グラフィック薄氷大魔王[198]アーティストは変な人?
── 吉井 宏 ──

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職業欄や会社名欄に「フリーランス」って書くことがありますが、そこから届く郵便物の宛先が「フリーランス吉井宏様」となってることが時々ある。フリーランスという言葉はあまり一般的でないのかもしれないので、自由業って書くほうがいいかもしれない。また、「お店を持ったり、会社などに勤めないで働く形」を知らなかったり理解できない人たちがいて困惑することもある。

一般の人には、「勤め人じゃない人」ってだけで自分らとは違う世界の人と思われてるんだろうな。まして、「イラストレーター、アーティスト、作家」なんてまっとうな仕事ではないと思ってる人が、相当の割合でいることは想像がつく。

......という前提で、僕的には「作家だから、アーティストだから、フリーだから」ってことで許されたり見られるのがイヤなので、なるべく「普通の人」でいようと心掛けてます。よく見ると、いや、よく見なくてもフツーには見えないかもしれないですけど、全体的にはフツーを目指してます〜。っていうか、実際、初めて会った人に「もっと変な人かと思った」「普通の人で意外でした」とか言われることあるも〜ん。



デジクリ読者のみなさまの周囲でもそうだと思いますが、クリエイターの人で、変な格好をしているとか明らかにエキセントリックな人とかはそんなにいないですよね。それぞれ、多少どこか特殊な部分を抱えてるかもしれないけど、四捨五入したら普通の人たちの範疇でしょう。でも、一般の人たちには、作家やクリエイターは自分たちとは違う世界の人であってほしいという期待は確かにあると思います。わかりやすい「芸術家らしさ、作家らしさ」っていうか。

そんな視線をうまく利用するのも作戦でしょうね。芸術家! と聞いて思い浮かぶ偉大な変な人たちは、たいてい、変な人と思わせるほうが利益が大きくなることを見越して、あるいは顧客サービスとして、自己演出というか自己プロデュースでやってるんですよね。ミュージシャンやバンドなんて、それが完全にビジネスモデルになってる。

ところで、アーティストはエキセントリックなほうが喜ばれると志望者の間に知られちゃってる今、最近の若いアーティストやイラストレーター志望者に顕著なのですが、自分は如何に異常者であるかを競うような作品が目につきます。たぶん、十数年前にアウトサイダーアートが知られるようになってからの傾向だと思うのですが、浅ましいと思います。過剰に無垢や純真を装おうのも似たようなもの。

何度かコンテストの審査員みたいなことをやったことがあるのでよくわかるのですが、天然なのか演出なのか、「異常者的な」作品は、確かにすごく目を引くのです。そういう作品に惹かれてしまうのは何だろう? 普段は気にもしない感情が不必要なまでに大きく増幅されたり、作者の中にある現実とは別の世界の拡がりにクラクラする。

他にウマくてスゴい作品がたくさんあっても、そういう作品の周りではかすんでしまう。多数の作品の中から数点を選んで賞を決めるというコンテストの仕組みからすると、作品の強さは有利に働くにちがいない(テーマのないコンテストに限るかもしれないけど)。そういった作風には汎用性がないので、コンテストには強くても営業的にはわからないけど。

目を引く異常性を演出しつつ、自分の作家イメージを的確にコントロールできる上に実力があるのが最強でしょうけど、僕は、少なくとも見た目くらいは普通でありたいと思います。......なんちゅうか、冷静を装いつつ、「オレは変な人じゃないぞ〜」って主張してるような文章になってしまいましたが......。

【吉井 宏/イラストレーター】hiroshi@yoshii.com

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宛名で思い出した。以前、海外から小包が届いたとき、「ええっと、フラギルさんからのお荷物です」。フラギルさんって誰だっけと思いつつ、差出人を見ると、確かに知り合いの名前があったので受け取った。荷物の段ボールに「Fragile」とマジックで大きく書いてある。英和辞書で調べてみたところ、意味は「こわれもの」でした〜。

●アニメ『ヤンス!ガンス!』放映中。
TVK(テレビ神奈川)金曜朝7:25と深夜25:25。