気になるデザイン[91]珍しい造本を実現した写真プリントサイズの本『写真』
── 津田淳子 ──

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書店で平積みされているのを見たとき、「あぁ、写真のプリントサイズの本だな」と思った。その本は『写真』(谷川俊太郎著/晶文社刊)。ブックデザインは寄藤文平さん+鈴木千佳子さん。
< http://www.shobunsha.co.jp/?p=2582
>

こんなにシンプルに、タイトルと本の形とが一体になっているものも珍しいと、思わず手に取ってしまった。本文は見開き右側に文章、左側に裁ち落としで写真。いいリズムで読める、コンパクトでかわいい本。

雰囲気も重さも(けっこう軽いんです)手にしっくりくる感じが気持ちよく、中の短文のはっとするようなおもしろさと相俟って、大変読みやすい。......でもこの読みやすさ、見やすさは、それだけではない。本が180度パカッと開く製本にも、その秘訣があるのだと感じた。

造本に目を向けると、一見、白いカバーに墨でタイトルと著者名、出版社のシンボルマークが入った、シンプルな本に見えるが、いやいやどうして。じっくり眺めると、どこもかしこも非常に手が込んでいるのがわかる。

まず先ほどの180度パカッと開く製本。これは、なんという名前の製本なのか定かではないですが、ドイツ装が一番近いのかなと思います。

通常の書籍は、本文用紙を折って、それをいくつか重ね、その背に糊をつけて表紙を貼付けている。ドイツ装は、表紙をのり付けするのではなく、背中に短いボール紙を貼付けて表紙と裏表紙は、別の厚紙をその短いボール紙に貼付けるというような製本。

製本の博勝堂のWebにちらっと写真が出ていますので、ご参考まで。
< http://www.hakushowdou.com/
>

で、『写真』の製本はそれに似ているんですが、背はクロス(製本用の布)で、表紙は2mm以上あるボール紙を、背ぎりぎりの位置に貼ってある。背がボール紙ではなくクロス(布)なので、そこが大変フレキシブルになっているため、本がパカッと開くという仕様だ。

......って、こんな説明じゃ全然わからないですよね。文章力なくてすみません。ちょっと画像でご説明します。

カバーをとった本体の背。オレンジ色のクロスが本体にのり付けされている。分厚いボール紙(の表面に白い紙を合紙したもの)の表紙は、その背のクロスに見返しが媒介となって貼付けられている。
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背がクロスで柔らかいため、本の開きがすこぶるよい。
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また、もう一つ、私が見入ってしまった部分がある。それがカバーや帯、表紙、見返しなど、本文以外の部分に使われている紙。

ちょっとチリが入っていたり、薄い筋目が入っていたりと、よく見ると大変特徴のある紙だ。
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これは「ekas(エッカス)」という、大阪の大和板紙が製造している紙で、日本酒や焼酎など、お酒の紙パックの古紙を原料としてつくられている。酒パックの古紙は、内側に液体に強くするためにアルミが貼付けてあったり、PP貼りがなされていたりと、かなりリサイクルしにくい古紙なのだが、それをものともせず、いい感じの紙につくっているのがこの「ekas」。

エッカスってなんか不思議な名前だなと思われた方もいると思いますが、これ「酒(sake)」のアルファベットを反対から読んでいるんです。sake→ekas。

この紙、すごく風合いもよくていい紙なのですが、なかなか広く認知されていないので、こうした製品として目にしたのは、これが初めて。素朴な感じが、この本にすごく似合っています。

というわけで、今回気になったのは、酒パックの古紙でつくられた紙を使って、珍しい造本を実現している、写真プリントサイズの『写真』と相成りました。

【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp  twitter: @tsudajunko

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