[2697] 贈る心、来訪者への想い

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《Webサイトの敵は自動販売機なのだ》

■電網悠語:日々の想い[128]
 贈る心、来訪者への想い
 三井英樹

■ショート・ストーリーのKUNI[64]
 夢の続き
 ヤマシタクニコ

■デジクリトーク DTPデータ解体新書──DTPな人たちのフォントは今
 DTPで「ライセンスフォント」を使用していますか?
 笹川純一

■展覧会案内
 銀座界隈ガヤガヤ青春ショー

■ブックガイド&プレゼント
 「Illustratorお絵描きBOOK」大賀葉子


■電網悠語:日々の想い[128]
贈る心、来訪者への想い

三井英樹
< https://bn.dgcr.com/archives/20090903140500.html
>
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大学を出て最初に入った会社が外資系だったことを理由に、お中元もお歳暮も実感なく生きてきた。一年の特定の時期に、それなりの量の何かを送るという経験から逃げてきた。それでも、誰かに何かを贈るということから完全に離れて生きていける訳ではない。

お世話になったとき、心配だったとき、何かを一緒に祝福したいとき、様々な場面で、いそいそとデパ地下に向かう。慣れていない分だけ、場違いな雰囲気を漂わせているのを自分で感じ取る。そんな多少の冷たい視線の雑踏の中、想いを届けたい人が一番喜んでもらえるようにと、探し回る(ECサイトを使うのは、贈るものが分かっている時や、ワインなど種類が多い中から安く選びたい時)。

和菓子がいいか、洋菓子がいいか、それとも花か。定番がいいか、少し奇をてらったものがいいか。宅配便を受け取ったときから、包装紙を解き、箱を開けるまで。過剰包装を嫌がるかどうかも考える。ニヤッとして欲しいのか、微笑んで欲しいのか、おどろいて欲しいのか。様々な妄想を抱えたまま探し続ける。


同じ妄想を膨らまして、Webサイトを考える。クライアントの考える「ユーザ像」をベースに、その人達がどう感じるのかを考える。喜んで欲しいのか、納得して欲しいのか、驚いて欲しいのか、安心して欲しいのか。一人で見るのか、家族で見るのか、子供と見るのか、恋人と見るのか。検索から辿り着くのか、クチコミから辿り着くのか、広告から辿り着くのか。

クライアントから与えられたユーザ像を疑うことも多い。いや、こういう傾向の人たちの方が、刺さるのではないか、響くのではないか。自分たちの肌感を論理武装するために、調査結果を探すことも多くなった。そういったデータをクライアントに求めることも強まった。相手を知ることが、最適な贈り物をする最短距離だから。

相手の姿を定めたなら、最適な表現を探る。「残念な感じ」「意味が分からん」「まだ遠いなぁ」「お、だいぶ近づいてきた」「これなら刺さりそうだ」「これは響く」。伝わるかどうかを、そんな言葉を使いながら、確認するかのように研ぎ澄ましていく。

伝えたいことを、伝わる形にする。適切な構成と的確な表現とが融け合わさったとき、鳥肌が立つような「デザイン」が目の前に広がる。世界で、未だクライアントも見ていないものを、Web屋のチームだけが独り占めする瞬間。一つのコミュニケーションを形にする作業の重さと面白さを実感する場面。醍醐味といっても良い。ただし、毎回とは言えないところが辛いところだ。それは何かが欠けている時なのだろう。


上質なコミュニケーションを探る作業を重ねる毎日の傍らに、最近異物が混入してきている。リアル生活での、普段の接客のレベルでの品質劣化を感じることだ。外食のシーンが多い。定食モノを頼んだら、まるで散らかしたようにご飯がよそわれて出される。ご飯を盛って、最後にペタペタと形を整えるのは小学校のときに学んだことだった。それがない。久々に立ち食い蕎麦屋で鰻丼を頼んだときは、たった一切れの鰻がひっくり返って出されてきて、唖然とした。

出せばいいでしょう、食えればいいじゃん、と言わんばかりのサービス。サーブ(仕える)とはお世辞にもいえない対応。気持ちよく食べてもらう、そんな当たり前の気持ちが伴なっていない。客の気持ちをつかむことなく、料金だけを奪おうとしている。それでいながら、諸々の競争に勝とうとしている。「ナメラレテイル」、そんな言葉が浮かんでくる。商売自体をナメていると言った方が良いのかもしれない。


そんな対応に出くわす頻度が増えていく中、自分たちの足場を思い起こす。今や、Webサイトは誰にでも作れるものになってしまった。HTMLは当初の簡便さだけが学ばれて、いまだにIEでないと見られないサイトも根絶されていない。Blogなどのテンプレート型のページが増えたので、酷いのに出会う頻度は減ったけれど、それでも眉をしかめるサイトは未だある。コンテンツではなく、人に見てもらうという体裁として眉をひそめる。問題は小規模サイトだけではない、大企業でも酷いものは少なくはない。これ、お客様に見て頂こうとしているんだよね、と画面に思わず問いかける。

加えて、素人が数ヶ月でプロのWebデザイナになれると豪語するマルチメディアスクールもまだある。そんな訳がある筈がない。Webはそんな表層技術だけでできている時代をとうに過ぎている。数ヶ月間で、ユーザビリティに加えセキュリティから更新運用体制までもを考慮して、クライアントとユーザの双方にサーブする能力を身に付けることは事実上不可能だろう。特定のブラウザだけで見える技術を磨き、ちょっとしたグラフィックデザインで工夫する、これだけで情報提供側としての責任を果たしていると思うことは、徐々に許されない領域へと入っている。それは、鰻をひっくり返して客に出すサービスに似ている。ただ皿を出せばいいだけ、ただ情報を並べればいいだけ。


それでも、ネットの中の鉄則は崩れない。目立たないものは消え去り忘れ去られる。ユーザはあくまで浮気っぽく、愛着を勝ち得るのは至難の業だ。今日のマイユーザは、明日のライバル支持者、支援者だ。でも、「目立つ」意味は微妙に変化している。数年間メジャーリニューアルをしていないにもかかわらず、古さを感じさせないサイトがある。醸し出す雰囲気がその企業のブランドと見事に融合している場合に多い。派手に着飾れば良い訳ではない、お金をかければ良い訳ではない。会社や製品をお客様に伝える「本気さ」が問われているのだと思う。本気さは「味わい」に変わり、来訪者の記憶に染み込んでいる。遠目に建物を見て社名が浮かぶかのように、Webサイトを見て社名が浮かぶ企業が増えている。ゆっくりかもしれないが、確実に。

限られた予算の中で、ありもので済ますモノ、作りこんで丁寧に包装して贈るモノ、その采配自体が企業戦略の現われだ。そのブランドのファンになってしまえば、力のかけどころを見るのも面白くなる。今度はそっちに力点を置くのかと、マニアックな応援もする。そんなコミュニケーションというか、関係性もWebを土台にしたものなのだと思う。

逆に言うと、そうした関係性が構築できないWebサイトは、本来の機能を充分には果たしていないとも言えるのだろう。リアルな掲示板(立て看板)と変わらない。看板に愛着を持ってくれる人は稀だろう。しかも、Webは無形のデジタル情報の塊だ。さわれない分、更に愛着が持ちにくい。でも、日々多くの、非常に多くの人の目に留まる。いわば、一等地に置かれている。

Webが機能を提供していることを考えると、立て看板というよりも自動販売機に近いかもしれない。視覚的に情報提供しているだけでなく、何かしらの商品提供もしている自動販売機。当たり前のように、街のいたるところに鎮座して、全く同じサービスを繰り返している。単体としての個性はなく、効率だけを重んじる。けれど、同じだからこその安心感を提供している。そして、最低限のマナーは守っている。失礼な商品の渡し方だと感じることは余りない。期待していないだけかもしれないけれど、操作方法に戸惑うことはままあっても、さして腹は立たない。

そう考えると、Webサイトの敵は自動販売機なのだ。精神的な意味での敵。自動販売機でできることしか実現できていないとしたら、そのサイトのサービスはかなり低い。技術的にもWeb屋の登場場面は少なく、CMS系パーッケージでことが済む。ユーザビリティ向上に精を出している自動販売機設計者には申し訳ないが、Webサイトがそれに負けてはいけない。断じて。そうやって競うところに、誇りが生まれる。

喜んで食事をしてもらおうという気持ちを忘れた飲食店の店員は、もはや敵ではない。「おもてなし」を論じるレベルでさえない。自動販売機に負けている店員さんは、もう目じゃない。Webサイトはユーザのもっと近くに行ける。自動販売機に負けてはいけない。作りこんでいるこの情報を、贈られる人の気持ちを考え続けたなら先に進める。精進あるのみ。

【みつい・ひでき】感想などはmit_dgcr(a)yahoo.co.jpまで
・mitmix< *http://www.mitmix.net/
>

圧勝でしたね。選挙を伝える各メディアサイトの賞味期限は短いです。独自スクラップをする方はお急ぎを。参考になります。特に、新聞各社+TV各社。

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■ショート・ストーリーのKUNI[64]
夢の続き

ヤマシタクニコ
< https://bn.dgcr.com/archives/20090903140400.html
>
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駅から徒歩5分、階段を下りて雑居ビルの地下1階に下りると、目の前に小さな看板があった。

夢の続き屋マック/MAK

看板には丸縁めがねに長髪でひげをはやし、しかも髪の右半分を三つ編みのお下げにしているという奇妙な男の絵が描き添えてあった。さっき通ってきた道にも同じ絵の看板があって、そこにあった矢印を頼りにぼくはやってきたのだ。

そうっと扉を開けると、カウンターの中から絵のまんまの男がぼくをちらと見た。つまりこの男がマックというわけか。看板ほどにこやかでも愛想良さそうでもなかったけれど。店内にはワックスのにおいが満ち、歩くと床がかすかにきしんだ。何年か前に流行った洋楽が低く流れている。

「いらっしゃいませ」
「えっと、ここですよね。夢の続きがみられるという…」
「はい。もう一度みたい夢、目が覚めたくなかったのに途中で目が覚めてしまった夢。なつかしい人に会った夢。みなさん、一度や二度はそういう経験をお持ちです。新技術の開発でそれが可能になりました。みたかった夢の続きがみられます」

マック、らしき男は何百回と言ってきたであろう説明を無表情で述べた。うわさに聞いていた通りだ。

ぼくが一日に何回もアクセスするSNSではここしばらく「夢の続き屋マック」のうわさで持ちきりだった。
「行ってきたよー。みたかった夢の続き、みました! さいこー! ちょっと高かったけど、これで思い残すことないです」
「こうなったらいいなと願ってた通りの夢でした。最近ろくなことなかったけど、なんだか元気が出てきたです〜」

ぼくにも、続きをみたい夢があった。ひと月前にみたとてもハッピーな夢だ。少なくとも途中までは。それが映画でいえばちょうどこれから佳境に入るというところで、無粋な目覚まし時計に現実世界に呼び戻された。ぼくはがっかりした。それ以来、もう一回みたいと思って一生懸命心に念じても、夢の情景を絵に描いた紙を枕の下に敷いて寝てみても、二度と続きはみられないのだ。

「夢の続きって、すぐにみられるんですか?」
「はい、ここに必要な事項を記入してください。準備が必要ですから」

マックがボールペンと一緒に寄越した用紙にはいくつもの記入欄が設けてあった。生年月日、氏名、住所、電話番号、メールアドレス、職場または学校の所在地と電話番号、そして肝心の夢をみた日と場所、どんな夢だったか等々。

「夢をみた日を覚えていないという方もおられますが、状況がくわしく書かれていればなんとかなります」
「いや、覚えています。ちょうどひと月前だし」
「そうですか。それはよかった」
ぼくは用紙に記入しながら聞いた。
「でも、どうして夢の続きがみられるんです?」

マックは笑った。
「説明はむずかしいのですが。まあ…レンタルビデオの店のようなものだと思っていただければ」
「ああ」

思わずそう応じたのは確かに、店の雰囲気が場末のレンタルビデオ店に似ていたからだ。自由に取りだせるケースを並べた棚こそないが、カーテンの奥にはぼうだいな夢の続きが薄いケースに入ってぎっしりと収まっているような気がする。
「でも、どんな人が夢の続きをみたいと言ってくるか予測もつかないのに、それをすべて置いてるわけなんですか?」
「ああ、そうですね。その点では通信カラオケの店のようなものだというほうが近いかもしれません」
「はあ」

わかったようなわかってないような気分だった。しろうとに説明してもむだだと思ってるのかもしれない。それもそうだ。用紙にすっかり記入を終え、差し出すとマックは受け取りながら「料金は先払いになっておりまして」と、金額を示した。うわさに聞いていたよりずいぶん安かった。値下げしたようだ。

マックは用紙とお金を持ってカーテンの向こうに行き、やがて手ぶらで戻ってきた。「準備ができ次第、あちらの部屋で夢をごらんいただけます。しばらくお待ちください」

ぼくはマックが示したそばの椅子に腰掛けた。店内は必要以上に照明が絞ってあって、カウンターの周囲以外はほとんど薄闇に包まれていた。夢の世界へと誘う演出かもしれない。

ぼくはそわそわしながら、もう何回も反芻した夢をまた思い出したりした。夢の中ではぼくは高校生に戻り、ホッキョクグマの着ぐるみに入ってる。学園祭なのだ。その格好で棒付きソーセージを売る屋台を手伝っていると、ミツバチがやってきた。もちろん、仮装だ。

「ソーセージちょうだい」
その声でぼくにはミツバチが、ずっと前から片思いをしている隣のクラスのカオリだとわかった。仮装があまりにも凝っていて、中身はほとんど見えなかったけれど。
「オッケー、ソーセージ大盛りでいいかい?」
「ぷー。もちろんよ!」

ぼくは現実にはカオリの前に出ると全身がこわばって声が出なかったのに、着ぐるみのせいか夢の中ではそんなジョークを普通に言えた。ぼくは有頂天になった。カオリは学年中で一番人気のある女の子といってよかった。美人だし、つんつんしたところがなく、明るい声でよく笑う。その彼女がなぜかぼくを気に入ってるのだから。次に場面が変わるとぼくたちはカップルとなってベンチに並んで腰掛けていた。ホッキョクグマとミツバチの格好で。

「あたし、こうみえてもカフカが好きなの」
「ぼくもだよ、気が合うなあ!」
「実はね、小説を書いたんだけど、まだ誰にも見せてないの。読んでくれる?」
「え、僕に最初に見せてくれるってこと? 読むよ、絶対!」
「よかった、小説書いてるなんてキモイと思われるかと思ったんだけど、じゃあ見せるわ。実はここにあるの」
彼女がミツバチの仮装のお尻の部分をいたずらっぽい仕草で示した。
「え? そこに?」
そこで夢は途切れてしまったのだ。もうすぐ、その続きがみられる。

「ぼくは最近まで知らなかったんですが、いつからあるんですか、この店は」
「一年くらいになりますかねえ」
「じゃあ、いままでいろんな夢の続きをみた人がいるんですね」
「そうですね。まったく感心するほどです。人生も多様ですが、夢はもっと多様ですからね。あらゆる制限がない分」
ぼくはうなずいた。
「さっき階段ですれ違った人はここのお客ですか」
「どんな人でした?」
「えっと…50代くらいの、コートを着た男性で…」
「ああ、そうです。あの方は…お気の毒な方でした」
「え?」

「なんでも、旅をしている途中で見知らぬ女性と恋におち、新居を構えて一緒に暮らすことになった──という夢をみられたそうです。運命の女性というやつですね。それで幸せな毎日を送っていたのにあるとき、元の妻から『円周率がわからないから帰ってきて』という電話がかかってきた」
「円周率?」
「夢ですから」
「はあ」

「それであわてて旅支度を整え、早朝、女性を残して出かけた。ところが、電車の中ではっと、自分がこんろに薬罐をかけたままにしてきたことを思い出した。はっとしたとき枕元のアラームが鳴り、ああ夢だったかと気づいたのですが、それ以来夢が気になって仕方ない。あの女性にもう一度会いたいとも思うし、こんろの火が気になってしかたない。夢の中ではいまでもあのまま時間がとまっているわけで、戻ることさえできればなんとかなるのではないか。悶々とした思いをかかえて、こちらに来られました」

「で、続きをみられたのですね?」
「はい。無事に夢の続きに戻られました。夢の中で急いで女性のもとに引き返しましたが、手遅れでした」
「えっ」

「こんろの上で薬罐は瞬く間に火の玉と化し、それがもとで火災が起こっていました。帰り着いたときにはすでに何台もの消防車が燃えさかる家を取り巻いていました。せめて自分の愛した女性は無事であってほしいと願ったものの、焼死体と対面するという結果になりました」
ぼくはショックを受けた。

「そのような夢なら続きをみなかったほうがよかったと思われるかもしれませんが、みないままあれこれ悩み続けるのとどちらがよいか、なんともいえません。私たちのほうでも、みなさんの夢の続きがどうなっているのかまったく知らないわけでして」
「はあ」

不意に奥のほうから人影が現れた。無言でドアを開けて去っていく。ぼくとあまり変わらない年格好の男だ。
「いまの方は、確かプロポーズの最中で夢が中断された方でしたが…結果は思わしくなかったようです」
「は…」

「プロポーズは夢でも実人生でも何回でもやり直せますから、むしろ、早くすっきりしたほうがよかったと言えるかもしれません。別の方の例ですが、写真が趣味で、特に動物写真に熱中しておられました。さほど裕福でもなく、趣味の範囲内で我慢しておられたようです。それがある日、アフリカのサバンナに撮影旅行に行く夢をみられました。まさしくあこがれの地です。文字通り夢にまでみたすばらしい光景が目の前に展開している…というのは変ですが、それはそれはリアルな夢であったそうです。空気感、草のにおい、降り注ぐ陽光、ブーツの下の土の感触まで、すべてがいつまでも忘れられないほどに。そして、折しもトムソンガゼルの群れが近づいてきた。これはいい写真が撮れる。コンクールに出せば入賞間違いなしだ。興奮してカメラを構えたところで…目が覚めたそうです。ああ、なぜ目が覚めてしまったのだろう。もっとあの世界にいたかった。返す返すも残念で仕方なく、ここに来られました」

「で、結果は…」
「無事にその瞬間に戻ることができましたが、同時に、背後にライオンの息づかいを聞くはめになりました」
ぼくは息をのんだ。
「大変おそろしい思いをされたようですが、残念ながらご本人の口からくわしいことは聞けませんでした」
「というと」
「とてもお話が聞けるような状態ではなかったのです。ほとんど錯乱した様子でなんとかご自宅に帰り着かれたようですが、その後精神を病んで、現在も入院しておられると聞きました」

店内の音楽が止んだような気がした。すると目の前のマックが笑い出した。笑うとゆがんだ口元の奥に歯が何本か抜けた洞窟のような闇がみえ、ちょっとぞっとさせるものがあった。もともと、マックなどという愛称が似合うタイプではなかった。

「ははははは。私はちょっと意地悪なところがありましてね。こういう話ばかりするのです。もしかしたら、全部、本当ではないかもしれませんよ。ねえ?守秘義務もあることだし、ぺらぺらしゃべる内容がすべて本当のはずがない。いや、こういう可能性もあるということを先に示しておくのは、ある意味良心的だと思いませんか?」
「ええ…確かに」

そのとき、小さな音で携帯が鳴った。SNSの仲間からのメールだった。
─「夢の続き屋マック」のすぐ近くに類似店があるようだから、気をつけて。
え?
─ハッピーな夢をみせてくれる「夢の続き屋マック」はスペルがMAC 看板はこれ

ぼくははっとした。そこには看板の画像も添付されていた。丸縁めがねに長髪でひげをはやし、しかも髪の右半分を三つ編みのお下げにしている…ではなかった。髪の左半分が三つ編みだった!

「準備ができたようです。どうぞ」
マックが言った。

【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
みっどないと MIDNIGHT短編小説倶楽部
< http://midtan.net/
>

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■デジクリトーク DTPデータ解体新書──DTPな人たちのフォントは今
DTPで「ライセンスフォント」を使用していますか?

笹川純一
< https://bn.dgcr.com/archives/20090903140300.html
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株式会社吉田印刷所で7月に行ったアンケートは「DTPで「ライセンスフォント」(フォントレンタル)使用していますか?」という内容でした。

フォントの買い方には、パッケージでの購入の他に、「ライセンスフォント」(レンタルフォント)といわれる「期間を定めて、使用料を支払い、フォントを使用できる」タイプのものがありますが、このライセンスフォントを使用していますか? ということをアンケートでお答えいただきました。結果は以下の通りです。

◎DTPで「ライセンスフォント」を使用していますか? …投票数:384票

  ●はい           … 39.3%
  ●いいえ(知らない)    … 29.7%
  ●いいえ(導入予定はない) … 22.9%
  ●いいえ(導入を検討中)  …  8.1%

1位は「ライセンスフォントを使用している」という方が約40%でした。
思ったより高い割合だった、という印象を受けました。

いまはライセンスフォントを使用していないが、検討しているという方がすべて今後ライセンスフォントを導入したと仮定すると、インターネットでアンケートにお答えいただいたおよそ半数の方がライセンスフォントを使用することになります。これはもう時代の流れとして、ライセンスフォントが選択肢の大きな位置を占めているといってもよい割合なのではないでしょうか。

また、この結果は2008年の11月頃に同じようにアンケートを取った「みんなが使っているDTPのフォントの種類は何だろう?」というものでも、一番使用しているフォントの種類としてOTF(Open Type Font)があげられており、OTFを導入する際にライセンスフォントを導入されているケースも多いのではないかと推測されます。

・みんなが使っているDTPのフォントの種類は何だろう?
< http://blog.ddc.co.jp/mt/mail/archives/20081117/110600.html
>

2位は「ライセンスフォントを知らない」という方で約30%でした。「ライセンスフォントを知らないなんて!」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、先ほどの「みんなが使っているDTPのフォントの種類は何だろう?」のアンケートでも「フォントの種類を知らない」という方が20%いることから考えると、既にフォントがインストールされて環境が構築されていたりすると、フォントライセンスに対しての興味や関心が湧かないため、ライセンスフォントという言葉に巡り会うことなく(もしくは巡り会っていても視界に入ることなく)、結果として「ライセンスフォントを知らない」という回答になったのではないでしょうか。

3位は「ライセンスフォントの導入予定はない」という方が約25%でした。これはMacやWindowsなどの環境にもよるかと思いますが、以前よりDTPをされていて、CIDやTTFでフォント環境が構築されている方、つまりパッケージでフォントを購入されている方は、新しいフォントを購入しなくてもフォント環境が既に構築されているので、ライセンスフォントを導入する意味があまりないとも言えます。

こうした方々は、ライセンスフォントを導入するに当たっての直近のコストパフォーマンスがあまり良くないため、導入の予定はないという回答になるのではないでしょうか。

もちろん「何百書体もいらない」「一定のフォントしか使わない定型のお仕事だ」というのであれば、ライセンスフォントを導入しなくてもパッケージで購入した方が明らかにコストパフォーマンスがよい場合もありますので、そうした方も含まれているかと思います。

4位は「ライセンスフォントの導入を検討している」という方で約8%でした。以前より使用してきたMacのDTP環境から、新しいMacもしくはWindowsのマシンを購入してDTP環境を作る場合は、フォント環境が大きく変化する瞬間です。こうしたことを考えられている方が「ライセンスフォントの導入を検討している」という回答をされたのではないかと考えられます。

全体として、ライセンスフォントは利用している人、検討している人を含めると、かなり多くの方々にその存在が浸透していることが今回のアンケート結果から伺えました。

ただし、約30%はライセンスフォントそのものがわからないというアンケート結果も出ており、以前のアンケートも含め、フォントライセンスや仕様などの関心が低いユーザー層もかなりいることも伺えました。DTP業界のユーザースキルのレベルアップのため、DTPの業界団体を始め、フォントベンダーからもこうしたユーザーへの情報発信や情報共有が求められるのではないでしょうか。

今回のアンケートにも、DTP駆け込み寺の和尚様・読者様、デジタルクリエイターズの発行者様・読者様にご協力を頂きました。また、弊社ページをご覧頂き、アンケートにお答え頂いた方々にも御礼申し上げます。ありがとうございました。

〈アンケート概要〉
アンケート期間:2008年7月7日〜2009年7月31日
アンケート対象:主として「DTPサポート情報blog」閲覧者
アンケート方法:以下のページのウェブサービスによる回答(無記名回答)
< http://blog.ddc.co.jp/mt/dtp/archives/20090707/133000.html
>

〈関連ページ〉
日刊デジタルクリエイターズ
< https://bn.dgcr.com/
>
DTP駆け込み寺
< http://www.dtptemple.org/
>

【笹川純一】sasagawa@ddc.co.jp < http://www.ddc.co.jp/
>
DTPデータ入稿を手がけている、個人的には若手だと思っている印刷会社の人。

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■展覧会案内
銀座界隈ガヤガヤ青春ショー 〜言い出しっぺ横尾忠則〜
灘本唯人・宇野亜喜良・和田誠・横尾忠則 4人展
< http://www.dnp.co.jp/gallery/ggg/
>
< https://bn.dgcr.com/archives/20090903140200.html
>
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会期:9月2日(水)〜9月29日(火)11:00〜19:00 土18時 日祝休
会場:ギンザ・グラフィック・ギャラリー(東京都中央区銀座7-7-2 DNP銀座ビル1F TEL.03-3571-5206)
内容:日本のグラフィックデザインを牽引した4人のイラストレーター。高度経済成長期真っ只中、1960年代の銀座をテーマに、当時の4人の代表作を中心に紹介、それぞれの“青春グラフィティ”を繰り広げる。
◇トークショー
日時:9月18日(金)16:00〜18:00
会場:DNP銀座ビル5階大会議室
出演:灘本唯人・宇野亜喜良・和田誠・横尾忠則
定員70名、入場無料 要電話予約 9月4日(金)より申込みを開始

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■ブックガイド&プレゼント
「Illustratorお絵描きBOOK」大賀葉子
< http://kasga.xb.shopserve.jp/SHOP/0908-illust.html
>
< http://www.ogre-s.com/
>
< https://bn.dgcr.com/archives/20090903140100.html
>
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描きたいがいますぐに──Illustratorを気軽に使って簡単なイラストを描きたい人、Illuteratorを使いたいけれど難しく感じている人のための、初心者向けの本です。多岐にわたる機能のすべては紹介できませんが、基本的な機能を効率よく覚えていただけるようにしています。(サイトより)

〈著者の大賀葉子さんから〉
Adobe Illustratorをタブレットで使っている私にとってはとても嬉しい機能が増えているCS3、CS4。今までよりもずっと直感的にillustratorを使える方法をあれこれ紹介しています。色々な方法から同じ絵を作るお約束のコラムもお楽しみに!

〈編集者の菅原正春さんより一言〉
大賀葉子ファンのみなさま、お待たせしました。Adobe Illustrator CS3、CS4に対応した「Illustrator お絵描きBOOK」がついに刊行されました。機能は強化されていますが、操作手順は簡略化されているので、ややこしい解説文は少なく、その分、大賀さんの素敵なイラストが盛りだくさんの内容となっています。書店に行かれたら、手にとってそのままレジに向かってください。絶対に後悔はさせませんよ。

体裁:AB版/135ページ
定価:1,890円(税込)
ISNB:978-4-8632-1156-8
著者プロフィール:
1997年米国MetaCreations社「BeyondThe Canvas Contest」にてインタラクティブ部門第1位、1998年2D Fine Art部門第2位受賞。同年よりディジタル・イメージに参加。著書多数。挿絵、ポスター、キャラクターデザイン、TV番組オープニングアニメーション原画などを手がける。個展、グループ展、セミナー講師なども。

●本誌を春日出版より読者2名様にプレゼント。
応募フォームをつかってください。締切は9月10日(木)14時。
当選者(都道府県、姓)はサイト上に9月下旬掲載予定です。
< http://www.dgcr.com/present/list.html
>

・アマゾンで見る
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4863211562/dgcrcom-22/
>

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■編集後記(9/3)

・気になるCM、厭なCMをまた。仲間由紀恵のチキンラーメンCMについては何度も書いたが、あのロングヘアーのままでラーメン作ったり食べたりするのは完全に×である。幼児が卵を割ってラーメンつくるのを支援する(?)CMでも、食品の上空を長い髪の毛がばさばさぶるーんぶるーんと動いていて、不愉快千万。わたしの家族も同意見だ。こんなのが厨房にいるラーメン屋があったとしたら、絶対にお客が来ないだろう。食品CMにこの髪の毛はまずいのではないか?と思う日清食品の人は一人もいないのか。このCMシリーズ長いこと続いているのだから、とんでもなく無神経な食品会社である。どうしても仲間CMを続けたいのなら、貞子でなくごくせんにしなさい。自転車でこちらに向かって戯れながらやって来る男女、牧歌的でいい情景だ。この二人は恋人かと思ったら父と娘だという。サイトで歌詞を確かめたら「君が生まれて喜んだ」とある。タイトルは「ウーロン茶の歌・父娘」編である。「君」とは父から娘への呼びかけなのだろうが、みょうな違和感がある。広告コピーの「君と百まで」とはどういうことだ。二人が恋人かと思ったのは、このコピーを見たからだ。しかし、ここの「君」は娘なのだ。「娘と百まで」なんだっていうのか。その前に流れていた女性ふたりのCMは母娘編だと知った。構造は同じだった。まことに不可思議なCMである。それにしてもサントリーの"媚中"CMの数々、いけすかない。(柴田)
< http://www.nissinfoods.co.jp/product/cm/
> チキンラーメン
< http://www.suntory.co.jp/softdrink/oolongtea/cm/new.html
>
ウーロン茶

・無事に雪豹が届いた。/DTP Boosterのため、Iさんの部屋に泊めてもらった。Iさんは一人暮らし。なのに新婚家庭でも十分だよな〜という広さ。ブランド品や海外旅行よりも、家が好きなの〜、というだけあって、お給料の多くを家賃に費やしている。はじめて行くお部屋なのに、落ち着くこと落ち着くこと。あれって何なんだろうね、落ち着かない部屋とそうでないお部屋があるのって。外出したくなくなっちゃう。ごろごろしたくなっちゃう。使ったことのないシャンプーやボディシャンプーがあって、使い勝手の良さ、香りにうっとりして、メモしてきたさ。彼女にそれを伝えたら笑われたけど。歯磨き粉が同じもので、なんだか嬉しかったり。翌朝食べた、スライスチーズとハムをのせたトーストが美味しくて、帰宅してから真似したがあんまり美味しくない。きっとパンのせいだなぁ。休日には美味しいパンを買いに遠出したりするんだって。(hammer.mule)