わが逃走[141]道程青年団の巻
── 齋藤 浩 ──

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写真家・小河孝浩とは10年ほど前に知り合った。お互い Creators Channel にホームページを間借りしており、私の仕事と日記を面白がってくれた彼がメッセージを送ってくれたのがきっかけだった。何度かメールでのやりとりがあったのだが、その後 Creators Channel 閉鎖に伴い疎遠となってしまった。

もともと彼はコマーシャルフォトの第一線で活躍、東京・南青山に事務所とスタジオを構えブイブイ言わせてたのだが、ある時「なんか違う!」と思い立って、宮崎県西米良村へ帰郷。

生まれ育った村の人々と自然をテーマとした作品の発表をはじめ、多方面で活躍。いまや宮崎を代表する写真家なのである。

そんな彼と一昨年、Facebookで約8年ぶりに再会した。お互いの写真に惹かれるものがあり、コメントのやりとりをしているうちにノリが良くなってきた。いずれもごく普通の道端スナップなのだが、このヒトの写真はなんか違うぞ! と思わせるものがあったようだ。

「あの風景を撮りたい! と出かけたものの、たまたま途中に立ち寄った街のスナップの方がはるかに面白かった、なんてことあるよね」
「あるある!」

などと語り合っているうちに、そもそもモノゴトって奴はすべてその行程だったり過程にこそ醍醐味があるんじゃないか? なんて話になった。




一枚の写真はひとつの"結果"かもしれないが、なぜその構図で、なぜその被写体と対峙したのか。それを見る者にわかりやすく伝えて"道程"を共有できたら面白いよね。

ふたりのテンションは上がりまくり、よし!『道程青年団』結成だ!! ということになった。我ながら良いネーミングである。

その後、小河孝浩と初めて対面する。日記を確認したら6月13日。ちょうど一年前だ。信じられないことに、私はそれまで実物の小河孝浩とは会ったことがなかったのだ。インターネットのおかげといえばそうかもしれないが、なんとも不思議な感じだ。

で、実際に会ってみたら、ますます子供の頃からの長い付き合いのような気がしてきた、というか私も彼の故郷である西米良村で育ったような気になってくるのだから面白い。ガキ大将タカヒロくんに率いられ、村の子供達と一緒に川で遊んだ記憶が私の脳内で捏造されていく。

その日は夕方5時頃に私の事務所で"ご対面"してから近所の超ハイクオリティ居酒屋へ場所を移し、結局閉店まで語り合ったと記憶している。

業界の話、カメラの話、構図の話、鉄橋の錆びたボルトが美しいといった狭く深い話、そして故郷の話。

まったくそのとおり! だったり、真逆の意見もあったりする訳だが、対比と調和とでも言うべき充実した時間だった。

私は小河孝浩と、まだ行ったことのない西米良という村が大好きになった。そして、盛り上がりまくりの『道程青年団』結成式は、一気に展覧会企画へと上り詰めたのだった。

「展覧会を開くならまず宮崎でやろう。俺、帰ったらすぐ県立美術館のギャラリー予約するから」。
「えー! 小河さんてばすごい行動力だな」。

でも、ホントにそのとおりになっちゃった。数日後、提出された書類のコピーが送られてきた。

『小河孝浩×齋藤浩 写真展  旅の途中 〜出会いこそ人生の醍醐味〜』。
会期は一年後、2014年の9月3日から7日まで。
つまり今年の9月だ!!!!!

それから私の西米良訪問も含め、何度か打合せがあり(このあたりはいずれきちんと書きたいと思う)、今プレスリリースを作っている。

そもそも、そんなもの作ったことないので、まあ我流でいく。構成としては、ご挨拶、展覧会詳細情報、展示予定作品の紹介、作家紹介、といったところか。いい感じにまとまってきたところで、小河孝浩より注文が入った。

「すまん! 道程青年団というネーミングをあまり前面に出さないでくれ!!うっかり地元のTVやラジオで紹介された場合、音として入った情報があらぬ誤解を招く!!!」。

えー? どうせなら誤解招こうよ〜。そうは思ったが、どうにも心の叫びっぽい。東京とは異なる文化圏、しかも人口1200の村でクリエイターとして暮らすには、首都圏で暮らす我々には計り知れない並々ならぬ苦労があることもよくわかる。

よござんす。受け入れましょう。という訳で、以下のような序文を書いた。

フォトグラファー小河孝浩とデザイナー齋藤浩。目的地の異なる2人が旅先で出会い意気投合、「では途中までご一緒しましょう」といった具合に結成されたフォトグラフィ・ユニット"道程青年団(ザ・ディスタンス)"。

その第一回展覧会を2014年9月3日から宮崎県立美術館にて開催いたします。写真家と図案家の視点の違いを楽しみつつ、少年時代に遊んだ秘密基地に迷い込むような高揚感を、我々とともに味わっていただければ幸いです。

< http://www.miyazaki-archive.jp/bijutsu/box/gallery.html
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ザ・ディスタンス! 乞うご期待! つづく!!

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
< http://tongpoographics.jp/
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。