装飾山イバラ道[134]場を支配する人
── 武田瑛夢 ──

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●ザ・カリスマドッグトレーナー

攻撃的な飼い犬に困っている飼い主が、トレーニングをプロに依頼することがある。その様子をテレビ番組化しているものがいくつかあるけれど、犬の訓練のプロであるシーザー・ミランはもう10年ほどこの手の番組をやっている。ナショナルジオグラフィックチャンネル「ザ・カリスマドッグトレーナー 〜犬の気持ちわかります〜」だ。


普段はどこにでもいそうな可愛い犬なのに、お客さんが来ると吠えまくり獰猛になるので、何年も知人を家に呼べない人や、散歩のたびによその犬に飛びかかろうとする行動に困る飼い主たち。生活のかなりの部分を犠牲にして生きているような疲れた表情だ。

シーザーは自宅を訪問し、飼い主に面会して問題の犬と対面する。最初のうちはシーザーに警戒していつものようにガンガンと吠えまくる犬も、なぜかしだいに落ち着いてくる。

シーザーはシュッと口で音を出したり、手で犬の体を突いているだけのように見える。犬の興奮をまず解いてから、ひるむことなく自分の強さを見せているようだった。

犬には犬にわかる態度で示すことで、支配順位を逆転させていると言う。犬を飼っていない私でも、犬の目つきがガラっと変わるので、犬がシーザーを只者じゃないと思っているのが解って面白い。

シーザーは、犬にとっては人に支配されること自体は、嫌なことでも可哀想なことでもないのだと言う。

結局、獰猛に見える犬は、家族を守らなければいけないと思って矢面に立って必死にお客さん(敵)を威圧しているだけらしい。群れを守る役目の重圧と、知らないものへの恐怖が攻撃という形になって現れている。犬ってけなげなんだな。

飼い主たちは自分が上の立場であることを犬に伝えること、未知のものは怖くないことを教えれば、犬は自然とリラックスして余計なエネルギーを使わずに済むという。最後には、犬は自分以外の存在を好きにさせておける余裕も出ていたし、吠えるのが自分の仕事ではないと理解したようだった。

人間がもし犬に吠えられた時には、後ずさりはせずに、足を一歩でも前に出す。それで犬に負けていない気持ちが伝わるとか、外から犬と一緒に家に帰る時など、新しいエリアに入る時は必ず飼い主さんの足を先に入れるとか、なるほどと思うコツをいくつか紹介していた。飼い主は、いつも犬を含めた群れ全体のリーダーであることが大事だと言う。

魔法みたいな方法を見ているとやってみたくなるけれど、番組冒頭で表示される「専門家の指導なしに真似をしないでください」の注意書きを忘れてはならない。本当に深刻なケースの場合は、シーザーでも手を噛まれて血を出しているし、自宅の犬の訓練所に長期間預かって犬の訓練をすることもある。

シーザーが訓練所で飼っている数十匹の犬たちはとてもフレンドリーで、良いムードを問題の犬に伝える役目として働いている。犬としての立派な態度は、犬から教わるのが一番のようだ。

ペットの訓練士は、実は飼い主の性格を一番重視して見ているというのは、どの番組でも共通のようだった。シーザーは人の心持ちが犬に伝わることをよく説明しているし、犬の興味関心の向かう先をコントロールして、人との共存がうまくいくように先回りしているところに技を感じた。

●サウナの支配者

シーザーの番組を見ていると、犬が飼い主を認めて安心して下の順位で休めるようにすれば良いのがわかる。お役御免にするのではなく、犬に違う役目を与えてやるのだ。

人も自宅や会社、いつも使う施設などでの自分の居場所というものはとても大事だ。リーダーは周りを守らなければいけないし、下のものの勝手な行動は全体の迷惑になる。立場争いがあるうちはもめるけれど、安定したピラミッドの中ではそれぞれの居心地が良かったりもする。全部把握して決めたい人もいれば、相手の懐に入って任せることを好むタイプもいると思う。

最近久しぶりに行ったサウナでは、常連のおばさんたちの勢いの強さに辟易してしまった。勢いというのは、おしゃべりの声の圧とか大したことではないけれど、声はどうしても耳に入ってきてしまうので厄介だ。サウナのおしゃべりが苦手で行くのを止める人も多いらしい。

例えばおばさんAがそこにいない人の悪口を中心に話し始めると、おばさんBが聞き役に回って、おばさんCが新しいネタを投入、おばさんAがさらにいない人のモノマネまで始めて盛り上がる、というのを繰り返し繰り返しやっている。

おばさんAが先に帰ったりしたら、今度はおばさんBとCでおばさんAの今日のハッスルぶりを笑ったり。場の支配者がいなくなると次の支配者が現れる。どこのサウナにも見られる光景だ。

サウナでそういう場に居合わせてしまったら、私はもう瞑想するしかない(笑)。深く目を閉じてサウナの壁になりきり、次は別の時間に来ようと心に決めるのだ。会話禁止と貼ってある、岩盤浴の方が好きになったのはそんな理由もある。

ある意味サウナは社交場なので、おしゃべりはおばさんたちの大事な活動でもある。私だっておばさんだからわからないでもないけれど、もうちょっと小さい声でやって欲しい。

今日はサウナの時間をズラしたおかげで、人はたくさんいるのに静かな空間を楽しめた。話す人は小さい声で気遣いもあったので全く気にならなかった。サウナの時間をズラして行くということは、私はサウナ空間の群れに負けたということかもしれない。もしくは波長の合う群れが過ごす時間帯をみつけられたということかな。

共用する空間は、相手の居心地を尊重しながら自分の居心地を良くする方法を考える。「居合わせる」というのも何らかの縁だと思うので、その人の確保している場所と機会を損なわないようにしたい。シーザーの家の仲良しの犬たちの立派な態度が、私にもお手本になりそうだ。

【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
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流行や大人気の食べ物屋さんって行列が当たり前だと思っていたけれど、今は携帯電話で予約して発行された番号で待ち時間がわかったりするんですね。いつもすごい行列だったお寿司屋さんが、その方式を採用していた。さっそくスマホで予約番号を発行して何人待ちか確認しながら向かったけれど、電車の乗り換えに失敗して焦りながら現場につくハメに。もっと余裕だと思ってたのに、結局焦るんだな。