[2857] 思う存分フリックしてみたかった

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《『a』じゃなくて『o』ですよ》

■音喰らう脳髄[89]
 基地問題をめぐるちょっとした謎
 モモヨ

■アナログステージ[35]
 思う存分フリックしてみたかった
 べちおサマンサ

■笑わない魚 94《アンコール掲載》
 怒りのブドウ球菌
 永吉克之

■セミナー案内
 YouTubeパートナープログラムの法人ビジネス活用法
 Web制作の基礎知識講座


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■音喰らう脳髄[89]
基地問題をめぐるちょっとした謎

モモヨ
< https://bn.dgcr.com/archives/20100601140500.html
>
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新聞報道によると、社民党の連立政権離脱や内閣支持率の低下を受けて、民主党内でも鳩山首相の早期退陣を求める声が広がっているらしい。社民党連立離脱のトリガーを直接ひいたのは、先日、発表された沖縄基地問題に関する日米合意、その内容である。実を言うと、この中身について、私にはどうしてもわからないところがある。

沖縄の負担軽減のためというエクスキューズは別として、今回の日米合意の内容を物理的に点検すると、以前の合意に比べて、徳之島等につくるというキャンプが一つ増えている。そこが謎なのだ。つまり、自民党案に戻るどころか、日本全体としてさらに負担が増えていることになる。新聞などは、なぜかその点に触れず、ひたすら「自民党案に戻った」という報道に徹しているが、その理由がわからない。

沖縄の負担軽減だの、エコな視点での基地建設だのというレトリックを横に置き、物理的・即物的な視点で眺めると、米軍基地を減らすどころか、増やしているようにしか見えない。あるいは、一年間という貴重な時間を空費し、問題をさらに紛糾させ、悪化させたことに対するお詫びとして、おまけに一つ基地を進呈しようというのだろうか。

国と国の合意文書は、とどのつまり契約である。不動産の契約として眺めれば、明らかにおかしい。「付帯物件が増えている」のである。これでは日本国に住むものとして黙っているわけにはいかない。一年間空費し、事の紛糾によって悪影響をこうむったのは、米国政府だけではない。私たち国民、そして沖縄の人々の心的被害だって相当なものだ。被害をこうむった上に付帯条件を増やされたのでは堪ったもんではない。このような契約を軽々に結ぶなど、どう見ても無責任という以外にない。

今度は参院選がどうのこうのという話で騒いでいるが、そんなことは私たちには無関係だ。あれやこれやと心情的エキュスキューズ、レトリックをひねりだすことに汲々とするのではなく、本質的な部分にどっしりと腰をすえてとりかかり解決していく、そのような政治家がいれば、私たち国民は彼に投票する。

そこのところを見損なわないでほしい。

Momoyo The LIZARD 管原保雄
< http://www.babylonic.com/
>

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■アナログステージ[35]
思う存分フリックしてみたかった

べちおサマンサ
< https://bn.dgcr.com/archives/20100601140400.html
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●iPad発売日のリベリオン

2010年6月1日、14時です。皆さんコンニチハ。ブラジルにお住まいのかたはコンバンハ。というより、いい夢みていますか?

さてさて、ついに! というより、やっとiPadが日本で発売されましたが、流れに敏感な皆さんは、もう手に入れましたでしょうか。ワタクシ、発売日に手に入れましたよ!!!

iPod。Pとdの間が『a』じゃなくて『o』ですよ。ちなみに、touch。32GB。

Twitterでも少しつぶやいていたりしたのですが、iPadは会社のほうに、ウチ部署全員分をまとめて購入依頼出したので、そのうち届くはずなんですが、発売日当日に、朝のニュースで「iPad」を真っ先に入手した人の映像と、実際に動作しているブツ(iPad)を観ているうちに、だんだん「別に必要なくね?」という衝動に駆られてきたのでした。

そもそも、iPhone自体に触手を伸ばさなかったのは、「コイツがないと、オイラは確実にダメになってしまう……!」という絶対的なアイテムではなかったこともあるんですけど、日常生活の殆どが、家と会社を車で移動しているだけなので、スマートフォンを携帯する必要性を感じなかったことが大きいのです。

iPadがリリースされることに特別に騒ぎもしなかったのですが、おとなしくしていた裏には、コッソリと楽しみにしていた自分もいたのは事実。しかし、発売当日になって、急激に欲しくなくなってしまった自分がいたのも事実。

ニュースを観たあとに、Twitterで「テレビでiPadをみていたら、急激に購買意欲がなくなっていった。会社で手配しているけど、いらんかも。(12:24 May 28th)」「逆行して、iPod touch(32GB)を買おうとしているオイラが心を彷徨っている(9:57 May 29th)」とつぶやいた4時間後に、iPod touchを購入していたりする。< http://twitpic.com/1s1404
>

「ブッ、チミ、デジクリ執筆しているくせに、いまさらiPod touchを買ったって…」って云われてしまいそうですが、ところがどっこい、ご存知のかたはご存知ですが、金曜日担当しているセーラーヒゲ男爵(G/Hさん:仮名)は、スマートフォンどころが、ケータイデンワを持たないことで有名だ。なにがなんでも持たないらしい。連絡事項も、mixiの日記に「いまからでかけます」と書くのみだ。実に清々しいというか男らしい。

いつだか、「べちおさん、オレ、ケータイ持ったんだぜ!」とリュックサックから取り出し、自慢げに見せびらかすモック(モックアップ:模型)の携帯電話には、ものすごく反応に困った経緯がある。アキバで買ってきたらしいが、いや、あれは芸人でもやっていない限り、誰でも反応に困るはずだ。

まぁそれはいいとして、今回、なぜiPod touchを購入したのかというと……。ただ単に、思う存分フリックしてみたかっただけなのだ。たまに乗る電車の中で、iPhoneを軽快にフリックしている姿をみると、「あぁ…オイラも、指でチョンって下げてみたい」とか、欲しくはないけど、やってみたい感覚が指先の神経を刺激していたのです。

店頭でデモ機を触りながら、「フリック・タップ・ピーンチ!」とかニヤニヤしているのって、恥ずかしいじゃないですか。試供品のサンプルを「あと3個くらいください」とかは平気でできるワタクシですが、こういうことになると、とたんに恥ずかしくなって、周りの目を気にしてしまうのです。

で、先ほど書いたように、家と会社を車で往復しているだけの生活だし、先日、携帯電話をP-02B(docomo)のピンクに買い替えしてしまったので、iPhoneという選択肢は当然消える。キャリアを変えてまで欲しいブツでもないし。iPadも、会社で購入依頼出しているので、黙っていてもそのうち手元に届くだろう。

先代iPod nanoが寿命に近づいてきていることもあり、そのうち買い替えないとなぁ……と思っていた矢先でもあったのです。iPadが届くのを待っていてもよかったのですが、所詮は会社のモノ。当然のことながら、私物として使うこともできないので、とりあえず携帯性にも優れているし、Wi-Fiあれば繋がるし……ということで、ほとんど迷うことなく購入。

●結局変わらない日々が待っていただけ

ここ最近、ガーガービービーとうるさいMacBook(修理せずにまだそのまま。過去ログ参照)を会社に置きっぱなしにしていることもあり、家でパソコンに触れる機会が減っている。わざわざ家のパソコンを立ち上げるのも面倒だし、つければつけたで仕事始めてしまったり、mixiのアプリでボケーっと遊んで時間を流してしまうので、どうしてものときは、ムスメのiMacを借りるくらいで済ましていたりしました。

・過去ログ:「淑女が悪女になる──MacBookの謀反」
< https://bn.dgcr.com/archives/20100126140400.html
>

昨年とは違う忙しさに追われていることもあるのですが、以前のように、家に帰ってきてまでパソコンに触れていたくない……というのが本音だったり。デジタルから離れて、ゆっくりとアナログな生活を過ごしていたのですが、ベッドに横になりながらiPod touchを手に持ち、Twitterでボソボソしたり、Appストアを徘徊してダウンロードしまくっていたりと、結局は以前と変わらぬ生活に逆戻り。

しかも! メールでPDFやらEXCELやらのファイルなど開けなくていいのに、開けて見てしまう病気が加速しており、ベッドに潜りこんでまで仕事の資料を開いては、あーでもない、こーでもないと、考えはじめてしまい眠れなくなってしまう。なんて自堕落なオトコなんだろう……、ダメダメだ。

iPhoneなどのスマートフォンを持っていないので、実際どうなっているかは分からないが、iPhoneやXperiaなど持っていたら、間違いなく肌身離さず弄っているはず。パソコンが手のひらサイズになっただけ。と考えると、家族の視線がかなり怖い。ヨメは間違いなくオプティック・ブラストを放つだろう。

家族の視線から逃げるようにiPod touchをいろいろ調べてみると、Wikipediaに「ほー、ほうほう、そーなのかね」という記載を見つけた。

・iPhoneとの相違点(Wikipediaより引用)

──iPod touchは、電話やSMSを利用出来ないほか、マイク、カメラ、Assist-ed GPS、デジタルコンパス、第1世代はスピーカーも搭載していない。また着信音も同期できないため、これを利用した音楽アラーム機能なども使用できない。アップルは、iPod touchはあくまでエンターテインメントのためのデバイスでありiPhoneとはコンセプトの異なる製品だとしている。そのため、当初はGoogleマップ閲覧機能、メール用アプリケーションなどが搭載されていなかった。以上のことからiPod touchは「電話機能やカメラを省略したiPhone」ではなく「iPod多機能モデル」と位置付けられている。──

うーん、「電話機能やカメラを省略したiPhone」って位置付けでもいいんじゃない? 電話機能とカメラが省略されているだけだと思うワタクシは、デジクリライター失格だろうか。まぁ、自分で好きなように、便利に使ってこその機器なので、周りに流されず形に捉われず、自由に楽しむのが大吉なのです。

●とにかく撮って比べて覚えていく

iPod touchとは離れて、NikonのD90買いました。購入経緯は詳しく書けないのですが、D90がオトモダチになりました。毎日一緒です。はじめてのデジイチ(デジタル一眼レフ)がD90というのは、ド初心者には勿体ないような気もしていますが、どうせ買うなら、ずっと愛着持てるように……と大奮発。

店頭に鎮座するD90の横に、D3000やD5000なども並んでいたのですが、持った質量と、手にジャストフィットする感触、試し撮りでシャッターボタンを押した瞬間「買え、買え、買え、買え、買え」と連続撮影のシャッター音が聞こえたのです。これはもう、出会いです。

買ったはいいが、写真(撮影テクニック)のことを何も知らないワタクシがいる。機能をいろいろと試してみるまえに、「これって、つけなきゃいけないのか?」と、レンズフードをクルクル回してみる。最近はCD-ROMになって、あまりみかけなくなってしまった、ブ厚い取扱い説明書をパラパラとめくりながら、基本操作をとりあえず頭の中に叩き込んでいく。

フォトグラファーさんのBLOGなどでよく目にする「シャッタースピード」とか「ホワイトバランス」「露出」などは、すぐに理解できるわけがないので、とにかく撮って撮って、パソコンで画像を比較して覚えていくことにした。実際にパソコンに取り込んでみて比較すると、感度の違いでまったく別の写真になることを知る。

詳しい人が読めば「オマエはいったい、なにを当たり前のことを書いているんだ」とお叱りがきそうですが、いつもコンデジ(コンパクト・デジカメ)フルオートで適当に撮っていたワタクシには、目から鱗どころか、眼球が落ちる勢いです。

少しずつですが、写真を撮る楽しさを覚え始めてくると、サブアイテムに凝りはじめたくなるO型な性格が、自分でも可愛い。WEBでストラップを探してみるも、ピンとくるものが見つからないので、「ないなら作るのがクリエイター」を発動。と、書いて思い出した。昨年、ファンを実装したパソコンケースを作りかけていたんだ(過去ログ参照)。中途半端なまま板金屋さんに置きっぱなしだけど、もう捨てられているかも……。

・過去ログ:ないなら作るのがクリエイター
< https://bn.dgcr.com/archives/20090728140200.html
>

幸いにも、ワタクシの近くにフォトグラファーさんや写真好きがたくさんいるので、いろいろと教えていただきながら、地道に練習して覚えていこうかと。仕事に追われ、夜の付き合いも極端に減り、趣味という趣味もなくなりつつあった今日、没頭できそうなオトモダチが2つもできたことは、とても大きい。といっても、iPod touchはほどほどにしておかないと……。

【べちおサマンサ】pipelinehot@yokohama.email.ne.jp
FAプログラマであり、ナノテク業界の技術開発屋
< http://www.ne.jp/asahi/calamel/jaco/
>
< http://twitter.com/bachiosamansa
> ←フォローしても役に立ちません

・昨日配信のデジクリで、えむさんが書かれていた「まぐまぐで mac.com やme.com は使ってはいけない」、ホントにそうでした。オイラも4月初めから急にデジクリが配信されなくなり、「???」と思いながらも別のアドレスで登録し直したら配信復帰。4月後半になって、「あり? また届かなくなった?なんで?」と不思議がっていたら、デジクリはGWで休みでした、アハハ/ということで、D90記念にFlickrを始めたものの、まだアップしていない/東京下町巡り/日曜日はなにがなんでも絶対に休む! と決めて休みはじめたら、体と心がかなり解放された/そういえば、去年の今ごろも同じようなことを書いていたような……。

・記憶に残っている2週間の出来事→江ノ島に、かなり好みのオリエンタルな雑貨屋さんを発見してウハウハ→天然石ブーム到来→資生堂のqiora(キオラ)がいい。とくに化粧水。ほかが使えなくなる。

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■特別企画
デジクリ本・永吉克之「怒りのブドウ球菌」最後の40冊発掘!
ファンにおわけします告知&アンコール掲載

< https://bn.dgcr.com/archives/20100601140300.html
>
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このGW休みに部屋中を徹底的に掃除したとき、思いもかけぬ場所から段ボール箱ふたつに収容されたデジクリ本、永吉克之「怒りのブドウ球菌」が出てきました。

この本はデジタルクリエイターズ8周年記念企画で、2005年11月にデジタルクリエイターズが自主出版した二冊のうちの一冊です(もう一冊は、十河進「映画がなければ生きていけない」)。限定500部をデジタルクリエイターズが直販したもので、一般には流通していません。

その当時は、東京の六本木にデジクリ東京事務所が存在し、この本の販売も担当していました。後に事務所を閉鎖したときに、在庫分がわたしの家に送られて来ました。それを不用意にロッカーの奥の奥にしまい込んだらしいのですが、その記憶がありませんでした。というわけで、これが最後の40部になります。

で、時間を忘れてよみふけってしまったわけです。おもしろい。じつにおもしろい。最近の永吉さんの「私症説」は異次元に飛んでいるようですが、当時の「笑わない魚」シリーズは、いちおうこの三次元に舞台をおきながら思いもかけぬ方向にもっていくパワフルな展開で笑わせてくれます。

最後の40冊を永吉さんファンに特別提供します。

◎永吉克之「怒りのブドウ球菌」
15cm×19cm 272ページ デジクリ自信満々の美しい組版です
< http://www.dgcr.com/books/naga >
< http://www.dgcr.com/books/nagayoshi.pdf
> 内容見本
当時は送料とも1冊2,000円でしたが、今回は送料込み1冊1,500円で!
以下にお申し込みください。振込先などをお知らせします。

info@dgcr.com宛にメールをお送りください。
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・「怒りのブドウ球菌」を 冊)
・氏名
・ふりがな
・郵便番号
・住所
・TEL
・メールアドレス
・備考(任意)


《アンコール掲載》
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■笑わない魚 94
怒りのブドウ球菌

永吉克之
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最近に顕著な現象なのかどうかは分らないが、視聴者の怒りを煽るテレビ番組は多い。「怒り」というのは不愉快な感情なのに、あえてそれを催させるような番組を観るというのは、その番組がもたらす怒りに、視聴者を共鳴させる何かがあるからである。

関西ローカルであるが、某番組に『モーレツ怒りの相談』というコーナーがある。役所で事務処理の手数料として、確かに○○円払ったのに10円足りないと言われたので、その場ではシブシブ払ったが、後日、役所から「10円多かったので取りにくるように」という、あんたらは奉行所か、と言いたくなるくらい横柄な通知があって、ドタマにきた、何とかしてくれ、という相談があった。

それを聴いてドタマにきたコメンテーターたちが、「これが普通の会社やったら、この役人クビになっとるで」とかなんとか、みなでボロクソにけなすので、視聴者もドタマにきて欲求不満になるわけだが、前もってテレビ局が役所に問い合わせをして、もらっておいた責任者からの釈明を紹介し「奉行所」に謝罪させて、視聴者は溜飲を下げ、小さな満足を得るのである。

しかし、なんで私は、こんな午前中の主婦向けの番組を観ているヒマがあるのだろう。う〜む、仕事をなんとかせねばのー。

この手の番組はNHKにもある。11/20の『難問解決!ご近所の底力』で、東京、下北沢の街の落書きに頭を痛めた住民の、落書きを一掃する活動が紹介された。たしかに被害は目に余る。落書きは下北沢のほぼ全体に及んでいて、手のほどこしようがない状態であった。

特に、個人商店のシャッターなどへの落書きを見ると、涙と汗でコツコツ溜めた金でやっと持てた我が子のような店を汚された店主への同情とともに、夜陰に乗じて汚名を刻印していく似非アーティスト達への憎悪がこみ上げてくるのだが、そこはNHKである。犯人を取り押えて凄惨なリンチを加えるといったようなシーンは期待できない。下北沢を愛する多くの若者達とともに、落書きを根気よく消していくというポジティブな姿が描かれていた。感動的ではないか。

このふたつの番組のウケる点は、日常的で身近な怒りに的を絞っているところである。われわれにとっては、北方四島を不法占拠し続けるロシアや、日本の頭をこえてミサイルを大平洋に撃ち込む北朝鮮よりも、指定日以外の日に不燃ゴミを出す隣の奥さんや、散歩中に人の家の前で飼い犬に糞をさせて放置する飼い主の方が、遥かに腹が立つ存在なのである。あのマナーの悪い隣の奥さんが死ぬのなら、ミサイルが東京に落ちてもいいわ、と思うのである。

                 ■

しかし、われわれは、解消されない怒りの対象には、想像力によって鉄拳制裁を加えようとする。実行に移すことはなくても、ボーリョク・マインドは、事あるごとに顔を出すのである。

例えば、ある休日、電車に乗って街に出て、ショッピングをしたり映画を観たり食事をしたりしてから帰宅するまでの間、ずっと秋空のように爽快な気分を保ち続けるのは、他の街は知らないが、大阪では不可能である。

まず電車に乗り込むと、座席に浅く腰掛けて、両脚を放り出し、通路の半分以上を遮断している鈍感な人間をたまに見かける。たいていは若い男である。それを見て、周囲にいる『潜在的ドラゴン怒りの鉄拳』たちは、頭の中でいろんな、制裁シミュレーションをするはずである。仮に「長谷川」としておこう。

長谷川「おい若いの、その邪魔な脚どけろ。客はお前ひとりじゃないんだよ」
若い男「ああ? なんだお前」
長谷川「日本語が解らないのか? そのうす汚い脚をどけろと言ってんだよ」
  と言って若い男の脚を蹴りあげる。
若い男「やんのか、この野郎!」
  と言いながら、男は立ち上がって長谷川の胸ぐらを掴み、拳を振り上げる。
  その瞬間、長谷川の裏拳が男の顔面にヒットして男はその場に崩れ落ちる。
長谷川「いいかい、電車の中ではな、お行儀よくするもんだぜ、坊や」  
若い男「…あ、はい、分りました」
  と、男は怯えた目で鼻血をすすりながら消え入りそうな声で言うと、別の車両にコソコソと逃げて行く。
  乗客から万雷の拍手が起こる。「成駒屋っ!」という掛け声も聞こえる。
  水商売風で四十前くらいだが、小股の切れ上がった和服の似合ういい女が「男だねえ」とつぶやく。

しかし実際には何も起こらず、若い男は脚を放り出したまま電車が終点に着くと、ノウノウと降りて去って行く。長谷川の心にはやりきれない気分だけが、燃えきらないゴミように、いつまでも燻り続けるのであった。

また、夕方ごろは、道路が混んでいるから、交通量の多い通りは車の波が絶えることがない。歩行者もドライバーも空腹と疲れで殺気立っている時間である。

しかもマナーの悪さでは空前絶後の大阪のドライバーだから、横断歩道の上で停車してはいけないなんて、違反しても死刑にならないような規則を守るはずがない。だから歩行者用の信号が青になっても、前方の車がつかえていたら、その車は横断歩道上に居座ったままなので、歩行者たちは無神経なドライバーに殺意を抱きながら車の間をぬって横断しなければならない。

この時ドライバーが申し訳なさそうな態度を見せるならまだしも、携帯電話で話しながら大笑いでもしていたら、もうダメだ。しかも助手席の女性の脚なんか撫でていて、そのうえ女性が巨乳の美女だったりしたら、その侮辱に耐えられるのはガンジーだけだ。長谷川さんは『潜在的コマンドー』に変貌する。

長谷川「歩行者の邪魔だ、どけ」
運転者「前の車が動かねえんだから、しょうがねえだろ」
長谷川「停止線の前で止まらない貴様が悪い」
運転者「ごちゃごちゃうるせえんだよ、馬鹿野郎」
  長谷川、ボンネットに飛びのってフロントガラスを素手で叩き割り、ドライバーと女の胸ぐらを掴んで、窓から二人を引きずり出す。
長谷川「だったら、俺がどかせてやる」
  といって、車の片側を持ち上げて裏返し、路肩に転がす。
長谷川「これで道が空いた」
  周囲から歓声が巻き起こる。
  ドライバーの男に愛想を尽かした巨乳美女が、自分のマンションの住所と携帯電話の番号をメモした紙切れを長谷川に差出し「ノックは無用よ」と言って去ってゆく。

しかし結局、何も起こらないのである。歓声もマンションもなく、横断歩道のまん中を占拠した車の脇を、屈辱と憤怒の入り混じった気持ちで通り過ぎるだけである。しかし、人は想像力によって、憤懣を解消できないまでも、抑制することができ、いつかは忘れる。これができないと、

「調べによると、同日の夕刻、長谷川容疑者は、横断歩道を車でふさいでいた丸山さんと口論になり、持っていたカッターナイフで丸山さんの胸部を突刺したとのことで、警察では傷害致死の疑いで…」

といったような羽目になるのである。想像力豊かな子供を育てよう。

【ながよしかつゆき/アーティスト】
私には、芥川賞を取った小説はだいたい面白くない、という根拠の希薄な固定観念があって、現役の作家の受賞作品は、多分ぜんぜん読んでいないと思う。しかし好奇心から、今さらお恥ずかしながら柳美里の『家族シネマ』を読んだ。おっもしろぉーい小説ではなかった。そんな作品ならば受賞はしないだろう。しかし、心が通わなくなった家族の有り様が淋しかった。悲しい、痛ましい、淋しい、それが芥川賞作品であるという、新たな固定観念をゲットしたぜい。

2003.11.27【日刊デジタルクリエイターズ】No.1431

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◇基調講演「YouTubeの全貌とパートナープログラム紹介」
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講師:Wynston Alberts(グーグル株式会社 YouTubeオンライン・ストラテジスト)
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Web制作の基礎知識講座
「Webサービスを使う、繋ぐ、作る」「Webはもはやインフラ」
< http://67.org/uk/seminar/
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< https://bn.dgcr.com/archives/20100601140100.html
>
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第5回「Webサービスを使う、繋ぐ、作る」
日時:6月10日(木)18:30〜20:00
・ソーシャルブックマーク、写真共有、地図、道案内
・ブログ、SNS
・twitter
・セカンドライフの失敗
・APIでマッシュアップとは?

第6回「Webはもはやインフラ」
日時:6月18日(金)18:30〜20:00
ファイル共有
・VPN
・携帯 日本は特殊な携帯環境
・スマートフォン iPhoneとかAndroid
・ブラウザの外へ AIR、フィジカルコンピューティング
・デジタルサイネージ
・ゲーム機+ネットインフラ

講師:上田キミヒロ(ロクナナ)
会場:関東ITソフトウェア健保会館 Conference A
(東京都新宿区百人町2-27-6)
< http://www.its-kenpo.or.jp/restaurant/okubo_kaigisitu/
>
受講料:無料

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■編集後記(6/1)

・デアゴスティーニからパートワーク(週刊分冊百科)「戦国武将データファイル」が創刊された。テレビや新聞で派手に広告しているので、パートワーク初号マニアとしては買わずにはいられない。シリーズガイド16ページ+第1号32ページ、特製バインダーがついて290円(通常号は580円)と異常な安さ。構成は、武将名鑑(まずは織田信長、真田幸村、伊達政宗、直江兼続、石田三成、本多忠勝とスターをそろえ、それぞれの「その壱」を収録)、合戦リスト、名城コレクション、それに重要な出来事を年代順に解説した「戦国タイムズ」と当時の暮らしを解説する「風俗トピックス」の5つ。分類してバインダーにはさみこめば、300を超える武将の完全データがファイルできるという、全100巻予定の好企画である。編集プロダクションが参考図書を駆使してまとめあげたようで、かなり行き届いた内容になっていると思うが、著名な監修者を立てないのはどうかと思う。食指が動くテーマなのだが、わたしは残念ながらこのシリーズは揃える気にならない。書籍や雑誌の評価は、内容よりまずデザインという偏向した価値観のわたしには、このシリーズの美しくない(はっきり言ってきたない)文字の扱いや、過剰な装飾の図版設計にはついていけない。ガイドにあった、縦組で8ページにわたり左から右に流れるとんでもない見せ方の年表をはじめ、デザイン処理は耐えられないくどさがある。こけおどしのデザインというべきか。内容の信頼性を損ねているのではないかとさえ思う。というのはわたしの感想。歴男歴女はまた別の評価があるだろう。/「幕末古写真ジェネレーター」サイトがおもしろい。「どんなおシャレな写真でも、古臭くしてみせます」って。歴男歴女におすすめです。(柴田)
<http://deagostini.jp/sbd/
> 戦国武将データファイル
<http://labs.wanokoto.jp/olds
> 幕末古写真ジェネレーター

・キオラか……。/iPhoneらぶ。/永吉さん本、ぜひに。/票がまとまりすぎていてコワイ不信任決議案。信任されたわけで、今後は赤松大臣にだけ責任を押し付けることはできなくなりましたな。/銀河英雄伝説舞台化。ラインハルトはシンケンレッド(殿)。そっちか〜。/小野リサ。どんな曲でも小野リサフィルターかかると気持ちイイ。最近の仕事BGM。かけると仕事場がカフェになる。カフェ、喫茶店だと、どうして仕事はかどるのかねぇ。他のことができないからだろうな。話し声が気になる人は、ホワイトノイズかけると、話し声が相殺されて集中できるらしいよ。(hammer.mule)
< http://www.nippon-olive.co.jp/shop/popular/juice.htm
>
いま使っている化粧水
< http://gineiden.jp/
>  舞台・銀英伝公式
< http://www.onolisa.com/
>  小野リサ
< http://blog.goo.ne.jp/i_feel_free/e/a9119b3fa409b2b875da540e0860ba7e
>
スタバ限定版があったらしい
< http://www.starbucksstore.com/products/shprodli.asp?DeptNo=8100&ClassNo=0351
>
期間限定だったのかな
< http://sothis.blog.so-net.ne.jp/2008-08-01
>
ホワイトノイズで
< http://itunes.apple.com/jp/app/id292987597
>
iPhoneアプリ。類似品あり