装飾山イバラ道[136]嬉しくない買い物
── 武田瑛夢 ──

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物は壊れる運命にある。運命とか言うとドラマチックだけれど、物質がただ単に古くなって朽ちるのには、何の感情的用件が挟み込まれる隙もなく当たり前のことだ。でも不思議と同じような時期に示し合わせたように壊れたりすることもある。


●足場の怖さ

昨年、住んでいるマンションの大規模修繕工事があった。足場を組んであちこち直すので、工事に備えて説明会があった。足場が組まれると住民にとって一番心配なのは、「空き巣」などの目的で外部からの犯罪者が容易に上階に行きやすくなることだそうだ。

足場は落下防止ネットが張られるので、歩いている人も外からは目立たないし、確かにベランダで何かやっていても犯罪とは思われにくい状況だ。ガラスを割るような音も工事中は作業音にまぎれてしまうだろう。防犯にはいっそう気をつけなければならない。

現在は工事も終わり足場もないのでこの話をしています。

工事人はお揃いのベストのようなものを作業着の上に身につけている。現場責任者は住民の前で、「もしもこのベストを着用していない人間が足場を歩いているのを見かけたら、即警察へ電話して下さい」と言い切っていた。それだけ工事人には徹底してベスト着用を命ずるつもりだ! という現場責任者の強い決意と自信を感じさせる言葉だった。

以前10階に住んでいた頃の大規模修繕工事では、普段絶対に人間が歩かないような高所に人が歩いているのが不思議な感じだった。マンションに固定されているにせよ、足場ってそんなに丈夫じゃない作りだと思う。その10階部分の足場を歩くって怖くないのだろうか。

足場って大きなものをラッピングしているわけで、風の抵抗がすごくて、よく考えたらけっこう危険なのだ。実際に足場関係の事故もニュースで目にした覚えもあるし、台風が来ると足場の下を通るのが怖かった。

台風時にはネットは外したり、風を逃がすように一部を開けて対応していたようだ。別のマンションではネットの編み目が荒いものもあったので、風対策を考えているようだった。

今回の大規模修繕工事では、外装のタイルとかベランダの床とか丁寧に綺麗にしてくれた。これをいい機会に、古い鉢やベランダの棚などどんどん捨てた。

騒音や匂いなど我慢が必要なことも多いし、大きな網戸を室内にしまう必要があったりで、部屋の中もすっきりしない。

玄関ドア前の塗装のペンキの匂いに辟易して、活性炭入りのマスクを買ったけれど、マスクが届いた頃にはその工事は終わっていた。悪臭がなくなったのだから喜べばいいのだけれど、活性炭入りのマスクの効果を試したい興味もあったのに。うちにはちょっとしたマスク売り場くらい、いろいろな種類のマスクの在庫がある。

まだ一回目の大規模修繕工事なので、元々あまり劣化が目立つということもなかった。大変なのは二回目、三回目の頃だろう。

以前のマンションで長年の劣化の仕方は何となくわかるけれど、美観面の修繕はそう問題はない。きっとそのうちポンプやモーター系が古くなって音を出したりして、エレベーターやポンプからの距離が住民の明暗を分けたりするようになるかもしれない。

工事が終わり、足場が外されると部屋の中に光が差し込んで来て清々しかった。防水タイルが貼り替えられたまっさらなベランダを見ると、何も置く気がしなくなる。しばらくは土系の鉢植えなどは置かずに、このすっきり感を楽しもうと思う。

●「ガスの人」を呼ぶ

最近問題になっているのはマンションの設備だけではなく、個々が決定できる機器にたいするものだ。

例えば給湯器。これは、マンション専用のものではなく、個人で管理するものが多いと思う。交換時に個々が自分で選ぶ新しいタイプの給湯器は、大きさや色に制限があったり、騒音などで取付後の問題も多いという。

うちもこのマンションに来て初めての、給湯器交換というものをした。冷蔵庫や洗濯機と違って、給湯器って地味で普段存在を意識することがあまりない。でも毎日のお風呂や食器洗いに散々お世話になっているのだ。

はじめはマンションの給湯器ボックスの下付近に、少量の水がたまっているのに気がついたけれど、きっと結露か何かだろうと思っていた。しばらくしても乾くことがなかったので調べてみたら、「給湯器の水漏れ」という現象らしい。

ガスの人を呼んでみると、10年ちょっと過ぎて大規模修繕工事の時期だということは、給湯器も寿命が来ていて修理よりも交換が良いとのこと。ネットで調べたのよりもだいぶ高額な取り替え費用で、首をうなだれてしまった。何かタイマーでも内蔵されてるんじゃないか? と疑うぐらい、タイミングよく壊れるのが不思議だ。

激安の設備屋さんに交換してもらう方法もあったけれど、ガスには給湯器の他に浴室乾燥や暖房がつながっているので、問題が出るといろいろとめんどくさい。とりあえずきちんとしていそうなところで「エコジョーズ」の給湯器に交換をお願いした。

エコ○○という給湯システムはいくつかあるけれど、正直どれが何だかよくわからない。

従来バージョンの普通の給湯器と比べると、エコジョーズは今まで出しっぱなしだった排気熱を湯沸しに利用するので効率が良いという。交換したら確かにお風呂が沸ける時間が早くなった。

リモコンパネル等も入れ替わるので、操作の感じもメロディも変わった。まぁ、正直言ってお湯はお湯。実質何も変わりはない(笑)。

私は家電の買い替えばかり気にしていたけれど、給湯器の交換も10年ちょっとでやってくる。その都度最新のリモコンに対応していくことになるのか。

めんどくさいから従来品で良いという選択がほぼ出来ないような気がする。その時点で量があるものが安いのが常だからだ。使い手が好む主流というよりも、売り手が売りたい主流の量産品を選ばざるを得ないだろう。

ファッションや車なら、新しいものに交換すればリフレッシュするし、人も気がつくし、お金の使い方として素敵な感じ。給湯器なんか交換したって何の実感もなくて、なんて嬉しくない買い物だろう。

しかしながら、大好きなお風呂のためなら仕方がない。生きてれば地味に消費し続ける何かも必要なのである。

【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
< http://www.eimu.com/
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前回のコラムで「アナと雪の女王」に偶然はあるかというのを話題にしたけれど、雪の女王の歌の出来が良かったので、キャラクター設定を変えたりかなり柔軟に作っていたようですね。

それは偶然とは違うかもしれないけれど、作って行く過程で起こった何かに焦点を当てるようなこともあるということか。これから日本語版も見に行こうかと思っている。