グラフィック薄氷大魔王[215]Rhinocerosでモデリング
── 吉井 宏 ──

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Rhinoceros4.0 商用版もう、マジたいへんです。同じ、「3Dで形を作る」ってことなのに、方式が違うだけでこんなに苦労するもんかと。Rhinocerosという3Dソフトなんですが、いわゆるNURBSモデラーで3D-CADソフト。個人で買える価格帯のリーズナブルな3D-CADソフトとして人気があります。
Rhinoceros < http://www.rhino3d.co.jp/
>

今、小規模なプロダクトのデザインをやってます。工場で原型を作ってもらうのに「前後左右上下の六面図があれば大丈夫」みたいな話を聞き、いや、それじゃアバウトすぎる。やはり外観くらいは責任持ちたい。modoで3Dモデルを作って渡します、ってことで高解像度ポリゴンモデルを作りました。

ところが、わかる人にはわかると思いますが、ポリゴンモデラー、特にサブディビジョン系でのモデリングってのは、全部が全部、テキトーなんです。ある程度は数値打ち込みみたいなこともできますが、寸法から曲面の具合も、ほとんど目分量みたいな世界なのです。



また、立方体ポリゴンからスタートして作った球体や円柱の断面は真円じゃなく四角っぽいし、細部を作り込もうと再分割するとポリゴン数が増えすぎてコントロールできなくなる。おまけに、ポリゴンのつながり具合によっては、再分割したときにへんなボコボコの凹凸が出てきてしまう。極めつけは、サブディビジョンをフリーズ(仮想的にポリゴン再分割していたのを本当に分割すること)すると、ずいぶん形が変わってしまったりする。

ポリゴンモデラーは素早くそれっぽい形を作るには抜群だし、用途はたいてい映像や印刷物なので、普通はそれで十分。でも、形の隅々にまで責任を持ちたいプロダクトデザイン用途にだけは向かないようで、ポリゴンモデラーのテキトーさ加減にガマンならなくなってきた。3D立体出力するようになって以来、強くそう感じるようになってたのです。

っていうか、それはもちろん当たり前で、そのように3Dソフトも用途によって棲み分けされてるわけです。ポリゴンモデリングをやめる気はさらさらないですが、プロダクトデザイン用途などでキッチリていねいに作り込むにはNURBS系モデラーを使うしかない! と。

実は一昨年、オモチャ等のプロダクトデザインに関われるかもしれないチャンスがあって、Rhinoを試しに使ってみたことがあります。Rhinoは現在Windowsのみのソフトなのですが、Mac版のベータが無料配布されてて、ぜひ使ってみよう、と。「Rhinocerosオフィシャルトレーニングブック」って解説本を買ってきて、ちょっといじってみましたが、むずかしくてすぐ断念しました。

先日、詳しい人に聞いてみたところ、RhinoのMac版ベータはボタンやメニューはあっても実装されてない機能が多いとのことで、しかたなくWindows版を購入。解説本は引越しのときに処分してしまったのですが、今回また同じ本を買ってきて、頭カンカンになりながらやってる最中です。普段は滅多にチュートリアルはやりませんが、つまみ食いながらやってます。

プロダクトの形状の、作るのがむずかしそうな箇所をリストアップして一つずつ潰していってますが、どうしても解決しない問題がいくつも残ってます。modoなら数十分もあれば作れそうな形状なのに、練習含めて3日以上もかかってるのに完成できるかどうかの見込みさえ立たない〜。

ポリゴンモデリングが「直感的」と言われる理由がよくわかった気がします。ポリゴンモデラーだったら、ポリゴン・辺・点を直接いじって、膨らませたり追加したり切ったり貼ったり自由自在です。ところが、NURBS系っていうかこういう系統のモデラーって、直接いじれるのは、フチの曲線と限定的な制御点くらいのもの。作業のほとんどが、最終的な形状を得るための治具とか枠とか型作りです。ほんの小さな曲面の部品を作るために、切り抜きに使う曲線や曲面を延々作り続けなきゃならない。まどろっこしいのです。

とはいえ、そうやって作った形状は、ポリゴンモデラーではまったく不可能なほど完璧な曲面だったり美しかったりするわけですけどね。ポリゴンモデラーに慣れた目には、開けた穴のフチを丸めたり、円柱をくっつけた継ぎ目を滑らかな曲面にしたりするだけで感動的です。

もうしばらくRhinoと格闘することになりそう。Rhinoを購入する前にいじってみたソフトやおもしろいプラグインの話など、いろいろありますのでまた書きます。

【吉井 宏/イラストレーター】
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『MEAT OR DIE(ヤンス!ガンス!)』が、アヌシー国際アニメーション映画祭2010 TVシリーズ部門にノミネートされました!
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先週のMKチャットに勝手に補足。1980年代後半。評価の高かった先行の画像編集ソフト、ImageStudio(と、後のカラー版ColorStudio)。これをPhotoshopは約半額の低価格路線で攻めた。値段を下げなかった発売元のLetrasetの対応のマズさもあってColorStudioは販売停止に追い込まれ、Photoshopは業界標準の座を勝ち取った。90年頃の話。

その後、ColorStudioの権利をLetrasetから買い戻した開発者Mark Zimmerらが再起を賭けて新たにFractal Design社を設立(前身はFractal Software社)、用途をペイントに絞って開発・発売したのがPainter。つまり、PainterはPhotoshopのかつてのライバルColorStudioが、アプローチを変えて生き続けている姿なのだ。へぇ〜へぇ〜へぇ〜。10年前のZDNetの記事「fractal.comの大計画(2000年5月12日)」などより。

90年頃のMacintoshカタログに、ColorStudioは載ってたけどPhotoshopはありませんでした(Illustratorは載ってた)。僕がMacを入手した92年頃のショップにはColorStudioがまだ置いてありましたが、購入したのはPhotoshop2.5Jでした。まあ、AdobeはPostScriptとIllustratorで印刷関連に圧倒的強みがあったので、ColorStudioがそのまま生き延びることはなかったでしょう。もし生き延びてたら、Mark ZimmerはPainterを完成させなかったかもしれないし(Painterの開発は85年からだそう)。

・アニメ『ヤンス!ガンス!』放映中。TVK(テレビ神奈川)金曜朝7:25と深夜25:25。Wiiシアターの間でも配信中。