[3714] 愛と憎しみの印度カレー専門店

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《R2-D2型でいつもついて来て荷物持ってくれるロボットほしいw》

■私症説[59]
 愛と憎しみの印度カレー専門店
 永吉克之

■グラフィック薄氷大魔王[393]
 「ネットの暇人」「メモ.appの色を変えた」他、小ネタ集
 吉井 宏




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■私症説[59]
愛と憎しみの印度カレー専門店

永吉克之
< https://bn.dgcr.com/archives/20140618140200.html
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その喫茶店には、客がひとり店主がひとりいるだけで、無縁仏ばかりを埋葬した墓場のように静かだった。

と、テーブル席で、無言の行を実践しているかのように押し黙ってメニューを見ていた男性客が突如、カウンターにいた老店主に向かって怒鳴った。

「すいません、キーマカレーください」

店主が叫んだ。

「辛さはどうしましょう?」

客はカッとなって言い返した。

「ええ、そうですね......中辛にしてください」

マスターがコンロに放火して、カレー鍋をかき混ぜていると、ドア鈴の轟音とともに、若い淫らな男女のカップルが店内に乱入してきて、カウンター席を略奪した。

カレーを混ぜているのを邪魔された店主は、腹立ち紛れにがなり立てた。

「よう俊樹、久しぶりじゃないか」

「マスター、ご無沙汰してます。繁忙期だったんでね、なかなかお店に来られなかったけど、やっとヒマになりましたよ」

「そう、よかったね。で、どんな仕事してたんだっけ?」

これまでに何回も説明したことをまた聞かれ、俊樹は、怒り心頭に発して絶叫した。

「もうマスター、そろそろ覚えてくださいよ。フォトグラファーですよ、写真館の。七五三の記念撮影で忙しかったんですから」

ふたりの怒号が飛び交うのをよそに、メニューに眼を通していた、俊樹の恋人、美紗子が店主に向かってわめきちらした。

「何がいいかしら......野菜サンドとホットミルクがいただけます?」

「はいよ。で、旦那さんは何にする?」

旦那さん、と嘲弄され、逆上した俊樹は店主に噛みついた。

「やだなあ、マスター、そんなのまだですよ」

「"まだ"っていうことは、いつかは、ってことだよね?」

蛇のように執拗な穿鑿に業を煮やした俊樹は、ついに火を噴いた。

「......まあ、いずれはね」

それを聞いていた美紗子は驚愕して、俊樹の耳元で唸った。

「いま俊樹が言ったことほんと? "いずれは"って」

「......ああ。一人前のフォトグラファーになったら必ずね」

俊樹は美紗子の眼を睨み据えて、そう咆哮した。

「うれしいわ......」

胴間声を上げて狂喜した美紗子だったが、嬉しさのあまり、ついにはテーブルを掻きむしって号泣し始めた。

「ああ、その頬をつたう涙。きれいだよ」

俊樹はそういって美紗子を罵倒すると、バッグからカメラを取り出し、涙で化粧が流れて真黒になった恋人の醜い顔に向けて、情け容赦なくシャッターを押し続けた。

店の片隅でカレーを食べていた客が、この店で自分ひとりが、つんぼ桟敷におかれていることに絶望し、慟哭しながら、カウンターの3人にすがり寄った。

「ちょっとお邪魔します。なんだか楽しそうですね」

俊樹は、どこの馬の骨か知れないよそ者が近づいてきたので、牙を剥いた。

「あ、いや。つまんない話をお聞かせしてすみません」

「実は、私も写真やってましてね」

客は、大地も裂けよとばかりに名刺をテーブルに叩きつけた。

「いやー、びっくり!」

名刺の名前を見た俊樹が悶絶するのを見て、店主と美紗子は凍りついた。美紗子は恐怖に失禁しながら俊樹に向かって血声を絞り出した。

「ねえねえ、この人だれー?」

俊樹はこの傍若無人なアマをどやしつけた。

「だれー、なんて失礼だよ。こちらは唐神鹿梵仏(とうじんろくぼんぶつ)さん! 有名なフォトグラファー。僕らの世界じゃ、カリスマ的な存在なんだ。すみません、お顔を知らなかったもので......」

唐神鹿は、俺様の顔も知らないとは、この無知無教養の下郎が、と蔑みながら吐きすてるように言った。

「いいんですよ。俳優じゃないんだから顔なんかどうでも」

そして、さらに罵詈讒謗を俊樹に浴びせかけた。

「俊樹さん、でしたっけ? どうです、よかったらしばらくうちのスタジオでアシスタントしてみませんか? お話を聞いてると、アウトドアな写真が撮りたいようですね。うちはかなり手広くやってますから、チャンスが回ってくると思いますよ」

「え! でも僕の写真の腕がどの程度のものか......」

唐神鹿は、自分がせっかく誘ってやったのを俊樹が素直に受けようとしなかったことの屈辱で理性を失い、思わず俊樹の胸ぐらを掴んで恫喝した。

「大丈夫。私は人を見る眼には絶対の自信があるんです。あなたならやれますよ!」

顔をまだらに染めた美紗子は狂人の眼つきで俊樹に飛びついた。

「よかったわね、旦那様、ふふふっ」

「うん、僕はやるよ、奥様、はははっ」

至上の歓喜が、ふたりを忘我の境地に到らせ、人目もはばからず全裸になり、カウンターの上で愛欲の所業に溺れることを許した。

しかし店主は、今度は自分がつんぼ桟敷におかれたことに気がつき、店主としての立場をないがしろにされた怒りで前後の見境がつかなくなり、唐神鹿の頭に狙いを定めて包丁を振りあげながら言い放った。

「俊樹をよろしくお願いします。おっちょこちょいな奴ですけど、わたしには息子みたいに可愛くてね、ははは」

「任せてください。お父さん、ははは」

4人はいつまでも、狂人のように笑い続け、ケダモノのようにまぐわい続けた。

【ながよしかつゆき/戯文作家】thereisaship@yahoo.co.jp
今回のテキストは、以前ブログに掲載したテキストに手を加えたものです。

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無名藝人< http://blog.goo.ne.jp/nagayoshi_katz
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■グラフィック薄氷大魔王[393]
「ネットの暇人」「メモ.appの色を変えた」他、小ネタ集

吉井 宏
< https://bn.dgcr.com/archives/20140618140100.html
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●ネットの暇人

以前に流行った動画やネタを、今頃になって面白いとかスゴイとかFacebookやTwitterに上げてる人がよくいる。それはその人が話題に疎いんじゃなく、僕が「一日中ネットばっかやってる暇人」の証明なんだよなあ。テレビ番組のオモシロ動画の大半をYouTubeで見たことあるんだってどうかしてるw

初めて見るネタに人によって時間のズレがあるのはしかたないですね。ネタに日付がついてないこと多いし。某有名サイトは記事に日付を入れないことで古く見えないようにしてるらしいし。そのへんの人がネットの話題をカバーしてるなんて思わないほうがいいよね。

もう一つ「えっ今頃なんで?」の型がある。たとえば、「先行者(中国の変なロボット)」が話題になったのは2000年で、もう14年前。当時、小さな子供だったり生まれてなかったりした若いやつが、「新しい話題」と思うのは当然。その世代には「えー! そんな話があったんだ〜!」っていう新しい話題なんだよな〜。

●メモ.appの色を変えた

Mavericksになって大きな不満だったのは、メモ.appの色が変わってしまったこと。メモ.appを「パッケージの内容を表示」で開いて、resourses内のpaper.tiffを黄色に塗りつぶして差し替えてみたら、以前のような黄色いメモにできた! 文字サイズと合わせられないので罫線は無し。やっぱメモは黄色!

< http://bit.ly/1iXkOOO
>

●リッチテキストが苦手

メモ.appのもうひとつの不満は、プレーンテキストに設定できないこと。これ、なんとかならないのかな? そもそも、リッチテキスト自体が嫌いなのだ〜。

リッチテキストは手間を増やすものでしかなく思える。コピペのたびに気をつけなきゃならないし。プレーンテキストでも要点をはっきり示したり見やすくするのは十分可能なのに、その工夫をすっとばして文字をでかくしたり色つけたりフォント変えたりして、全体的にはゴテゴテと読みにくくしてるの多し。

見やすいように後でリッチテキストに切り替えて、太字にしたり色変えたりはアリだと思うけど。そりゃ、大量のテキストを読みやすいのはリッチテキストに軍配が上がるでしょ。

とか調べてたら、「Markdown」というものを発見。「書きやすくて読みやすいプレーンテキストとして記述した文書を、妥当なXHTML(もしくはHTML)文書へと変換できるフォーマット」だそう。

< http://ja.wikipedia.org/wiki/Markdown
>

単にメモやテキストとしては、これはこれでまたややこしくなる原因になりそうなので使わないとは思うけど。

●子供の声のロボット

ソフトバンクのロボット、19万8千円て! 赤字出るとか言ってたけどそんな安くしなくていいのに。それじゃオモチャ扱いにされる。ディアゴスティーニのロボットだって総額で15万円くらいするらしいよ。

なんちゅうか、子供の声でしゃべって人の感情がわかり、何か気の利いたことを言ってみせるロボット。そのステレオタイプ、もうやめたほうがいいと思うよ。役に立ちそうに見えないもん。指示を聞いて無感情にちゃんとやる的なもののほうが興味を引きそう。

っていうか、しゃべったりとか感情云々がメインの機能だったら、あの胸に付いてるタブレットの中にアプリとしてロボットを入れればいいじゃんw わざわざハードウェア作らなくても。

「子供の声でしゃべるロボットのステレオタイプ」ってやっぱ、鉄腕アトム世代だったりするんだろうな。僕の世代にとって、身近にいる感じのロボットって何だろ? アナライザー? ハック? 思い入れ的にはやっぱ「スター・ウォーズ」のR3-D2とC-3POあたりか。あと、警告! 警告! のフライデーくんか。ドラえもんはロボットって感じしないな。

R2-D2型でいつもついて来て荷物持ってくれるロボットほしいw

●話題の本のKindle版をなぜ出さない??

「どこにでもいる普通の女子大生が新卒入社した会社で地獄を見てたった8日で辞めた話」、うわ! おもしろそうっ、てAmazonを見ると、Kindle版は出てない。こういう、ネットで話題の本の電子版が出てないってどういうこと? 今なら100%衝動買いするけど、次に本屋の前を通った時に買うかどうかわからない。もったいなくない?

アメリカでも電子書籍の扱いが安定してきて、全書籍のせいぜい3割(?)だそうで。日本じゃもっともっと低いとしても、電子書籍なら買うけど紙の本はいらないという僕みたいな層がいるとすれば、やはり電子版も紙と同時に出してほしいなあ。

で、しょうがないから紙の本を買って自炊するのに、しばらくすると電子版を出すんだよなあ。キーッ! 僕的には「紙の本は自炊の手間がある分、安くしてくれないと不公平」とか思っちゃう。

っていうか、「どこにでもいる普通の女子大生が新卒入社した会社で地獄を見てたった8日で辞めた話」、タイトル長え〜よ! 長いタイトルって最近多いねえ。まあ、そのまんま中身がわかりやすいから便利っていえば便利だけど。短いタイトルじゃ購買意欲を刺激されないのは確か。

もう一つの長いタイトルの本「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」は、Kindle版出てますね。

●ソースの注ぎ口

最近のソースやドレッシングの注ぎ口の大きさは度を超してるんじゃないか? まともに注げないよ。昔のウスターソースの注ぎ口は樹脂の細いくびれをちぎって開ける方式で、スポイトの先端くらいだった。チューッて注いだものだった。。。最近のドレッシングなんか、普通にドボッとかけたら瓶の3分の1くらい出ちゃうもんね。

「調味料の売り上げを上げるにはどうするか? 穴を大きくしちゃおう。アホか。やってみたらすごい売り上げアップでウハウハ!」。それが事実かどうか知らないけど、それが伝説化して、取り入れる企業が増えたらしい......・

本来使いやすく最適にしたはずの穴のサイズを無理に大きくしてるわけで、そろそろ元に戻せよ〜〜。こんなことやってたらバチが当たるとか思わないんだろうか?

【吉井 宏/イラストレーター】
HP < http://www.yoshii.com
>
Blog < http://yoshii-blog.blogspot.com/
>

ラフを描いてた鉛筆をふと見たら、「菅公 学問守護 岩津天満宮」って!37年前に高校受験の時もらったやつだ! 割と僕は古いものどんどん処分しちゃう主義なんだけど、24年前に上京したときにそのへんにあった筆記用具をごっそり持ってきたものの生き残りらしい。岩津天満宮は岡崎にあるそうだけど、僕は行ったことない。天神鉛筆はまだ売ってるようです。
< http://pic.twitter.com/i0oQLPKLIs
>

・rinkakインタビュー記事
『キャラクターは、ギリギリの要素で見せたい』吉井宏さん
< https://www.rinkak.com/creatorsvoice/hiroshiyoshii
>
・ハイウェイ島の大冒険 < http://kids.e-nexco.co.jp
>
・INTER-CULTUREさんの3Dプリント作品販売
< http://inter-culture.jp/Buy/products/list.php?category_id=63
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編集後記(06/18)

●一番近い図書館は歩いても5分、でも分室なので蔵書は少ない。もっぱらネットで予約して、お知らせがあったら受け取りに行く。先日はカウンターで「暗黒女子」を返して、「人生エロエロ」を受け取った。「暗黒女子」は女子高生が主役のミステリーで、表紙は制服女子高生のイラストだ。「人生エロエロ」表紙は和田誠イラストだが、豹と象のセックスシーン。顔なじみになった若い女性司書はいつもと同じ対応だったが、ちょっと恥ずかしかった。キャップの下から白髪がはみ出た男が、よりによってこの二冊なんだもんなあ。

みうらじゅん「人生エロエロ」を読む(文藝春秋、2014)。週刊文春の連載をまとめたもの(現在も連載中)。必ず「人生の3分の2はいやらしいことを考えてきた」で始まるエッセイ(エロッセイ)とイラスト約80編を収録。「エロはエロスみたいに高尚じゃないし、エロティックのオシャレ感もない。卑猥という文学的香りもないし、スケベみたいな軽々しさもない」と豪語しながら、気まずくて、うしろめたいと「はじめに」に書く。それにしては、恥ずかしくて話せないようなことを平然と書いている。いくら週刊誌とはいえ、ここまで自分をオープンにしちゃっていいのか。

じつは、書籍化にあたっては、大幅に書き直している。「エロに対して後ろめたさがあるぶん、他人事のように書こうとする自分がいる。『許すもんか、俺のことを!』。だから連載時には傍観者のように書いていたことを、全部当事者に直した」と産経のインタビューで白状する。「いい年になったらエロに対して堂々とできると思ってきたけど、相変わらず後ろめたい。でもそれがなくなったらきっと飽きてしまう。後ろめたさが原動力です」とも。えらい! こんなエピソードも。「ある日、うちのオカンが電話をかけてきて、暗〜い声で『あんた、大人の雑誌にいやらしいこと書いてるらしいなぁ』。てっきり怒られるんやと思ったら、『面白いなぁ、アレ』って」

後ろめたい男は必読であろう。身に覚えがあること、ないこと、そこまではできないこと、やってみたかったこと、エロエロあっておもしろいのなんの。ももクロに丁寧な挨拶をかまされたオヤジみうらは戸惑った。ピッチピチの肌とキラキラした瞳で見つめられ、「もはや戦後ではない」という言葉が頭を掠った、っていいセンス! 「板垣死すともマイブームは死せず」もいいな(「マイブーム」「ゆるキャラ」も「とんまつり」(とんまな祭り)も"一人電通"みうらの造語だ。さて、わたしの図書館カウンター対策だ。読まなくてもいいから、高尚なタイトルと装幀の本を借りなければ、って。ばかだ。(柴田)

< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4163900551/dgcrcom-22/
>
「人生エロエロ」


●ちょうど裏でPhotoshopを立ち上げていたので、paper.tiffの色相・彩度を変更して黄色にした。おお〜! こうやってパッケージの中身を変えたらいいのか。そういやアイコンは黄色のままなのね。

リッチテキスト苦手に賛成。設定で選べるようにして、リンクをだけを勝手に貼ってくれるだけでいいのに〜。コピペしたメモに追記しようとしたら、行間が空いたり字下げされてしまったりボールドかかったり。

姉妹誌の「写真を楽しむ生活」サイトはマークダウン方式が使える。メルマガの記号類を一括置き換えして貼付けるだけで、記事内のタイトルが見出し(h4など)になったりする。

そうKindle版出ないの! で、本で読んだ後に出るの。あと、じっくり読む時間がないからと音声で聞きたいのにオーディオブックが出ない。本を買った後に出るの。

天神鉛筆で思い出した! うちには「福鉛筆」(7本入り)というのがあって、使えず捨てられず。どこのものか、誰からもらったのかすら覚えていない。

そうなのドレッシングの穴が大きいの! そして小さな瓶のが増えた。出過ぎて三回ぐらいしか使えない。瓶を分別ゴミに出すのが面倒。なので生協の500mlペットボトルサイズのが重宝する。スーパーでも売ってるんだろうけど瓶が多くて。で、生協のは穴が小さめで、具がひっかかる時がある(笑)。

ついでに。生協で買う商品のひとつが「きざみ 薄揚げ」。油抜きしてカットされた油揚げが、チャックつきの袋に入っている。冷凍食品で、使う時にパラパラと袋から出すだけ。便利!(hammer.mule)

< http://blog.kinki.coop/product_act/2012/07/post-144.html
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「あったら便利☆彡 冷凍のきざみ商品!!」