電子書籍に前向きになろうと考える出版社[15]日経のアマゾン報道はなんだったんだろうか?
── 沢辺 均 ──

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10月20日(木)の日経新聞の1面に「アマゾン、日本で電子書籍 年内にも 市場拡大に弾み」という記事がでた。

年内にも日本語の電子書籍購入サイトを開設。小学館、集英社など出版大手と価格設定などで詰めの交渉に入っており、講談社、新潮社などとも交渉。PHPとは合意、PHPは約1000点の書籍を電子化して提供。だいたいこんなところが記事のポイントだった。

これはあくまでボク個人の想像だけど、アマゾンが出版社に「まわりの出版社は着々と契約しているのだから、早くしないと乗り遅れますよ」というメッセージを発したものに見えてしょうがない。

そう思うのは(自分でも参加してるのだからちょっと自意識過剰かもしれないけど)新会社=出版デジタル機構(仮称)が動き出したからだ。

出版デジタル機構(仮称)は、大手はもとより、小零細出版社の電子書籍制作をサポートして、短期間で数10万のタイトルを読者に提供しよう、というのが目的。これによって、電子書籍市場にインパクトを与えて、拡大させようって考えているのだ。

で、その電子化したタイトルは、それぞれの出版社の意思にもとづいて、電子書籍書店に提供する。出版社の多くは、アマゾンをふくめた電子書籍書店すべてに提供することになると思う。




これまでの紙の本の販売に際して出版社は、特定の書店本屋に商品提供しないなどという習慣はなかった。売ってくれる書店ならば、どこにでも提供するのだ(もちろん返品が予想される過剰な注文への警戒はあった)。この状態をみれば、○○書店にだけに提供しようとか、○○書店には提供しないとかもありえない。

一方、アマゾンの狙いは、国内で(ダントツ)トップの品揃えでスタートしたいと考えるているんじゃないだろうか、というのがボクの想像。ならば、たんにさまざまな電子書籍書店と同様の品揃えではダメ。

電子書籍書店のどこにでも提供する出版デジタル機構(仮称)が、多くの出版社との契約をすませるまえに、トップの位置を確保したいとおもっているのじゃないだろうか? と思うのだ。

では実際のところはどうなんだろうか? ボクが業界の友人たちに聞いたうわさ話や、情報を総合すると、出版社との契約はあんまりうまく進んでいないんじゃないかと思える。

日経新聞にしても、合意したと名前が出せたのはPHPだけだ。まあ、ポット出版の名前じゃ日経もそもそも記事にはしないだろう(笑)。ボクが記者なら、正直もうすこしインパクトのある出版社名が欲しいと思う。「詰めの交渉に入っている」ってのも、うーん、ボクの聞いたうわさ話とは隔たりが大きい。

ポット出版は「ぜひ提供してね」みたいなことを、たまたま行き会わせたときに一言言われただけで、本気で営業されたことはない(笑)。けども、交渉内容の機密保持契約を求められるという噂だし、もっとも安い価格を求められたりと、アマゾンとの契約はキビシイといううわさだ。業界の友人の四方山話では、アマゾンへの警戒感が強いように思う。

ビットウエイやモバイルブックジェイピーなどとの契約とは、緊張感が違うのだ。ポット出版だって、ビットウエイやモバイルブックジェイピーとは契約してるんたけど、今、アマゾンが本気で交渉してきたら(ってそもそも相手にされてないって)今すぐ契約する気にはならないと思うな。

いや、アマゾンがキライなんじゃないんです、よ。余談だけど、そもそもアマゾンが上陸した2000年。周りの出版社が「黒船が来た」扱いしてるときに、いや「白い猫も黒い猫も本を売る猫はいい猫だ」(笑)、って言って回ってたはず。アマゾンが求めていた、在庫情報のデータでの提供にも熱心にとりくんだしね。

で、今は、アマゾンの電子書籍書店に受動的に出品する体制をつくるより、その手前の電子書籍の市場を拡大することに主体的に取組むことが、結果的にアマゾン電子書籍書店の活性化にもつながるんだと思ってる。

多くのタイトルを電子化すること、そのためには講談社や小学館の最大手はもちろん、中堅から小零細までのタイトルが必要なんだ。だから出版デジタル機構(仮称)が飛び立つための活動に時間を裂いている。

ボランティアのつもりは全然ないですよ。だってそうした活動の過程で仕入れる情報は膨大で、ポット出版自身のためにとっても役に立つんですよ。

注1:出版デジタル機構(仮称)の目的はすこしボクの言葉に変えてある。責任はボクにある。あとで機構のメンバーに叱られたら素直に謝るし、デジクリにもお詫びを書きます。

注2:アマゾン電子書籍書店がほんとうに年内に出発して、ダントツの品揃えを実現していたら、この話はいい笑いモノだね。

【沢辺 均/ポット出版代表】twitterは @sawabekin
< http://www.pot.co.jp/
>(問合せフォームあります)

ポット出版(出版業)とスタジオ・ポット(デザイン/編集制作請負)をやってます。版元ドットコム(書籍データ発信の出版社団体)の一員。NPOげんきな図書館(公共図書館運営受託)に参加。おやじバンドでギター(年とってから始めた)。日本語書籍の全文検索一部表示のジャパニーズ・ブックダムが当面の目標。