気になるデザイン[84]印刷や製本、紙加工をDIYする
── 津田淳子 ──

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今日はいつもの気になるブックデザインの本を紹介するコラムは、(勝手に)ちょっとお休みさせていただいて、ここ数年、「流行ってきてるなぁ」と思っている「印刷や製本、紙加工をDIYする」ということについて、ちょっと書かせていただければと。

昔から、ミニコミや同人誌をガリ版やコピー機などをつかってつくったり、手すりのシルクスクリーンで作品をつくったり、はたまた、プリントゴッコで年賀状やチラシをつくったりと、自分で印刷や製本をしてものづくりをしている人というのは多数いた。

その流れは脈々と受け継がれ、今でもコピー誌などをつくっている人も多くいる。だが、単に「冊子を安くつくりたい」という欲求から、こうした自分で印刷製本をする人というのは、昔に比べてかなり減っている気がする。

というのも、ネットでデータ入稿し、印刷物が送られてくる「印刷通販」が、かなり浸透し、多く使われるようになったからだ。印刷通販は、その場で値段や納品日がわかり、個人でも誰でも使うことができるのもうれしい(大手の印刷会社だと「法人じゃないとだめ」とかもあるし、自分で頼める印刷会社を探して、見積りをとり、入稿するという作業をアナログでやろうとすると、これまた結構大変だったりする)。

おまけに資材もけっこう選べて、とにかく早くて安い。うーむ、その安さは恐ろしいほどだ(紙代出るの? ってくらい安いところもある)

でも、手作業でそうした冊子(今ではリトルプレスやZINEと呼ばれることが多いですね)やチラシ、カードなどをつくっている人は、今でも少なくない。というより、すごく多い。




3年弱前に出版した『デザインのひきだし9』では、巻末特集で「できぬなら 自分でやろう 印刷加工」と題して、「プロに頼まないとできないのでは......?」と思っていたさまざまな印刷加工を、自分の手で、身近な道具をつかってやる方法をご紹介した。

実はこの特集をやろうと思ったのも、私の周りにいる方々が本をつくるとき、自分の手でかなり凝った加工をしていたり、クライアントワークのインビテーションをデザインするときに、印刷加工まで請け負って、手間とお金のかかる部分を自分たちの手でやっていたりと、印刷加工を自ら手がけている例をたくさん見聞きしていたからだ。

というか、考えてみると自分でも、書店さんに置いていただくポップを数百個手づくりしたり、お金がないので手間と知恵でカバーしている部分が多くあることに気付いた。もっといろいろなテクニックを自分でも知りたいと思い、企画した特集だった。

それが予想以上に好評で、じゃあと調子にのってつくったのが『印刷・加工DIYブック』と続編の『特殊印刷・加工DIYブック』だ。こちらもありがたいことに、累計3万部を超え、この種の本としては、いい販売部数になっている。

こうした特集や本を必要としてくださっている方は、もちろん少ない予算の中で印刷物をつくりたい、という思いの方が多いのだが、そうした中でも「よりおもしろい、ステキな印刷物をつくりたい!」という人が、自分で一手間かけてでも、何か面白い加工を加えた本や印刷物をつくろうとしているのだと思う。

というのも、この特集や本には、普通に安く早く印刷するなってことは載っていなくって、「フロッキー加工を自分でやってみる」とか、「ロー引き加工を自分でやってみる」とか、はたまた「エンボス加工や活版印刷、スクリーン印刷を自分でやってみる」「和綴じ製本を自分でやってみる」などなど、けっこう凝った印刷加工ばかり載っているにも関わらず、こうして世の中に受け入れてもらえているのだから。

近年、ZINEやリトルプレスなど、個人で本を出版する人が多くいるが、そうした本を見ていても、本当にプロが見てもうなるような凝ったものも見受ける。

また、本ではなく、DMやカード類などでも、そうしたDIYでつくられたもの(や、一見そう見えなくても、実はDIYされているものも多々)を多く見て、予算がない中でも少しでもいい印刷物をつくろうとしてるんだなーと思って、なんだかちょっとうれしくなったりもする。もちろん、予算だけでなく、そうしたDIYでつくることが好きだという人も多いのですが。

そして今週金曜日からも、そうしてDIYな本たちに出会えそうなイベントがある。THE TOKYO ART BOOK FAIR 2012だ。アジア最大のアートブックフェアなのだが、個人的につくられたアートブックやリトルプレス、ZINEなんかもたくさん出品されるので、非常に楽しみである

ちょっと宣伝じみるが、今年は私が編集している『デザインのひきだし』presentsで、「Printer Section」という企画も開催される。

これは、本誌でいつもご紹介しているさまざまな印刷・加工会社の中から、こうした個人的に本や印刷加工物をつくりたい人が気軽に頼める、力強い会社が、自社の技術を紹介したり、その技術をつかったプロダクトを販売したりする。紙・印刷・加工会社と直接会って、話したり、技術を見たりという機会、それも14社も一堂に会する機会はなかなかないので、興味がある方はぜひおいで下さい。

THE TOKYO ART BOOK FAIR 2012
< http://zinesmate.org/lang/jp/the-tokyo-art-book-fair
>

PRINTER SECTION
< http://zinesmate.org/lang/jp/archives/tokyoartbookfair/printer-section
>

【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp  twitter: @tsudajunko

今年刊行したデザインコレクションシリーズ4部作、最後の一冊『読ませるしかけはここにある! DMデザイン・コレクション』が発売になりました。
< http://www.amazon.co.jp/gp/product/4766123719/
>

他、『予算内でこんなにすてき! 小型グラフィック・コレクション』『技術もすごい! 予算もクリア! 特殊印刷加工グラフィック・コレクション』『使い方がうまい! 紙もの、紙加工ものコレクション』も好評発売中です。