装飾山イバラ道[129]文化と偽装──カニカマとインジェクション
── 武田瑛夢 ──

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食品偽装が問題になっているけれど、牛脂を注入して霜降りに見せかけた肉「牛脂注入加工肉─インジェクション」を普通のビーフステーキとして出していたのはやっぱりダメだと思う。

肉を加工して工夫する方法には可能性も感じるけれど、あくまでも加工肉は加工肉として提供されたものを納得して食べたいものだ。そうでないと牛以外の成分について知らないで食べることになるし、加工の技術者も報われない。

そもそも日本人は加工が得意だ。「蟹風味かまぼこ」のカニカマは、出てきた当初は繊維も太くてわざとらしい赤さで見た目も味もチープだった。しかし、最近の高級カニカマは見た目も蟹そっくりだし、噛むと蟹の身のごとくするっとほどけてとても美味しいものがある。

何かに似せて作る日本の技術は、魚の練り物や和菓子のジャンルでは立派な文化なのだ。

カニカマの先輩はがんもどき。がんもどきもそもそも精進料理で肉の代用品として作られたものだった。豆腐を使っていても食感も複雑で油のコクもあっておでんの具材としては最高だ。工夫を重ねたからこそ美味しいものが生まれたのだ。




●好きで買うならOK

生肉の食中毒事件から規制されてしまった生レバー。私はレバ刺しが大好きだったのでとても残念だ。代用品としてレバ刺しに似せたこんにゃくがあって、ごま油と塩で食べるとちょっと騙される。

食感はこんにゃくなので、レバ刺しのあのトロける甘さはないけれど、さっぱりしていて美味しいと思った。だんなさんは生のレバ刺しよりもこっちの方が好きみたいで、メール便で届く通販で取り寄せては何回もリピートしている。赤いこんにゃく料理として何も問題ない。

若い人が好きなファストフードにもいろいろな加工がある。形が様々なチキンのから揚げは肉を切って揚げているけれど、ほとんど同じ形のナゲットの場合は、一度細かくした鶏肉を型に入れて固めている。サイズを均一化できるので調理時間にもムラが出ない。

やっぱり一枚肉の方が美味しいと思うけれど、早く安くという要求をかなえるならしかたがないのかもしれない。

●食品が化ける文化

食材で何かを作りたがる日本人。赤いウィンナーを切って「タコさん」にするのも日本人が開発したらしいし、キャラ弁のように飾り切りや盛りつけを凝りたくなるのも遊び心の現れだ。

何かに「見立て」て食品を作り込むのは手先の器用な日本人にはお手の物なのだ。日本には豆腐やこんにゃく、魚介練り製品といった型に入れて固めるタイプの食品が多いので、バリエーションのひとつとして遊びの要素も取り入れられ易いのかもしれない。

別のもので作る利点は、新しい機能を追加できることにもある。ご飯粒の形になったこんにゃくは、ご飯と混ぜて炊けばダイエットにもいいという。自分のお腹を騙せるものならそれで痩せられるんじゃないかと思ったりした。

しかし、あれって入れた分だけご飯の味が薄くなるので、満足感も薄まる感じだった。半分入れれば結局は倍食べたくなる不思議。一定量しか食べないなら、後でお腹がすく時間も薄めた分だけ早くなってしまう。

本当に如実に満足感と直結していたので、うちではご飯はご飯で、こんにゃくは別のこんにゃく料理で、普通に食べた方がいいという結論になった。

●加工品が追う「夢」

味も食感も様々なものを作ることができる現代でも、万にひとつくらいしかヒットに至っていない気がする。カニカマが売り場を確保しているように、エビカマ、イカカマ、カキカマがあるかっていうとない。あったとしてもヒットまでは至らない。

カニカマだって、もしかして日陰の時代もあったと思う。販売当初は美味しくないニセモノの蟹もどきとして、カニカマが入っていればがっかりされたのだ。

今お刺身売り場で売られている、あの美味しいカニカマの座を確保するまでどれだけの苦労があっただろう。カニカマはその呼び方に蒲鉾である誇りを感じるし、愛らしくもある。

もしかしたら牛肉の加工肉にも同じように可愛い名前があったらもっと愛されるのかもしれない。「インジェクション」じゃ可愛くない。

カニカマのように、ない時には全くなかったものなのに、今やなくてはならない物になるっていう「夢」を追って、高級食材もどきは作り続けられるのかもしれない。

元となるものがあって開発されるものは、曖昧なものと違って厳しく吟味されるという良い面もある。本物の方が美味しいのは当たり前だけれど、加工品に加工する意味がないなら存在も必要なくなってしまう。

これなら味も良くて安くて提供も安定していてイケる! と思われたものだけが生き残っているはずなのだ。正直に売ることとセットになれば、加工品には夢も未来もあると思う。

【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
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ワインに合うおつまみを探しに輸入食材店へよく行くけれど、オリーブの塩漬けの瓶がなぜあんなに種類が多いのかわからなかった。最近はよく食べるようになったので、様々なものを試してみている。なるべくカリっとした緑色のが美味しい気がする。今のところは液体に浸かっていない方が固いらしいということがわかってきた。好みに合わないと残念だから種類が多いということか。