装飾山イバラ道[114]上手さの前触れ、感動の前触れ
── 武田瑛夢 ──

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うちの旦那さんはテレビでサッカーを見るのが好きだ。日本戦だけでなくヨーロッパ圏や中東圏までも見ている。昔はそうでもなかったようだけれど、CS放送で選択肢が増えたので、見ているうちに好きになったようだ。見方は最近多くなっているパソコンを開いての「ながら見」のスタイルだ。「ながら見」のためゴールを見逃すこともよくある。

試合が始まってからずーっと見ているのに、ゴールの時だけトイレに行ってることも多くて、自分でもショックみたいだ。ゴールになりそうな雰囲気はわかりそうなものだと思ってしまうけれど、シュートしても案外入らないことも多いので「前触れ」を掴むのは無理なんだそう。

私は知らない国同士のサッカーなんか正直どうでもいいので(笑)、当然パソコンしながら、何か食べながらの複数同時進行でいるけれど、不思議とゴールシーンだけを見てしまう気がする。

ゴール直前はなんだか突然うるさくなるし、バッと気配が変わるので目が行ってしまうのだ。たぶんそういう人の方が多いのではないだろうか。うちの旦那さんはサッカーを見ている数自体が私よりも多いし、見られなくて悔しいことをよく覚えているので、特にいつも見られない感じがしているだけだろう。

サッカーでゴールが決まってしばらくは、プレイヤーたちの喜びのシーンになり、解説者たちも興奮して今のプレイをなぞって話すので、生で見られないと悔しいものだ。そのゴールが、素晴らしければ素晴らしいほど悔しさ倍増。ゴールの気配を察知して、すぐに目線をテレビに送りさえすれば見られたのにと思ってしまうだろう。




●上手さの前触れ

少し前から始まった、歌手のオーディション番組「アメリカン・アイドルシーズン12」でも「前触れ」について考えることがある。スタートは地方予選からなので、これからオーディションの長い道のりが始まるわけだけれど、地方予選ならではの楽しみは、どの候補者も初めて歌を披露するのでまさに金のたまごを見つける瞬間の記録であるところだ。過去の優勝者も、初登場のシーンは後になっても必ず繰り返し再生される。

候補者は4人の審査員の前に立ち、自己紹介をしてからアカペラで歌を披露する。自己紹介中にエピソードを話す人もいる。歌う長さは自分できり良く終えることもあるし、審査員の誰かに止められて終えることもある。とにかく、候補者の雰囲気を知るための時間はほんの数10秒の間だけだ。

この自己紹介の時に、その人のルックスや話し方で(歌うまいだろうな)(これはダメなパターンかも)などと想像しながら見るのも番組の楽しみだ。深呼吸して歌い始めて数秒でドーンと上手さを感じさせる人もいるし、アララ〜っと場が白けてしまうこともある。

長く見ていると、だんだん「上手さ」の予想が当たってくる。単純な理由のひとつはVTRの作りで、事前にその候補者にインタビューしていたり、「特別」な扱いをしているからわかるというのもある。番組もそういった視聴者の予測は想定していて、あえて上手そうに見える候補者が「そうでない」場合のパターンも撮影している。

こういった番組のテクニックもさらに慎重に見ていれば、その狙いの予測もつくようになる。おしゃれにキメてクールな登場だけれど、ちょっと大げさ感が漂う人が歌い出して(やっぱりざんねーん!)などといった感じだ。こういったシーンはあまりに候補者全体の数が多いので、番組の抑揚のひとつとして使われるのだ。

結果は不合格なのである意味残念な候補者なんだけれど、一瞬でも映ればラッキーなのがアメリカン・アイドルだと思う。地方予選の段階でその人の歌のシーンが放送される確率なんて、大河の一滴のようなもの。ものすごい幸福者なのだ。

こうして「上手さ」には前触れがあり、ある程度は当たるようになったのだけれど、どうしても事前に当てられないことがある。それは「感動」するかどうかだ。

●感動の前触れ

誠実な歌声を聞くと、心が動かされる瞬間がいくつもあるのがこの番組の良さだ。その人が自己紹介している時には、まさかその数秒後に自分が泣くとは思っていないのに、歌が始まってあっという間にその世界に巻き込まれる。上手いとは予想はついたけれど、泣かされるほどすごいとは思わなかったという気持ち。

審査員も同じで、私などよりももっと深いところで歌い手の心を受け取ることができているはずだから、批評を伝える時にはとても感動的なシーンとなる。今期から加わった審査員のマライア・キャリーも、既にしょっちゅう泣いている。マライア・キャリーも泣くほどの歌の上手さを持つ素人がいるのだ。

映画を見て泣くこともあるけれど、映画の場合は「この映画は泣きそうだな」とわかるし、テレビドラマでも見ていて涙シーンの始まり感はあるものだと思う。歌というのは人の心を引き込むまでの時間がとても短い表現方法なのかもしれない。

ある日の地方予選の控え室で、周りにいる人たちにピーチクパーチク話しかけたりして落ち着きがまるでない女性の候補者がいた。洋服の趣味もヘンテコだ。きっと「面白い人」パターンの一人だと思って気を抜いて見ていて、イザ歌が始まってみると、実は驚愕の上手さだった。

彼女が歌うと、一瞬で場の雰囲気がミュージカルのステージみたいになったのだ。それを見て、あの控え室の様子は彼女のサービス精神の現れであり、同じ会場に居合わせたことを心から楽しんでのことだと思えた。

彼女は合格すると、黄色いハリウッド行きのチケットを手に控え室に戻って、嬉しそうに大騒ぎして人々の間を駆け回っていた。うるさい子だなと思っていた候補者たちも、驚きの表情でその様子を見ていた。自分と話をしていた人が合格をもらえること自体、なかなかないくらい厳しい審査だから、きっと勇気をもらったと思う。

もしかしたら、そういった彼女の前向きな行動に感動の前触れが落ちていたのかもしれない。私がそれを拾えなかっただけだ。私はついつい人を自分が知っている数だけのパターンに分けて把握したくなってしまうけれど、人の数だけパターンはあるのだろう。

きっと「心の驚き」が感動だから、驚く前に何も気がつかないのも当然と言える。ちょっと鈍感なくらいでアメアイを見て、ボロボロ泣くのが今の楽しい時間なのだ。

【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
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うちのスキレット(フライパン)の重さは2.4Kgではなくて2.6Kgだったので訂正です。IH対応なので卓上ですき焼きしましたが、とても美味しかった。肉と野菜を焼くのを繰り返すので忙しいけれど、鉄でジリジリ焼けて香ばしい。鉄分も取れるかな。