[3040] 電波の謎

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《パパは最近家のことばっかりだよね》

■わが逃走[84]
 信州ぶらり旅 の巻
 齋藤 浩

■私症説[27]
 電波の謎
 永吉克之

■買物王子の家づくり[07]
 建築家の提案にワクワクドキドキ
 石原 強



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■わが逃走[84]
信州ぶらり旅 の巻

齋藤 浩
< https://bn.dgcr.com/archives/20110512140300.html
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ところで『ぶらり旅』の定義ってなんなんでしょうね。
あまり深く考えず、先日思いつきで出かけた信州は佐久〜松本において、たまたま見つけた物件などを紹介します。

1■小屋
< https://bn.dgcr.com/archives/2011/05/12/images/001 >

小屋です。佐久市の畑の脇に立っていたのですが、なんともいい感じです。建てた人は単に実用に適したものをという考えであり、アートとして鑑賞することなんて意識していないと思うのですが、周辺の景観との見事な調和に感動を覚えました。

この調和ってのが、信州を語る上でのキーワードとなるのではなかろうか。ここに暮らす人達はある種の美意識を持っていて、たとえば家を建てるにしても周辺の景観とその家とを主観的に、客観的に、行ったり来たりしながら対比しつつ形状や色彩を決めているように思えるのだ。しかも無意識に。

そりゃあ中にはパステルカラーの似非メルヘンな家もあるにはあるけど、たとえばサイタマ等と比較すると圧倒的に少ない。うーむ、教育文化圏信州。すばらしい。本筋とは関係ないけど、長野県は日本で最もソープランドの少ない県なのだそうだ。先ほどたまたま会った某編集者が言ってました。

2■光学迷彩自販機

調和というキーワードを脳内で反芻しつつ、松本市内をさまよっていると映画『攻殻機動隊』でおなじみの光学迷彩! のごとく周辺に馴染んだ自販機を複数発見したのでご報告します。まずは味噌の蔵元で発見したこちら。
< https://bn.dgcr.com/archives/2011/05/12/images/002 >

なまこ壁を見事にトレース! 実物も意外に馴染んでいるんだよねー。まあ景観に調和させることの意義とか、実際表現としてアリなのかとか、果たして自販機の目的や機能との両立ができているのかとか、意見はいろいろあると思う。しかし、現実にそういったテーマを考え実行している姿に、信州人の意識の高さを見たように思う。素晴らしい。

さらに彷徨うこと10数分、草間弥生で有名な松本市美術館の自販機がこれだ!
< https://bn.dgcr.com/archives/2011/05/12/images/003 >

ウィンドウ内の草間作品との見事な調和! というか、すでにこれも含めてアートなのでは? で、近寄ってみるとやはり草間氏のサインが。すごいなあ。芸術とはこうあるべきだ。市民のものでもあり、作家のものであり、お互いに行き交うこと自体がアートとなる。実に知的。

3■松本市内飲み屋街

昭和の正しい飲み屋の佇まいを大切に守りつつ、美しく安全な街並をめざしている。
< https://bn.dgcr.com/archives/2011/05/12/images/004 >

足下を照らす照明のデザインもイイ。
< https://bn.dgcr.com/archives/2011/05/12/images/005 >

中には酔っぱらって水路に転落する人もいるとは思うが、あえて柵など設けないところがまたイイ。流れる水がとてもきれいなので、落ちた方もそんなにイヤじゃない。あ、オレはまだ落ちてないよ。完璧なディレクションの下、街並を徹底していくのもいいけど、この町のような、美意識を緩く共有できるコミュニティってよいですね。教育のなせる業。

4■デ・レーケ

ここ数年、行く先々でこの名前を耳にするのだが、なんと松本にも彼の手がけた物件があったとは! という訳で、早速行ってみた。

デ・レーケは明治時代、日本に治水工事を指導したオランダ人の技師で、四日市港の防波堤や常願寺川の砂防工事などをはじめ、日本中の治水工事を手がけている。松本のちょこっと東、市内から車で20分程度走ったところに『牛伏川階段工』があった。
< https://bn.dgcr.com/archives/2011/05/12/images/006 >

その名の通り、石を19の連続する階段状に積み上げ、激しい水流による浸食を抑えている。これによって下流に暮らす人々を土石流などから守った訳だ。機能もさることながら景観としても実に美しい。まさに機能美。バウハウスのエライ人の言葉を思い出す。

ものの本によれば、ここは日本で最も美しい砂防ダムとのこと。なるほどねえ。このときはようやく木々の芽が出始めの頃で、周辺の桜は満開。これから新緑の季節はさらに美しい景観となるであろう。

ここで、最近できたばかりのパン屋(あがたの森の目の近く)で買った焼きたてのパンを一斤食べたが実に旨かった。あ、こちらは現地に貼ってあった大正7年に撮影された写真。
< https://bn.dgcr.com/archives/2011/05/12/images/007 >

今の景色と見比べると、川の周辺を石できっちり組んだ後、谷の両側を植林したことがわかります。

5■顔に見えるコレクション

今回の旅でもいくつか顔を見つけたのでご報告。
まずは松本市内で見つけたこちら。
< https://bn.dgcr.com/archives/2011/05/12/images/008 >

シャア少佐の真似をした青ヒゲのおっさんのようです。悪い人ではなさそうですが酒飲みっぽい印象。
同じく市内にて発見した少年。口の中の歯がイイ感じです。
< https://bn.dgcr.com/archives/2011/05/12/images/009 >

そして最後にご紹介するのはこちら。
< https://bn.dgcr.com/archives/2011/05/12/images/010 >

佐久市内の居酒屋で飲んでいたところ、股間近くに微笑む人を発見! 即座にシャッターを切った。

てな感じで、今回はこれにて。世の中はまだまだ心配だけど、久しぶりに平和な気持ちで旅ができました。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
< http://tongpoographics.jp/
>

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。

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■私症説[27]
電波の謎

永吉克之
< https://bn.dgcr.com/archives/20110512140200.html
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スイマセン。極めて現実的事情から、今回は、というか今回も過去に自分のブログに掲載したテキストをリサイクルするのやむなきに到りました。

●豪商

きのう、南海高野線の中百舌鳥駅で豪商を見た。やはり豪商は、どこへ行っても周囲には人だかりができる。私も、みっともないとは思いながら、皆に混じって豪商を眺めていた。まあ、囲んで眺めているだけなら罪はないと思うのだが、中にはカネをせびるタチの悪い奴らもいる。

その日も、そんな連中がいて、図々しくも豪商の袖をつかんで放そうとしないのだ。困惑している豪商を見ていて気の毒になった。幸い、カネをせびっていたのが中学生らしい小柄な少女ふたりで、もし殴り合いになっても対等か、それ以上に闘える見込みがあったので、しばらく迷ってから、思いきって話しかけた。

「お前ら中学生やろ。なにしてんねん、この時間に。学校はどないしたんや」
「なんやおっさん。あんた関係ないやん」
「北中の生徒やな」

学校を言い当てられて、通報されてはまずいと思ったのか、人だかりから抜け出して、離れたところから様子を見ていた。また、後でたかるつもりだったのだろう。私は、これも何かの縁だと、ボディガードのつもりで、目的の駅まで豪商を送っていった。豪商は「ありがとうございます」と軽くお辞儀をして改札を出ていった。

●複合動詞

先週、父の法事で七年ぶりに甥の尚史に会ったら、彼の顔がすっかり照り流れているので、一瞬、別人かと思った。高校生の頃は、いつもどこか巻き落ちたようなところがあったのに、社会人になってからは人並以上に、盛り跳んでいた。彼は私を見つけると、塗り笑いをしながら近づいてきて言った。

「叔父さん、ぼく来年、アフリカの国々に医療を投げ伸ばすために、日本を離れ被ることにしました」

彼のこの起き結んだような陽気さに、私は、残し割ったような違和感を少し覚えたが、若さからくる持たせ打ちかとも思った。しかしその若さゆえに、彼が世間から引き吸われるようなことのないように、私がいつも彼を分け反らせ、時には曲げ溜めてやることも必要だと思い、彼に率直に言い満たした。

「尚史、日本人でも外国人でも、業績を寄せ振るためには、人間同士でこそ切り戻ることのできる、付き裁いた関係を作ることが必要なんだぞ。お前にそれを消し返すことができるのか?」
「はい。そのつもりでこれまで、組み垂らしてきましたから」

短い言葉だが、この一言で充分、尚史の決意は伝わった、もう子供ではないのだ。私は何度もそう思い掘り倒し転がした。

●電波の謎

ぼくはどうしてもテレビの電波というものが理解できない。東京タワーのてっぺんにあるアンテナから発せられた電波が全国の家庭のテレビに飛込んで、ブラウン管のなかで画像や音になるということは知っている。

また、電波というものが、ヘビのようにくねくねと前進する線だということも知っている。解らないのは、その、くねくねした線が、どういうカラクリで、見事に各家庭のテレビを探し当てて、そこに入り込むのかということだ。

その日は寒かったが、僕は自宅で愛する女性とタラ鍋をつつきながら熱燗を飲んで、身も心もカッカとしていたので、窓を思いきり大きく開けると、電波がこちらに向ってくねくねと飛びながら、すぐそばまで来ているのが見えた。なんだか怖くなって窓を締めたのだが、電波の先端部はすでに部屋のなかに入り込んでしまっていたので、締めた窓に切断されて先端部は内側に残った。

短く切れた電波は、しばらく窓の前でくねくねしていたが、テレビを見つけると、その裏側に回りこんだ。すると、それまで見ていたNHKの『地球・ふしぎ大自然』が『水戸黄門』に変ってしまった。TBSの電波だったのだ。

しかし、そんなことより、彼女とふたりっきりで過ごせる、月に一度のひとときを、きれいな自然の映像を眺めて、自然って不思議だね、なんて言いながら過そうと思っていたのに、爺さんが活躍する番組なんか見せられては迷惑だなあ、とぶつぶつ言いながら二人で見ていたら、10分ほどして、助さん格さんが黒幕の悪大名を追い詰めて「この印篭が目に入ら」と言ったところで、また『地球・ふしぎ大自然』にもどった。

「電波が短かかったのね。よかったわ」
「でもぼくは、悪大名がひれ伏すところも、ちょっと見たかったかも」
彼女はぼくの微妙な心理を理解してくれたと思っている。

●控えめな要求

絵里子といいます。
なぜか私は、小さいときから、怪しくない男性を好きになる傾向がありました。小学生のときに好きだった初恋の先生も、初めてキスをした高校のときの彼も、同棲していた大学時代の恋人も、そしてもちろん今の主人もみんな揃って、怪しくないのです。来月、男の子が生まれる予定なのですが、その子も怪しくない男性になってほしいと、心密かに願っています。

智恵よ。
私の理想の男の第一条件は、連続放火魔じゃないこと。これは譲れないわ。いくら動物好きで年寄り子供に優しくても、連続放火魔とはうまくやっていけないんじゃないかと思うの。

以前につきあっていた彼に対してもそうだった。会社に一年後輩として入社してきた彼を見て、なんとなく頼りない感じだったけど「素敵、この人なんて連続放火魔っぽくないのかしら!」って、一目惚れしちゃったのよね。うふ。

裕美で〜す。
大学の同じ学科に、澤田くんっていう、とっても気になってたのに話しかけることもできないでいた男子学生がいたんです。もともと澤田くんを好きになったのは、彼がウサマ・ビンラディンじゃなかったからなんだけど、シャイなあたしが、そんな彼に話しかける気になったのは、あるとき友達から、実は彼がヒマラヤの雪男じゃないって聞いて、もうこの人しかいないって思ったからなんです。

それで思い切ってお昼ご飯に誘ったら、気持よく応じてくれたんですよ。そしてびっくりしたのは、澤田くんもあたしのことが好きだったって言うんです。それでもう嬉しくって「どうしてあたしが好きになったの?」って聞いたら、「男じゃないから」なんて照れちゃって、真っ赤になって、とってもカワイイんです。

異性への要求は控えめに。それが、結局は少子化の解消につながるのである。

【ながよしかつゆき】thereisaship@yahoo.co.jp
・無名芸人< http://blog.goo.ne.jp/nagayoshi_katz
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■買物王子の家づくり[07]
建築家の提案にワクワク、ドキドキ

石原 強
< https://bn.dgcr.com/archives/20110512140100.html
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さて、土地は決まった。ローンも済んだ。昨年末はそこまでの段取りをこなすことで精一杯でした。土地探しの間は無我夢中だったので、建てる家のイメージまで頭が回りませんせんでした。土地が決まったことで、やっと次のステップに進めることになりました。年明けから、本格的に家づくりをスタートしました。

●やっぱり建築家と組んで家を建ててみたい

家づくりは「Boo-Hoo-Woo.com」と進めていくことにしました。都心の狭小住宅の経験も豊富で、デザインにこだわりがある。オカザキさん、ミヤケさんとも家に対する感覚が合って話し易い。前々回の広さが足りなくてあきらめたプランも気に入っていたので、この土地でもきっといい家をデザインしてもらえると期待して決めました。

予算やスケジュールが厳しいと聞いていたので、建築家に設計を依頼するか迷ったけれど、これを逃したら次の機会はないかもしれない。オカザキさんの「この条件なら大丈夫でしょう」という言葉もあって、チャレンジすることにしました。

建てる家の前提条件として、まず打ち合わせたのが、家のボリュームです。土地の条件では床面積は30坪くらいとれるが、予算を抑えるために必要最低限の25坪にちょっと加えた26坪で検討することにしました。「無闇に広くしないで余裕があったほうが、吹き抜けとかある贅沢な空間が作れる」というオカザキさんのアドバイス。構造は一般的な木造の3階建てとしました。

スケジュールとしては、来年の4月には次男の保育園入園、妻の育休開けの復職が待っているので、遅くとも来年3月が期限です。引っ越しをしてから時間の余裕も欲しいので、できれば年内12月には入居したいと依頼しました。

具体的な要望としては、エアコンが嫌いだから、日当りと風通しが自然を活かした空調がいい。リビングは、ソファーなどを置かずに床に座るようなスタイルにしたい。ダイニングは食事だけでなく2人の息子の勉強を見たり生活の中心になる。キッチンは妻のスペースとして家の中心に。かわりに僕のワークスペースも欲しい。クルマは持たないので駐車場はなくてもよいが、自転車は最大4台置きたい。南側に布団を干すスペースは必須。

今もモノが多いしさらに増えるので、収納するウォークインクローゼットや、玄関脇に収納があるといい。すべて片付けるのではなく、好きなこだわりモノは飾ったり隠したりをバランスよくしたい。特に折々に買い求めたイスはうまく居場所をつくりたい。家にあるモノで、趣味とかこだわりを知ってもらおうと、持ち物を写真に撮って簡単な資料を作成した。

建築家の選定は、Boo-Hoo-Woo.comにおまかせしました。複数の案を見てみたい、自分に合った人に設計をしてもらいたい。というお願いをして、3人の建築家に提案していただけることになった。どんな提案がでてくるのかワクワクします。プレゼンの度、どんな建築家に出会えるのかとドキドキしていました。

●土地のパワーを取り込む、斬新なデザイン

一番手はTさん。シャープなデザインの作品が、雑誌「カーサ・ブルータス」の住宅特集にも紹介されている、これからの活躍が期待される若い建築家です。

開口一番に「プランを考える前に土地を見に行きました。イシハラさんがなんでこの土地を選んだのかわかりました。とても気持ちのいい家ができると思いました」この土地の形状で悩んだ末の決定だったので、こう言ってもらえてホッとしました。

プランの特徴は、2階です。北側にキッチン。階段2段分のステップをあがってダイニング、さらに2段分上がってリビングとなっています。部屋を壁ではなく高さの変化で区切っている、細長い一室空間です。

「この土地の持ち味を生かすには、外と一体感を持たせたかった。ステップ状の空間は、家の南側にある土手のような地形と連続性を持たせて、土地のパワーを家の中に取り込めるようにという発想からデザインした」という。

この考え方がうまく生活のイメージに落とし込まれています。2階は壁がないので、どこにいても他の人の様子が見られます。扉も廊下もないので広々と空間を使えます。キッチンはアイランド形で、シンクの天板がダイニングまでつながってダイニングテーブルとなっている。キッチンは立って作業するけど、ダイニングはステップがついているので、床に座っているとちょうどいい。

「リビングで寝転んでいる人と、キッチンで立って料理をしている人の目線が、ちょうど合う。常に家族の気配を感じながら、それぞれの場所で自由なことができるんです」と、のびのびした床座の生活がイメージできます。

リビングには3階に上がる階段があり、屋根まで吹き抜けになっています。隅にワークスペースを設けられています。「ここでは階段の2段目を延長してテーブルとして使います。スペースを無駄にしないようにして、家のインテリアの一部としてとけ込むようにした」と細かな配慮が見えます。

3階の子供部屋には少し広いテラスもついています。屋上がなくても眺めが良さそうです。「布団もたっぷり干せそうだね」と妻が喜んでいます。「3階は将来的には収納を設けて兄弟2人の部屋として分割できるようにする」参考案もありました。

床や天井高の違い、空間の拡がりといったイメージは、平面図の他に立面図、それに模型を見ながら説明していただきました。模型は具体的に完成のイメージがわきやすい。外観も直線的でシンプルな形が良いです。

Tさんの提案は、長細い土地の特徴を建築に見事に取り込んだプランでした。

●2階玄関の家は意外なほど合理的なプラン

2人目は1週間後。Fさんは夫婦で建築家です。事務所の設立は、2006年と最近でしたが、それまでの実績は十分。どの家も一見派手さはないですが、細かく計算されたデザインや、ユニークな素材使いなど隅々にこだわりがあって素敵です。

提案のプランは、家の正面に階段があって2階が玄関になっているのが特徴。「こういうデザインは、どうしても嫌だという人もいるかもしれない」とちょっと遠慮がち。

確かに最初は、2階から入るということに違和感がありました。でも家族の集まるリビングを通って、プライベートな個室に入るという動線は合理的に見えます。階段も面倒かなと思ったったけど、マンションやアパートに住んでいれば階段は普通だし、道路より上に建つ戸建てなら玄関まで階段を上がるのは珍しくない。

「いますぐ使わない駐車場を確保しながら、そのスペースを無駄にしないように考えた。可動式の扉をつければ、屋外の収納や作業スペースとして使うこともできる」万一、家を貸したり、売ったりという場合、駐車場の有る無しで価格も変わってしまいます。家を資産として見た時に、駐車場をなくすのは不安でしたがこれなら大丈夫です。しかも2階が張り出していて屋根になるので、自転車を置いても雨ざらしにならないのもいい。屋外の作業スペースというも嬉しい。

正面からの見た目もすっきりしています。家の顔となる玄関が駐車場の後ろに隠れてしまうこともありません。むしろ2階への階段が家の個性として感じられて、懸念どころか最大の魅力にさえ思えてきました。

「いかにも斜線で切れました。というような外観にしたくなかったので」と細長い箱を重ねたようなデザイン。垂直水平なラインで斜線制限を巧みに避けています。屋根が水平な陸屋根はデザイン住宅の基本だし、すっきりした見た目がセンスいい。

北側の玄関を入ると、2階はダイニング、真ん中にキッチン、さらにその奥に進むとリビングです。「リビング吹き抜けは2階分あるので、天井まで5m近くあって、他にない、この家の個性になると思います」大きな窓もあって気持ちよさそう。床に寝転んで高い天井を見上げたら、どんな気分になるんだろう。

ダイニングには1階に下りる階段と3階に上がる階段を設けています。3階は、階段を上ったところにワークスペース、両側に2部屋とれるようになっています。「部屋の扉は必要になった時に取り付ければいいと思います」

1階に下りると広くとられた水回り、その南側に寝室、その外には小さな庭もあって、プライベートでほっとする空間です。全体として間取りに無理がなく、懸念事項が見当たりありません。

Fさんの提案は、合理的で日常生活をイメージしやすいプランでした。

●奇抜さと緻密さを合わせ持った、現代の忍者屋敷

最後は、ユニークな作品でメディア掲載も多いNさん。実績を見ると家のデザインはもちろんカッコいい、家具も一緒にセンスよくデザインされていて、その一体感がさらに素晴らしい。

「3階建ての高さで、あえて2階建ての建物を作ります。」天井は4mを超える高さです。約10mに等間隔に柱が立ってチューブ状の構造となっています。「そこに造作家具の延長で人の居場所、モノの居場所を作ります。」バスやトイレ、階段を家具のように仕立てて、必要な場所に配置する。その上部に床材を貼って上下の空間を作り出し、居住空間として使うという。

2階をそれぞれ2層、合計4層にして使う大胆なプラン。いろんな高さの床が存在する。トータルの床面積は広い、空間もダイナミックだ。「どこに居ても空間の広がりを感じます。同時に家族それぞれが居心地のよさを感じる住宅を作ります」

一般的な間取りの概念が通用しない。「模型で確認してみてください。そうしないとわからないから」模型も他の人より大きい1/50。こまかく作り込まれていて、壁を外して構造と配置された造作家具を見ることもできます。実際にうちにあるイスまでミニチュアサイズに作られていて感激しました。

「モノが多いということで、収納はたっぷり用意した。」1階の床半分を占める大きさの箱、その中が収納になっているのです。模型を見ても、どこから入るのかわからない。他にも、どうやって上るのかわからない場所もある「そこはハシゴ、それか、ちょっと離れたこっちの床からジャンプ、ちょっと危ないかな」なんだか忍者屋敷みたいで、ワクワクする。

奇抜なデザインに見えるけど、それを成り立たせるための緻密さを合わせ持っています。模型を様々な方向から眺めたり覗き込んだりすると、Nさんの提案する、家全体を見通せてリラックスできるる場所、逆に隠れることができる、籠って集中できるような場所など、様々な役割を持った「居場所」が絶妙なバランスで配置されているのがわかります。

「考え方に賛同して欲しい、あとは要望にあわせてプランを修正していく」なかなかにおもしろいけど、大胆な案だけにプランのすりあわせに時間がかかりそうだ。でも時間を惜しまないなら、きっといいものになる感じる魅力がある。家を建築家と作る醍醐味も得られるに違いない。

Nさんの提案は大胆かつ緻密、建築家のこだわり満載のプランでした。

●どれも捨てがたい、全部建てたいけれど...

こんな制限のある土地なのに、三者三様の案が出てくるというのは正直、予想をしていませんでした。できるだけ床面積をとってコストパフォーマンス良く建てる工務店のサンプルプランとは、考え方から違います。やはり専門家が、オリジナルで考えるのはレベルが違います。

しかも、プランに対して懸念点をこちらが出すと、その場でプランを修正して見せてくれたり、的確なアドバイスをしてくれた。問題が解決すると安心するし、もっとこんなことできないの? と話が盛り上がります。毎回打ち合わせが楽しくて時間が経つのがあっという間でした。

すべての提案が出そろった段階で、どれが一つに絞らなければなりません。しかし、どの案にも魅力があって捨てがたい。できることなら全ての家を建ててみたい。3案を見比べて、夫婦で悩んだ末、2人目の建築家フルヤさん、TORQUE一級建築士事務所 < http://www.torque2006.com/
> の案に決定しました。

決めたポイントは、家に住んでいる家族の生活が明確にイメージできたことです。他の2人のプランは、建築としての魅力があり家自体に満足しそう、ユニークな家として雑誌に紹介されるかもしれない。そこに住む家族としてセンス良く見えるかもしれない。

それに比べるとフルヤさんの案はオーソドックスな間取りで、もっとも建築家っぽくないプランかもしれません。しかし無理のない間取りで、プランの完成度が高い。大きな修正無しで進められれば、スケジュールの不安も少ない。心配した予算も抑えられています。

フルヤさんの年齢は僕の3歳年上で、ほぼ同年代なので感覚も合いそうです。うちの長男カケルと同じくらいの息子さんもいるということで、生活面でもつっこんだ相談ができそう。提案でお会いして、もっとも親近感を持ちました。

家に持ち帰った模型や図面をじっくり見ていたら、完成されていると思ったプランでも気になるところが出てきました。質問のメールをBoo-Hoo-Woo.comミヤケさん宛に送ります。すぐに返信があり、「早速、フルヤさんお伝えしました。これから調整してより良い家にしていきましょう」これからが家づくりの本番です。

【いしはら・つよし】tsuyoshi@muddler.jp
twitter < http://twitter.com/244ishi
>
Webmanagement < http://webmanegement.jp/
>
Shopping Prince blog < http://www.muddler.jp/
>

GWも家づくりのため、毎日のようにショールームを巡っていました。そしたら「パパは最近家のことばっかりだよね」と息子に言われてちょっと反省。最終日は代々木公園で一緒にサイクリングして楽しみました。これも大事。

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■編集後記(5/12)

・曽野綾子「老いの才覚」を読む(ベスト新書、2010)。発行部数100万部を突破したという。才覚とはCIM(Computer integrated manufacturing)のようなものだという。要するに、今まで得たデータを駆使して最良の結果を出そうとするシステムのことである。昔の人は「こんなときどうする」システムが頭に入っていたが、最近の人、とくに年を重ねて知恵が備わっているはずの老人にそれがない。年の取り方を知らないわがまま老人が増えていることは、超高齢化社会の大問題である。そこで筆者は自立老人になるために、7つの「老いる力」を持つことが重要だと説く。それは、「自立」と「自律」の力、死ぬまで働く力、夫婦・子供と付き合う力、お金に困らない力、孤独と付き合い人生を面白がる力、老い・病気・死と馴れ親しむ力、神さまの視点を持つ力、だという。とりたてて目新しくはないが、共感できるところが多い。わたしに才覚は乏しいと思う。この人の厳しい言い方は嫌いではないが、三浦朱門はいつも罵詈雑言を投げつけられているようなので気の毒になる。なんでもかんでも権利だとか平等だとか極端な考えがまかり通る世の中、遠慮を知らない貧困な精神の老人が続々と出現する。日教組の「人権、権利、平等」教育のみごとな成果であろう。ところで、民主党は震災後のドサクサにまぎれて「人権侵害救済法案」を次期臨時国会に提出する。人権侵害救済機関「人権委員会」を法務省外局として設置する、凶悪無比の闇法案である。救済の名をかたる「人権抑圧弾圧法案」である。加えて国籍条項がない。誰のための、どの国のための法案かというと、日本人、日本国のためではないことは確かだ。(柴田)
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4584122954/dgcrcom-22/
>
→アマゾンで見る(レビュー31件)

・デザイン提案のところ、自分の仕事に通じるものがあるなぁと思った。/GWは宝塚歌劇に二日使った。今まで行けなかった分、まとめてドンだ。一日は月曜日に書いた。もう一日の話。まずは、大劇場横の小さな会場「バウホール」で、伝説のバレエダンサーの半生「ニジンスキー」。雪組。あくまでお芝居。とはいえ振り付けは、小林十市さん。跳躍力がもてはやされている頃、跳躍力だけが自分の特性ではないと、物議を醸した「牧神の午後」を振り付けて自ら踊る。代表兼恋人のセルゲイの目を盗んで女性と結婚。それがセルゲイの怒りを買い、バレエ団を追放される。自らバレエ団を旗揚げするが失敗。第一次世界大戦、そして精神病へという話。話の繋ぎが悪くて、あんまりニジンスキーの気持ちはわからなかったんだけど、こういう伝説の人を題材にしたり、演じるのってプレッシャーだろうなぁと思ったりしたよ。演者らに拍手。ニジンスキーの奥さんは宝塚歌劇が好きで来日した時は、河合隼雄氏が通訳されたとか。女の人が演じる男役同士での同性愛表現って、何だか不思議な感じ。聞いた話によると、ラブシーンは自分たちで考え、脚本の男の先生が赤面していたとか何とか。「牧神の午後」を踊った時は、それやりますか? と思ったよ。すみれコードって芸術には適用されず? 究極の挑戦だわ。(hammer.mule)
< http://ja.wikipedia.org/w/index.php?oldid=37443465
>
ヴァーツラフ・ニジンスキー
< http://ja.wikipedia.org/w/index.php?oldid=37030787
>
牧神の午後
< http://allabout.co.jp/gm/gc/199490/file/sumireko-do.htm
>
すみれコード。踊りだからコードは関係ない?
< http://www.juichi-kobayashi.com/news/index.php?info_id=41
>
小林十市さんのブログ