[3731] 家にカギをかけないという生き方

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《僕の好きな書体のひとつ"丸明オールド"》

■KNNエンパワーメントコラム
 家にカギをかけないという生き方
 神田敏晶

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 デジタルフォントが豊富に手に入る時代
 関口浩之

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■KNNエンパワーメントコラム
家にカギをかけないという生き方

神田敏晶
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家にカギをかけなくなって、かれこれ20年以上になる......。

......というのも、ドロボウさんに侵入されたことは、52年もの人生でたったの一度しかない。しかも被害額は3万円弱だった。それくらいの現金しかなかったからだ。

しかし、よくよく考えると、引っ越しの度に、マンションのカギの交換代金が3万円とかの金額を払ってきている。これまでの、「生涯空巣被害額」よりも、セキュリティのためのカギ代の方が高いのだ。

また、マンションではオートロックで一応、全体のカギはすでにかかっているのに、個々にかける必要があるのだろうか?

最初は、カギをかけないで家を出るのはとても不安がつきまとう。しかし、最近のクラウド生活と断捨離のおかげで、タンス預金もなければ、高級時計もない。高価なものといっても一眼のカメラ程度。高価なものを所持していなければ、カギをかける必要もないと思う。

むしろ、カギをかけないことによる、人を信頼する、地域を信頼する個人的な社会実験だと考えている。

北欧の国々は、家にカギをかけない世帯が多い。ご近所はリビングまでは平気で遊びにくる。カギがあるのは、ベッドルームくらいだ。日本でも、田舎にいけば行くほど、カギをかけない文化がある。

それは、ドロボウや空巣がいないということよりも、ドロボウ側からすれば、カギをかけない世帯が多いところは、大したモノが置いていないという需供バランスが成立しているからだろう。

何よりも、家に帰ってきた時に、カギを探す必要がないメリットは多大だ!毎日、ポケットに手をいれる初動から、カギを開けるのに約10秒かかるとすれば、年間一時間はカギに触る動作を行っていることとなる。生涯では、約80時間はカギをまさぐっているのだ。

むしろ、その80時間よりも家のドアが、いつでも開いているという気軽さは快適すぎるほど快適だ。何よりも気持ちがストレスフリーだ。特に、荷物が多い時にカギを開けるのは至難のワザだ。いつでも開いていれば、そんな煩わしさはまったくない。

しかし、単にカギをかけないだけでは、不安な人も多いだろう。そこで、ある「おまじない」を施してある。それは、ドアの玄関に壊れたウェブカメラを取り付けてあるのだ。

これだけで、ドロボウにとっては、勝手に入ることにかなり躊躇することだろう。抑止力が働けばなおさら良いのだ。ウェブカメラが玄関に付いている家をわざわざ狙うドロボウはいないとボクは思う。

SECOMの防犯システムがスゴイのではなく、SECOMのあのシールの抑止力がスゴイのだ。

最も重要なのは、堅牢なカギをかけて、万全なセキュリティ体制を誇るのではなく、リスクに対しての抑止力を効率的に最適値で生みだすことだと思う。セキュリティに対しての費用対効果を個人的に考えてみることによって、いろんな常識や、習慣であたり前だと思っていることから、逸脱したアイデアも生みだすことが可能となるだろう。

ボクにとって、家にカギをかけないという生き方は、ひとつのポリシーだ。そのことで、人が人を信用できる社会を、きっと築けるはずだと信じている。そのルールを破るものをもっと重罪にすべきではないだろうか。

また、部屋専用のクラウドによるドライブレコーダーのような、ホームアプライアンスがあれば、きっと空巣も嫌がることだろう。カギをかけて、ユーザーに不便がつきまとうのではなく、不心得者が心理的に抑止される方向にもっと知恵を絞るべきだろう。

空港ではハイジャックやテロの何百万人に1の可能性に対して、乗客全員がボディチェックを受けることを普通だと考えている。仮の話だが、ハイジャックではなく自爆テロであれば、航空機でなく新幹線であっても甚大な被害と影響が想定される。

新幹線ではボディチェックがないけれども、日本の国内線の飛行機ではボディチェックがある。そこで、日本の国内線ではボディチェックがないという社会実験を行えれば、より観光立国としての安全性を世界にアピールできるのではないだろうか。

万一、そこで問題があれば、ボディチェックを復活させればいいだけではないのか。人々はボディチェックのない国内線利用、もしくは日本からの国際線はチェックがいらないという信頼を世界に担保することができれば、日本の安全というバリューはますます向上するのではないだろうか?

自分の家にカギをかけないという発想で、社会を見ると新たな社会像が見えてくるような気がした。

【かんだ・としあき】
KandaNewsNetwork,Inc.CEO
< http://www.knn.com/
>

・久しぶりの神田敏晶さん。今回はKNNからの転載です。わたしにとって鍵なしはちょっと無理な生き方だと思いますが、ケータイやあいほんなしの生き方のほうが、神田さんはじめ多くの人には「不可能」なんでしょうね。(柴田)


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■もじもじトーク[01]
デジタルフォントが豊富に手に入る時代

関口浩之
< https://bn.dgcr.com/archives/20140711140100.html
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こんにちは、はじめまして。関口といいます。フォントや活字にまつわる記事や小ばなしを投稿させていただきます。よろしくお願いいたします。

わたくし、現在、フォントの仕事に携わっています。日本語Webフォントサービス「FONTPLUS」を立ち上げて苦節3年。表示が遅いとか、文字詰めできないなどの問題を、いろいろと改良しつづけ、今年やっと市民権を得られつつある状況になりました。

毎週、全国各地でWeb関連のセミナーやイベントで、日本語Webフォントのエバンジェリング活動してますので(地方巡業ってやつですね)、どこかでお会いしているかもしれませんね。

趣味といえば、ベランダで天体観測したり、家電やオーディオをいじくったりするのが大好きです。小中学校の頃、真空管やトランジスターを集めたり、天体写真を自分で現像したり紙焼きしたり(モノクロ写真です)、ややマニアックな一面もあります。

社会人なり、日本語DTPシステムやプリンタ・プロッタの仕事に10年間従事した後、インターネット検索サイトやプロバイダーの立ち上げに携わり、それからはインターネット関連の仕事一筋20年間です。

小さい頃からポスターや看板を見るのが好きでした。また、ガリ版で学校新聞を作ったり、彫刻刀で木版画やサツマイモ版画を作成したり、タイプライターや手書きレタリングで、カセットテープのインデックスを作成することもお気に入りでしたね。

いつも電車内の広告、コンビニやファストフードPOPやポスター、街中の看板などを観察していますが、けっこう楽しいんですよね。職業病なのかなと思ったけれど、小さい頃から文字とかデザインが単に好きなだけのようです。

デジクリ初デビューなので、勝手に自己紹介させていただきました。

●文字の情報伝達力

人間は言葉と文字で情報を伝えることができる稀有な生き物です。人間は自分の感情を誰かに伝えたいとき、教えてもらったことや自分で発見したことを他人に伝えたいとき、言葉か文字を活用してコミュニケーションします。言葉は音声なので、抑揚や音量、音質などで感情や情報の重みの違いが伝わりやすいですね。

一方、文字の場合はどうでしょうか? 紙媒体やディスプレイ越しに視覚で情報伝達するわけですが、感情や情報の重みを書体、つまり、字形で表現していると思います。

テレビのテロップを観察してみましょう。ニュース番組は正確性や公平性を重視しているので、あまり感情が表にでない読みやすいゴシック体や明朝体が使用されています。一方、バラエティ番組などはどうでしょうか?

いろんな書体(=字形)が使用されていますよね。例えば、怪談話ではおどろおどろした文字、女子力をアピールするときはかわいらしい文字、愛嬌のある動物には...、ポップで個性的な...、などなど。

実際に、"コミックミステリ"、"マティスえれがんと"、"くろかね"、"ラグランパンチ"で検索してみてください。書体が変わると、伝わるニュとアンスが変化する思います。例えば、"コミックミステリ"という書体で「女子力を向上しましょう!」とテロップを流したら、大変なことが起きそうですw

僕の好きな書体のひとつに"丸明オールド"という書体があります。ゴシック体には丸ゴシックがあるのに、明朝体には丸明朝ってあまり耳にしないですよね。この書体、トメやハライ、ハネも丸っぽいんです。えっ〜、明朝体が丸っぽいってどういうこと?

でもね、どこかで必ず目にしたことのある書体です。有名企業のキャッチコピー、広告、製品ロゴなどで広く利用されています。

よくよく考えてみると、DTP時代以前の広告やポスターって、手書き職人がキャッチコピーや映画のタイトルとかを書いていたんですよね。職人が、商品イメージやコンテンツに見合った書体を手で描く、まさに手の動かし方で情報伝達の量や質が決まるということです。すごい!

昔の看板は、写真と商品名とキャッチコピーだったりするので、書体がデザインに占める割合って非常に高いんです。

日本語は漢字が何万文字もあって、さらに、ひらがな、カタカナがあり、アルファベットも駆使する、ある意味、情報伝達をする上で、恵まれた環境で育っていると言えますね!

●デジタルフォント化によって広がる表現力

活版印刷や写植で本を印刷していた時代、デザイン書体はあまり使用されていなかったと思います。なぜならば、活版印刷の場合、文字の大きや書体毎に鋳造活字を用意しなければなりません。写真植字においても、写植文字盤を書体の種類だけ揃える必要がありました。

MacとDPTソフトの普及に伴い、1990年代からデジタルフォントが徐々に普及しはじめ、今では、デジタルフォントの書体バリエーションはすごく豊富になりましたね。

商用デザインとしてフォントを使用する場合、年間ライセンス型や買切型のフォントを使用することが多いと思いますが、個人利用ではフリーフォントや、年賀状ソフト等におまけでついてくるフォントなども利用できます。そもそも、OSにも初めからいろんなフォントが入ってますね。

ところで、自分のパソコンにインストールされているフォントって、どんな書体が入っているでしょうか?

欧文書体がやたらに多いので、どれが日本語フォントなのか、まずは頭の整理が必要なのかもしれませんね。おまけに、MacとWindowsでは収録されているフォントは違います。デジタルフォントが豊富に手に入る時代になったので、書体選択が重要になりますね。

プレゼンテーション資料も、デフォルト設定のシステムフォントだけでなく、いろいろな書体を試すといいと思います。これを使うといいですよという万能な書体はなかないので、実際にいろいろと書体変更して試してみて下さい。また、センスの良いプレゼンテーション資料には書体選択のヒントがたくさん隠れていますので、SlideShareなどで観察すると参考になると思います。

フォントって、デザイナーや文字オタクの世界ではよく話題になりますが、実はもっと身近な存在で、コミュニケーションを円滑に行うための、みんなの重要なアートだと思います。まずは、テレビのテロップや街中のポスターなどを、じっくり観察すると新しい発見があるかもしれませんね。

そして、パソコンの中に入っているフォント一覧を確認してみたり、販売されている有料フォントやフリーフォントの文字見本帖なども、一度、じっくり観察すると、ビジネスシーンで使用するための書体の引き出しの幅が広がるのではないでしょうか。

【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com

Webフォント エバンジェリスト
< http://fontplus.jp/
>

1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステムやプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。
1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。

その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。
現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。

小さい頃から電子機器やオーディオの組み立て(真空管やトランジスタの時代から)や天体観測などが大好き。パソコンは漢字トークやMS-DOS、パソコン通信の時代から勤しむ。家電オタク。テニスフリーク。


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編集後記(07/11)

●北野幸伯「日本自立のためのプーチン最強講義 もし、あの絶対リーダーが日本の首相になったら」を読む(集英社インターナショナル、2013)。そのパラレルワールドでは、アメリカの策略でベドメージェフ大統領にロシア首相の座を追われたプーチンが日本に亡命、東京の道講館で柔道三昧の日を送っている。そんな彼が、日本自立の秘訣を教えてやってもいいかもしれないと思う人物がいた。それは矢部元自眠党総裁だった。べらんめえなプーチンとちょっとうかつな矢部の対話と、筆者の解説がほぼ交互に出て来る構成で、大事なところは字が太いからじつに分かりやすい。

いま中国が一番危険な仮想敵国である。なぜなら、日本の領土、尖閣諸島および沖縄を狙っているからだ。アメリカは自己チューな国だが、日本はそのことをはっきり意識しながら、なお「アメリカと組む」ことを選択すべきである。中国はアメリカとだけは絶対に戦いたくないからだ。そこで中国が狙うのは「日米分裂」である。どうやって日米を対立させるのか。中国は「領土問題」を「歴史問題」にすりかえることで、日本を孤立させようとしている。「歴史問題」を出されると、アメリカは日本の味方につけないのだ。その理由は?

矢部はプーチンに「ヤベロマシー3本の矢」を披露する。3本目の矢「正しい歴史観の構築〜東京裁判の理不尽さを世界に知らしめる」を見てプーチンは激怒する。「あんたが『東京裁判史観』を見直すというのは、結局『実は、日本は善』で『アメリカは悪』という史観に書き直したいってことだろう? いまの日本には、悠長に『歴史認識云々』いってる余裕なんてねえんだよ!」。日本の「正しい歴史認識」はアメリカの正義を否定する。だから、「歴史問題」では絶対に日本の味方はしない。中国はこれを狙って、さかんに歴史問題をむしかえし「日本孤立」に持って行こうとしている。

プーチンはいらだつ。「中国は『領海侵犯』『領空侵犯』を繰り返し、『攻撃予告』ともいえる『レーダー照射』までしてる。それは奴らが『日本から先に撃たせたい』つまり『戦争準備はできてる』ってことだろが! こういう状況下で、『アメリカは敗戦国を一方的に断罪した悪い国だ!』と公言する意味があるのか」。いま日本は、中国と戦争一歩手前にある。そして、アメリカからの支援なしに中国に勝利することはできない。これが厳然たる事実だ。東京裁判史観の見直しは国内にとどめて、中国のしかけた罠にはまらないようにせよと矢部を説得したプーチンは、ロシアに戻って大統領に返り咲く。大切なこと教わったなあ。日本がいまなすべきことがよくわかりました。(柴田)

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北野幸伯「日本自立のためのプーチン最強講義」


●関口さん、ありがとうございます! 3年前のイベントで、日本語Webフォントの話をされていて、最初はぼーっと聞き始めたんですが、最後には、使ってみたい、勉強しなきゃ、クライアントに提案しなきゃ、になっていました。書いてくださって嬉しい!!

漢字とカタカナ、ひらがな、アルファベットを自由自在に駆使する日本人って、形と音との連携感覚が鋭いような気がしてきた。象形文字を使うので、文字の形にも意味を持たせられる、アーティスティックな民族なのかもしれないなぁ。女性は柔らかいひらがなを使おうとしたり、トンガってカタカナにしたり。

フォントそろえたり、2バイトなので余計なエンコードや外字作成が必要だったりと大変で、アルファベットの国の人たちをうらやましいと思ってたけど、おもしろい国でお仕事できてて良かったなぁとも。

もしかしたら文章を読まなくても、書体だけでも情報伝達ができているから、漫画やイラストが昔と違って印刷しやすくなっているから、活字離れ(長文を避ける傾向)というメディアからの意見が出てきて、LINEやTwitter、絵文字や写真入りのblogが人気なのかもしれないなと。文章を読む分量自体は同じぐらいかもしれない〜。(hammer.mule)