気になるデザイン[26]開閉ボタンがわからない
── 津田淳子 ──

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私、右も左もわかりません。

いや、理解・判断する力がない、という慣用句としての意味ではなくて(それもあるが……)、文字通り「右」と「左」の区別がつかないのだ。空間認識力がない、とでも言うんでしょうか。

例えば、車に乗っていて家族に「次はどっち?」と聞かれて、「右、いや左!」と言ったり、場所を説明しろと言われて「まっすぐ行って2つ目の角を左、いや右!」と、こんな始末。

以前は、左右がわからないなんて私だけだろう……と思っていましたが、どうも世の中にはけっこういるらしいですな。私の敬愛するイラストレーターの方、デザイナーの方もそうだと聞いて、逆に「いやぁ、感性が同じなのかも!?」と嬉しくもなったり(違うか・笑)。


といっても日常生活で、左右がわからないままでは困ることもたまにあるので、右左の区別は、お箸を持つ方が右(右利きなので)、お茶碗を持つ方が左と、一瞬考えてから話すようにしている。マンガのような話だが本当です。

これを空間認識力というのかどうかよくわからないが、日常生活の中でこれと同じように間違えて慌てることがよくあるのが、今年始めの当コラムでもひとことだけ触れたことがある、エレベーターの「開」「閉」ボタン。人が向こうから走ってくるのを見て、「開」ボタンを押そうと思っているのに「閉」ボタンを押してしまったことがあるのは、私だけじゃないだろう。

周りの人に聞いてみても「あれ、わかりにくいよねー」という話ばかりで、「あの表示はわかりやすかったよ!」と聞いたことがない。うーむ、エレベーター業界(?)では、この開閉ボタン問題についてどう考えているのだ、と聞いてみようと思ったのだが、その前にまずは世の中にどんな表示があるのかを調べてみてからでないと、いろいろ面白い話が聞けないような気がして、今年の始めから急に思い立って、エレベーターに乗るたびに「開」「閉」ボタンをデジカメで撮っている。

で、5か月も撮っているとかなりの数が集まってくるのだが、残念ながら「これは秀逸!」というものにはまだ出会っていない。私の行動範囲内だけなので、かなり偏った地域だけということもあるので、読者のみなさま、身の回りのエレベーターの開閉ボタン、どんなにわかりにくくても構いませんので、パチリと撮って私まで送っていただけると嬉しいです(tsuda@graphicsha.co.jp)。ちなみにどこで撮ったかも簡単に教えていただけるとなお嬉しいです。

撮り貯めたものを見ていると、大きくわけて3種類に分けられる。▲を90度回転させてドアの開閉方向を図示(?)したもの、「開」「閉」と漢字で書いてあるもの、「ひらく」「とじる」とひらがなで書いてあるもの、また、たまに「OPEN」「CLOSE」というものもあった。そしてそれらの複合技もある。

漢字表示は、うーむ、字面が似すぎていてわかりにくい。▲タイプは落ち着いて見るとちゃんとわかるのだが、焦っているとなぜかパッとわからない。この中では私はひらがなタイプかアルファベットタイプが比較的わかりやすかった。

そういえば、この開閉ボタン。開閉のどちらかが緑、どちらかが黒になっていることが多いのだが、どちらが緑か実物を見ないでわかりますか?

答えはこちら。


これはどのエレベーターでも同じように「開」方が緑になっていたので、業界規格とかで決まっているんでしょうね。でも、私はどちらが緑なのか覚えていないので、これも全然役立ってません……。

これはわかりやすいとかいう問題とは外れてしまうが、いろいろ見ている中で驚いた表示のひとつがこれ。


「閉」と「呼」って! これはある製本会社さんの工場内にあるエレベーターで撮影したものなのだが、「呼」は初めて見たなぁ。社長さんに聞いてみたが、「乗るときに自分の階にエレベーターがいなければ『呼ぶ』でしょ」とのこと。うーむ、確かに。でも、エレベーターの外側のボタンだけならわかるが、内側もこのボタンでしたよ、社長! 中にいて「呼ぶ」って、どうしたら……。

エレベーターの開閉ボタンは、いつかどなたかに、決定版をデザインしてほしいと常々思っている。

最後に、わかりにくい表示で私が真っ先に思いつくものをご紹介しよう。


これは、実家近くの第三京浜下にある道路標識なのだが、車で走っている最中、こんな表示がいきなり出て来たって、どの道には入って大丈夫なのか、わからないでしょ(苦笑)! 間違ってないけど用を成さないので、意味がない……。もうちょっと考えて取り付けませんか、国交省!

【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp
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デザインアイデア&ヒント
佐々木 剛士
グラフィック社 2009-04

by G-Tools , 2009/05/20