私症説[56]連載304回だが、いいのだろうか?
── 永吉克之 ──

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永:(引き戸を開けて入ってきて雪を払い落とす)はい、邪魔するよ。

吉:ああ、こんばんは。こんな時間にお呼び立てして申し訳ないです。

永:何ぞあったのかい?

吉:実はですね、デジクリに連載を始めて今号が304回目になるんです。

永:ほぉ、もうそんなになるかの。

吉:それが、僕すっかり忘れてましてね、前々々々回の「私症説[52]月がとっても青いから遠回りすることの何が罪なのか」が300回目だったんですよ。「笑わない魚」で248回まで連載して、「私症説」になってから今号で56回ですから、ぜんぶで304回。

永:だから?


吉:100回、200回のときと同じように、300回記念でもウケ狙い丸出しのパロディをやろうと思ってたんですけどね……

・100回記念
< https://bn.dgcr.com/archives/20040205000001.html
>
・200回記念
< https://bn.dgcr.com/archives/20060615140000.html
>

永:(キセルに煙草の葉をつめながら)ええでないか。キリのいい数字なんちゅうもんは人間の都合でできたもんで、宇宙の法則とは何の関係もないわ。

吉:毎週書いてたのが1週間おきになって、さらに月1になったもんだから、13年近く連載してるのに、まだ304回ですよ。何度か休載期間があったし、それに昔のテキストの使い回しもけっこうしましたから……

永:純度83%くらいの304回ちゅうところかの(煙草盆にキセルの雁首を入れて火をつける)。

吉:(苦笑いをして頭を掻く)面目ないっす。でも、デジクリライターのみなさんに、304回を祝うメッセージをお願いしたら、快く送ってくださった
んですよ。

永:(キセルをくわえて眼をとじる)ふむ。聴かせてもらおうかの。

●お祝いメッセージ(五十音順)

□GroomHair氏(Otaku ワーノレドへようこそ!)

お祝いメッセージを依頼された時、どうやって断ろうかと口実をいろいろ考えました。永吉さんの連載回数なんて何の興味もないし、ましてや祝ってあげようなんて気持ちは毫もないからです。が、口実を思いつかないので、とりあえず何か書くことにします。

永吉さんとは何度かお会いしているのですが、お会いする以前から、この人はどこか内向きな印象で、遠心力が感じられませんでした。

永吉さんの書くものはどれも取材を必要としないものばかりです。自分の内側に発生したさまざまな事柄に色や音をつけ、それらをシナリオに沿って動かしているだけです。どこそこに行ってこんなものを見た、こんな話を聞いたとかいった記述のほとんどはフィクションだろうと思います。

永吉さんのコラムは、過去に自分の中に蓄えたものや、現在おかれている環境だけを素材にしています。そこに新しいものは期待できません。今みなさんが読んでいるこのコラム──デジクリのパロディのようなもの──にしてもそうです。独特な外貌を飾ってはいても所詮は衒いです。そこになんら新しいものは見出せません。

我田引水になるかもしれませんが、ひとつ言いたい。永吉さん、私が女子高生に扮するコスプレを続けているのをあなたが知っているのなら、なぜ「俺はそれに対抗して保育園女子児童のコスプレをしてやる」と宣言して、黄色い帽子をかぶって白襟の青い制服を着ないのですか? それができないところに、あなたの限界を感じるのですよ。

□式盾一郎氏&山恨康弘氏(式&山恨の展覧会デビュー)

一時期はアーティストとして尊敬していたのですが、ここ数年、永吉さんのコラムは読んでいません。内容があまりに惨めだからです。ご自身の境遇に関してニヒリスティックなことを書いておられますが、その行間に自己憐憫が顔を覗かせていていて、実にウンザリさせられます。

永吉さんはもう終わっています。詰んでいます。死に体です。にもかからわず、とっくに失われた栄光の日々のうちに生き続け、苦し紛れな駄文ばかりを垂れ流している姿は無残というほかありません。お願いですから、晩節を汚すようなことはもうやめて、早くわれわれの前から消えてください。

□べちおサアンサ氏(アナクロステージ)

もう10年近く前のことです。飲みましょう、とオイラから声をかけて、初めて永吉さんとハチ公前で対面したときは、ああこの人が! と期待で胸がいっぱいだったんですけど、話をしているうちに、会うんじゃなかったという後悔で胃がいっぱいになって思わず宴席で吐いてしまいました。

永吉さんの書くコラムはいつもアグレッシブでオイラも心酔してたんですけど、それを書いている本人は、こんなにつまらない人には金輪際お目にかかれないだろうというくらいつまらない人だったんです。自分からはほとんど話をしないし、こっちから話を振っても、そのリアクションが最高につまらないんです。

「永吉さんのコラム、すげえ面白いから毎日掲載しましょうよ。土曜も日曜も。ねえ永吉さん!」とオイラが言うと、「がんばります。ファイトいっぱーつ! なんちゃって」とか言って拳を固めるんですよ。なんとか冗談で返そうとしているのはわかるんですけど、それだけに哀れで、引きつった笑いで応じるのが
精一杯でした。

□mibori氏(ローマでMANGO)

mixiが盛んだったころ、永吉が私に会いたい会いたいとしきりに言うので、イヤだったけど、日本に里帰りしたときにでも会ってやると言ったら、それを真に受けて大阪からのこのこ東京くんだりまでやってきやがったので、こいつはアホだと思いました。

東京の板橋区にある知人の会社で帰国歓迎会をしてもらったのですが、そこに永吉が呼ばれもしないのにやってきて、乞われもしないしないのに下手くそなギターを弾いたり、自作の詩の朗読をしたり、玉乗りをしたり、無法の限りを尽くしたのですが、誰も相手にしないので、夜のしじまにひっそりと姿を消してゆきました。

いま思うと、永吉が暇乞いをして席を立つとき隣にいたわたしに寂しそうな声でそっと囁いた"Bon Voyage"が、今生で聞いた彼の最後の言葉だったのです。ご冥福をお祈ります。R.I.P.

□もみのこゆさと氏(歌う田舎煮)

吉永さんですか? そうでございますね、お会いしたことはないこともないんですけど……道端で二言三言かわした程度でございましょうか。まあ、みなさんがおっしゃるような救い難い下司野郎というほどでもないんじゃないですか? わたくしよく知りませんけど。

わたくしが大阪に行ったのは、市内西区の土佐堀という所にある薩摩藩蔵屋敷跡に詣でるためで、それをどこで耳にしたのか、あのおっさんが、いや吉永さんが「なあなあ、大阪くるんやったら道頓堀あたりで飲めへんけ。どや?」とFacebookでメッセージを送ってきたんでございます。貧乏人のことですから、どうせわたくしにタカろうという魂胆だったのでしょうね。もちろん言下に撥ねつけてやりましたわ。

吉永さんのコラム? 読んでますよ。もちろんじゃないですか。デジクリでは先輩ですからね。え、どのコラムが好きかって? そんなこと聞かれても一度も読んだことないから……おや、誰かきたようだ。

□ヤマシタワニコ氏(ショート・ストーリーのKUИI)

あほー


永:(キセルの灰を煙草盆の縁でコンコンと落としながら)こんなにたくさんの祝辞をもろうて、ほんとにありがたいことじゃな。

吉:はい。純度83%でも連載を続けてよかったと思ってます。

永:でも、デジクリライターからの祝辞にあの人たちの名前が入っとらんというのはどういうもんかの……

吉:いや、やっぱり先輩方には頼めないっすよ。

永:しかし、△さんはデジクリでは後輩じゃろが?

吉:はい。一度お見かけしたことがあるんですけど、言葉は交わしてないし、それになんだかとっつきにくい感じで、あんまり好きじゃないんです。

永:◎さんも?

吉:うーん微妙。嫌いじゃないんですけど、やけに真面目な方っぽいんで、おちゃらけばっかり書いてる僕にメッセージをくださいなんて言ったら気分を害してしまいそうで……

永:じゃ、◇さんは?

吉:(手を振って拒絶を示す)あの人もうぜんぜんダメです。論外。これ以上は言わせないでください。

永:なんだかちっともめでたくない304回記念じゃが、これからも頑張れや。

吉:がんばります。ファイトいっぱーつ! なんちゃって。

(互いに顔を見合わせて大笑いする──幕)

【ながよしかつゆき/戯文作家】thereisaship@yahoo.co.jp

▽◎◇は、特定の方を指しているわけではありません。また、お祝いメッセージをくださった方のお名前とコラムのタイトルは、オリジナルをちょっとひねって使わせていただきましたが、内容はご本人の性格や思想信条を反映したものではありません。

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