もしも包装がなくなったら?
── 出渕亮一朗 ──

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毎週二度の「燃えるゴミの日」にゴミ袋を見ていつも思うのは、明らかに8割ぐらいは包装、パッケージゴミだということだ。特にスーパーマーケットの食材を包むスチーロールのパッケージやサランラップ、レジ袋等などだ。

今日、世界中にコンビニやスーパーが何万件あって、何億人くらいの人が毎夕どのくらい買い物しているのか知らないのだが、想像するにとてつもない使い捨て包装ゴミが毎日、毎年生み出されていることになる。

合成樹脂の原料となる石油の可採年数は諸説あるのだが、一番長い方の100年ぐらいだとしても、100年たって今日から石油がなくなりましたので、生活変わりますよというわけではないだろう。その半分ぐらいの年月で石油高騰して高級品になるだろうから、その半分ぐらいの年月までで、方向転換のライフスタイルを築いておくべきなのである。

ということは、今後20〜25年後ぐらいまでには、現在のような使い捨て包装に依存しないスーパーマーケットにするべく、今から考えておくのが賢い事業主であるといえよう。

もしも、すべての包装やパッケージが廃止されるとすると、解決策の方向性としては今ある方式の発展形として三つあると思う。



1)マイバッグ方式─例えば昔の日本のようにマイ鍋を持って豆腐屋に豆腐を買いに行くとかです。
2)リサイクル方式─コーラの瓶や酒瓶を商店に戻しに行くと買い取ってもらえるというあの方式です。段ボールや空き缶、ガラス瓶は資源ごみとして回収というのもこの方式に入ると思います。
3)ネットショッピング方式─私も今では家電と本の購入はネットが多いです。本は本屋で入手しにくい商品も購入できますし、家電は数多くのメーカーや品ぞろえの多い商品からじっくりカタログをにらんで、本当に自分のほしいものを検討できます。わずらわしい売り子さんもいません。商品の流通において、都会と地方の差はどんどんなくなってきていると言えます。

ここで特に資源問題を論じるつもりはないので、軽い近未来小話と考えて聞いてください。

「包装がなくなる日」

20XX年、「使い捨て包装禁止法」が成立した。ビニールやプラスチック製のみならず、紙やその他の梱包材も使用禁止となった。食品売り場のパックはもちろん、家電、文房具、雑貨、衣服...すべての商品の使い捨てパッケージ、包装、紙バッグは違法となってしまった。これは、その数年後の話である。

僕は今日の買い物のことを考えていた。まず、夕食の準備をしよう。スーパーはすべての食材が秤売りになっているので、スーパーまで直接行くには、惣菜用、野菜用、刺身用...のようにタッパーをたくさん持っていかねばならない。最近はうまく収まるタッパーセットもあるようだが。

主婦層はスーパー直接買い物組だが、多くの人は今はあまりスーパーには行かない。また、町で何か衝動買いしても、包装も紙バッグも付けてくれないので、最近はバッグを持って外出する人がほとんどである。

A4見開きのダブル液晶ボード端末で食品売り場をのぞくと、「大売り出し」のけばけばしい文字の下に群馬産のトマトやフィリピン産のバナナが並んでいる。指ではじくと商品がくるくる回るところは、そういえば、その昔iPadが出たころのヒットアプリ、「元素図鑑」を思い出させる。今は撮影技術と表示技術がさらに進んでいるので、今日の産地別の野菜のレベルでデータ化されアップされている。

それから、切らしていたシャンプーも購入することにした。包装禁止法ができた頃は、パッケージは何でもリサイクルにしようとした。雑貨やコスメなんかも。だが、パッケージを購入店舗に返却に来る奇特な人は少なかったし、パッケージの料金払い戻しにしても、まだ、ゴミとして出してしまう人が多かった。パッケージ集積場を作ってみたが、あまりにも量が多くなるのと、仕分けが難しいので結局廃止された。

今は、なんでもネットで購入配送が一般的である。配送業は極度にシステム化され、今では携帯で30分単位で配達時間を指定できる。配送業者は商品に合わせたリサイクルパッケージで運搬し、玄関で商品のみ取り出して渡して帰っていく。

シャンプーなんかは詰め替えだ。配達料はほとんど無料である。実は禁止法ができた時、包装コストが削減できるから、その分配送料を持ちなさいという、メーカーにとってはわかったような、だまされたような条例が政府から出されたからだ。

そろそろ寒くなってきたので、新しいジャケットと帽子が欲しかったところだ。ボード端末を立てて自分のアバターを呼び出す。アバターを作るにはどこの駅前でも見つかる「3Dボディスキャナー」を使えばいい。

円筒形の装置に入って、1分ほどじっと立っていれば1,000円で自分の体の3Dデータを作ってくれる。ただ、服を着ているので推定体型となっている。精密に取りたければ、街中のサイバーセンターに行って、水着になって取ればよい。自宅にある体重計のような装置にのれば、電位の変化がどうとかで、毎日の細かい脂肪や筋肉の付き方を反映してアバターを修正してくれる。

ちょっと最近おなかが出てきたな...ランニングでもしようかなと僕は考える。

おしゃれ人はアバターを作る手間を惜しんではいけない。ネットショップに並ぶ衣服をアバターにドラッグすると、サイズが合わないときは警告が出、また着せてみれば似合うかどうかがわかる。歩くとか座るとか、いくつかの動作もできるので、その時どう見えるかもわかる。こうして客観的に納得いくまで服を探すのがおしゃれ人なのである。

そういえば、その昔はブランドショップの近づきがたい店員のオーラをかいくぐって、2、3着の服を試着して購入とか野蛮なことをしていたものだ。

他に、カメラで撮影している自分の姿に商品をドラッグしてAR(拡張現実)表示する方式もある。頭を傾けたり回したりしてもARの帽子がちゃんと付いてくる。

最近のリアルタイムレンダリング技術の進化で、現実のライティング環境を設定できるので、見ためにも違和感はない。

女性はAR表示の方を好むという調査があるそうだ。150×50cmの縦長ミラー型ディスプレイ(もちろん鏡にもなる)は高価であるが女性に人気らしい。全身を映して自分自身の着せ替えができるのだが、ARコスプレにはまっている人も多いという。そういうblogサイトはググれば山ほど出てくる。

最後にちょっと高い買い物だが、そろそろ新しい机と椅子が欲しいのだ。大家さんから提供されたマンションの間取り3Dデータに、家具ショップサイトからよさそうな机と椅子をドラッグしてあれこれ配置してみるのだが、どうもピンとこない。それこそ、地球の裏側のメーカーのものまで山ほど商品が出てくるので、どうしても優柔不断になってしまう。

僕は陳列モードから、サイバーウォークモードに切り替える。現実のショーウィンドーを模した店舗が立ち並び、並んだ家具の側に女性のNPC(ゲーム用語:コンピューター制御のキャラクター)が立っている。僕の好みと予算を話しかけてみる。テキスト入力モードもあるが、タップするのがめんどくさいし、最近は音声認識の精度もよいので、初めは恥ずかしかったが今では音声でNPCに話しかけている。

NPCは一昔前のゲームキャラみたいだが、最近の女性は皆、CGキャラを逆にまねたファッションやメイクをしているので特に違和感はない。

「それならば、○○製のこの商品等いかがでしょうか? 素材は...」
NPCは表情豊かに合成音声で答えるのだが、これも今では結構自然である。

【出渕亮一朗】
コンピューターグラフィックス、インタラクティブアート分野のアーティスト
グラフィックス分野のプログラマー
< http://www.debuchi.com/
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ryoichiro.debuchi(a)gmail.com