呼ぶ「枝」を伸ばしてそこに言葉を埋めていきます。その後は、連想ゲームのように、外側に向かって描きます。なめらかにきれいに描くということも重要で、それによってより脳が刺激されるのだそうです。マインドマップの手法は明快で、思ったほど難しいものではありませんでした。

最近は日常的にPCを使って作業をするし、テキストを中心にすることが多いので、ペンを使ってカラフルに絵や文字を描く事自体が新鮮です。最初はなんとなく書いているうちに、だんだん夢中になって、時間があっという間に過ぎていきます。普段、発想が出ないと頭を抱えているのとは大違い。制限時間の5分なんて一瞬で終ってしまうので、もっと書くための時間が欲しいという思いにかられます。これは参加者全員に共通した感想のようでした。

第二部は、このマインドマップを使って「戦略」を学ぶという講義です。講師の古杉和美さんは、中小企業の経営戦略を専門とするコンサルタント。なんだか難しそうですが、「子供の運動会を観に行くために、仕事をどう進めるか」「どうやって出世するか」といった身近な話題から考えてみる課題でした。マインドマップの手法を使って書いてみると、思ったより多様な回答があることに気がつきます。

自分でマインドマップを描くだけでなく、お互いに描いたものを見せて話をする時間も必ずありました。思っていることを整理するのに役立つことが実感できるし、他の人の描いたものを見ると新しい発見がありました。普段は、年齢や立場、経験の差があるとうまくコミュニケーションできないこともありますが、共通した手法を使うことで、同じように考えるところ、違うところがはっきりと見えて、他人を早く理解できるように感じます。

普段、セミナーなどの講義を聞いているとすぐに眠くなってしまうのですが、寝る暇もないどころか、かなり楽しんで取り組むことができました。短時間でもひとつずつクリアしていく達成感があり、とても充実した時間を過せました。

終了後は、習慣になるように、毎日描くようにということでした。しかし、講座の中だと緊張感もあって、うまく進みますが、自分一人で集中力を高めるためには慣れも必要みたいです。思うように進まないこともしばしばあります。何事も形から入る私としては、まず色数の多いペンを手に入れたい。講座では6色のペンが配られましたが、きれいに描こうとすると、すぐに色が足りなくなってしまいます。しかも色は多いほうが、より発想も広がるということです。

早速、東急ハンズに新しいペンを探しに行きました。豊富に揃ったデザイン用品売り場で見つけたのは「スタビロ」というドイツのメーカーのペンです。細い五角形でオレンジと白のストライプの軸が特徴で、色のバリエーションは25色です。全色がコンパクトに収まるケースは職人の道具入れみたいで、持ち運びに便利。しかも、人前で広げたくなるようなスマートなデザイン、これを持ち歩いていたら上達も早そうです。

日頃から新しい企画立案などで、発想が重視される仕事に就いている人には、マインドマップはひとつのテクニックとして活かせそうです。発想は抜群という人にも、その発想を紙に落として整理したり、他人へのプレゼンテーションの場面で役立つということでした。「発想も情報整理もプレゼンも全て自信がある」という人は稀だと思うので、このテクニックは誰もが知っていて損はなさそうです。覚えて短期間ですが、私自身も役立つことがありました。

ただし、仕事中に他の人と違うことをするのにためらいのある人は使いにくいということです。他の人が肯定的に見てくれるとは限らないからです。オフィスで描いていたら、「何を遊んでいるんだ」と言われたという話も聞きました。逆に、仕事場では、できるだけ他人と違った発想をペンと紙を使って表現するデザイナーやクリエイターこそ、マインドマップに最もマッチした人種であり、このテクニックを用いることで、さらに自身の可能性を広げられるかもしれません。

・マインドマップ公式サイト(ブザン・ワールドワイド・ジャパン)
< http://www.mindmap.ne.jp/
>
公認インストラクターもいろんな人がいるので、チェックしてみてください。

・松岡克政さんのサイト「MATSUKATSU.com」
< http://www.matsukatsu.com/
>
講座は東京だけでなく大阪でも講座があるようなので興味のある方は是非。

・スタビロ ポイント88 ファイバーチップペン
< http://www.stabilo.jp/products/point88.html
>
発売からの30年以上のロングセラー

【いしはら・つよし】tsuyoshi@muddler.jp
手を使うのは刺激になって気分がいい。クリエイティブの仕事に関わっていたにも関わらず、そんな感覚を忘れかけていました。これから先、仕事の企画書もこのコラムもスラスラ書けるようになるといいんだけどな。
・ウェブアナ < http://www.muddler.jp/
>

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■デジアナ逆十字固め…[88]
「カラーマネージメント関連最新動向」セミナー

上原ゼンジ
< https://bn.dgcr.com/archives/20081127140200.html
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今回は、私が仕切りを担当しているJPCセミナーのお話。タイトルは「カラーマネージメント関連最新動向」ということで、個人的な興味で専門家の方達に詳しい話を伺おうと思っています。

カラーマネージメントというのは、写真やイラストレーション、CGなどをはじめ、車のボディカラーやアパレル関係など、さまざまな「色」を別のメディア上(印刷、ディスプレイ、プリンタ etc.)で近似した再現を得るための技術のことです。そして、このカラーマネージメントの達成には、さまざまな分野での標準化ということが重要になってきます。

さまざまな分野というのは、たとえばデジタルカメラ、色空間、プリンタ、印刷などのことです。デジタルカメラで言えば「Exif」というフォーマットがありますが、こういったフォーマットを無視してメーカーが独自に製品を開発すれば、ファイルが開けなかったり、色がバラバラだったりという不都合が起きてきます。

また、印刷の標準というのも重要です。たとえばある製品のチラシを日本の各地でテキスト部分だけを差し替えて印刷したい、といった要望がある場合に、標準に従って印刷を行い、日本のどこで刷っても色がマッチするというのが、クライアントにとってはベターです。各地の印刷会社さんが頑張って「いい色」にしてくれたおかげで、色が違ってしまっては問題です。

あるいは同じデータをドイツで印刷したいといった場合に、名古屋のP社の独自の色を、ブレーメンのQ社の独自の色に変換するよりも、日本の標準の色からドイツの標準の色に変換できたほうが、手間がかかりません。

こういった標準化はさまざまな公的機関により行われていますが、たとえば色空間のsRGBは、IEC(国際電気標準会議)により標準化されています。また日本の印刷の標準であるジャパンカラーというのは、ISO/TC130(印刷技術)国内委員会を中心に社団法人日本印刷学会の協力により、標準化が図られたものです。

こういった公的標準(デジュールスタンダード)というのは一つではなく、強制力もないので、それが定着して実質標準(デファクトスタンダード)となるには、紆余曲折もあります。

そこで、カラーマネージメントに関わる標準化の最新動向と、12月中旬に発売予定のPhotoshop CS4でのカラーマネージメント機能の変更点を押さえておきたいというのが、今回のセミナーの企画趣旨です。Photoshop CS4に関しては、まだ発売前なので、どこまで話していいのかは、確認をとっているところです。ディープな話ができると面白いのですが……。

●JPC定例セミナー
『カラーマネージメント関連最新動向』
カラーマネジメントに関わる標準について、専門家から最新動向を伺います。

◎プログラム
第一部「色空間の標準化動向」13:30〜14:30
scRGB、xvYCC、opRGBといった色空間やイメージステート、標準画像などの標準化に関する解説と動向についてお話いただきます。
富士フイルム株式会社 知的財産本部工業標準室 担当部長 卜部仁氏

第二部「色を正しく見るために」14:40〜15:40
日本印刷学会推奨規格である「製版・印刷分野における反射物とディスプレイの色評価を伴う作業時の観察条件」に関するお話をベースに色を正しくみるための方法をやさしく解説していただきます。
東京工芸大学および日本印刷技術協会の客員研究員 井上裕夫

第三部「Photoshop CS4のカラーマネージメント」15:50〜16:50
12月中旬発売予定のPhotoshop CS4では、カラーマネージメントに関わる変更点がいくつかあります。たとえば、プロファイル変換では、今までに対応していなかったタイプのプロファイルの利用が可能になっています。カラーマネージメントに関わる機能を中心に、Photoshop CS4の使える機能の解説をしていただきます。
株式会社プロ・バンク 庄司正幸氏

日時:12月9日(火)13:30〜16:50(13:00 受付開始)
会場:アップルジャパン株式会社 セミナールーム(東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティータワー32F 京王新線「初台」東口徒歩5分(東京オペラシティビル直結)
< http://www.apple.com/jp/employment/overview.html
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参加費:JPC会員無料、一般5,000円
※セミナーの内容は予告なく変更されることがあります。予めご了承ください。
お申込みはこちらから↓
< http://www.jpc.gr.jp/jpc/seminar/081209.html
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◇上原ゼンジ写真展「FANTASTIC REALISM 夢遊する現実」
会場:エプサイト(東京都新宿区西新宿2-1-1 新宿三井ビル1階 TEL.03-3345-9881)
会期:2008年12月3日(水)〜2009年1月18日(日)10:30〜18:00
年末年始休館:2008年12月27日(土)〜2009年1月4日(日)
< http://www.epson.jp/epsite/
>

【うえはらぜんじ】zenstudio@maminka.com
◇上原ゼンジの新刊
「うずらの惑星 身近に見つけた小さな宇宙」(雷鳥社刊)
< http://www.zenji.info/profile/uzura.html
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◇上原ゼンジのWEBサイト
< http://www.zenji.info/
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■ショート・ストーリーのKUNI[49]
目印

やましたくにこ
< https://bn.dgcr.com/archives/20081127140100.html
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あるところに王子様と恋人が住んでいました。ふたりはとても仲むつまじく、だれもがうらやむほどでしたが、恋人は重い病にかかってしまい、あれよあれよと言う間に明日をも知れぬありさまとなってしまいました。まだ18歳という若さであったので、その口惜しさは並大抵のものではありません。

「私はもうすぐ死ぬわ。でも、必ず生まれ変わって、あなたと結婚するの」
「何を言うんだ。死んだりするものか」
「いいえ、わかるの。これは仕方ないことなの。どうか、生まれ変わった私を見つけて。一年後に生まれるから」
「1年後に生まれる赤ん坊はたくさんいる。その中から君の生まれ変わりをどうやって見つけたらいいのだ。赤ん坊は僕にはみんな同じに見える」
「だいじょうぶ。目印を持って生まれるようにします」
「目印? どんな?」
「それはね」
「うん」
「きん の み」

がくっと恋人はうなじを垂れ、それきり二度と息をしませんでした。王子様はたいそう嘆き悲しみましたが、どうしようもないことです。恋人の言葉通り、恋人が生まれ変わるのを待つことにしました。なにしろ王子さまはまだ20歳でした。時間は十分あるのです。

一年後、王子様は国中におふれを出しました。
「『きんのみ』をもった娘は名乗りいでよ。その娘はわがきさきになるべし」

はたして、あちこちから名乗り出てきたものがいました。
「私の娘は生まれたとき、右手に金のりんごを握りしめていました。これがそうです。金の実です」
ある農夫はそう言って、豆粒ほどの金のりんごを示しました。とても美しいもので、それを握りしめていた赤ん坊もたいそうかわいらしいのでした。

「私の娘は生まれたとき、なんだか泣き声がおかしいのでよくみると、のどの奥に金のいちごがくっついていました。ほら、これがそうです。金の実です」ある商人はそう言って、紙のように薄い金のいちごを示しました。金のいちごもたいへん美しく、赤ん坊も成長すればさぞかし美しい娘になると思われました。

そのほかにも「金のえんどう豆のようなほくろがある赤ん坊」「金のオリーブの実のような乳首の赤ん坊」の親がそれぞれ名乗り出ました。
「どの赤ん坊もかわいいし、この中からひとりを選べと言われても無理な話だ。よし、全部ひきとることにしよう」
王子様は、親には十分すぎるほどのものを与えて四人の赤ん坊をひきとり、育てることにしました。

赤ん坊はあっというまに成長しました。金のりんごの娘は赤ん坊のころとは打って変わって不器量になり、意地悪でどうしようもない娘になりました。調べてみると金のりんごは鉛でつくったものにメッキをしたにせものでした。金のいちごの娘は器量は並だが間抜けでなまけものの娘になりました。金のいちごもにせものでした。

金のえんどう豆の娘はでぶで何を着ても似合わないのにぜいたく好きでお金ばかりかかる娘に、金のオリーブの娘は陰気で無愛想でなんでも知ったかぶりする暗い娘に育ちました。もちろん、ほくろも乳首もにせものでした。みんな、お金目当ての親たちが仕組んだことだったのです。

「王子様、あたし、おなかすいたんだけど」
「王子様、庭にプールとバラ園とメリーゴーラウンドをつくってほしいわ」
「王子様ってなんでそんなに陰気な顔してんのよ」
「王子様、あたし死にたくなってきた」

王子様は娘たちの相手に疲れ果て、ときおりは一人で森を散歩しました。すると、死んだはずの恋人がサワグルミの梢を揺らす風となってささやくように思えるのです。

──ひとを見る目がないのね。これじゃこの先思いやられるわ。
──面目ない。
──どの娘も私とは似てもにつかない娘じゃないの。
──ほんとにその通りだ。

王子様はいまや中年にさしかかっていました。王と王妃は相次いで亡くなり、この件からもわかるようにおよそ世間ずれしていない王子様は、たちまち隣国の国王と手を組んだ臣下によって王座を奪われ、城を追い出されてしまいました。もちろん、四人の娘とも離ればなれになってしまいました。というより愛想をつかされてしまったのです。

「なんだい、あたいをおきさきにするんじゃなかったのかい」
「楽な暮らしができると思ってたのにさ」
「契約違反だぜ」
「この甲斐性なし」

できの悪い娘たちでもそれなりに愛情がわいて離れたくはなかったのですが、そういうわけにもいきません。王子様はわずかな荷物を持ち、やせたロバに乗ってあてのない旅へ出ました。大勢いた召使いもみんなやめてしまい、たった一人残った下女をおともにして。すると夜の森で鳴くフクロウとなって、死んだ恋人がささやくような気がするのです。

──おちぶれたものね。これというのも私を早く見つけないからよ。
──すまない。僕は本当に甲斐性なしだ。

それからふと、王子様は、恋人が死んでから19年たったことに気づきました。つまり、翌年に生まれた「生まれ変わりの娘」は、18歳。死んだ恋人と同い年になっているのです。

「赤ん坊のときはわからなくて当然だ。18年後にどんな娘に成長しているか、コンピュータでも難しいに違いない。でも、いまならきっと、その娘は恋人とそっくりになっているはずだ。僕はたやすく見つけられるに違いない」

王子様は死んだ恋人の愛らしいおもかげ、かわいかった声、見ているとついついほほがゆるんでしまう仕草の数々を思い出しました。どこかにきっと、その娘はいるにちがいないのに、いまだ巡り会っていないのです。王子様はためいきをつき、そばにいた下女に話しかけました。

「おまえにもひょっとして今年18になるような娘がいるのかい」
する下女が答えました。
「いるわけないずら。おらが今年18だでなあ」
「えっ!」

王子様は目を疑いました。目の前にいる女は色が黒くて団子っ鼻、髪はぱさぱさで化粧っ気もなく、からだが頑丈そうなだけが取り柄のあか抜けない田舎女でした。年齢不詳、というより年齢を意識したこともありませんでした。確かに、そう言われてよく見れば肌にはしわもなく、老いた女のそれではありません。「驚くことはなかんべ。おら○年○月○日の生まれだからな」「え!」それは恋人が死んだちょうど1年後の日付でした。

「ま、まさかと思うが、生まれたとき、おまえの体には何か金の目印があったかい」
「目印かなにか知らねえども、金といえばこんなものがあるずら」
そう言って下女は小さな金のかけらをさしだしました。
「ここここ、これは、どこにあったのだ」
「ここずら」
下女は自分の耳を示しました。王子様が半信半疑でのぞくと、なんと、下女の耳には金のみみあかがいっぱいつまっていたのです。そして、確かに、まじまじと下女の顔を見れば、どことなく死んだ恋人と似ているのです。いや、人によってはそっくりだと言うかもしれません。王子様はショックで倒れてしまいました。

教訓その1:年月は思い出を美化させる

王子様は下女のみみあかを集めて売りました。みみあかはどんどんできるので王子様はすぐにお金持ちになりました。下女はあれ以来どんどん死んだ恋人と似てきました。いえ、もともとそっくりだったのに気づかなかっただけか、大人になって経験値が増すとひとを見る目も変わったのでしょうか。

教訓その2:過去の自分は他人である。

王子様は裕福になったので、あのなつかしい四人の娘たちを呼び寄せ、ともに暮らすことにしました。

「きゃ、王子様じゃないの。おひさ〜」
「すっかり羽振りがよくなっちゃって。どうしたの?」
「今度はだいじょうぶなんでしょうね」
「急にお金がなくなったなんていわないでよねー」

四人の娘がいると急に空気が華やかになりました。下女とふたりの暮らしではこうはいきません。王子様は下女(いまでは下女ではなく、ともに暮らす五人の女のうちのひとりでしたが)のみみあかをあてにして、自分は働きもせずだらだらと暮らしました。いまでは、元下女が死んだ恋人の生まれ変わりであることは確かだと思えるのですが、どうもきさきに迎える気がしないのは困ったものです。

教訓その3:男というものはまったくろくでもない生きものである。

【やましたくにこ】kue@pop02.odn.ne.jp
みっどないと MIDNIGHT短編小説倶楽部
< http://www1.odn.ne.jp/%7Ecay94120/
>

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■編集後記(11/27)

・まれに見るバカ制度、裁判員制度がとうとう来年の5月21日にスタートする。この制度を推進する最高裁、法務省、日弁連による大がかりな宣伝がマスコミで盛んに行われている。このたび就任した最高裁長官は異例の抜擢で、裁判員制度の設計に関わり導入を牽引した実績を認められた竹崎博允氏だ。この人は「裁判員制度を国民が納得して受け入れるかどうか。それが最大の問題だ」と語っているが、最高裁が今年4月に公表した国民の意識調査では、「参加したい・参加してもよい」が15.5%、「義務でも参加したくない」が37.6%、「あまり参加したくないが義務なら参加せざるを得ない」が44.8%、つまり80%以上が参加したくないのである。ところが最高裁側は、「『義務なら参加せざるを得ない』という方まで含めると、20代〜60代の約65パーセントの方が参加意向を示していることが明らかとなりました」と、「あまり参加したくないが」という前提を省いて、逆の解釈をしているが、強引というか我田引水というかインチキというか。いくら宣伝大攻勢をかけても、参加に後ろ向きの数字は減るまい。むしろ、知れば知るほど、こんな「苦役」はごめんだと思うだろう。最高裁長官のいう「最大の問題」はスタートするまでに解決するはずがない。非常事態ともいうべき金融危機で超不景気なご時世に、仕事を放り出して茶番に参加せよってか、バカもいい加減にしろ、反乱を起こせってのか。裁判員制度なんか塩漬けにせよ。(柴田)
< http://www.saibanin.courts.go.jp/topics/08_04_01_isiki_tyousa.html
>
「裁判員制度に関する意識調査」結果

・ひと月ほど前に「日本フルハップ(財団法人中小企業福祉事業財団)」に入った。中小企業対象の災害補償と福利厚生を行う団体だ。24時間、怪我の補償をしてくれる。自転車通勤をしている時に入ろう入ろうと思いつつ、何年もそのままになっていた。先延ばししていた理由は、自転車通勤をしなくなったことと、引き落とし口座が信用金庫限定ということ。どうせ入るなら支店数の多い信用金庫にしようと候補を探し、便利な店舗での開設を決める。が、口座開設は営業時間内に行かなければならぬ。メルマガで14時近くまでは潰れてしまうので外出不可。開設や入会は急ぐものじゃないしと先送りのループ。ある日、本命の店舗に電話して、郵送での口座開設はできないのか問い合わせたが、無理とのこと。二度手間になってはと、開設に必要な書類などを聞き、家を出ようとしたら仕事の電話(長い)。ああ、もう間にあわない。諦めきれずに信用金庫のサイトを見ていると、近くの駅に別の店舗があることを知る。こっちなら間にあうと走り込む。口座開設をしたい旨を伝え、書類を書き込んでいると職員が一言。「こちらにお勤め先がおありなのでしょうか。」はい? 「このご住所では、ここでは開設できません。お客様ですとこの支店になります。」と示された先は、うちからだとバスでしか行けないような遠いところ。こっちの方がだんぜん近い。おぼろげに信用金庫は地域密着型だというのを思い出す。ふりだしに戻る? 「こっちの方が近くて便利なんです、どうしても無理なんでしょうか?」「そうですね。何故こちらで開設しないといけないか、明確な理由がありませんと……。(以下、信金とはの説明)」年とったなぁと思ったのは、ここで引き下がらずに粘った時。地域が違うと断られているにも関わらず、斜め上から説明する。「ずっとフルハップに入ろうと思っていたのですが、信用金庫さんじゃないと会費の支払ができないらしくて……。」「あ、そういうことなのですね。それなら理由になります。では手続きを……。」え、そなの? そんなのでいいの? 営業さんのサポートとかは地域外で無理そうね。で、そのまま窓口でフルハップの入会手続きまで完了。(hammer.mule)
< http://www.nfh.or.jp/
>  日本フルハップ