境界線の歩き方[04]縦につながる文化★横に広がる文化
── 出渕亮一朗 ──

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クリエイターならば、自分は何を表現したいのだろう? と時には悩んでしまう人もいませんか。そんな時は、自分のアイデンティティをどこに持つか考えてみるのも手だと思う。この場合のアイデンティティとは、何かを表現するときの自分のスタンスみたいなものかな。

自分の生まれた場所に、アイデンティティを持つことがまず自然だろう。生まれた場所の文化、言葉、習慣は当然ながら自分自身に深くしみついている。伝統芸能の世界に生きるのは、このアイデンティティである。例えば、日本に生まれたから日本舞踊をやってみようとか、三味線をやってみようとか。場所は自分の住んでいる町から、例えば、アジアまで狭くも広くも取ることができる。

このアイデンティティの持ち方は、自分の生まれた地域に過去に生きていた人たちの生み出した文化を、引き継ぎ発展させるということだ。つまり、場所は一点で時間軸方向に伸びた、いわば、「縦につながる文化」である。

対するものとして、もうひとつのアイデンティティの持ち方として、「横に広がる文化」を考えることができるはずだ。これは、時間はある一点で、空間方向に伸びた文化である。つまり、自分の生きている時間(特に若い頃)に生まれた文化を引き継ぎ発展させることである。



例をあげよう。ヒップホップ(hiphop)は1974年頃、USAのアフリカン系の若者により始められたものであるが、ラップミュージック、ブレイクダンス、ポッピング等のヒップホップダンス、キース・へリングで有名になったグラフィティ、ファッション等、多岐にわたるジャンルをまとめたサブカルチャーである。今では世界中に広まっており、同時代的という言葉もあるが、私の地球の裏側の同級生が生み出した文化、みたいな意識を持っている。

2011年の今はどうだろう? 以前、「踊ってみた」について記事を書いたのだが、今年3月3日のひな祭りの夜に、六本木に期間限定オープンされたVOCALOID CAFEで催された、ボカレボ☆Dance Nightに行ってきました。

メインはDanceroidだったのだが、「踊ってみた」の有名人(?)ダンサーもたくさん出演していた。個人的にはストロボナイツのダンスを生で見られたのが一番の感動だった。

今現在こういった、VOCALOID、パラパラ、コスプレ、アニメ、萌え画、ダンスCGムービー、日本語といったものが一体となったサブカルチャーのシーンが生まれているのだ。そして、このシーンは現在進行形で、世界中に進攻中なのである。

萌え画というと、オタクの男子が好きだったり描いているものというイメージだったのだが、今では女性美大生が普通にこの絵を描くので、もうその定義を超えたところにあるのだ。

パラパラについては先の「踊ってみた」の回にもふれたが、私は日本舞踊の手指を大切にするフリを潜在意識的に持った、コンテンポラリーダンスだと捉えている。日本人ダンサーがパラパラを踊ると、皆手指をしっかり真似ているのに対して、海外の人はその辺、曖昧というか適当な人が多いのが、文化起因説の証明となるだろうか。

ただし、最近のものはヒップホップの全身を使うダイナミックな動きも取り入れていると思う。また、いわゆる音ハメ、歌詞ハメも多用される。これを私は勝手に「パラパラ進化形」と呼んでいる。

このパラパラ進化形にはVOCALOIDを中心にいろんな曲があって、いろんな人に踊られてきているのだが、今のところの最高傑作は、愛川こずえさん振付けのストロボナイツだと私は思っている。最近の流行りは昨年の秋頃に出てきた、Happy Synthesizerだろうか。

ハッピーシンセサイザーは、EasyPopさんによる曲/歌詞、VOCALOIDの巡音ルカによるものだが、聞いているとほんとうにハッピーになってくる。イギリスの踊ってみた常連さんの女の子はこの曲に恋してしまい、ある引きこもりの女の子は歌詞に感動して踊っちゃいました。

震災のあの日TVと戦って気が病んでしまった男の子は、この曲を聴いて元気になった。振り付けはめろちんさんという男の子によるものだが、彼は本来はヒップホップのテクニックを持っている人のようだ。彼の中で何と呼んでいるのか知らないが、明らかに別物ジャンルのダンスとして振り付けしていると思う。

「音楽家を生み出すには三代かかる」という言葉がある。それをまねてカルチャーシーンを語れば、一代目はこう言っては悪いが、西洋のまねっ子をする時代だった。○○を日本に初めて紹介した、というだけで、その世界の第一人者や大学教授になれた時代である。

二代目は、やっとオリジナルな世界を作れるようになった時代である。例えば、YMOとか。ただし、個人個人、散発的であり、大きなカルチャーシーンを生み出せるところまではいかなかったかもしれない。

そして、三代目にして、ついに、世界に影響を与えて行くような、オリジナルのカルチャーシーンを日本から生み出すところまで来たのである。若い人たちの頑張りが、なんとも頼もしいというか嬉しい限りである。

ヒップホップのように、このシーンをひとくくりで呼べる何か名前が欲しいなと思う。Otaku? Akiba-kei? Niko Niko? 何かそこはもう超えている気がする。J-Popだと音楽だしなあ。誰かかっこいいのを考えてみてください。

参考:
【踊ってみた】「ハッピーシンセサイザ」Original Dance Routine by【めろちん】
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>
めろちんさんによるオリジナル振り付けです。

110405_いとくとら [ハッピーシンセサイザ] 踊ってみた
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>
Danceroidのいとくとら(いくら)さんが踊るとこうなります。

【ヨハンナ】「ハッピーシンセサイザ」 踊ってみた
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>
海外の人もいろいろ踊っていますが、代表して彼女(スウェーデン人)を選んでみました。

【MMD】ハッピーシンセサイザ【PV】+mp3♪
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>
MikuMikuDance(MMD)によるもの。ムービーをトレースして作っているんだろうけど、この執念と情熱にはやはり頭がさがります。

【English - uMi】 Happy Synthesizer кran
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あぷりこっと*さんのダンスムービーに、Kranさん(フィリピン人)が英語バージョンの歌詞で歌ってみたdubムービーです。

【出渕亮一朗】
コンピューターグラフィックス、インタラクティブアート分野のアーティスト
グラフィックス分野のプログラマー
< http://www.debuchi.com
>
ryoichiro.debuchi(a)gmail.com