[3030] 脱無関心のすすめ

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《俺はルサンチマンを燃料にしているような男》

■わが逃走[83]
 脱無関心のすすめ の巻
 齋藤 浩

■デジアナ逆十字固め...[116]
 宙玉レンズで桜玉
 上原ゼンジ

■私症説[26]
 7月24日のルサンチマン
 永吉克之



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■わが逃走[83]
脱無関心のすすめ の巻

齋藤 浩
< https://bn.dgcr.com/archives/20110414140300.html
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ご無沙汰。わが逃走です。毎日が心配の連続で、時間の経過がものすごく早く感じます。気がつけば、あの大惨事から一か月も経ってしまいました。

なんか「ご冥福を」とか「お見舞い申し上げます」とか、いくら本当に思っていることでも、文字にした途端プリセットされた定型文に見えてきちゃう。
被災地にはもうこれ以上がんばれない人だってたくさんいるのに「がんばってください」なんて言えません。

被害の少なかった人は自ら黙ってがんばればいいのかなと思ってます。黙々とできることをこなしているうちに、巡り巡ってその人たちの役に立つことに繋がるはずです。世の中ってそういうふうに出来ているものなので。

1・脱無関心のすすめ

正義だ悪だと言ってケンカするのではなく、まずは関心を持つことを勧めたい。教えてもらうのはもうやめにして、学ぶことを勧めたい。ここまで状況が悪化したにもかかわらず無関心に徹し、仮に最悪の事態になってから「知りませんでした」というのはもはや無理です。

まあ確かに他人のせいにできるのなら楽かもしれないけど、もはや事態は誰かに責任を押し付けられるレベルをはるかに越えています。

何十年、何百年、場合によったら何万年後の子孫にも影響をもたらすことになるんだから、そろそろ村社会の束縛をちょっとだけ緩めて、知るための努力をしましょう。

あからさまに反対だ賛成だと叫ぶ必要なんかないんです。そもそも二元論で片がつく話ではないので。そして、それぞれが納得できる事実をあつめたら、自分の意見を持ちましょう。

2・石畳と高下駄

世界にはいろんな文化があって、それらには気候や風土などその地に根ざした背景があるはずです。

自然を支配することで生き延びてきた狩猟採集民族と、自然に畏怖の念を抱きつつ共存してきた農耕民族とでは、物事に対する思想が異なるのは当然といえば当然です。

例えば、雨に対する考え方の違いを思い出してみます。雨は生命の源であり、雨が降らなければ生きていけない。だけれども、濡れるのは嫌だ。

西洋では道路に石畳を敷いて舗装してしまう。まさに自然に戦いを挑み、自然を支配する訳です。それに対してわが国ではどうしたかというと、高下駄を履いて足下が濡れるのを防いだのですね。自然に敬意を表しつつ問題を解決している。

どちらが正解かといえば、どちらも正解でしょう。でも、根底にある思想の違いがその地の風土に密接な関係があるのだとしたら、日本という土地には高下駄的思想に基づいたテクノロジーこそ向いているのではないか。私はそう考えます。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
< http://tongpoographics.jp/
>

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。

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■デジアナ逆十字固め...[116]
宙玉レンズで桜玉

上原ゼンジ
< https://bn.dgcr.com/archives/20110414140200.html
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私が原発に関心を持ったのは、1987年に刊行された「危険な話」(広瀬隆)によってだ。ベストセラーになった本なので読まれた方も多いと思うが、原発の危険を説いた本で、読んだ当時は大変な衝撃を受けた。いつ日本の原発がメルトダウンしてもおかしくない、といった内容に「エライこっちゃ」と思った。

その後、テレビ朝日の「朝まで生テレビ!」で原発推進派と反対派が意見を戦わせるといった回が何度かあったが、興味深く討論を聞いていたことを覚えている。「危険な話」がきっかけだったので、最初はもちろん自分も反原発の立場で番組を視聴していた。原発を推進する頭が良くて弁の立つ科学者や政治家のことを、憎ったらしく思いながら見ていた記憶がある。

ただ、回を追うごとにそういった気持ちはすこしずつ変化していった。反対派の中には、まず反対ありきで、情報を曲げたり、非科学的なことを言ったり、エキセントリックであったり、という人がけっこういて、少しずつ気持ちが萎えていった。

いっぽう推進派の中にも、理知的で信じられそうな人もいたので、単純に「原発=悪」とは思えなくなっていった。積極的に付き合いたいとは思わないけど、仕方がないのかなあ、というふうに気持ちは変わっていった。

そして番組はいつも意見が平行線のまま終了となり、後味の悪さだけが残った。まず推進ありきで、都合のいい情報ばかり流すのではなく、かと言って反対ありきで話を誇張したりするのでもなく、バランスがとれた意見が聞いてみたいと思っていたが、そういった意見は残念ながら出てこなかった。そして、私は「原発で作った悪い電気」(by渡辺和博)を消費しながら、今まで生きてきた。

●理屈ではなく、気持ちを優先させたい

今回、福島原発で事故に起きたからといって、原発反対派の人達から「ほーら、言ったでしょ」とは言われたくないし、今すぐ原発を全廃せよなどという意見にはまったく乗れない。鉄道や病院に電気が供給されなくなったら大問題だし、いちいちパソコンの電源を落とさなければならない計画停電は大きな負担だ。

しかし、今回の事故で学んだことを活かせば、より原発の安全性は高まるなどと言って、今までと同じように原発を使おうという意見がけっこうあるということにも疑問を感じる。原発はもういいから、他のエネルギーに変えていこうよ。時間がかかるかもしれないけど、そこに集中していけば道は開けるはず。

誰でも原発や放射能は嫌でしょ。だったら理屈ではなく、その「原発やだよ」という気持ちに従って、方針を決定してもいいはず。現状を考えれば原発に頼らざるを得ない、なんて無理に自分を納得させようとする必要はない。「原発は安全である」というのが嘘だったように、「原発に代わるエネルギーはない」というのも不確かなことだと思う。嫌な原発を使い続けて、心の健康を失っていくよりも、新しいエネルギーの開発に心踊らせたい。まあ、オレが開発できるわけでもないんだけど......。

●写真を提供します

被災地の人達の役に立つようなことができない私は、ここ最近春の花の撮影をしていた。まだ、花の美しさに心をシンクロさせることができない人達もたくさんいるだろうし、私の写真を見て、心を癒してくださいなんていう脳天気なことも言えない。でも何枚か気に入った写真が撮れた。

この春に撮影した写真は、できることなら復興支援に関わるビジュアル要素として、役立ててもらいたいと思っている。あるいはポストカードにして売上げを寄付するとかいうことでも構いません。無償で提供しますので、何かアイディアが浮かんだ方はご連絡下さい。

◇桜を宙玉レンズで撮影
桜玉と名付けた。
< http://www.soratama.org/gallery/sakura.html
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◇宙玉ギャラリーのバリエーションが増えました
私以外の人が撮った宙玉写真もアップ
< http://www.soratama.org/gallery/soratama.html
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【うえはらぜんじ】zenji@maminka.com
・上原ゼンジのWEBサイト
< http://www.zenji.info/
>
・Soratama - 宙玉レンズの専門サイト
< http://www.soratama.org/
>
・Twitter
< http://twitter.com/Zenji_Uehara
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■私症説[26]
7月24日のルサンチマン

永吉克之
< https://bn.dgcr.com/archives/20110414140100.html
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今年の7月24日を最後にテレビが日本からなくなるので、NHK大河ドラマ史上空前の期待はずれだった『江〜姫たちの戦国〜』だが、24日までの残り15回を何としてもすべて観ようと思っている。

大河ドラマは、1993年の『炎立つ』から毎週欠かさず観ているので、一回でも見逃すのは、入学してから無遅刻無欠席を貫きながら、卒業を目前にして寝坊で皆勤賞を逸するのに等しい。今際の際(いまわのきわ)に、ああ不完全な人生だった、と後悔するのは御免だ。

だから、雨の日も風の日も、雪ニモ夏ノ暑サニモ負ケズ観つづけてきたのだ。2009年の『天地人』も退屈だったが、数話分を録り溜めしておいて、体調が悪くて仕事ができず伏せっているときなどに、まとめて観るという方法でなんとか乗り切った。

                 ●

先週のこと、大阪市内にある行きつけのパブで、たまたま東京から帰省していた女子大生と話す機会があった。彼女は日本史を研究しているとのことだったので私は、じゃあ大河ドラマを観なされ、時代考証もしっかりしとるし、楽しみながら勉強になるでのう、とアドヴァイスしてやったら彼女は呆れたように、はっ、と息を吐くと、あれは勉強にはなりませんねえ、と言った。そして、

「あたし福山雅治は好きだから『龍馬伝』は観てましたけど、ほかの作品は観たり観なかったりですね。歴史上の出来事としては常識的に知ってることばっかりだから、小学生ならともかく、いい大人があんなの観て勉強になるなんて言ってちゃダメですよ。それに時代考証だって『江』なんかメチャクチャじゃないですか。江が怒って秀吉の顔を引っ掻いたりとか。まあコメディだと思って観てれば、それなりに面白いかもしれませんけどね」

と、あろうことか私に意見をしたのだ。この私に。親子、いや祖父孫ほどに年の離れた私に。年長者を敬うべしという戦前の教育を受けていない最近の若い連中は、自由の名の下に人間(じんかん)に放たれた狂犬だ。

たしかに若い頃は、自分の考えに無闇矢鱈と自信を持つ時期がある。かく言う私もそうだった。自分の考えの浅はかさにも気づかずに、親ほどの年長者に対して諫言(かんげん)めいたことまでした。しかし、それなりの礼儀は弁えていたものだ。

それにこの小娘は何もわかっていない。時代考証がメチャクチャだと? ドラマとは本来、虚構なのだ。『鉄人28号』の主人公、金田正太郎くんなんか、半ズボンを履いた子供なのに車は運転するわ拳銃は撃つわ。それに比べたら江が秀吉の顔を引っ掻くくらい何だというのだ。

私は年長者の義務として忠告してやらねばと思った。
「わしゃ、あんたに言いたいことがあるんだが、ここで話すのもなんだから、どこかその辺で......あ、そうだ、すぐそこに休憩のできる施設があるから、そこで二人きりで話をし......」
私が言い終わる前に、娘は席を立って帰ってしまった。年長者に意見をするばかりか恥までかかせる。もう手のつけようがない。

そんな阿魔が通う大学だから、どうせろくな大学じゃないだろう、どこかの幼稚園の付属大学に違いないと思っていたら、後日、彼女がかのキング・オブ最高学府の学生だとパブの人から聞いて、さすがあの大学の学生の発想は常人のそれをはるかに凌駕している、大河ドラマをコメディとして楽しむなどという発想は、途轍もなく高度な教育を受けた頭脳からでなければ決して生まれてはこない、と私は讃美を惜しまなかった。

                 ●

前口上が長くなったが、とにかくウチのテレビはまだ地デジに対応していない。私の横着ぶりはこれまでのコラムで繰り返し述べてきた通りだ。恐らく、7月24日を過ぎても地デジは観られないままだろう。それをしなければ生活が破綻するとか、投獄されるとか、暗殺されるとかいったような逼迫した状況にならない限り、私に体を動かしたりカネを遣ったりさせるのは不可能である。

地デジへの移行を促すのではなくて強制しなければ、国民皆地デジ制という総務省の野望はいつまでたっても実現しないだろう。7月24日を過ぎても地デジを受信していない家庭には役人がドアをこじ開けて踏み込み、なんでえなんでえ仏壇じゃあるめえし、なんにも映らねえテレビを後生大事に祀りやがって、おう! と喝破し、3D搭載ハイビジョン・プラズマテレビを設置して古いテレビを下取りし、キャンペーン中ですからと、北陸秘湯めぐりの旅のクーポン券を進呈する。そのくらいの強硬手段に出なければ、怠惰な私を動かすことはできないのである。

私はルサンチマンを燃料にしているような男なので、地デジが観られないということから生じる、世間に対する妬み嫉みは、いっそう私の表現意欲をブーストすることであろう。畜生この野郎。あと3か月ほどだが、7月24日以降もまだ私が地デジを観られない状況にあったら、ま、それはそれでコラムを書く愉しみもまた一入(ひとしお)っちゅうもんですわ。

【ながよしかつゆき】thereisaship@yahoo.co.jp
ここでのテキストは、私のブログにも、ほぼ同時掲載しています。
・無名芸人< http://blog.goo.ne.jp/nagayoshi_katz
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■編集後記(4/14)

・「週刊ポスト」はいつからこんなにまともになったんだ。4/1号の「日本を信じよう」は感動的な特集であったし、4/22号の「原発と放射能『過激な嘘』が暴走する」も読み応えがある。国民は無能な政府・東電を信用していない。そこにつけこんだ「煽り報道」が跳梁跋扈するから、国民の不安といわれなき放射能差別、経済損失などが拡大中だ。煽り報道の非科学、無知は放置できないとして、繰り返し垂れ流される「重大危機」とやらが、どれだけ事実を捉えているのかを検証したレポートだ。ニセ情報に翻弄されている人(本人はそうは思っていないだろうが)は、これを読むといい。報道記者は無知、学者の意見もバラバラ、これではスゴい見出しが踊るのは無理もないが、根本原因は政府・東電が正しい情報を公開しないからである。しかし、ことさら危険を煽り立てる報道はいかがなものか。ほかにも東京大停電危機や、国難の陰で進む大陰謀など、読むべき記事がある。いくらなんでもメチャクチャだと叩く相手はもちろん「週刊現代」だ。同感である。以下は同誌グラビアにあった戯れ歌。「こころ」は見えないけれど 震災利用の「下心」は透けて見える 「思い」は見えないけれど 「思い上がり」は誰にも分かる(柴田)

・生協に入っている。週に一度、マンションのそばで商品の受け取りができる。週末に行くスーパーと、この生協で食料品を買い込む。最近はスケジュールがイレギュラーで、あまり炊事ができず、冷蔵庫内の動きは小さい。出かけたついでにその日に使う食材を買う程度になってしまっている。生協で注文した商品が届きにくくなっているせいでもある。3月末のお詫び一覧の商品名と理由を抜粋。野菜は産地を変更して対応。「優先出荷」は、お米、お水、お茶、切り餅、インスタントラーメン、レトルトカレー、乾電池、野菜ジュース、毛布、お菓子類など。「資材不足」が、ミニおにぎり、パウンドケーキ、C.C.レモン、レモンティー、コーヒーゼリー、ポテトチップス、コンソメ、フルーツコンポート、納豆、ヨーグルト、パイの実、シャキッとコーン、トマトソース、ビール類。「原料不足」が、蒸しパン、塩ラーメン、ミートソース、ゼリー、だしなど。「倉庫被災」が梅酒、えびせんべい、お弁当、粉ミルク、離乳食、らーめんですかい、スープ、回鍋肉用など。「倉庫被害」は牛丼の具。「倉庫破損」がカフェオレベース。「計画停電」がヨーグルト、こんにゃく白和え。「工場被災」がじゃがりこ、タコ足先、和総菜、プリン、ヨーグルト、お菓子、レトルトカレー、なめ茸、生茶、うにせん、バスクリーナー、メリットシャンプー、ビオレU、カビキラー、うの花、くきわかめ、ムシューダ、そばめし。あとは「原料メーカー被災」とか「発売延期」「製造中止」に「宮城県、岩手県、青森県、秋田県、群馬県、茨城県、福島県、千葉県、北海道」。おむつやお好み焼き、のど飴、ゆずみそあたりは福島で作っていたのね。(hammer.mule)
< http://www.shop.jal.co.jp/jal-shopping/1201005/000001120100531530.html
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カレーうどんですかい、はあるわ