装飾山イバラ道[68]高専ロボコンとロボット多様性
── 武田瑛夢 ──

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毎年何かと忙しくなってくる12月。年の瀬になるとそういえばと思い出して、つい見てしまうのがNHKの「高専ロボコン」だ。ロボコンはだいぶ前に映画にもなってブームがあった。今はそのブームも落ち着いていると思うけれど、やっぱりおもしろい。

「高専ロボコン」は、全国の57校62キャンパスの高等専門学校が参加するロボットコンテストで、毎年11月頃になるとNHKで夜中に全国8地区の地区予選の様子が放映され始める。回数が多いので全部は見られないけれど、半分くらいをぼちぼち録画して楽しみに見ていた。既に全国大会が終わり、撮り貯めていた録画を全て見終わったところだ。

最後の全国大会は1時間に収まるように一部ダイジェストにして編集されたものだったので、全試合版を12月25日(土)にBS2で放送するようだ。これも録画して今年のロボコンの見納めとしようと思う。

・高専ロボコン全国大会 全試合版 12月25日(土)13:30〜14:59 BS2
< http://www.nhk.or.jp/robocon-blog/4000/66776.html
>



●いろいろなロボコン

ロボコンとしては、高専以外にもいろいろな種類がある。国内の大学生を対象にしたもや、ABU(アジア)、IDC(世界)の大学生対象のもの。ABUのエジプトのカイロでの大会もテレビで見てみたけれど、アジア各国の本気ぶりはそれはもうすごくて驚いてしまった。学校や地域がロボコンに力を入れ、出場選手を出した一家は町のヒーローのように注目されていた。

・ロボコントップページ
< http://www.official-robocon.com/top.html
>

やっぱり私にとってテレビで見ていておもしろいのは、日本の高専生のロボコンだ。メカの技術以外にも、外装に地域のキャラクターを取り入れたりしていて楽しい。若いからフレッシュというのももちろんだけれど、発想の幅が広くて予想もしない見た目や動きのロボットがたくさん見られるからだ。

高等専門学校は5年間で卒業ということで、じっくりと専門の技術を身につけることができる。そして生徒の一部にはその5年間のほとんど全てをロボコンのために費やす人がいる。4年生や5年生ともなると、野球の甲子園のように最後の年に懸ける強い想いがみなぎっているのがわかる。就職活動もあるだろうから、5年生まで目一杯ロボコンに打ち込めるともかぎらないので、先輩たちはノウハウを後輩に代々引き継いでいく。

大会では、毎年のテーマに沿ったルールを満たしているかどうかを厳格に審査される。まずは公平に勝負をするためのしくみがきっちりとあり、審判団も各所で随時チェックしている。しかし試合を見ていると、それぞれの戦い方がこちらの意表をつく。王道の戦い方以外もいろいろあるのがわかるのだ。

●今年のテーマは「激走!ロボ力車」

今年の高専ロボコンのテーマは「激走!ロボ力車」。ロボリキシャは人力車の人の部分をロボットにさせましょうという意味だ。まずリモコン操作で動く2足歩行のロボットが乗り物のところまで一体で進んで行き、台車のような乗り物と連結させてから、乗り込んでいる人ごとゴールまで運ぶというもの。ゴールの前には高い位置にカギ穴があり、乗り物からカギを引っ掛けてから通過しなければならない。2校づつ対戦して勝ち上がっていく。制限時間は3分間だ。

このレースでは乗り物連結エリアと、カギの2カ所のチェックポイントが大きく勝敗を決める。いかに素早くロボットと乗り物を連結させてロボ力車を動かし、カギを引っ掛けてゴールさせるかを考えなければならない。

スタートの合図とともに、赤のコースと青のコースの左右に2校が分かれて、2足歩行ロボットが走り出す。ガシガシと力強く歩くロボットや、コロコロ頼りなく転がるようなロボットなどさまざまだ。中には動きの大きさの割にちっとも前に進まないヤツや、直進だけしかできず方向転換の必要があるとリトライするしかないロボットなどもいる。

試合中に途中で止まってしまったり、どうにもならなくなった時の措置として、リトライを申請すればジャッジの許可した位置まで戻ってからやり直しが認められる。レースが始まるまで、どんな戦いになるかまったく予想がつかない。だからおもしろくて、ついつい見入ってしまうのだ。

●ロボット多様性

今年は生物多様性のイベントがたくさんあった年だ。そして、高専ロボコンにも「ロボット多様性」を感じさせる輝きがあると思った。それぞれのロボットは決して完全ではないけれど、進化途中のバリエーションとしての斬新さにあふれているのだ。

なぜロボットに幅が生まれるのかを考えると、「勝つ」ための出場であるはずなのに、個々の学校が何を「勝ち」とするのかを独自に決めているように見える。厳密に決まっているルールは守りながらも、向かっている目的がそれぞれ違うように思えるのだ。

例えば、今年は「ゴールまで先についた方が勝つ」というレース形式での審査だ。赤のコースと青のコースに分かれて、対戦して早くゴールした学校が勝ち抜けていく。勝ち進まなければ次はない。それならば、一番大事なのはスピードのように思われる。しかし本番を見ると、まるでスピードを求めていないかのように見えるロボットがたくさん出ていた。初めて見ると、それがとても意外で謎だと思うだろう。

前半の2足歩行のロボットゾーンでは、スタートが合図されてもゆっくりと2本足でバランスを取りながら進むものや、水車のような大型のボディ全体を振り子のように回転させて移動するロボットなど。楽しいけれど、勝負となると見ているこっちの方がハラハラと焦ってしまう。

後半の人間を運ぶ「ロボ力車」が進むところでも、一人乗りで条件を満たすのになぜか3人も生徒が乗って進むものもある。重量的に損するように思える。このように、早くゴールするためには明らかにマイナスになるような発想を、そのまま実現しようとしている。

なぜ必要以上の人数を乗せるのかとのインタビュアーの問いに、高専生は「このロボットの良さはパワーがあるところだからです」というようなことを答える。自分たちが生んだロボットの良さを最大限アピールするためには、戦いの駒を進めることには欲はないかのように見える。

●「勝ち」の方法はひとつではない

その場の一本の戦いだけに目を向けていないのは、理由がありそうだ。地区予選の優勝校は全国大会に出場できるのが確定するけれど、それ以外に審査員の推薦によって全国大会に出られる学校がいくつかあるのだ。戦いの内容を見て、光る部分があれば望みがある。地区大会で準優勝の学校は出場できないのに、初戦敗退の学校が推薦で全国大会出場に選ばれることもあるわけだ。

とにかくスピードで絶対的な王道の「勝ち」を狙うか、ロボットの機構や動き、デザインの発想で他との違いを見せるつけるか。ユニークさを大いに認めている大会だから、自分たちの戦い方を自分たちで決められるようだ。

高専ロボコン最終戦の国技館で行われる全国大会では、優勝校が一校と、ロボコン大賞が一校選ばれる。ロボコン大賞は勝敗ではなく、戦いを通してロボットの技術やチームワークなどを総合的に評価されるのでとても栄誉な賞だ。

試合を見ていると、ロボットの作りにこだわる以上に、リモコン操作のリハーサルを繰り返して調整を重ねたところが良い結果を出していた。しかし、ロボットたちは小さなネジやガムテームなどを駆使して形を保っているので、練習のしすぎで故障することもあるし、試合中に壊れることも! せっかく勝ち進んでも壊れてしまえば戦えないので、支度部屋では次の試合までに急いで修理するのだ。

このことは、スポーツのアスリートが大会まで身体を鍛えつつケアするのと同じだと思った。デリケートなロボットの微妙な調整、本番のアクシデントへの瞬時の対応が結果を左右する。

地区予選ではスタートの合図が鳴っているのに、ピクリとも動かないロボットもあって、かわいそうで胸が痛む。勝たなくてもいいから、せめてなんとか本番の3分間で予定通り動きますようにと祈ってしまう。

最後の全国大会では、さすがにみなメンテナンスを完璧にしていて、素晴らしい戦いだった。地区大会で見た見覚えのあるロボットが、少しバージョンアップして登場するのを見るのもけなげで楽しかった。お疲れさまでした。また後輩へ技術を伝えて、来年の戦いをがんばってほしいと思う。

【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
< http://www.eimu.com/
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だんなさんがドコモのSamsung Galaxy Tabを買った。Youtubeの画面が大きくてうらやましい。コーギー犬が海に飛び込んでお腹を打つ動画がかわいくて、何度も見てしまう。
・Corgi Flop
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