仲介会社という存在
── 福間晴耕 ──

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デジクリの読者の方にも関心の高いと思われる、仕事の契約を取るときの話。

その前に、参考までに自分の仕事について簡単に書いておくと、ゲーム開発会社出身で、主に映像制作をしつつ、フリーランスとしてテクニカルライター・フォトグラファー・Webデザイナーをしつつ、必要なら簡単なプログラムから撮影・印刷原稿作成・映像編集など何でもやってきたという無節制な人間である。とはいえ、最近の仕事はパチンコ向けの映像制作が中心になっている。

パチンコ業界は比較的不況に強いのは良いのだが、フリーランスにとって最大の難点は、守秘義務の関係で過去に手がけた仕事が殆どオープンにできないことだろう。

ゲーム業界でもかなり守秘義務は厳しい方だが、ことパチンコ業界に至っては、現在進行中の仕事はおろか、過去に手がけた仕事のタイトル名さえ公表できないほどなのだ。

そんな訳で、自分の手がけた作品を公表するなどもってのほかで、おかげでここ数年の職歴が殆ど公表できなくなっている。もちろん、フリーランスとして他の仕事もやっているのでまったくの空白ではないのだが、それでもここ数年の仕事量が減っているように見えるのは否めない。



求職活動や営業では、過去の実績は重要なセールスポイントだが、ブランクがあるといろいろ不利だと聞いている。

最近は権利関係や技術流出がうるさくなり、パチンコ関係に限らず公表できない仕事は益々増えているのだが、そうした分野に関わる人はいったいどうしているのだろう。それとも未だに終身雇用の幻想が生きていて、スタッフは辞めない(解雇しない)とでも思っているのであろうか。

そんな状況で、今やっている仕事の多くは仲介会社を通して紹介されることが多いのだが、これには色んな訳がある。何といっても、最大の理由はそのほうが仕事が取りやすいからである。

例えば、以前あったケースでは、こちらは何の資料も用意する必要もなく、面談後すぐにメールで「○○さんの紹介なら問題ないでしょう」と言われて、ほとんどその場で契約できた事さえある。

これに対して個人で営業をしてた頃は、リーマンショック後という時期もあったのだろうが、散々プレゼン資料を用意して売り込んでも、複数の会社とコンペをさせられた挙句、結局は断られる事もざらだった。

この差はもちろん景気の違いもあるのだろうが、間に何かが挟まっているかいないかの差も大きいのだろう。

実際にこれまでも、個人名義では上からの許可がおりないので、法人を介して契約してほしいと言われた事が何度もあるし、仮に契約ができたとしても、支払い条件で色々難癖を付けられた事も少なくない。

こうした悩みも個人名がブランドになる大御所デザイナーなら無縁なのかもしれないが、自分のようなゲーム・パチンコ系映像の仕事をしている者にとっては、自分の名前を出したくても、そもそも守秘義務で公表できないのだから仕方がない。

プレゼン先の人にとっても、どんな素晴らしいポートフォリオを持って来られたところで、実際に仕事ができるかどうかは実績を見たいというのが正直な気持ちだろう。

そんな訳で、今の自分の場合は、多くの仕事を仲介会社を介して受けて、ときによってはその会社の派遣社員として、クライアントと契約したりしている。

ところで、企業と個人の間に仲介会社が入って企業に売り込みを行い、企業に対しては信用保証を提供するケースは、デザイン業界だけの話ではない。むしろ、あらゆる個人と企業の契約が、いまや仲介会社を通して行われるようになって来ていると言えるだろう。

例えば、部屋を借りる場合など、今では入居者から一定の保証料を取るかわりに、連帯保証人の代わりをしてくれる保証会社を通すことが一般的になっている(連帯保証人と保証会社の両方が必要なケースも少なくない)。

これは本来、連帯保証人を用意できない借主のための制度だったのが、少子化や景気の低迷で保証人を立てられる人が減り、貸主及び賃貸不動産管理業者の家賃回収業務がアウトソーシング化しているからである。

これにより、借り手は保証人なしでも部屋が借りられ、貸主も家賃不払リスクを軽減できるというメリットはあるものの、中間搾取をするだけの一部の悪徳業者の問題や、仲介会社分の余分な費用を借主が負担するといった問題が起きている。

これからは雇用の流動性と、一生賃貸への流れが見直されているという話はよく聞くが、個人が企業から契約を取ったり、賃貸契約をするためにはますます仲介会社が不可欠になってくるに違いない。企業や保証人とのしがらみがなくなっていくように見えるその裏で、こうした会社を通さないと保証が得られないというのは皮肉な話である。

【福間晴耕/デザイナー】
フリーランスのCG及びテクニカルライター/フォトグラファー/Webデザイナー
< http://fukuma.way-nifty.com/
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HOBBY:Computerによるアニメーションと絵描き、写真(主にモノクローム)を撮ることと見ること(あと暗室作業も好きです)、おいしい酒(主に日本酒)を飲みおいしい食事をすること。もう仕事ではなくなったのでインテリアを見たりするのも好きかもしれない。