[2641] 「ベーシックインカム」について酔っぱらいかく語りき

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<それじゃ食えないジャマイカ!>

■武&山根の展覧会レビュー
 「ベーシックインカム」について酔っぱらいかく語りき
 武盾一郎&山根康弘

■グラフィック薄氷大魔王[179]
 カーペンターズ、僕的再発見
 吉井 宏

■ブックガイド&プレゼント
 「できるクリエイター Illustrator 独習ナビ CS4/CS3/CS2/CS 対応」


■武&山根の展覧会レビュー
「ベーシックインカム」について酔っぱらいかく語りき

武盾一郎&山根康弘
< https://bn.dgcr.com/archives/20090520140300.html
>
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武:こんばんわー。カレーの肉は豚派の武盾一郎です。最近は手羽元が好きだけど。

山:なんやねんそれ。

武:夕飯作った、カレーじゃないけど。ベーコンとほうれん草としいたけの炒め物。ちょっと味が濃かったんで、もやしのおひたしを薄味にしたん。酒は料理酒。いただきます。

山:おお、準備万端やな。しかしなんかちょっと凄みあるな。武盾一郎41歳、男やもめがもやしのおひたしの味加減を気にしてお送りする今回のチャットです…みたいな(笑)。

武:福山雅治と同じじゃねぇか、歳もタメだし独身だし。んで、食材は二人目の赤ん坊が産まれたばっかりの妹の手伝いで買い出しに行ってやるんだけど、そん時に食いもん分けてもらってる。

山:ん? ということは妹さんの旦那さんは、妹さんと赤ん坊二人どころか、赤ん坊よりもたいへんな生き物を養っている訳や(笑)。

武:何言ってやがんでぃ、こっちが面倒みてやってんでぇ。

山:いやそんなはずはない(笑)。

武:でも、ずっとアテにしてるワケにいかねぇからのぅ。それまでに俺自身が「おあし(御銭)」を産むようにしないといけねぇなぁ。

山:産まれそうなん?

武:根拠のない自信ならある。

山:ほう。まあじゃあなんとかなるんとちゃうの。

武:最近さ、古典落語を聴くようになったんだけどさ、なぜかたいがいもんのすげぇ貧乏人が登場すんのよ。しかも、その貧乏人がまたまるで稼ぐ能力がない、「おあし」がまるでないのよね。それなのに活き活きとその人なりを生きてたりしてさ、それに励まされてるのよ。大体、真っ昼間から若い衆が集まって酒を呑もうとするんだけど肴を買う銭がない、みたいな。酒はあったりするんよな。

山:まあでも、若い頃はみんなそんなもんやろ。

武:そうだよなー! ってことは現代も江戸時代も変わらないってことじゃん!いいなあ!

山:そこは変わらんやろ。逆に今はみんな若いんとちゃうか。

武:どういうことじゃ?

山:昔より精神年齢が低いってこと。よくも悪くも。昔の人は早く死ぬし。

武:そっかぁ、なるほど〜。最近思うんよ、20年前とね、食べ物の値段、服の値段、電気製品の値段、って上がってないのよな。

山:ほう。

武:だから俺、20年前と同じ金銭感覚なんよ。

山:そうなるとどうなんの?

武:精神年齢が20歳のままなのよ。大人になるってぇのはひとつ「おあし」を持つようになることだったりするでしょう。例えば、太平洋戦争後から80年代までって、物価もどんどん上がったけど給料もどんどん上がった。感覚としては「おあし」が増えてどんどん立派な大人になってったような気分にもなれたんじゃあないか?

山:どうやろな。金持ったからって精神年齢あがるとも思わんが。

武:うーん確かになあ。しかし「おあし」を得るってことはひとつの「大人の証」でもあったわけだよね。

山:まあそういう面もあるんやろうな。


●資本主義は終わるのか?


武:でね、さっきの話に戻るけど。20年前からそこらへんの大衆向け物価が変わってない。ってことは「大人度」も変化しない。だからみ〜んな20年くらい前の精神年齢なんすよ。

山:大衆向け物価が変わっていないとは、給料が上がらないってことになるのか?

武:なるねぇ。

山:で、給料が変わらないから気持ち、というか精神年齢も変わらない、ってこと?

武:そうそう。この前俺300円台の弁当探したけど、20年前も300円台の弁当探してた。「ああ、この気持ちは変わらない!」ってその時思った。

山:確かにめっちゃ安い弁当屋ある。この前、飲み屋に入ってチューハイ130円はびっくりしたけど。駅前の雑居ビル。でもガラガラ(笑)。まあGWやったけどね。

武:わはは! そうそう、安い居酒屋の値段もそんなに変わってないよなあ。だからね「たけや〜さおだけ〜、20年前のお値段です!」って竿竹屋さんが言ってるけど、実際にここ20年物価がインフレしてないんすよ。ちょっと、「おあし」の話を続けたいなあ、これ。

山:むかし竿竹屋で買ったことあるけど、安いのは使いもんにならんやつばっかりやったぞ。結局のところ、別に安くはない。で、どうぞ。

武:これね、月に例えると80年代が満月なんですわ、でね、満月ってさ次の夜の方が丸く見えるんよ。で、まん丸っぽいのが2〜3日続くんだけど、そっからすーって欠けていくんですよ。

山:で?

武:だからね、ここで「ベーシックインカム」がリアリティーを帯びて来るんジャマイカと思ったりしてるんすよ。

山:月のたとえはなんやったんや(笑)。

武:まあ、それは経済成長の例えですよ。資本主義ってのは右肩上がりが前提じゃないですか。けどそんなことは幻想だろう、と。お月さまのように望月が来たら欠けるんですわ、盛者必衰なんですよ。

山:月はずっとまるいがな(笑)。

武:おーーーーーっ! そか! 見掛けの月が望月になったのが80年代だっちゅうことかっ! その見掛けの月はもう欠けて行くんですわ。

山:そこを言わんと例えにならん。話を「ベーシックインカム」に持っていきたいだけやないか!(笑)。

武:うーん、そうかもしれん。

山:ぜったいそうや(笑)。

武:うん。そうだろうけど。料理酒に呑まれてる。

山:もうそんなに呑んでんのか!

武:ノリノリで呑んじった。

山:なんでそんなノリノリやねん(笑)。

武:「心頭滅却すれば火もまた涼し」というけど、テンション上げれば料理酒もまた旨し。だよ!

山:どんなんや。

武:このノリも20年変わってないな、ダメな方ダメな方に勢いよく突き進む感じ。

山:それは、金がないからそうなのか、そうやから金がないのか。

武:金がないからですよ! 20年前と一緒なんですよ。まてよ、下手すりゃ20歳の頃の方が稼いでたな。。。

山:ないからやなくて、持とうとせーへんからやろ。いらないとか言ってたやないか。「俺はお金なくてもいいんだ」みたいに。

武:それはお金を持たずして生きていく方法を編み出すぞ! という情熱だったんだよ。金を介さずして直接欲しいものが手に入ればいいんじゃん! という発想だったんすよ。

山:今できてるやん。食料は(笑)。どっちゃにしても自分で持とうと考えてへんかったやないか。

武:しかし、金を介することがらも多い!

山:あたりまえやがな。

武:えーっ! 俺、41歳で初めてそのことを痛感してる。

山:で?

武:「だ・か・ら、ベーシックインカム(笑)。」

山:やっぱそこやないか!


●素晴らしい仕事≠金を産む仕事


武:そうそう。これね、深いですよ。

山:聞くのめんどくさなってきた。

武:そんなこと言わずに聴いとくれぇよ、例えばさ「素晴らしい仕事=金を産む仕事」とはならないじゃないですか。

山:はあ。

武:論より証拠で「デジクリ」(笑)。

山:わはは!

武:柴田さんもハマムラさんもロハ、俺たちもロハ。(ロハ:タダ働きという意味。「只」がカタカナの「ロハ」になることから)

山:ふむ。いや、ちゃんとお金に繋がっていくかも知れんぞ。このチャットレビューを集めた『公然藝術罪』だって3冊売れたし。赤字やけど(笑)。まだ売れないとは限らない。あ、柴田さんに献本したっけ?

武:うわっ、してない! ってか作ってないんじゃないのか? でさ、実は「デジクリ」ってホントに草分け先駆者だったわけでそ? けど金にならず(笑)。金になってない素晴らしい仕事ってごまんとあるわけですがな。

山:そりゃそうやな。

武:芸術とか、育児とか。

山:育児はね、すばらしいことですけどね、おっきく見ればお金にも繋がっても行く訳で。もちろんそんなこと考えて子供育てないんやろうけど。いや、そういうこともあるけど。よく親に「ちょっとあんた養って〜」って言われてたぞ。もう今では「あきらめた」とおっしゃっております(笑)。すんませんなあこんな息子で。というわけで、芸術がすばらしいとは思えんなあ。わはは。

武:うん、それは芸術「家」が素晴らしくないってことだな(笑)。芸術にしても育児にしても「ホントに大切すぎる事を金にしようとは人間思えない」ってところがあるんでしょうな。ってことはだね、大切すぎることばかりやってる人は金にありつけないわけですよ。

山:大切すぎる、って言っても人にはわからんかったりするからな。そうなるとその人は、人のこととか他のことなんも考えてない、ってなる。

武:そうだなあ。他人には分らないなあ。って育児と芸術を並べるのもどうかともおもうが(笑)

山:僕には子供いないもんでねえ。

武:俺にも。

山:知ってる。勝手にどっかにおったら面白いな(笑)。いや、怖いか。

武:実は結構いるんだぜ、ってな武勇伝を残したい!!

山:そんなことむかし言ってたな(笑)。僕が20の頃、武さんが都道府県全部に1人づつ子供がいるのがいい! って言ってたぞ。

武:そうそう。その夢はまるでひとつも叶ってない。

山:さみしいのう。ま、子供の話はええねんけどね。だいたいね、芸術が金に結びつかないから金がない、なんて、ほんまアホちゃうかと思うけど。そんなんあたりまえやないか(笑)。

武:アホもまた居る。

山:そりゃそうやけど、アホなこと言っててもしょうがない。いや、アホなことばっかり言っててなんですが。

武:これさ、多分、アホならアホでイキ切ればなんとかなるんさよ。

山:ちゃうな。売れたらなんとかなるだけやな。

武:うわー! もうちょっと膨らませてから、そういうオチにいかないとー!

山:編集でやってくれ(笑)。


●ベーシックインカムってどうよ?


武:できるかっ! いや、さ、「ベーシックインカム」をマジで考察してみようよ! 酔っぱらった勢いで。

山:めんどくさいからいやや。

武:だ、か、ら、そこ、膨らませてさ、

山:ひとりでやって。

武:「ベーシックインカムになったらいいと思わないの? 自分?」

山:なにが「自分?」やねん(笑)。ええかげんにしときや(笑)。

武:わはは!「自分」っていう言い回しって関東には一切ないからね。外国語的。

山:ああ、なんとなくその感覚わかるわ。そうみたいね。

武:産まれて初めて「マシッソヨ!」って言ってみた気分。

山:言い過ぎやろ(笑)。

武:わはは。

山:マシッソヨから何もイメージでけへんやないか。真質素よ! マシっすよ!ぐらいしかわからん。

武:えっ? そこ膨らますの?

山:いや、たぶん酔っぱらってきたんやと思う。

武:ってか、じゃあグイって舵戻すけど「自分、ベーシックインカムになったらええと思わへんの?」

山:めんどくさい。そういうのはめんどくさい。

武:分ったよ、じゃあこっちのネイティブで喋るよ。「ベーシックインカムになったらいいと思うじゃん? どうよ?」

山:そうやなあ、そもそも「ベーシックインカム」ってなんやねん。なんとなくはわかるが。

武:「無条件給付の基本所得」ってことらしい。それがいくらかって問題はあるかも知れんが、生活保護を基準にしてみて、毎月無条件に月15万円くらいの

山:金額を国民全員にはなから渡してまう。ってことやんな? 生活保護って15万も入んの?

武:生活保護っていくらか知らんが…、区によっても違うらしいが月10万円は超えてるよね。つか、だいたい年金ってヘンだろ? 自営業者の年金って生活保護受給額より遥かに低いんだぜ!! うちの親父の年金って月6万円台だぜ!!

山:うちの親父の年金は200万やな。

武:ともかく、年金問題やらワープア問題やらあるけど、ポーンと生活出来得る「おあし」が手に入るってぇのが「べぇしっくぃんかむ」ってヤツでござい。どうですか若旦那、この「べぇしっくぃんかむ」ってやつぁ。

山:どうなんやろな。ところでこのチャット、デジクリの原稿に使えんの?

武:知るかっ! で、山根はベーシックインカムもらえたら、どうよ?

山:「知るかっ!」って…(笑)。そりゃ楽は楽やろな。でもそうなると物価あがったりせえへんの?

武:どうなんかなあ? 消費が増えれば値段が下がるんじゃね?

山:ああ、売れれば大丈夫ってことか。

武:「ベーシックインカム」ってなマルクス主義の補完みたいに捉えると間違うと思うのよ。むしろ資本主義のバージョンアップなんじゃないかな、「おあし」が「人間の命」であることを立証しちゃう面あるし、みんなが消費者になれちゃうし。Macで言えばOS9からOSXへの移行なのよ。

山:そんな簡単な問題なんか。

武:俺が簡単に説明してるだけじゃい。

山:どうせそうなったら、また新しい問題が生まれるよな。

武:そうそう。だからこそベーシックインカムを考えてみるのはどうじゃ、という提案なんですよ。いやあだからぶっちゃけ毎月無条件に15万円入ったらどうするよ?

山:支払で終わり。ま、楽になるね。

武:で、現場の仕事辞めるか? 絵を描くの辞めるか? アーティストブック作るの辞めるか?

山:今できることをやってるわけで、そうじゃないことになれば色々変わるやろ。

武:で、どう思う?

山:ま、僕は作りたいから作るやろうけど。あんま関係ないなあ。いろいろ。

武:だろ? 要するに、金銭的に楽になるんだよ。やる事変わらなくて。この仕組みってどうよ。

山:それは多分違うぞ。ベーシックインカムがしかれた場合、そこを強く言う人もでてくるんかもしらんが、それは違うぞ。そんなところで生きてるわけではないやろ、実際には。

武:うーん、いいのかわるいのか分らないけど、妙案のような気がするんだよねぇ「ベーシックインカム」。

山:武さんに頑張ってもらおう(笑)。僕は実際にはどっちゃでもええがな。


●どんな仕組みだろうがアーティストは「己が法(アナーキスト)」


武:ああ、どんな仕組みでも生きていくがなーっ! 的な。

山:なかば諦め的に(笑)。ネガティブに捉えてるわけではないが。

武:そか。じゃあ、そのどんな仕組みでも生きていける方法論はなんじゃ?

山:自分を信じる(笑)。終わったことは終わったこと(笑)。

武:なんか、まっとうすぎるなー。

山:夢みるのんも技術がいるんやと思うねんな。

武:おっ!

山:夢をみるって自分が未だ見ていない、感じていない風景や感覚を体験したい、ということやと僕は考えてんねんけどね。だから技術っていうのは、そんな自分を強烈に支持する技術とか、ある意味アホになる技術、自分をいい意味で騙す技術、とかやな。

武:なるほど、自律・アウトノミアってことか。アウトノミアって「己が法」っていうアナーキズムの意味も含まれるらしいからな、いつの世でもアナーキストでいきましょう、と。

山:でもこれ、歳とったり病気したりするとまた変わるんかね。まあアホは変わらんのか。自分を騙しすぎて(笑)。

武:アホもまた居る。

山:そうか…やっぱ売れんと救われへんか。

武:どなたか俺の絵を買って下さい!

山:よし、じゃあしゃあないから僕が買うたる。そのかわり僕の絵を武さん買うてくれ。お互い損はないようにしよう。

武:お、それいいね! …ってそれじゃ食えないジャマイカ!

山:じゃあ僕も妹さんの家の手伝いします。

武:いや、俺の介護をしてくれ。

山:いや、それは金がいる。

【武 盾一郎(たけ じゅんいちろう)/45歳でデキ婚】
take.junichiro@gmail.com
Take Junichiro Art works
< http://take-junichiro.tumblr.com/
>
246表現者会議
< http://kaigi246.exblog.jp/
>

【山根康弘(やまね やすひろ)/子供は好きなんです】
yamane@swamp-publication.com
SWAMP-PUBLICATION
< http://swamp-publication.com/
>

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■グラフィック薄氷大魔王[179]
カーペンターズ、僕的再発見

吉井 宏
< https://bn.dgcr.com/archives/20090520140200.html
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久しぶりに初代iPod shuffleに曲を自動充填して、地下鉄内で聴いていたら、「マスカレード」がかかった。割とよく耳にする曲なのだが、Shuffleの魔力のせいか、なぜ今までこの魅力に気づかなかったのか! と驚いた。20年も前に買った安くてあやしげで音質の悪い3枚組のベストアルバムCDがiTunesのライブラリに含まれていたわけだけど、そのベストアルバム自体、ちゃんと聴いたことがなかった。

偶然聴いた「マスカレード」があんまり美しかったので、この3枚をちょっと聴き込み始めて数日後の先月23日、「シング」を脳内再生しながら銀座の山野楽器を通りがかったら、同じ「シング」がかぶさって聞こえてきた。「カーペンターズ 40/40 ベストセレクション」という2枚組CDの店頭キャンペーン中だった(前日の発売日にはリチャード・カーペンター本人が来たらしい)。なんちゅうタイミング! さっそく購入。

小学生の頃、洋楽のアルバムなど皆無だった僕の家に、なぜかカーペンターズの「ナウ・アンド・ゼン(1973年リリース)」があった。たぶんオヤジが気まぐれに買ってきたものだろう。日曜日には必ずこのレコードがかけられるので、だいたい覚えてしまった。このアルバムには後述の2つの点で僕は大きな影響を受けたのだが、当時は、普通に楽しいアメリカの音楽として親しんだだけだった。自分で針を落としたことは今まで一度もない。30年ぶりに聴いてみたいけど、iTunesストアでは売ってないねえ。

1977年の中学2年、友人たちはビートルズをはじめとしてロックやフォークに目覚め始めていた。僕はまだまだ映画音楽一辺倒の頃で、ロックがあまり好きになれなかった(今も一部を除いて苦手)。友人の一人に「吉井も何かレコード集めれば?」と言われても、他に知ってるグループ名はカーペンターズだけ。「カーペンターズ、いいじゃん、集めろよ」。実は「ナウ・アンド・ゼン」だけで知ってた彼らの音楽は普通に好きだったけど、生意気な男子中学生にとって、イメージがまずかった。

まず、彼らはファミリー向けの健全な音楽というイメージだった(間違ってないけど)。毒にも薬にもならないというか(薬にはなりますね)、イージーリスニング的というか、ポール・モーリアの仲間というか。それに、兄妹のユニットってのが、なんとなく妙な気がした。単純にカレンを好きになりたくても、兄のリチャードが高田文夫みたいなギョロ目でにらみを効かせてる感じ。ファンになりにくい。

ブルーグラスが好きだった高校生の頃に、カントリーテイストの「ジャンバラヤ」「トップ・オブ・ザ・ワールド」をエアチェックしてよく聴いていたこともあったけど、ほぼそれっきり。あ、NHKの「世界のワンマンショー」という番組で「遙かなる影」をコミカルに鍋とか叩いて演奏してたのも覚えてるな。1983年にカレンが拒食症で亡くなったニュースと写真に衝撃は受けたけど、あらためて聴き直すこともなかった。昨年だったか、テレビでカーペンターズのドキュメンタリーを見て、あんなに売れていたカーペンターズがどういうわけで消えていったのかようやく知ったのだった。
< http://ja.wikipedia.org/wiki/カーペンターズ
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テレビか何かでカーペンターズの曲がかかると、幸せな70年代の郷愁を感じはするものの、深入りするところまでは行きませんでした。今回新しいベストCDを買うまでは。

「40/40 ベストセレクション」は音がいいです。SHM-CDという仕様がiTunesに落としたときに良さが残ってるかどうか知らないけど、昔の3枚組CDよりはるかにマシです。気に入ってるのは主に4曲。なぜか2枚目のCDの収録曲ばっかし。

《シング》

すいません、いい曲とは思ってましたけど「明らかにファミリー向け」だからと真面目に聴いたことがありませんでした。ちゃんと聴いたら、ムチャクチャいい曲だなあ。ライナーノーツで初めてこの曲がオリジナルではなくカバーと知りました。彼らの曲はカバーが非常に多いです。この「シング」は、セサミストリートの中の曲で、リチャードが気に入ってレパートリーにしたそうです。YouTubeで「Sesami Street Sing」で検索したら、原曲をいろんな歌手が歌ってる映像が出てきます。

しかし、やはり原曲の良さを最大限に引き出しているのはリチャードのアレンジですね。前半でピアノにストリングスがかぶさってくるところなんか、気が遠くなりそう。リコーダー、トランペット、カレンの歌声、子供たちの歌声、リチャードのハーモニーがかぶせられ、幾重にも重なった分厚いコーラスアレンジに圧倒されます。こんな重厚な曲だったなんて、今まで気づきませんでした。

《愛にさよならを》

訳詞を読むと、歌詞はしょーもないもののようです(すいません)。が、彼らのオリジナル曲としては、今のところ僕のベスト1です。朗々と流れるカレンの声の魅力、どことなく教会音楽風な感じもあるし、あからさますぎとも思える和声の美しさ。メロディが普通のポップス的な単純な構成でなく、オペラの歌曲みたいに長い一本のメロディに聞こえるようになってます。後半のギターソロの一部にちょっとダサいかなと思われる部分もあるけど、壮大な構成が好みです。

《オンリー・イエスタデイ》

冒頭のカレンの低い声に鳥肌ゾクゾク。彼女はけっこう声域が広くて、高い音の部分も普通にきれいな声なのですが、低い声には特に圧倒的な魅力を感じます。それを知り抜いた上でリチャードが曲を作ったりアレンジしてるわけですが、この曲では過剰なほどに彼女の声の魅力が聞けます。

《愛のプレリュード》

この曲でもカレンの声の魅力全開ですけど、リチャードのコーラスの良さが際だつ。やはり兄妹だから声質がコーラスに向いてるんでしょうね。合いすぎくらいに溶け合う。

ところで、上で書いた「ナウ・アンド・ゼン」が僕に与えてくれた二つの影響、です。一つは、レコードジャケット。リッチな住宅の前に赤いスポーツカーが大きく描かれた絵。当時、妹と「写真か、絵か」論争したことがあるくらいリアルに描かれたイラストなのですが(カレンとリチャードのポートレートの絵もあった)、数年後の高校時代にスターログ誌の特集でその絵を再発見。イラストレーター長岡秀星。ああっ! やはり絵だった! それも、アメリカに渡った日本人によって描かれたものだった。誇らしい!

まだ僕にとって氏のアース・ウインド・アンド・ファイアのレコードジャケット群は身近じゃなかったけど、カーペンターズのあのジャケットなら隅々まで知ってる! その後、小学館の学習図鑑シリーズの中の未来都市交通の絵に「長岡秀三」という名前を見つけ、同一人物と確信(マンガ雑誌の巻頭イラストなども描いていたらしい)。以来、雑誌や本で気に入ったイラストを見つけると、必ずイラストレーターの名前を確認するようになった、というのが僕の出発点のひとつだと思う。デザイン学校に入った81年に大きな展覧会「長岡秀星展」が全国をまわったタイミングもあって、ますます夢中に。

もうひとつの影響。「ナウ・アンド・ゼン」のB面は60年代ヒット曲のメドレーなのですが、ビーチボーイズの「ファンファンファン」が含まれてました。ホント言うと、「ナウ・アンド・ゼン」の中で一番気に入ってたのがこの曲でした。20歳頃にふと思い出して、ビーチボーイズのベスト盤を貸しレコード屋で借りてカセットテープに録音。まだその頃は楽しげな昔のロックンロールとしてしか聴いてませんでしたが、それから十数年後(上京してからです)、ようやくビーチボーイズ(っていうかブライアン・ウイルソン)の魅力にとりつかれることになるわけです。ビートルズはほぼ素通りでした。

【吉井 宏/イラストレーター】 hiroshi@yoshii.com
HP < http://www.yoshii.com
>
Blog < http://yoshii-blog.blogspot.com/
>

花粉症でも滅多にマスクをしない僕ですが、さすがにこわくて地下鉄に乗るときや人混みを歩くときはマスクをしてます。神戸や大阪ではテレビで見る限り数割以上の人がマスク着用してますけど、東京じゃ100人に1〜2人くらい。地下鉄では少しは多いみたいだけどそれでも1割より少ないだろう。騒ぎすぎとの声もあるようですが、無防備にしていてインフルエンザにかかったら、カッコワルイ。少なくとも、誰もしてないところでマスクをする恥ずかしさよりは上だ。

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■ブックガイド&プレゼント
「できるクリエイター Illustrator 独習ナビ CS4/CS3/CS2/CS 対応」
< http://www.impressjapan.jp/books/2703
>
< https://bn.dgcr.com/archives/20090520140100.html
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<著者・藤浦一理氏メッセージ>
Illustratorは、CS4でバージョン14になりました。発売以来20年を超えるソフトです。バージョンアップとともに成熟と進化をくり返すIllustratorは、デザインの仕事に従事する人、デザインの仕事を志す人にとって必須のツールとなりました。本書では、CS4の新機能はもちろん、現場で活躍中のCS3/CS2/CSで役立つさまざまなテクニックを網羅しています。ロゴや3つ折の印刷物、Web用メニューといった実用度の高いサンプルを、本書とソフトを使いながら実際に作成することで、Illustratorのスキルを着実に高められる内容となっています。
優れたツールを使いこなすことは、優れたデザインへの近道。本書と、Illustratorという素晴らしい「ツール」を使って、後世に残るようなオリジナリティ溢れるデザインを生み出してください。1987年当時のユーザーガイドの前書きにもあるように、まずはIllustratorを楽しんで使ってくれることを願います。そして、この本がみなさんのクリエイティビティのお役に立つことを祈って。(はじめにより)

<編集者・八島心平氏メッセージ>
アプリケーションの操作に慣れながら、プロのテクニックも身に付けられるクリエイティブ指向の強いユーザーのための入門書、「できるクリエイターIllustrator 独習ナビ CS4/CS3/CS2/CS対応」の登場です。
レッスン形式の「チュートリアル」、項目別に機能を学べる「リファレンス」、覚えた知識やノウハウを試せる「トレーニング」の3部構成で、クリエイターに必要な知識が効率よく身に付きます。
本書で使用するサンプルと、Illustrator CS4体験版を収録したDVD-ROMを使用することで、Illustratorの世界を丸ごと体験できます。
これからIllustratorに触れる人にも、今よりもっとIllustratorのスキルを高めたいと思う人にも最適の一冊です。

体裁:B5変型判/304ページ
定価:2,940円(税込)
ISNB:978-4-8443-2703-5
付録:DVD-ROM(体験版アプリケーション収録)

●本誌をインプレスジャパンよりデジクリ読者1名様にプレゼント。
応募フォームをつかってください。締切は5月27日(水)14時。
当選者(都道府県、姓)はサイト上に6月上旬掲載予定です。
< http://www.dgcr.com/present/list.html
>

・アマゾンで見る
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4844327038/dgcrcom-22/
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■編集後記(5/20)

・TBS「法廷サスペンスSP2 裁判員制度ドラマ 家族〜あなたに死刑が宣告できますか?〜」を見た。官製の裁判員制度宣伝ドラマではない。民間制作のサスペンスである。エンターテインメントである。当然だが、裁判員が関わるシーンは宣伝ドラマと同様な舞台で、似たような流れで進行する。裁判員たちは裁判の当事者として戸惑い、裁判長に疑問や異議をぶつけたりする。宣伝ドラマでは、結局は裁判長の描くすじがきに沿って、うまく着地するのだが、このドラマはそうではなかった。大塚寧々の演ずる裁判員は、強引に裁判の幕引きをはかる裁判長に対し、あなたたちの敷いたレールの上を走らされるのはごめんだと、法廷の掟破りばかりか、裁判員制度で禁止されている行為まで踏み込んでしまう。なんだ、この女のでしゃばりようは、ありえない、なんて思いながらもその活躍ぶりをおもしろく見た。認知症の老女殺人事件の犯人は、被害者の息子か、それとも自白したホームレスか、さらに強盗殺人ではなく、嘱託殺人なのか、その謎は大塚寧々が(笑)「家族への思い」をキーワードにみごとに解いてしまう。そのことは、この裁判のありかたに対する痛烈な批判になっている。裁判員制度のスタート直前に、まことに意義深い内容だった(つっこみ所はいくつもあったが)。たぶん、現実の裁判員制度でも、このドラマのように裁判進行チーム(裁判所・検察・弁護士)があらかじめ決めた枠の中で、裁判員に判断を迫ることになるだろう。さあ、もうすぐ各地からさまざまな裁判員制度トラブルが聞こえて来るぞ。解決は簡単、この愚かな制度をやめれば済む。しかし、このドラマでもテーマとなっていた、認知症の親の家庭内介護という深刻な問題は解決しない。こっちの方こそなんらかの制度が必要である。(柴田)

・ロハってそういう意味だったのか。DTP Boosterもロハ。実経費や日当ぐらいはとれるようにしたいが、今回の規模(参加費と参加人数)と、次回以降のことを考えるとそんな余裕はない。/ヒールは足が痛くなるので、普段ほとんど履くことはない。階段を下りていたら最後の一段にかかとがひっかかり滑る。ばきっ。え? 見ると、かかとが本体から外れていた。ドラマやお芝居ではよくあるエピソードだが、まさか自分がなるとは思わなかった。こういう時、素敵な男性がもう片方のかかとも取ってくれるものなのだが、誰も救ってはくれなかったぞ(笑)。すぐそばを歩いていたおじさま(仮)が、くじかなかったか心配してくれて、はっとした。そういや足はノー事故。残りの足でバランスはとるわ、くじきもしないわで、これこそバレエ効果! 趣味バレエはじめてから足首や足は太くなり、ウエストはどっしりと。なんていいますか、女子レスリングの選手かと思われるような強さが生まれまして……。まだまだ腹筋背筋は弱いのだが徐々に、プロレスラーが急にウエイトをあげたような筋肉と脂肪のミックス(霜降り? 痩せにくい堅太り)になりつつあるのではないかと。バレリーナならハードな練習のせいで脂肪はないのだが、普段座りっぱなしの運動不足で脂肪養成所。痩せたいなら自転車通勤よね。今だと太めのベルトがチャンピオンベルトに見えるわ。(hammer.mule)