武&山根の展覧会レビュー 「ベーシックインカム」について酔っぱらいかく語りき
── 武盾一郎&山根康弘 ──

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武:こんばんわー。カレーの肉は豚派の武盾一郎です。最近は手羽元が好きだけど。

山:なんやねんそれ。

武:夕飯作った、カレーじゃないけど。ベーコンとほうれん草としいたけの炒め物。ちょっと味が濃かったんで、もやしのおひたしを薄味にしたん。酒は料理酒。いただきます。

山:おお、準備万端やな。しかしなんかちょっと凄みあるな。武盾一郎41歳、男やもめがもやしのおひたしの味加減を気にしてお送りする今回のチャットです…みたいな(笑)。

武:福山雅治と同じじゃねぇか、歳もタメだし独身だし。んで、食材は二人目の赤ん坊が産まれたばっかりの妹の手伝いで買い出しに行ってやるんだけど、そん時に食いもん分けてもらってる。

山:ん? ということは妹さんの旦那さんは、妹さんと赤ん坊二人どころか、赤ん坊よりもたいへんな生き物を養っている訳や(笑)。

武:何言ってやがんでぃ、こっちが面倒みてやってんでぇ。

山:いやそんなはずはない(笑)。

武:でも、ずっとアテにしてるワケにいかねぇからのぅ。それまでに俺自身が「おあし(御銭)」を産むようにしないといけねぇなぁ。

山:産まれそうなん?

武:根拠のない自信ならある。

山:ほう。まあじゃあなんとかなるんとちゃうの。

武:最近さ、古典落語を聴くようになったんだけどさ、なぜかたいがいもんのすげぇ貧乏人が登場すんのよ。しかも、その貧乏人がまたまるで稼ぐ能力がない、「おあし」がまるでないのよね。それなのに活き活きとその人なりを生きてたりしてさ、それに励まされてるのよ。大体、真っ昼間から若い衆が集まって酒を呑もうとするんだけど肴を買う銭がない、みたいな。酒はあったりするんよな。

山:まあでも、若い頃はみんなそんなもんやろ。

武:そうだよなー! ってことは現代も江戸時代も変わらないってことじゃん!いいなあ!

山:そこは変わらんやろ。逆に今はみんな若いんとちゃうか。

武:どういうことじゃ?

山:昔より精神年齢が低いってこと。よくも悪くも。昔の人は早く死ぬし。

武:そっかぁ、なるほど〜。最近思うんよ、20年前とね、食べ物の値段、服の値段、電気製品の値段、って上がってないのよな。

山:ほう。

武:だから俺、20年前と同じ金銭感覚なんよ。

山:そうなるとどうなんの?

武:精神年齢が20歳のままなのよ。大人になるってぇのはひとつ「おあし」を持つようになることだったりするでしょう。例えば、太平洋戦争後から80年代までって、物価もどんどん上がったけど給料もどんどん上がった。感覚としては「おあし」が増えてどんどん立派な大人になってったような気分にもなれたんじゃあないか?

山:どうやろな。金持ったからって精神年齢あがるとも思わんが。

武:うーん確かになあ。しかし「おあし」を得るってことはひとつの「大人の証」でもあったわけだよね。

山:まあそういう面もあるんやろうな。



●資本主義は終わるのか?


武:でね、さっきの話に戻るけど。20年前からそこらへんの大衆向け物価が変わってない。ってことは「大人度」も変化しない。だからみ〜んな20年くらい前の精神年齢なんすよ。

山:大衆向け物価が変わっていないとは、給料が上がらないってことになるのか?

武:なるねぇ。

山:で、給料が変わらないから気持ち、というか精神年齢も変わらない、ってこと?

武:そうそう。この前俺300円台の弁当探したけど、20年前も300円台の弁当探してた。「ああ、この気持ちは変わらない!」ってその時思った。

山:確かにめっちゃ安い弁当屋ある。この前、飲み屋に入ってチューハイ130円はびっくりしたけど。駅前の雑居ビル。でもガラガラ(笑)。まあGWやったけどね。

武:わはは! そうそう、安い居酒屋の値段もそんなに変わってないよなあ。だからね「たけや〜さおだけ〜、20年前のお値段です!」って竿竹屋さんが言ってるけど、実際にここ20年物価がインフレしてないんすよ。ちょっと、「おあし」の話を続けたいなあ、これ。

山:むかし竿竹屋で買ったことあるけど、安いのは使いもんにならんやつばっかりやったぞ。結局のところ、別に安くはない。で、どうぞ。

武:これね、月に例えると80年代が満月なんですわ、でね、満月ってさ次の夜の方が丸く見えるんよ。で、まん丸っぽいのが2〜3日続くんだけど、そっからすーって欠けていくんですよ。

山:で?

武:だからね、ここで「ベーシックインカム」がリアリティーを帯びて来るんジャマイカと思ったりしてるんすよ。

山:月のたとえはなんやったんや(笑)。

武:まあ、それは経済成長の例えですよ。資本主義ってのは右肩上がりが前提じゃないですか。けどそんなことは幻想だろう、と。お月さまのように望月が来たら欠けるんですわ、盛者必衰なんですよ。

山:月はずっとまるいがな(笑)。

武:おーーーーーっ! そか! 見掛けの月が望月になったのが80年代だっちゅうことかっ! その見掛けの月はもう欠けて行くんですわ。

山:そこを言わんと例えにならん。話を「ベーシックインカム」に持っていきたいだけやないか!(笑)。

武:うーん、そうかもしれん。

山:ぜったいそうや(笑)。

武:うん。そうだろうけど。料理酒に呑まれてる。

山:もうそんなに呑んでんのか!

武:ノリノリで呑んじった。

山:なんでそんなノリノリやねん(笑)。

武:「心頭滅却すれば火もまた涼し」というけど、テンション上げれば料理酒もまた旨し。だよ!

山:どんなんや。

武:このノリも20年変わってないな、ダメな方ダメな方に勢いよく突き進む感じ。

山:それは、金がないからそうなのか、そうやから金がないのか。

武:金がないからですよ! 20年前と一緒なんですよ。まてよ、下手すりゃ20歳の頃の方が稼いでたな。。。

山:ないからやなくて、持とうとせーへんからやろ。いらないとか言ってたやないか。「俺はお金なくてもいいんだ」みたいに。

武:それはお金を持たずして生きていく方法を編み出すぞ! という情熱だったんだよ。金を介さずして直接欲しいものが手に入ればいいんじゃん! という発想だったんすよ。

山:今できてるやん。食料は(笑)。どっちゃにしても自分で持とうと考えてへんかったやないか。

武:しかし、金を介することがらも多い!

山:あたりまえやがな。

武:えーっ! 俺、41歳で初めてそのことを痛感してる。

山:で?

武:「だ・か・ら、ベーシックインカム(笑)。」

山:やっぱそこやないか!


●素晴らしい仕事≠金を産む仕事


武:そうそう。これね、深いですよ。

山:聞くのめんどくさなってきた。

武:そんなこと言わずに聴いとくれぇよ、例えばさ「素晴らしい仕事=金を産む仕事」とはならないじゃないですか。

山:はあ。

武:論より証拠で「デジクリ」(笑)。

山:わはは!

武:柴田さんもハマムラさんもロハ、俺たちもロハ。(ロハ:タダ働きという意味。「只」がカタカナの「ロハ」になることから)

山:ふむ。いや、ちゃんとお金に繋がっていくかも知れんぞ。このチャットレビューを集めた『公然藝術罪』だって3冊売れたし。赤字やけど(笑)。まだ売れないとは限らない。あ、柴田さんに献本したっけ?

武:うわっ、してない! ってか作ってないんじゃないのか? でさ、実は「デジクリ」ってホントに草分け先駆者だったわけでそ? けど金にならず(笑)。金になってない素晴らしい仕事ってごまんとあるわけですがな。

山:そりゃそうやな。

武:芸術とか、育児とか。

山:育児はね、すばらしいことですけどね、おっきく見ればお金にも繋がっても行く訳で。もちろんそんなこと考えて子供育てないんやろうけど。いや、そういうこともあるけど。よく親に「ちょっとあんた養って〜」って言われてたぞ。もう今では「あきらめた」とおっしゃっております(笑)。すんませんなあこんな息子で。というわけで、芸術がすばらしいとは思えんなあ。わはは。

武:うん、それは芸術「家」が素晴らしくないってことだな(笑)。芸術にしても育児にしても「ホントに大切すぎる事を金にしようとは人間思えない」ってところがあるんでしょうな。ってことはだね、大切すぎることばかりやってる人は金にありつけないわけですよ。

山:大切すぎる、って言っても人にはわからんかったりするからな。そうなるとその人は、人のこととか他のことなんも考えてない、ってなる。

武:そうだなあ。他人には分らないなあ。って育児と芸術を並べるのもどうかともおもうが(笑)

山:僕には子供いないもんでねえ。

武:俺にも。

山:知ってる。勝手にどっかにおったら面白いな(笑)。いや、怖いか。

武:実は結構いるんだぜ、ってな武勇伝を残したい!!

山:そんなことむかし言ってたな(笑)。僕が20の頃、武さんが都道府県全部に1人づつ子供がいるのがいい! って言ってたぞ。

武:そうそう。その夢はまるでひとつも叶ってない。

山:さみしいのう。ま、子供の話はええねんけどね。だいたいね、芸術が金に結びつかないから金がない、なんて、ほんまアホちゃうかと思うけど。そんなんあたりまえやないか(笑)。

武:アホもまた居る。

山:そりゃそうやけど、アホなこと言っててもしょうがない。いや、アホなことばっかり言っててなんですが。

武:これさ、多分、アホならアホでイキ切ればなんとかなるんさよ。

山:ちゃうな。売れたらなんとかなるだけやな。

武:うわー! もうちょっと膨らませてから、そういうオチにいかないとー!

山:編集でやってくれ(笑)。


●ベーシックインカムってどうよ?


武:できるかっ! いや、さ、「ベーシックインカム」をマジで考察してみようよ! 酔っぱらった勢いで。

山:めんどくさいからいやや。

武:だ、か、ら、そこ、膨らませてさ、

山:ひとりでやって。

武:「ベーシックインカムになったらいいと思わないの? 自分?」

山:なにが「自分?」やねん(笑)。ええかげんにしときや(笑)。

武:わはは!「自分」っていう言い回しって関東には一切ないからね。外国語的。

山:ああ、なんとなくその感覚わかるわ。そうみたいね。

武:産まれて初めて「マシッソヨ!」って言ってみた気分。

山:言い過ぎやろ(笑)。

武:わはは。

山:マシッソヨから何もイメージでけへんやないか。真質素よ! マシっすよ!ぐらいしかわからん。

武:えっ? そこ膨らますの?

山:いや、たぶん酔っぱらってきたんやと思う。

武:ってか、じゃあグイって舵戻すけど「自分、ベーシックインカムになったらええと思わへんの?」

山:めんどくさい。そういうのはめんどくさい。

武:分ったよ、じゃあこっちのネイティブで喋るよ。「ベーシックインカムになったらいいと思うじゃん? どうよ?」

山:そうやなあ、そもそも「ベーシックインカム」ってなんやねん。なんとなくはわかるが。

武:「無条件給付の基本所得」ってことらしい。それがいくらかって問題はあるかも知れんが、生活保護を基準にしてみて、毎月無条件に月15万円くらいの

山:金額を国民全員にはなから渡してまう。ってことやんな? 生活保護って15万も入んの?

武:生活保護っていくらか知らんが…、区によっても違うらしいが月10万円は超えてるよね。つか、だいたい年金ってヘンだろ? 自営業者の年金って生活保護受給額より遥かに低いんだぜ!! うちの親父の年金って月6万円台だぜ!!

山:うちの親父の年金は200万やな。

武:ともかく、年金問題やらワープア問題やらあるけど、ポーンと生活出来得る「おあし」が手に入るってぇのが「べぇしっくぃんかむ」ってヤツでござい。どうですか若旦那、この「べぇしっくぃんかむ」ってやつぁ。

山:どうなんやろな。ところでこのチャット、デジクリの原稿に使えんの?

武:知るかっ! で、山根はベーシックインカムもらえたら、どうよ?

山:「知るかっ!」って…(笑)。そりゃ楽は楽やろな。でもそうなると物価あがったりせえへんの?

武:どうなんかなあ? 消費が増えれば値段が下がるんじゃね?

山:ああ、売れれば大丈夫ってことか。

武:「ベーシックインカム」ってなマルクス主義の補完みたいに捉えると間違うと思うのよ。むしろ資本主義のバージョンアップなんじゃないかな、「おあし」が「人間の命」であることを立証しちゃう面あるし、みんなが消費者になれちゃうし。Macで言えばOS9からOSXへの移行なのよ。

山:そんな簡単な問題なんか。

武:俺が簡単に説明してるだけじゃい。

山:どうせそうなったら、また新しい問題が生まれるよな。

武:そうそう。だからこそベーシックインカムを考えてみるのはどうじゃ、という提案なんですよ。いやあだからぶっちゃけ毎月無条件に15万円入ったらどうするよ?

山:支払で終わり。ま、楽になるね。

武:で、現場の仕事辞めるか? 絵を描くの辞めるか? アーティストブック作るの辞めるか?

山:今できることをやってるわけで、そうじゃないことになれば色々変わるやろ。

武:で、どう思う?

山:ま、僕は作りたいから作るやろうけど。あんま関係ないなあ。いろいろ。

武:だろ? 要するに、金銭的に楽になるんだよ。やる事変わらなくて。この仕組みってどうよ。

山:それは多分違うぞ。ベーシックインカムがしかれた場合、そこを強く言う人もでてくるんかもしらんが、それは違うぞ。そんなところで生きてるわけではないやろ、実際には。

武:うーん、いいのかわるいのか分らないけど、妙案のような気がするんだよねぇ「ベーシックインカム」。

山:武さんに頑張ってもらおう(笑)。僕は実際にはどっちゃでもええがな。


●どんな仕組みだろうがアーティストは「己が法(アナーキスト)」


武:ああ、どんな仕組みでも生きていくがなーっ! 的な。

山:なかば諦め的に(笑)。ネガティブに捉えてるわけではないが。

武:そか。じゃあ、そのどんな仕組みでも生きていける方法論はなんじゃ?

山:自分を信じる(笑)。終わったことは終わったこと(笑)。

武:なんか、まっとうすぎるなー。

山:夢みるのんも技術がいるんやと思うねんな。

武:おっ!

山:夢をみるって自分が未だ見ていない、感じていない風景や感覚を体験したい、ということやと僕は考えてんねんけどね。だから技術っていうのは、そんな自分を強烈に支持する技術とか、ある意味アホになる技術、自分をいい意味で騙す技術、とかやな。

武:なるほど、自律・アウトノミアってことか。アウトノミアって「己が法」っていうアナーキズムの意味も含まれるらしいからな、いつの世でもアナーキストでいきましょう、と。

山:でもこれ、歳とったり病気したりするとまた変わるんかね。まあアホは変わらんのか。自分を騙しすぎて(笑)。

武:アホもまた居る。

山:そうか…やっぱ売れんと救われへんか。

武:どなたか俺の絵を買って下さい!

山:よし、じゃあしゃあないから僕が買うたる。そのかわり僕の絵を武さん買うてくれ。お互い損はないようにしよう。

武:お、それいいね! …ってそれじゃ食えないジャマイカ!

山:じゃあ僕も妹さんの家の手伝いします。

武:いや、俺の介護をしてくれ。

山:いや、それは金がいる。

【武 盾一郎(たけ じゅんいちろう)/45歳でデキ婚】
take.junichiro@gmail.com
Take Junichiro Art works
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246表現者会議
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【山根康弘(やまね やすひろ)/子供は好きなんです】
yamane@swamp-publication.com
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