装飾山イバラ道[89]今すぐ幸せになる
── 武田瑛夢 ──

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2011年の最後の記事なので、今年を振り返ってみたいと思う。今年は1月、2月に何をしていたか簡単に思い出せないほど3月の大震災が大きな出来事だった。

地震後すぐにネットから情報を得ていたので、原発に関するニュースは表で語られることと、ネットとの差が激しくて混乱した。今思えば、表のメディアでは原発関連の情報は、テレビで伝えることができる程度にボカされたソフトな情報しか得られなかった。情報をボカす意図は「間違わないように」であると思われるけれど、結局はかなり間違ってもいたし、そもそも何にフォーカスするのかを見誤っていたように思う。

あのフラスコのような形状の原発の格納容器の、どこがどの程度壊れているのか、水はどのレベルにあるのか、温度は何度なのか、今思えば初めて見る機器について急に具体的に考えられるはずもないのに、懸命に考えようとしてしまった。急に考えても太刀打ちできる相手ではなかったのに、何がどうなっているかを自分のレベルでも知っていないと不安だったのだ。

しかし、結局自分のレベルで知るのは与えられる情報だけで手一杯で、テレビが薄めて伝えてくるものを拾うしかないという無力感を覚えた。数ヶ月経った今でも、原発に関する知識はそう増えたわけではなく、専門書を取り寄せようとも思っていない。このようなことは本気で取り組まなければ、本当の理解はできないだろうと思う。

私は情報デザインの授業で、個々の人間の感覚センサーの大切さについて取り扱うことがある。同じことが起こっても、人が違えば反応が違うという個体差のおかげで、全体はバランスを保っていることがあるからだ。

今回の大震災の後の放射性物質などの取り扱いに対する反応が、人によって差があるのは自然なことだと思う。自分についたセンサーが赤く点滅しているのに見てみないフリをして生活したり、周囲の人に合わせていると、疲れきってしまうのだ。自分のセンサーを背負って生きて行くなら、それに正直に対応していくしかないと思う。




2011年のこのごろの私のキーワードは「今すぐ幸せになる」。これは正確には今年だけではなく、ここ数年で思っていることだ。世間一般とも合っているキーワードかもしれない。

数年先や何十年先を見越して、過去も今も努力を積み上げきた人が多いのが日本だ。簡単に言えば「勤勉」なのだけれど、計画通りに積み重ねづらくなってきた世界の変化を見渡した方がいいように思う。在り続ける保証のあるものはほとんどない、ということを認めて今を大事にしたい。

マザー・テレサのドキュメンタリー映画で見たシーンがある。「あなたの仕事はすばらしい。手伝いたいけれど何をすればいいか」と申し出た記者に「家に帰って家族を大切にしてください」とマザー・テレサは言った。一人一人ができることはすごく身近にあって、何かに所属したり遠くへ出かけていく必要はない。

「今すぐ幸せになる」の幸せは、周囲にいる人を大切にすることで可能で、それは自分をも大切にしていることだと思う。自ら大切にしたいと思ってすることだから、何の見返りも求めない。好きな人には好きと伝え、不安そうな人には大丈夫かと聞き、トイレが汚れていたら掃除する。

今年は多くの人たちの素晴らしい生き方を、いろいろなメディアで見させてもらったと思う。今年ほど日本に住む人間の良さを感じたこともなかった。自分がちょこっと周囲とつながれば、全体がつながるということを知った年となった。誰にとっても心に刻まれた2011年を、これからも何度でも思い出したいと思う。

【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
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「ゼルダの伝説 スカイウォードソード」、まだまだ終わりません。なかなかボスキャラが手強いです。集めものはだいぶ揃ったので、逆にゲームの終わりを感じてさみしかったり。