わが逃走[142]上野界隈散歩の巻
── 齋藤 浩 ──

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先日、ちょっとしたご縁でギャラリストTさんと図工の先生Nさんの散歩にまぜていただきました。場所は上野〜日暮里周辺。いわゆる谷根千エリアです。

下町情緒を残しつつ、しゃれおつなカフェ等が点在する東京お散歩王道ルートですが、何度歩いても知らない道に巡り会える味わい深い地域でもあります。

当日は晴れ。湿度が高めとはいえ死ぬほど暑いわけではなく、梅雨時の散歩としてはベストな一日でした。

午前中(遅め)に上野駅集合、芸大裏のギャラリーカフェにてはらごしらえの後、散歩スタートと相成りました。

このあたりの町並みは、かろうじて江戸の風情を残しており、細い路地を行くと共同の井戸に出会えたりする。

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くねる坂道。一歩進むごとに風景が変わる。
平地だったら区画整理の餌食になってしまったかもしれない貴重な坂。


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同、ヘアピンカーブを越えると美しい煉瓦塀が。
思わず小林少年や明智探偵の追跡シーンを妄想。

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その先に共同の井戸。これだけでもう完璧です。脇に置かれたブリキの洗面器の底のべこべこっぷりにドリフのギャグを思い出す。
5角形の水受け(?)部分の構造も楽しい。排水までの水の流れを見たかった。

言問通りを過ぎて三浦坂を登りつつ、ひょいっと路地に入る。

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重ねられた"しかくいもの"を未来派っぽく撮影。

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こういうシンプルな空間構成は子供の頃から大好きなのだ。
角の向こう側の景色を想像する。

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民家の脇の"でっぱり"。何故このような形状になったのかは謎だが、探してみるとこういった"でっぱり"や"へっこみ"は日本中にある。
でっぱりとひっこみだけで写真集作りたいな。売れないだろうな。

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『東京の階段』でも紹介された井戸脇の階段。井戸も一緒に撮るとセツメイくさくなるから階段だけ。

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素敵な木造家屋がなくなり更地に。そうすると隣接する木造建築の表層構成があらわになる。

水平垂直が微妙にずれていて、意外にリズミカルなパターンを見ることができた。隣に直方体をコピペしたような建売住宅が建ちませんように。

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円の上に円柱。ただそれだけなんだけど、けっこう好きな世界なので紹介します。太い電柱があったところに細いのが立ったというだけかもしれないけど、この痕跡から何10年という時の流れがイメージできてしまうところがオモシロイ! と思う。のはオレだけ??

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有名なY字路。相変わらず横尾センセイが降臨しそうな風景です。
噂ではマンションになっちゃうそうな。

景観がなくなることのダメージを、エライ人にもわかってもらえるようにするにはどうしたらいいのだろう。おじいちゃんと孫とが同じ風景を共有できないことで生じる損失を人ごとじゃなく考えてもらえる仕組みとは?

スクラップ&ビルドと同じくらいの利権が生まれて、エラい人が金儲けできるようになれば、これ以上景観も破壊されないですむのだろうか。池波正太郎センセイが「東京オリンピックまではぎりぎり江戸を見ることができた」という言葉をのこしておられるが、こたえが出ないまま二度目がやってくる。

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美しすぎる雑貨屋さんのディスプレイ。こういう店こそ風景のひとつとして残さなければならない。そのためにもタワシはここで買おう。

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風情あふれる良い廃車。

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佃煮を買うTさんとNさん。今日はありがとうございました。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。